『淑女』について……
彼女とは殆ど関わりがないかな。何せ、彼女が殉職したのって俺が執行官になる前だからね。でも、どんな理由であれ、彼女も少なくない人間を陥れた。それなら、誰かに討たれても仕方ないことだよ。誰かを殺すなら、誰かに殺されても文句は言えないんだからね。
岩の卓に置かれた品々を見て、思わず息を呑んでしまう。
それらがあまりにも良い匂いがするのもあるし、置かれた品々にも様々な種類があって目移りしてしまうからだ。
少なくとも、俺の人生の中で、このように異国の品々が一堂に会すという事は無かった。
「……これはスゴいな。うん……それしか言葉が見当たらない……」
「色々な料理があるんだね」
「コロンビーナは他の国の料理とか食べた事があるのか?」
「ううん」
「おっ、なら殆どが初めてだな! オイラが紹介してやるぜ! これがモンドの『風神ヒュッツポット』で、こっちは璃月の『
……すげえ、見事に殆ど知らない子だ。
しいて言えば、フォンテーヌの『フォカロルスのために』はフリーナ殿が熱心に解説していたのを覚えている。
「えっと……随分と豪勢だね。ナシャタウンでもここまで選り取り見取りな店は無いよ」
俺の知見が狭いだけかもしれないが、少なくともナシャタウンでこれらの料理が食べられる場所を見たことがない。
こればかりは隣の月神様の捜索ついでに、ナシャタウンの飲食店をコンプリートした俺が言うのだから、信用してくれて構わない。
「おいおい、これは売ってないぞ!」
「あら、そうなの? じゃあ、何処で手に入れたのさ?」
「これ全部、旅人が作ったんだぞ!」
「……マジ?」
これを全部旅人が作ったって……目の前にあるのは璃月の腌篤鮮だったか?
これと向かいのフォンテーヌの『フォカロルスのために』とかなんて材料も勿論、作り方も全然、違う筈なんだけど。
「えっと……もしかして、本業は料理人でいらっしゃったりする?」
「フフン、旅人の料理はとても美味しいからな! そう思うのも無理はないぜ!」
目の前の旅人が各国で活躍した話は何度も耳に挟んだが……どうやら、想像以上に多芸な人物のようだ。
……俺? 無論、旅人ほどではないが……とりあえず食べ物を焼くことなら出来る。
何故、焼くのかって? 君達も覚えておくと良い、大抵の生物は焼いとけば食べられるのだ。
ちなみにこれは余談だが、俺がまだ先遣隊にいた時、部隊の面々で生活の役割を当番制で割り振っていたのだが、俺に調理当番が回ってくることは一度として無かった。
彼らが何故、俺に調理当番を割り振ることをしなかったのか……尤も、その理由を聞くことすらもう叶わないのだが。
「スカラマシュはどれから食べたい?」
「えっ? 急だな……えっと、じゃあこの璃月のヤツ」
「そっか──じゃあ、はい。あーんして」
……あれ? 今の流れで、こうなる要素ってあった?
「いや、自分で食べれるからいいよ……」
「あーん」
「だからいいって……」
「……あーん」
「えぇ……」
変なところで強情だなこの娘……というか何故に、そんなにあーんする事に拘るんだよ?
そもそも、俺の世間体とか、風評とかを置いておいたとしても、流石にこの歳で誰かに食べさせて貰うというのは……
然れど、彼女に俺の羞恥心は届かない。
「あーん」
「……やっぱり、風神ヒュッツポットで」
「駄目だよ、スカラマシュ。一度、選んだなら責任を取らないと」
「なんでやねん。何時、そんな重大な責任が発生したのさ……?」
「スカラマシュが腌篤鮮を選んだ時」
つい、先程だった──というか、俺が腌篤鮮を選ぶのと、彼女に食べさせられる事に何の因果関係があるというのだろうか?
要は、食べるなら食べさせられる覚悟をしろってこと……いや、違うか。
「スカラマシュは……私から貰うのは嫌……?」
「いや、別に嫌じゃないんだけども……」
あんまり、落ち込んだように此方を見ないでくれ……その隣からの圧がスゴいから。
「…………」
旅人は何も言わないが、その目は全く笑ってない。
むしろ、今にも岩とか落雷とか、はたまた水鉄砲とか飛んできそうな勢いである。
「……えっと、じゃあ……一口だけ」
「フフッ、スカラマシュは素直じゃないね……はい、あーん」
「はい……」
結局、折れたのは俺だった……仕方ないでしょ、謎の罪悪感と旅人の圧力に挟まれてるんだから。
「──ッ!?」
その時だった、恥ずかしさを堪えながら、咥えたスプーンから感じる味に、思わず言葉を失ってしまった。
味の深みとか、素材の味とか、言うべき感想はあるのだろうが……俺に浮かんだのはこの一言のみだ。
「……美味い。いや、本当に美味い」
「フフッ……良かったね」
「いや、コロンビーナも何か食べてみなって……飛ぶよ?」
「う~ん……じゃあ、私はコレ」
コロンビーナが選んだのはナツメヤシキャンディだった。
菓子特有の甘い香りが鼻腔を擽り、思わず食べてみたいと思ってしまう。
しかし、それを堪え、キャンディを一つ摘まむと、コロンビーナの方へと差し出す。
「んっ……」
長方形のキャンディは少し大きかったのか、小さな口で一部を齧り取る。
その際に彼女の吐息が指に当たるせいか、少しこそばゆい。
「美味しい……スゴいね、旅人」
「いや、本当に店とか出せるレベルだよ。コレは……マジで美味い」
ヤバイな……普通に実験設計局で出される食事より遥かに美味いんだが。
上には上がいると言うが、ここまで圧倒的な差を付けられるというのは早々無いだろう。
舌の上で繰り広げられる、旨味の暴力に気圧されながらも、隅に置かれた瓶が目に留まる。
「えっと……ちなみにこの瓶は?」
「それは稲妻の団子牛乳だ! 甘くて美味しいぞ!」
「フフッ……可愛い瓶だね」
「へぇ、稲妻って和食や酒のイメージがあったけど……こんなファンシーな物もあるんだな」
「へへっ、これは影が……コホン、あの雷電将軍も認めた知る人ぞ知る一品なんだぞ!」
「へぇ、あの雷神がね……俺は会ったことは無いから知らないけど、意外とお茶目な所もあるんだな」
それこそ、彼女の象徴とも言える『無想の一太刀』のイメージが強くて、ザ・堅物というイメージがあったのだが……
「あっ……えっと……そう、雷電将軍が認めたんだ……」
うん? なんか、いきなり大人しくなったな──ああ、成る程、そういうことか。
「ああ、別に『
「それは……」
「人の土地に土足で上がり込んで、好き勝手にやってたのは俺達だからね。その果てに死んだのなら、それは自業自得だろ?」
「……どうして、そんな簡単に割り切れるんだよ?」
「俺がシニョーラと関わりが無いに等しいってのもあるけど……そうだね、君は知り合いが死ぬ瞬間を見たことがあるかな?」
「……」
パイモンは答えない──だが、其は俺の問いに対する肯定である。
そもそも、彼らがナタでアビスとの戦争に参加した時、嫌でも目にした筈だ。
つい、先日までおちゃらけていたヤツが、物言わぬ肉塊となって倒れている様を、見知った者の命が終わる瞬間を。
それは確かに悲劇かもしれない、だが其は戦場では日常となる。
日常となれば、何もかもが麻痺していくのだ。
「君達にとっては悲劇的な非日常かもしれないけど、俺にとってはよくある日常なんだ。周りの誰かが死ぬってのは」
「……どうして、貴方は平然としてられるの?」
次に、口を開いたのは旅人だった。
「ファデュイに入ってからは文字通り、別れの日々。言ってしまえば、慣れちゃったのかもね」
戦闘で仲間が死んで、部隊の名簿からその名前を消していく。
そして次の戦闘も、その次の戦闘でも──いなくなった仲間の名前をただ消していく。
けれども、一つの名前は最後の最後まで……其処に残り続けて、ただ周りの名前だけが消えていくのを見ていた。
だから──なのだろうか。
今でも時折に思い出す。いなくなった仲間達のあの目を。
いなくなった彼らの怒号を、いなくなった彼らの叫びを──それだけを思い出す。
「まあ、要するに誰かを殺してるなら、誰かに殺されもする……それだけさ。だから『淑女』の最期に君達が関わっていたとして、それが君達を恨む理由にはなり得ない」
因果応報──言ってしまえば、それだけの事でしかないのだ。
「……って、何か辛気臭くなっちゃったね。まあ、君達と『淑女』の件は此方は特に責めるつもりはないという事だけ理解してくれたらOKだよ」
「……」
本来、食事というのは生命維持に必要な栄養摂取の他にも、失った活力を取り戻すといった精神的な保養でもある。
故に辛気臭い話は御法度、況してやこんなにも美味い料理が並んでるなら尚更だ。
死人に口はない──故に、今はこの食事に舌鼓を打つことを楽しむのだ。
人とは便利に見えて、存外に不便なもので……腹を満たした後、襲ってくる睡魔は如何ともし難いものである。
「──────♪」
況してや、すぐ其処でコロンビーナがオルゴールのメロディーに合わせて歌っているのだ。
コロンビーナの歌声とオルゴールの静かな曲調が完璧に合わさり、迫る眠気を更に加速させていく。
要するにダブルパンチってこと……まずいな、普通に目蓋が重くなってきた。
旅人達は既にナシャタウンへと帰り、この場には俺とコロンビーナしか居ない。
「────♪……スカラマシュ? 眠いの?」
うとうとしている俺に気付いたのか、歌うことを中断し、コロンビーナが近寄ってくる。
「ふぁ……そうだね。満腹感が眠気をプッシュしてるよ……」
「フフッ……スカラマシュ、一杯食べてたもんね」
「……笑わないでくれよ。あんなに美味いとは思わなかったんだ」
「子供みたいで可愛かったよ」
それは素直に喜べないのだが……というか、外見だけなら彼女の方が子供に見えなくもないのではなかろうか?
だって、執行官としてのコードネームも『少女』だし。
「……ふぁ」
ふと、目の前の彼女が可愛らしく、小さな欠伸を漏らす。
「……なんだ。コロンビーナも眠そうじゃないか」
「うん……今日はスカラマシュがいたから、長く起きてた」
「……えっ? もしかして、俺が無理させてた?」
「ううん……今日はスカラマシュがいてくれて、とても嬉しかったから……今はとても幸せかも」
「そっか……」
ふと、横目で寄り掛かる彼女を見やる。
……彼女はこんな薄着で寒くないのだろうか?
というか、俺一人がコートを着てて、隣がこんな薄着って……またあらぬ誤解を招いてしまわないだろうか?
「……コロンビーナ」
「なに?」
首を傾げながら此方を見る彼女の肩に、脱いだコートを掛ける。
「……どうしたの?」
「いや、そんな薄着で寒くないかなって思ったから」
「私は大丈夫だよ?」
「……まあ、その……俺だけコートを着てるってのもアレじゃない?」
ただでさえ、サンドローネと旅人から女の敵呼ばわりされてるのに、他のエージェントにもあらぬ誤解を持たれているのだ。
こういった所で地道に誤解の払拭を目指すべきだろう。
つまり、信用回復は大事ってこと。
「……でも、スカラマシュが風邪を引いちゃうよ?」
「旅人の料理のおかげで身体がポカポカだから……多分、大丈夫」
うん、嘘である──コートを脱いだ途端、普通に肌寒くて鳥肌が立っている。
「う~ん……そうだ。スカラマシュ、ちょっと其処から動かないで。コートは返すね」
「アッハイ」
コロンビーナから受け取ったコートを着ると、彼女が足の間に座ってくる。
「フフッ……これなら二人とも暖かいよね」
……アレ? これだと誤解を払拭するどころか、更に悪化させてしまうのでは?
思わず訝しんでしまったが、蓄積した眠気が彼女の体温と、彼女の髪から香る草花の匂いで更に増長される。
故に、抱いた懸念は無限の彼方へと飛んでいってしまった。
……後、この羽の髪飾り……かな、顔に当たるせいで地味にくすぐったいんだよな。
「暖かい……」
「まあ、確かに……」
確かに、コロンビーナに情を入れ込み過ぎていると言われても、これでは否定できない。
今の俺とコロンビーナはあくまで、追う者と追われる者。
過度な肩入れは良くない……それは頭では理解しているのだが。
『お前はコロンビーナの側に付いてやれ。彼女もその方が何かと安心するだろう』
ふと、『
あの時、カピターノが言った懸念、それがこの地で現実味を帯びてきた。
実際、霜月の月髄の一件について『
サンドローネが独断で旅人らに返したと知れば、流石に叱責もしそうだが……そんなことは一切なかった。
まるで、狙いを別のものに切り替えたかのように。
さらには、同じ執行官である俺達ですら、彼が何処で何をしているのかさえ知り得ない。
そして、カピターノの懸念通り、ドットーレの水面下での動きにはコロンビーナが関係している……いや、彼女自身が狙われていると言うべきだろうか。
そう遠くない内に、確実に何かが起こる……それはきっとロクでもない事に違いない。
そのロクでもないことに備えるにしても、情報が圧倒的に足らない。
こればかりは昔から変わらない──彼の実験とやらは唐突に起こるのだ。
そして、実験が起こった時は既に手遅れ──彼が収拾を付けてくれる訳でもない。
「ねぇ、スカラマシュ」
「何?」
「私、スカラマシュにはいなくなって欲しくない」
「……どうしたのさ? 急に」
「……旅人と話してた時のスカラマシュ、少し怖かった」
「そっか……幻滅させたかな?」
「ううん……怖かったのは、スカラマシュもいなくなっちゃうと思ったから」
「……少なくとも、まだいなくなるつもりはないよ」
少なくとも俺はまだ、死ねない……だって、俺は
尤も、当の俺に残された時間は多くはない……なのに、俺は未だ何も成せていない。
これでは何も変わってない、あの時から何も──
「うん……ねえ、手を握っても良い?」
「そう言って、もう握ってるじゃないか……」
「フフッ……でも、スカラマシュなら許してくれるでしょ?」
彼女の細い指が絡んでいく、さながら獲物に絡み付く蛇のように。
「……スカラマシュに帰りたい家はある?」
「帰りたい家か……コロンビーナにはあるの?」
「うん……私はこの偽りの空の向こうの月に帰りたい」
偽りの空……あくまで小耳に挟んだ程度に過ぎないが、その話なら聞いたことがある。
このテイワットに広がる空は偽物で、本当の空はその向こう側にあると。
聞いた当時は興味など全く無く、あくまで与太話の類いとして聞き流す程度のものだったが……
「そっか……其処がコロンビーナの家なのかな?」
「うん。テイワットは私を受け入れはしないから……」
「でも、帰る場所があるのは少し羨ましいかな。俺にはもうそんな場所なんて無いからね」
ファトゥスになる前──いや、ファデュイに入る前、俺にも帰る場所があった。
固いパン一切れの為に、一日中、外を走り回る日々、凍える寒さを火の側に寄って耐えていた日々。
確かに辛くはあった。けれども、それを笑い飛ばせる仲間がいた。
でも、その時の俺達は子供だったからか、どうしても望んでしまったんだ──今よりも幸せになりたいって。
そんな俺達にとって、ファデュイの執行官──特にカピターノの活躍というのは憧れや夢を抱く象徴だった。
だから、俺達はファデュイに入った。
極めて貧しくも平穏な日々を捨てて、いつ死ぬかも分からない地獄へと足を踏み入れたんだ。
いつかはきっと報われると、何の根拠もない空想を抱いて。
でも、俺達は雑兵という駒で、いくらでも代わりがいる存在でしかなかった。
簡単に捨てられて、簡単に補充が利く──そんな消耗品でしかなかった。
雑兵である俺達は英雄になんてなれない──かつての憧れは過去の無知となり、こうして俺だけが生き延び、今もすがり付くように生きている。
結局のところ、子供が自分の欲で、痛い目を見た──ただ、それだけの話。
「ほんと……羨ましい……かな」
『散兵』──あの時、賜り受けた執行官としての名前。
俺がかつて持っていた自分の名前よりも、価値がある名前。
今は少し楽だ、自分の名前を名乗らなくて良いのだから。
俺は自分の名前が嫌いだ──自分の名前を聞くと嫌でも思い出すからだ。
時折、脳に映る怒りや、断末魔や、叫びでない仲間達の声を──自分の無知が故に、捨ててしまったあの場所を。
もう、其処に帰れないなんて分かってる……あの仲間達も二度と戻ってこないことも。
だから、俺にはもう自分が見出だしたこの目的しかない。
その行き先が破滅だろうと、自分の死でも構わない。
「……スカラマシュ、悲しいの?」
「いや、少し昔の嫌なことを思い出しただけだよ」
しかし、こんな俺にも叶うのならば、許されるのなら──一つだけ願おう。
「フフッ。スカラマシュの手、気持ち良い」
「昔の仲間がね、顔は美人の癖にこういうところはズボラなヤツだったからかな……反応を見るに、今も鈍ってないみたいで良かったよ」
手櫛で彼女の髪を梳かしていく、指が髪の間を通り抜けていく度に、ふわりと草花の香りが鼻腔を擽る。
どうか──この天然で、最近、少し我儘になった彼女が、自分の家に帰れますように。
女皇でも叶えられなかった願いを、俺が叶えてやれるとは思わない。
でも、願うだけならタダなのだ……この世にタダより安いモノはない。
つまり、安いのは良いことってこと。
「……スカラマシュ」
「何?」
「明日も……一緒にいてくれるよね……?」
大きな欠伸をしながら、彼女は問う。
「そういう約束をしちゃったからね」
「フフッ……嬉しい……ねえ、スカラマシュ……私と……いっ……かえ……い……」
「はいはい、良い子は寝んねしな……なんて、お互いにそんな歳じゃないか」
穏やかな寝息をたてる彼女を見て、少しばかり安心する。
──堪えるのもそろそろ限界だったから。
「はぁ……良かった……なんとか──ゴホッゴホッ……!」
口内を満たす噎せ返りそうな血の味と臭い。
コロンビーナは起きてしまわないだろうか……?
「すぅ……」
幸いにも、彼女は穏やかな寝息をたてたままだ。
彼女を起こさぬよう、注意を払いながら、ポケットからハンカチを取り出す。
……最近、発作の頻度が上がってきている。
原因としては、ここ最近は邪眼の使用頻度が上がっているのもあるだろうし、ワイルドハントの一件でアビスに触れる事が多くなっていたのもあるだろう。
「流石に……こんな情けない姿は……見せられないかな……」
願わくは、俺のこのザマを彼女が知らないままでいてくれると助かるのだが……そればかりは俺の立ち回り次第か。
「……そうさ、とっくの前に覚悟なんて出来てる」
いつかはこうなる分かっていて、それが今になってやってきた──それだけの話。
後は、俺が半ばで斃れるのか、そうでないかの違い。
未だ噎せ返りそうな血の味に苛まれながら、俺は眼を閉じた。
大抵、発作を起こした日は悪夢を見る。
でも、何故かその日ばかりは悪夢を見なかった。
『散兵』について➀……
アイツ、仮にも休暇を申請するなら私に一声ぐらい掛けなさいよね! この前なんて、アイツの休暇申請書が何処にあったか知ってる? 私の部屋のドアに貼り付けてあったのよ!? おかげで此方は無駄な労力を使わされたわ!