日野森姉妹。愛   作:納豆菌

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末っ子はいい顔をしている。

部屋で仕事をしていると、不意に目が隠された。

後ろから手を回されて椅子の背もたれに優しく頭を押し付けられる。

ここに至るまでに扉を開ける音も歩く音も聞こえなかった。

 

これは中々の手馴れだ。まるで経験豊富な暗殺者。

そして家にいる人間でこんなことをするのは1人しか居ない。

 

「また甘えたくなったのか?志歩」

「別に。そんなんじゃないけど」

 

日野森志歩。日野森家の末っ子にして、Leo/needというバンドでベーシストとして活動している。

そんな彼女だが、普段は一匹狼みたいにツンツンしていて人前で甘えてくることはまずない。

 

そう、人前なら。2人きりだと話が変わる。

それはもう甘えん坊だ。

一般的に末っ子というのは甘えん坊になる傾向が強いみたいだが、普段ツンツンしてる子が甘えてくる姿はギャップの暴力と言ってもいい。

可愛い可愛い自慢の妹だ。

 

思考の海を泳ぐという名の現実逃避をしていると、ふいに首筋に柔らかい感触が伝わってきた。

そのまま吸い付かれるような甘い感触が伝わってくる。

 

「…今キスしたな?」

「してない。気のせいじゃない?」

 

未だ目を隠されている為、目で見て確認した訳では無いが確信はある。

なぜなら…

 

「この前、同じところにキスマつけたでしょ。雫にもバレて大変だったんだから」

「…お姉ちゃんにバレて何か問題があるの?」

「いや、問題というか問い詰められるというか」

 

キスマ。いわゆるキスマークだが、これを首に付けられると目立ってしょうがない。

大学の友達達にはアザだと言い逃れすることができたが、もう一人の妹には普通にバレた。

バレるだけなら気まずいだけで済むが、"妹が妹なら姉も姉"だと悟った。

 

「ねぇ?これなに」

「…なんのこと?俺にはさっぱり」

「逆側にキスマーク付いてるけど?そういえばこの前、お姉ちゃんと部屋で夜遅くまでイチャイチャしてたよね?それと何か関係ある?あるでしょ」

「…自分もしてる癖に」

「うるさい」

 

唐突に視界が開け明るさが戻ってくる。

そして目が眩しさに慣れたと思ったら、そこには妹の顔が。

 

「んっ…!?」

「ちょっ、と…んぅ。動かないで。危ないんだけど」

「そこはダメでしょ…。俺たち家族なのに」

「関係ない。お姉ちゃんとだってシテるくせに」

「シテナイヨ」

「…棒読みなんだけど?ほんと、最低」

 

そう言いながら再び顔を近づけて来る志歩。

避けようにも後ろは椅子の背もたれ。

 

万事休すとはこのことか。

俺はしばらくなすがままになり、気付いたら寝ないといけない時間だった。

…寝れるとは言ってないし、やらないといけない仕事(作曲)は終わってない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大学生というものは、忙しいようで暇であり、しかし意外と忙しい。

何が言いたいかと言うと、時間はあるんだけどバイト等に時間を使うと意外と自由な時間がないのだ。

俺は普段シンガーソングライター兼ボカロPとして活動している。

自分で言うのもなんだが、有難いことにヒット曲も数多くありそこそこの知名度があると自負している。

そうなると必然的に曲の書き下ろしなどの"お仕事"も増える。

 

「疲れた…。でも締切までは余裕あったし、おかげでいい曲になったな」

 

今回はとある女性アイドルグループに書き下ろした。

こういう時、身近にアイドルがいると、曲のイメージも湧きやすくて助かるんだよなぁ。

 

自分の曲を改めて確認していると、慌ただしく階段を上がってくる音と共に、ドアのノック音が聞こえてきた。

このドアの音は紛れもなく俺の部屋だ。

そして、階段から聞こえた足音から察するに正体は…

 

「お兄ちゃん、入るよ。これ、来週のライブのチケット。皆も会いたがってたし絶対来て」

 

制服姿の志歩だ。学校が終わってすぐと言ったところか?

 

「ありがとう。でもせめて返事を聞いてから開けろな?」

「…もしかして変な動画でも見てた?最低」

「違うからその蔑んだ目をやめなさい。作った曲の確認してたの」

「へぇ?聞いてもいい?」

「別にかまわん」

 

途中まで再生されていた作曲ソフトの画面を初期位置に戻して、再び再生する。

今回の曲はLeo/needのようなロックバンドとはジャンルが離れているし、志歩の役に立つかはわからん。

だがまぁ、何かの参考になればいいかな。

 

ふと妹の方を見ると、モニターの画面を見る目は真剣そのもの。

俺は志歩がライブで演奏している時の顔が凄く好きだ。

今はそれを独り占めしているような感覚になる。

それは個人的にすごく刺さる。

志歩の顔をずっと見続けていると、約4分の曲が終わった。

曲が終われば必然的に志歩と目が合う。

 

「…ほんと、お兄ちゃんはずるいね」

「え?何が?」

「バレてるから。ずっと私の顔見てたの。この間あれだけ見つめあったのに足りなかったんだ?」

「まぁ、志歩の顔綺麗だし見てて飽きないよね」

「そういうところがずるい」

 

あまりに素直に褒めすぎたのか、志歩の顔が真っ赤になってしまった。

これ以上やると色々な意味で爆発しかねないのでこの辺でやめておこう。

 

「そろそろ制服着替えてきなよ。ご飯もできる頃だろうし」

「…ライブ、絶対来てよ。最高の景色見せてあげるから」

「ああ。楽しみにしてるよ」

 

ほんといい顔してるよ、志歩。

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