俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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『博士』について②……

マットサイエンティスト……まさにその一言に尽きるよね。実際、自分の実験が関わること以外、何にも興味ないみたいだし。そのくせ、他への被害はガン無視だからね。俺が執行官になる前から全く以て変わってないよ。


執行官になった秘訣は? ──練習だ。

 

 

 

 戦場では人が死ぬ──それは至極、普通の事である。

 

 敵に撃たれ、斬られ、裂かれ、貫かれ……その過程に差異はあれど、その結末は変わらない。

 

 そして、目の前で無造作に積まれていく遺体袋の山もあの時と全く変わって無かった。

 

「『散兵』様」

 

「ミハイル君か、ご苦労様。……今回の被害は?」

 

「『傀儡』様の部隊から32名、我々の部隊からは27名の戦死者が出ております。加えて、北部へと派遣した部隊は未だ連絡が途絶えたままです」

 

「そっか」

 

「……個人的な見解に過ぎませんが、今回のワイルドハントで発生した魔物は記録にされていたものよりも、遥かに戦闘慣れしていたように見えました。しかも、我々の戦い方をまるで……」

 

 傍らのデットエージェントはそれ以降の言葉を続けることはなかった。

 

 いや、彼も分かっているのだろう……これは自らの立場では言及してはいけない領域だと。

 

 彼とて幾度と修羅場を潜り抜けて此処にいる。

 

 だからこそ、一人の将兵である自分の分が、如何ほどの物なのかをよく理解しているのだ。

 

 その分を越えることを、この組織は容認しない。

 

 たとえ、それが当人が納得し得ない、後ろ暗い事情であっても。

 

「もしかしたら、最近ので兵士の何人かが持っていかれたんだろうね……今はそういうことにしておこう」

 

「……はい。先程、『傀儡』様から既に負傷者の収容準備は済んでいるとの通信がありました」

 

 流石、サンドローネ。何処ぞの連絡すら付かない第二位(ドットーレ)と違って仕事が早い。

 

「なら、連絡船は順次出航だ。君たちは彼らの護衛の任に就け」

 

「かしこまりました。しかし、『散兵』様は?」

 

「生憎、もう一つのお仕事があってね」

 

「……『月の狩人』の事ですか?」

 

「そう……ここまでの被害を被ってるんだ。これを野放しって訳にはいかないでしょ?」

 

 とはいっても、俺一人で『月の狩人』を討つなど、そこまで驕るつもりはない。

 

 現にサンドローネが自信満々に挑んで、あの結果だったのだ。

 

 仮に出来ても足止め程度……それで退かせるまでいければ、上出来だろう。

 

「しかし、目標の所在は未だ……」

 

「いや、そうでも無いさ」

 

 今回のヒーシ島各所で発生したワイルドハントは、その箇所はランダムといえど、ただ一つ共通していることがある。

 

 それはヒーシ島北部──正確には銀月の庭があるエリアを包囲するように発生しているというものだ。

 

 さながら追い込み漁の如く、現在進行形でその規模を拡大させている。

 

 そこまでして、『月の狩人』が何を狙っているのかなど、もはや考えるまでもない。

 

「あっ……あ、あれは?」

 

 黒い遺体袋を船へと積んでいた一人の兵士が空を指差す。

 

 彼が指を指した空には、流星が二つ──いや、違う。

 

 一つは青く輝き、もう一つは血のように赤く輝いていた。

 

 それらがぶつかり合い……いや、青の方が劣勢というべきか。

 

 青の流星は逃れるようにして、海岸線を飛行するものの、赤い流星は執拗にそれを追い掛ける。

 

「今のは……」

 

「ほら、此方から探すまでもなかったでしょ?」

 

「えっ?」

 

 青の光から感じる、何処か慣れ親しんだ感覚──これを間違えはしない。

 

 そして、それに追い縋る赤い光こそが──

 

「さて……此処からは別行動だ。彼らを頼んだよ。ミハイル君」

 

「……っ、はっ! かしこまりました。……お前達も負傷者の搬入を急げ。搬入が終わっている連絡船は直ちに出航させろ!」

 

「……っ! 了解しました!」

 

 流石、士官学校出身と言うべきか、こういった所では非常に頼りになる。

 

 ……さて、彼の報告にもあったが、あの継ぎ接ぎはコロンビーナに飽き足らず、うちの部下とも遊んでくれたらしい。

 

 随分と好き放題にやってくれたものだ……お陰でこちらは仕事に追われる羽目になっている。

 

 その時、再び空中で二つの光が激しくぶつかり合う。

 

 しかし、今度は青の光が完全に押し負け、海岸の方へと落ちていった。

 

「──ナメやがって」

 

 無意識に呟いた言葉には明確な怒りと殺意が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうする? どうする……考えろ、アタイはどうしたら良い? 

 

 月神様を肩に担ぎながら、延々と同じ問いを繰り返す。

 

 今、背後では旅人達が『月の狩人』とやり合ってる。

 

 鹿ねえからは月神様を連れて避難をとか言われたけど、この状況でアタイらが逃げても──

 

「うっ……」

 

「……ああもう!」

 

 ──いや、今は動くんだ! 今は動かなきゃどのみちおしまいだ。

 

 とにかく、今は少しでもアイツから遠くに……

 

「まだ、偽りの輝きに縋るのなら……その光と共に闇に堕ちるがいい……」

 

「──危ないっ!!」

 

 鹿ねえのからの声で、思わず後ろを振り返る。

 

『月の狩人』がアタイらを指差し──いや、その指先には赤黒い影が集まっている。

 

「ソリンディス……もうすぐ俺は……」

 

 コツンと集まった影を指で小突くと、それは高速の弾となって飛来する。

 

 アレに当たりでもしたら──そう思うより先に、アタイは弓を構えていた。

 

 矢の先端に元素力を集中して──限界まで貯めた一矢を放った。

 

 風元素の光と、赤黒い光が衝突し、すぐに前者が消滅する。

 

「あっ……」

 

 ヤバい、これは死んだ──感情よりも先に、トレジャーハンターとしての経験がそれを理解してしまう。

 

「ヤフォダ!!」

 

 拘束されている旅人がアタイを呼ぶけど、もう間に合わない。

 

 直後に耳をつんざくような爆発音、こりゃアタイ、もう粉々だよな……

 

 あっ、でも姐さんはアタイが死んだって知ったら、何て思うのかな? 

 

 案外、本気で悲しんでくれたりして──

 

「──ん?」

 

 あれ? 粉々になってない……というか、生きてる? 

 

 腕も付いてるし、足も頭もちゃんと……えっ、もしかして無傷? 

 

 その事実に半信半疑になりながらも、試しに自分の頬を思いっきり叩いてみる。

 

「イタッ!?」

 

 み、右手はやっぱり痛かった……左手で叩けばよかった。

 

「……君、何してるのさ?」

 

「へっ? いやだって……アレは絶対死んだと思って──」

 

 呆れたような声に振り向いた途端、また言葉が詰まる。

 

 特徴的なファデュイのコートに身を包んだ男は呆れた顔をして見下ろしていた。

 

 それだけならまだ良い……問題は男がコートに付けてる銀色の刃を思わせる鋭い徴章だ。

 

 ファデュイでも、そんなゴツい徴章を身に付けているヤツなんて──というか、コイツは……

 

「──スカラマシュ?」

 

「やあ、コロンビーナ。助太刀に来たよ」

 

 ……や、やっぱり、あの時の執行官だったー!! 

 

 その事実にまたアタイは目を丸くしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コロンビーナの隣にいる少女……確かヤフォダといったか? 

 

 彼女がいきなり自分の頬をひっぱたいたり、それを自分で痛がってたと思えば、今度は此方を見て、その目を丸くしたりと……俺が彼女に何をしたと言うのだろう? 

 

「……君、大丈夫? 」

 

「アッハイ。アタイハダイジョーブデス」

 

 ……どう見ても大丈夫なようには見えないのだが? 

 

「そなたは……」

 

「おや、詠月使様と会うのはこれで二回目だね。そして、そこのライトキーパーのお兄さんも」

 

 これぞ世間は狭いというやつか、此処にいる者が全て顔見知りだ。

 

 ……まあ、コロンビーナと旅人を除けば、一回会ったきりなのだが。

 

「そうですね。しかし、驚きました。ワイルドハントの対処にファデュイの執行官が出向いているとは」

 

「そんなおかしな事でもないさ。今回ばかりはうちの隊員にも大きな被害が出ているしね。その対処に当たると思えば、最適な人選だろ?」

 

「……成る程。敵の敵は味方という訳ですね」

 

「今はそう思ってくれて構わないよ」

 

 このライトキーパーのお兄さんが言う通り、ファデュイとライトキーパーは以前から小規模な衝突を繰り返していた。

 

 お互いに辛うじて、血で血を洗う事態には成り得てないとはいえ、彼らにとってファデュイの心象は良いものではない筈だ。

 

 とはいえ、お互いにそうは言ってもられない状況なのだろうが。

 

「『散兵』……」

 

「さて、旅人。非常時だし、手短に要件を伝えるよ。此処から南下していけば、俺達が作った橋頭堡がある。其処からコロンビーナを連れて離脱するんだ」

 

「でも、貴方は?」

 

「君達が離脱しようにも、あの継ぎ接ぎの相手をしてやるヤツがいるだろ? 大丈夫、君達が離脱するまでの時間は稼いでみせるよ」

 

 今、この状況で優先すべきは、『月の狩人』の手中にコロンビーナが収まるのを防ぐこと。

 

 数少ない友人としても、ファデュイがナド・クライで活動する理由としても……理由はなんであれ、コロンビーナに死なれては困るのだ。

 

「……此処は彼に任せましょう。今の状況で『月の狩人』と相対するのは賢明とは言えません」

 

「で、でも──」

 

「──ぬかせ。逃がすと思うか……っ!」

 

 当然の如く、『月の狩人』は自らの獲物を逃がすことを良しとしない。

 

 ──だからこそ、無理やりにでも穴を穿たせて貰おう。

 

「──っ!?」

 

 俺の手の合図と共に、『月の狩人』の背後に配置していた遊星から放たれた閃光が直撃し、大きな爆轟がその場に轟く。

 

「今だ。早く行って」

 

「ぜ、絶対に死ぬんじゃないぞ!」

 

「はいはい。善処するよ」

 

「──駄目」

 

 意外にも、そこで口を開いたのはコロンビーナだった。

 

「絶対に死なないって約束して」

 

 もう一度、爆轟が木霊する。

 

 相変わらず、その双眸は閉じたままだが、表情は何時になく真剣なものだった。

 

「はいはい。まだ死ぬつもりはな──」

 

「──ちなみに、今もあの時に言ったことは有効だから」

 

 その時、コロンビーナに肩を貸す旅人が意地悪い笑みを浮かべながら言ってくる。

 

 ……いや、いきなり恐ろしい事を言うな、この子。

 

「……肝に銘じておくよ」

 

「分かってるならいい。……行こう。皆」

 

 横目で離れていく旅人達を見送りながら、黒い濃煙が上がる戦場へと歩を進める。

 

 それにしても……旅人もあんな風に笑うんだな。

 

 彼女と出会ってから、警戒の眼差しやら、軽蔑の眼差しばかりを浴びていた事もあってか、少し意外だと思ってしまった。

 

 尤も、俺が何かと彼女の不興を買ってばかりなのかもしれないが……いや、今まで俺が何か悪いことしたっけか? 

 

 何処かの同僚と同じで、致命的なタイミングの悪さと、肩に担がれてた月神様による誤解が原因な気がするのだが……

 

「まあ、そんな訳で俺は社会的に命が懸かってるんでね……それに、うちの部下とも随分と遊んでくれたみたいじゃないか。……何がなんでも付き合ってもらうよ?」

 

 残弾は心許ない、そもそも効くかも分からない……状況は文字通り芳しくない。

 

 というか、こんな正面切っての戦いというのはあまり好きじゃないのだが……

 

「お前……邪魔をするな……っ!」

 

 殺気と狂気が混ざった眼差し──その全てが俺へと向けられている。

 

「つれないね……しつこい男ってのは女性に嫌われるよ?」

 

「っ……! 黙れっ!!」

 

 男の怒号と共に、無数の影の手が伸びる。

 

 その腕を躱し、躱しきれないものは雷元素を纏った銃剣で切り払う。

 

 目標は眼前、障害物は無し──こんな絶好の標的(まと)を外しはしない。

 

「……何っ!?」

 

「最近……何かと良いとこ無しなんでね。悪いけど付き合ってくれよ? 継ぎ接ぎ君」

 

 背後から轟く爆風を浴びながら、がら空きの胸を狙い、その引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 月光の下、赤黒い影と紫の閃光が交差する。

 

「……っ。撃て!」

 

 その命令と共に、『月の狩人』の左右を挟んだ遊星から紫の閃光が放たれた。

 

 しかし、相手も雷元素の爆発をもろに受けながらも、こちらへ突っ込んで来る。

 

「この程度で俺を止められると思っているのか……っ!」

 

「おや、その口の割には体勢が崩れてないかな?」

 

 足元から伸びてくる影の腕を切り払いながら、胸に──心臓があるでろう場所へ照準を向ける。

 

「この距離なら外さないよ」

 

 引き金を引くと、同時に発射された徹甲弾が紫の尾を引いて飛んでいく。

 

 雷元素を纏った銃弾は彼の腕のガードを貫き、そのまま胸も穿っていく。

 

「ぐっ! ……ぐああああっ!!」

 

「わーお、これも駄目か……」

 

 ボルトハンドルを引きながら、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

 その眼前には、胸に風穴を空けながらもその豪腕を振り上げる『月の狩人』。

 

「はあっ!!」

 

「……っ! あっぶね」

 

 その豪腕を当たる寸前で躱しながら、顔面へ蹴りをいれる。

 

「ぐっ……」

 

 背後から轟く破砕音と共に飛び散る岩だった物──それが俺の身体だった場合、どうなるかなど考えるまでもない。

 

「ちょこまかと……」

 

「胸に風穴を空けながらよく言うね。人間なら致命傷も良いところなんだけど?」

 

「お前こそ……先程の威勢は何処へ行った?」

 

「生憎、君と違って人間は木っ端微塵になったら死んじゃうものなのさ」

 

 脳幹、肺、心臓、脊椎、頸動脈──既に人間の急所となり得る部位には撃ち込んではいるが、当の相手は動きが鈍る様子もない。

 

 そもそも、胸に風穴を空けながら殴りに来てる時点で、最早、彼に心臓や肺などの臓器などの、人間だった頃の部位は残っていないのだろう。

 

「……フン、弱い身体だな」

 

「化け物になった君よりはマシさ。そんな継ぎ接ぎの姿じゃ、女性にも嫌われるだろ?」

 

「……お前っ!!」

 

「おぉ、怖い怖い。そんなにカッカするなよ。もしかして、女性に逃げられた事があるのかい?」

 

「──殺してやるっ!!」

 

 激昂と共に狩人が跳び上がる──その高速な動きはさながら流星のようにも見えた。

 

 その姿を見て、思わず笑みが浮かぶ──嘲笑の笑みが。

 

「狩人って名前がある割には学ばないね。君は」

 

「黙れっ!!」

 

 銃剣の刃と影の拳が衝突して、火花を散らす。

 

 飛び散る影と雷元素が合わさり、それは紅い稲妻のようにも見える。

 

「学びは大切だよ? 凡庸なら尚更ね」

 

 これは執行官になって……いや、なる前から分かっていた事だが、俺は人間として凡人の域を出れないようだ。

 

『公子』のように天賦の才に恵まれているわけでもなく、『召使』のように生まれながら特殊な力を持っているわけでもない。

 

 それに、『博士』や『傀儡』のように優れた頭脳や技能を持ち合わせている訳でもない。

 

 況してや、『隊長』や『少女』のように、過去や生まれが特殊という訳でもなかった。

 

 まさに道端の石と何ら変わらない──玉石になれない鈍石。

 

 それが俺が思い知った自身の素質だった。

 

 だからこそ、俺が彼等と張り合えるのはただ一つしかない。

 

 周りの仲間が次々に斃れる中、その仲間の死体と共に積み上げてきた戦闘経験。

 

 手はおろか、指の感覚、身体の感覚が無くなるまで──そうなっても訓練し続けた後付けの技能。

 

 悪く言ってしまえば、それは単なる付け焼き刃でしかない。

 

 でも、そんな付け焼き刃こそが、俺が彼等に並ぶ──もとい強大な相手に相対する唯一の武器なのだ。

 

 鈍石でも限界まで鋭利に研げば、それは相応の刃物になる──それが後付けの付け焼き刃であってもだ。

 

 逆にそれらがが全て砕けた時、同時にそれは俺の敗北──即ち、俺の最期を意味する。

 

 だから、俺は相手の分析を怠ったことはない──自らの命に指が掛かるなら尚の事だ。

 

 殺し合いに過度な力は要らない、相手を殺せるだけの力があれば良いのだから。

 

 戦いも勝利条件を満たせば勝てる、完璧な勝利に拘る必要はない。

 

 だから、この戦いも十分に──勝てる。

 

「何っ……グゥっ!?」

 

 首の真横を通り抜けた拳の風圧を受けながら、銃床でその腹を殴る。

 

「おや、内臓とかは無い癖に、もしかして痛いのかな?」

 

 やはり、身体への物理的なダメージ──特に高い衝撃を伴った攻撃は有効打になり得るようだ。

 

 とはいっても、彼の動きを止めるのが関の山のようだが。

 

「グッ……ガアアアっ!!」

 

「……ちっ!!」

 

 呻き声と共に、再び濃い影を纏った彼の手には、彼の背丈以上の長槍が握られていた。

 

 その槍の形状が赤い三日月を思わせるのは、彼が『月の狩人』たる由縁なのか、それとも只の皮肉なのか。

 

 まあ、俺がコイツの事情なんて知る筈も無いし、興味もないのだが。

 

「おや、大口叩いてた割には得物を握るのかい? 随分と余裕無いね」

 

「抜かせ……! その減らず口ごと、粉微塵にしてやる!!」

 

「おお、怖い怖い……」

 

 気丈に振る舞うが、戦いが長引く程に追い詰められるのは俺の方だ。

 

 小銃の残弾も既に底を尽きた、このまま白兵戦になれば消耗するのは明白。

 

 ──故にそろそろ、離脱させてもらおう。

 

 彼の激昂と共に迫る槍の一閃、その刃先を銃剣の刃で受け止め、ぶつかり合った刃からは火花が散る。

 

 同時に大槌で殴られたかのように、重く鈍い衝撃が両腕を襲った。

 

 腕の筋肉──いや、その内側の骨さえも軋む感覚に歯を食い縛る。

 

 だが、それでも間合いは確実に詰まった。

 

「このっ……!!」

 

 銃剣の刃が火花を散らしながら槍の刃を滑り、俺の身体はその懐へと踏み込んでいく。

 

 そして、銃口が彼の下顎と並んだ瞬間、その引き金を引く。

 

「な──ッ!?」

 

 彼が驚愕の声をあげるよりも先に、銃弾が下顎を砕き、その内側へ──かつて脳があった筈の場所へ到達する。

 

 相手が人間ならば、即死する紛うことなき致命傷。

 

 しかし、やったという手応えは無い、散々試したのだから、嫌でも分かる。

 

 だが、数秒だけでも、その動きは止められる。

 

 腹部に蹴りを入れ、その勢いでボルトハンドルを引く。

 

 澄んだ金属音と共に空薬莢が宙を舞う──これで俺の手持ちの通常弾は尽きた。

 

「マニュアルガン無視だけど、仕方ないよね……!」

 

 開いた薬室に一発の銃弾を挿し込む。

 

 先程までの徹甲弾とは違う、鈍く輝く銀色の弾頭──サンドローネお手製の『K弾(高圧縮クーヴァキ炸裂徹甲)』だ。

 

 彼女が用意したマニュアルでは、二次充填の際には別のクーヴァキ資源からクーヴァキを抽出して使用する事になっていたが、こんな状況でそんな物を準備している訳がない。

 

 だが、俺の戦友たるこの小銃は彼女の改良により、クーヴァキとの親和性が上がっている。

 

 それも構成部品の内部にクーヴァキを溜め込む事が出来るまでにだ。

 

 故にクーヴァキ資源に頼らずとも、使えるクーヴァキはそこら中にある。

 

 だが、問題は空気中にあるクーヴァキをどうやって制御するか。

 

 当然ながら、そんなやり方を教えてくれる人間なんていない。

 

 けれども、俺はその手本を何度も横で見てきた。

 

 月神が──コロンビーナがどのようにして、クーヴァキを制御していたか。

 

 理屈が分からなくても、俺の感覚でそれを補完し、再現する。

 

 今までと同じように、何度も他人の技術を真似してきたように──そこに完璧さは要らない。

 

「消えろっ!!」

 

「嫌だね」

 

 雷元素と月光が混ざったような紫白の光が薬室に帯びる。

 

 血のような赤黒い凶槍の刃先が目前に迫る中、静かにその引き金を引いた。

 

 

 






『第六位』について➁

そういえば、最近上がってきた情報なんだが、コイツが第三位の騎士とか叙したとか何とか。まあ、氷の女皇に忠誠を誓っている組織である以上、眉唾だろうが……少し、会ってみたいと思っちまった。
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