俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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ファルカについて……

彼の事はよく聞くよ。何せモンドの北風騎士、西風騎士団の大団長だからね。ファデュイも彼の行動はマークしている。そんな彼と共闘する事になるとはね……世の中は分からないものだね。


フレンズ・ミーツ・ムーン~君は月のふれんずなんだね

 

 機械の内は暗く、外の慌ただしい足音や声、無機質な電子音が暗闇の中に木霊していた。

 

 時折する駆動音と、出現する細い赤い光の他、何ら変化の無い光景。

 

 先の戦いの影響もあるのだろう、嫌でも脳内にあの時の光景がチラ付く。

 

 暗くて、寒い──あの暗闇の中の──

 

「検査終了よ」

 

 一人の女性の言葉と共に機械が動き、暗順応した眼に照明の光が差し込む。

 

 ここは知らない天井だとでも言うべきなのかもしれないが、生憎と此処は知り尽くしてしまった場所である。

 

「まるで重病人みたいな扱いだね……」

 

「あら、別に間違ってはいないでしょう?」

 

 確かに設備の破損を除けば、誰よりもボロボロになって帰ってきたとは思うが……

 

 サンドローネは近くの椅子に腰掛け、機械から出力された用紙を手に取る。

 

「貴方の外傷は置いておくとして……運が良かったわね。内臓の各種数値に異常は見られないわ」

 

「そう……なら、まだ戦えるってわけだ」

 

「『公子』みたいなことを言わないで頂戴。あくまで、検査前と比較した上で異常が無いってだけよ。貴方の数値は依然として良くなってないもの」

 

「じゃあ、まだ猶予は残ってる訳だ」

 

「……っ、貴方ね……」

 

「スカラマシュ、君もあまり無理をしてやらないでやってくれ。サンドローネは君の事を心配していたんだ」

 

「ちょっと! アルレッキーノ!」

 

「おや、心配してくれたんだ?」

 

「う、うるさいわね! 前にも言ったでしょ! 私はお茶会のメンバーが減るのは癪なの。ただ、それだけよ……」

 

「そうだったね。でも、おかげさまで次も参加できそうだ。それには感謝するよ」

 

「……フン」

 

 まったく、ツンデレーネ様は相変わらず誰に対しても素直じゃないらしい。

 

 とはいえ、彼女には何かと借りを作ってしまっている。

 

 積み重なった幾つもの借りは、出来れば俺自身がまだ使い物になる内に清算しておきたいのだが……寧ろ増えていっているのが現状だ。

 

「さて……話は変わるが、ヒーシ島に向かわせた斥候から報告が上がった。結論から言えば、現在、グレートサンダーリーフにて大規模なワイルドハントが発生している」

 

 アルレッキーノはそう言って、卓上に地図を広げて印を付けていく。

 

「この赤の印がワイルドハントの霧が掛かっているエリアだ。見ての通り、この小島全体を包囲するように広がっている」

 

「レンポ島の方でも同じような状況が幾つも起きてるわ。何処かの誰かがコロンビーナのクーヴァキに似せた囮をばら蒔いているようね」

 

 あの時、『月の狩人』は月の気配を追って来たと言っていた。

 

 クーヴァキを吸収し、自分の力を増している以上、何らかの形でその状態を感知できるのだろう。

 

 そして、月神たる彼女から発されるクーヴァキは弱っているとはいえ、その純度は其処らの生物や鉱物とは比べ物にならない筈だ。

 

 そして、それ類似した反応が複数同時に出現しようものなら、その殆ど囮と分かっていても、確かめずにはいられない。

 

 旅人とコロンビーナが、見つかるリスクを冒してまで、この実験設計局に来たのもそのような事情があったからだろう。

 

「ああ、つまり敵はコロンビーナの所在を掴めていない。コロンビーナの痕跡を頼りに場当たり的に捜索していると考えられる。そして、直近で発生したワイルドハントの内、今もなお終息が見えないのがこのエリアだ」

 

「まあ、囮なら見つかり次第、破壊されるでしょうし、今も捜索が続いているなら、其処に潜伏していると考えるのが自然ね」

 

「ああ。しかし、彼女らも愚かではない。潜伏している以上、そう簡単に合流は出来ないだろう」

 

「成る程、それで俺がいるのね」

 

「ああ、コロンビーナはとりわけ君の気配にとても敏感だからね。君がいると分かれば、彼女も合流を目指す筈だ」

 

 つまり、俺はコロンビーナほいほいということ……それは少し違うか。

 

「そういえば、コロンビーナが此処に来た時、貴女にもう一つの月髄を預けさせて欲しいと言っていたわね」

 

「ほう……彼女は虹月の月髄を探しているのか。確かにそれは私が適任だろうな」

 

「でも、二つの月は砕けちゃったんでしょ? 事実、その内の一つの破片は此処の真下にあるわけだし……」

 

「……アルレッキーノ」

 

「ああ、構わない。スカラマシュなら信用に足るだろう……スカラマシュ。今、君に話すのは私の生まれに由来するものだ。くれぐれも内密に願いたい」

 

「……分かった」

 

 俺が頷くと、アルレッキーノはその手に身に付けていた装飾品を外した。

 

 顕になったその手はまるで闇に染まったかのように黒く染まっていた。

 

「……それはアビスかい?」

 

「半分正解だ。スカラマシュ、君はカーンルイアにはかつて二つの王朝があったことを知っているかい?」

 

「……話だけならね。赤月と黒日だったっけ?」

 

「ああ、結論から言えば、私は赤月の王族の末裔なんだ」

 

「……成る程ね。もう半分の意味が分かったよ。虹月はアビスと結び付いて、その成れ果てが赤月と呼ぶものなのか

 

「察しが良いね。そうだ、私はこの身体に宿った赤月の力を使う度にアビスに侵食される。その侵食が心臓にまで達した時、私は今の私とは別の物に変わり果ててしまうだろう」

 

 彼女がその力を行使すればアビスは彼女の魂を狙って、その身体を侵食していく。

 

 だからこそ、アルレッキーノは自らの力を温存している。

 

 それはある意味、呪いとも言えるし、自分とアビスとの孤独な闘争とも言える。

 

「虹月の月髄の管理について君が適任なのは理解したよ……でも、肝心の月髄はどうやって手に入れるのさ?」

 

 前に此方が手にした恒月の月髄も信者達が厳重に保管していた。

 

 それを明け渡したウィルミナ嬢が手に入れたのも、旅人の介入があってこそである。

 

 しかし、虹月はとうの昔に砕け、その破片は行方は知れず。

 

 そもそも、此方が関与する余地自体が無いのだ。

 

「そうだな……君は『ペリンヘリ』、別名『恋におちたレオブラント』という本は知っているかな?」

 

「いや、まったく」

 

「これ自体はなんてことの無い恋愛物語だ。今でもフォンテーヌで普通に買うことができる。ただ、作中には面白いことが書かれていてね」

 

「というと?」

 

「かつての赤月の時代、教養院は世界の外から子供達を集め、特殊な入院の儀式をしていた」

 

「儀式ね……」

 

「その内容は集めた子供達を暖炉の煙突に登らせ、『死んだか』、『見たか』と問い掛けるというものだ。この儀式は子供が自身の死を認め、赤い月を見たと答えるまで止まなかったそうだ」

 

「……は?」

 

 えっ……何、その訳が分からない儀式……

 

 霜月の信者が何でもかんでも、月神にお願いしてたのと同じようなものなのだろうか? 

 

「そして、子供がそう答えたとき、大人達は彼らをは抱きしめ、こう言ったそうだ。『お前はもう壁炉の中の双界の炎を通り抜けた。今、此処でお前は生まれ変わったのだ』とね」

 

 成る程、理解した……煙突に昇るのはあくまで形式か。

 

 本当に重要なのは壁炉の中の双界の炎を通り、子供達が生まれ変わること。

 

 それは赤月の祝福を得ること意味する──つまり、虹月と結び付いたアビスの力を得ることを指す。

 

 そして今、その双界の炎を持つのは──

 

「どうやら、私が伝えたい意図を理解してくれたみたいだね」

 

「……合点がいったよ。コロンビーナが虹月の月髄の管理を君に任せたいと言ったわけだ」

 

「ああ、だがあまり時間は無い。一刻も早く、コロンビーナ達と合流しなくてはならない」

 

「そうね……とはいえ、コロンビーナの捜索に私達全員が繰り出すわけにはいかないわ。ただでさえ、ドットーレのヤツは何もしないんだもの。此処の復旧作業も始まったばかり……口惜しいけど、この件は貴女達に任せる他無いわね」

 

「子供達には君の指揮下に入るよう指示しておこう。フレミネなら破損した陸巡艇の修理も手伝えるだろうね」

 

「あら、気が利くじゃない。なら、貴女の所の猫女には私の機械に絶対に触らないように念を押しておいて。あの娘が触った機械は大抵、故障するんだから」

 

「リネットか。分かった、私から伝えておこう」

 

「あの兄妹には……掃除でもするように言っておいてよ。私はプロンニアの修理もあるし、防衛システムのチェックもしなきゃ……後は──」

 

 技術屋は誠に多忙であるのか、聞いてもないのにぶつぶつとやることを呟き始めた。

 

 生憎なことにシステムの云々とか、再配置とかそういった分野については門外漢も良いところだ。

 

 手伝うにせよ、かえって彼女の仕事を増やしかねないのである。

 

「……そうだ、あの三人にもう一つ伝えておいて。棚の中にお茶が残っていた筈だから、好きなのを淹れなさいって」

 

「ああ、心得た」

 

 もう、このツンデレーネ様は、こういう所は本当に素直じゃないんだから……

 

「……スカラマシュ、その目はどうした?」

 

「暖かい目」

 

 そう言った途端、サンドローネに無言で足を踏みつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────っ!?」

 

 背後からの一突きで亡霊は膝を付き、その身体を霧散させる。

 

 同様に傍らの一体も相方の炎で焼かれ、そのまま消滅した。

 

「流石だ。隠密行動によく慣れている」

 

「君こそ、手際が良いね」

 

「生憎、この手の事は昔、散々仕込まれてね」

 

 彼女が言う昔──それは彼女が執行官となる前、先代の『召使』が存命だった頃の事だろう。

 

 現在、アルレッキーノが管理する『壁炉の家』は先代の『召使』が創設したものだ。

 

 アルレッキーノもかつてはそこに所属していた孤児の一人だったと聞いている。

 

 しかし、当時の『壁炉の家』は現在のように子供達が生き生きとした暖かな場所ではなく、所属する子供達同士の殺し合い、それを生き残ったとしても『博士』の実験材料として提供していたりと、かなり闇が深い組織だったらしい。

 

 そして、そこの孤児の一人だった彼女が先代の『召使』と決闘を挑み──今の地位を奪い取ったと。

 

「『公子』から聞いていたが、君もかなり戦い慣れているようだね。先程の動きには一切の無駄が無かった」

 

「隠密行動は狙撃手の必須事項だからね……それが出来ないヤツから死んでいく」

 

 適応できなければ死ぬだけ、仮に適応できても次の瞬間には死んでいるかもしれない。

 

 自身の命の保証はおろか、適応する術を教えてくれる教官なんて其処にはいないのだから。

 

「……君はライカの生き残りだったね。なら、百も承知か」

 

「……サンドローネから聞いたのかい?」

 

「……すまない。元はと言えば、彼女にその事を教えたのは私だ。スネージナヤでドットーレの調査をしている折に、君の──ライカの資料を見つけたんだ」

 

「生憎だけど、あの時の俺達は上からやれと言われた事だけしかやってなかったんだ。当時のドットーレが何をしてたかなんて全然、知らないんだ」

 

「そうだろうね……それこそ、ヤツの常套手段だ」

 

 結局、彼にとってライカは捨て駒──いや、それこそ実験動物と同等の価値でしかなかった。

 

 当の彼が一々死んだ実験動物について記憶する事はおろか、それを省みる事など一切無い。

 

「……待って。この先に複数の集団だ」

 

「数は?」

 

「十五……いや、敵は十二体かな。それから離れように動く集団が三体」

 

 切り立った崖の間を飛行する遊星から発せられる雷元素の反応。

 

「どうやら……探し物は見つかったみたいだね。近くに別の敵は?」

 

「コイツらだけだね。ただ、逃げてる方がこのままじゃ袋小路だ」

 

「なら、敵集団は私が一掃しよう。私も早く友人に会いたいからね」

 

「じゃあ、任せたよ」

 

 そう言った途端、アルレッキーノの身体から赤黒い炎が迸り、その背から羽──蜘蛛の脚のようなものが伸びる。

 

 そして、空中に張り巡らされた赤い糸を伝り、敵の真上へと移動していく。

 

 ふと、脳裏に彼女が言っていた言葉が過る。

 

『それこそ、ヤツの常套手段だ』

 

 あのドットーレが実験材料に対して、何か情報を与える事はない。

 

 それは今も昔も散々見てきた事だ。

 

 彼にとって自らの実験が第一、その点について見解が変わったことはない。

 

 だが、今の状況──『月の狩人』が力を増し、ナド・クライひいてはテイワット全体の危機になりつつあるこの状況は彼にとっても悪影響ではないのか? 

 

 サンドローネが常々、愚痴を言っているように『月の狩人』の出現以降、彼からの音沙汰は一切無い。

 

 これはあくまで仮定だが、『月の狩人』がこうして力を増し、俺達と相対する事さえもが彼の実験の一環だとしたら──

 

 俺個人としては、テイワットの危機を招くような実験をわざわざやる意味があるとは思えない。

 

 でも、あのドットーレだ──彼にとってのメリットが無いとは言い切れない。

 

「……でも、アルレッキーノも此処に来たし、条件は揃ったよな」

 

 アルレッキーノがこの地に着任したという事は、じきに本国からドットーレへ帰還命令が下される事と同義でもある。

 

 故にここまでは俺やサンドローネ、アルレッキーノの思惑通りに事は進んでいると言える筈だ。

 

 ……なのに、何故だろうか? まるで後ろ髪を引かれるかのように、一抹の不安が拭えない。

 

「……って、今はこんなことを考えている場合じゃないか」

 

 今の最優先事項はコロンビーナとその協力者達と合流する事。

 

 そして、彼らと協働して『月の狩人』に対処すること。

 

 ドットーレをスネージナヤに返送するのは、全てが終わった後で良い。

 

「……というか、意外と派手に燃やすな」

 

 赤黒い炎に呑まれ、消滅していく亡霊達に思わず苦笑いが浮かぶ。

 

 一見、冷静沈着に見える彼女も久しぶりに友人に会えるからか、少しテンションが上がっているらしい。

 

 もう、俺の同僚は素直じゃないんだから……そんな彼らは今こそ、暖かい目で──

 

「アチッ……」

 

 そんなことを考えた時、右頬で火花が弾けた──そんな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……おかしいなぁ。当初の目的は達成した筈なのに、なんでこの場は気まずいんだろう。

 

「……」

 

 複雑な表情を浮かべ、俺達を見つめる霜月の信者の詠月使様。

 

 そして、時折、目を逸らしながらも俺達を凝視する秘聞の館の従業員。

 

 そして、目の前には手を組み、何処かの司令のように此方を見つめる頬の傷跡が特徴的な大男。

 

 傍らの同僚もそれについて何かを言うこともない。

 

 そんな気まずい雰囲気の中、例外はただ一人──

 

「フフッ……スカラマシュ、変な顔してるね」

 

「ひょっ、ほおおふままないへふへ(ちょっ、頬を摘ままないでくれ)」

 

 周りの気まずい雰囲気を、我知らずといった様子のコロンビーナ。

 

 今の彼女は俺の膝の上で頬を弄ぶ事にご執心である。

 

 ……なんでぇ? 

 

「ファデュイの執行官の第三位と第六位が親密な間柄というのは有名な話だが……まさか、ここまでとはな」

 

「ああ、彼女があのような表情を浮かべているのは初めて見る」

 

「いや、コロンビーナがスネージナヤにいた頃はここまで積極的では無かったよ」

 

「で、でも、確か第六位が第七位にも手を出したって話も有名だぞ!」

 

「ああ、それについては──」

 

「ひょっ、は、はって!! (ちょっ、待って)」

 

 ちょっと、アルレッキーノさん? 何故、同僚の悲しい事故について広めてんの? 

 

 貴女、一応は真相を知ってる側でしょ? 同僚が女の敵扱いされるのを何故、見てるんです!? 

 

「俺は第六位が第三位の騎士に叙したとか聞いたぞ?」

 

「ああ、里の子供が助けて貰ったと言っていたな」

 

 おい、前に助けたあのちびっこ、普通に言いふらしやがったな? 

 

「フフッ、人気者だね。スカラマシュ」

 

「……殆どが根も葉もない噂話なんだけどね」

 

 ようやく離して貰えたと思ったら、今度は俺の根も葉もない噂を共有されていた件について。

 

「しかし、月神の嬢ちゃんがファトゥスの第四位と第六位を此処に連れてくるなんてな。こればかりは流石の俺も驚いたな」

 

「それは我々もだ。コロンビーナと旅人に協力者がいると予測はしていたが、まさか、モンドの西風騎士団の大団長だとはね」

 

「ハハハッ、お互い様って訳だな」

 

 西風騎士団の大団長──北風騎士ファルカ。

 

 彼の活躍や武勲についてはファデュイも注目し、特に警戒を置いている。

 

 とはいえ、それは此処にいる彼らも同じようなものだろう。

 

 霜月の里の詠月使様にとってはかつては一触即発の対立状態にあった組織。

 

 そして、あろうことか自分達が信仰する月神を追っている脅威でもある。

 

「少し気になるんだが、月神の嬢ちゃんはファデュイを抜けたんだろ? その嬢ちゃんを捕まえに来たなら分かるが、何故、わざわざリスクを冒してでも助けようとするんだ?」

 

「フム……ではファルカさん、ナド・クライはモンドに属していない。だが、貴方はこの土地の為に戦っている。それは報酬よりも、この土地の脅威が制御不能にするリスクを避けることを優先すべきことがあるからだ。それに確固たる理由は果たして必要だろうか?」

 

 ファルカ率いるモンドの西風騎士団の遠征隊はワイルドハントに対抗しているのは情報として耳にしている。

 

 端から見れば、その土地にとっての部外者がその土地の為に命を懸けているという状況。

 

 人は理由もなく、命を懸けたりはしない。

 

 それはそうするに足る理由があってこそ──彼らがこの地で戦うのもその為だろう。

 

「無論、メリットが全く無いわけでもない。だが、それはコロンビーナと我々の個人的なものだ」

 

 アルレッキーノの目配せに頷き、その意に肯定の態度を見せる。

 

 だが、それでも疑念を抱かずにはいられない者も居る──彼女こそまさにそうだろう。

 

「……申し訳ない。そなた達を疑うのは本意では無いのだ。しかし私達、ナド・クライに住む者達が直面している問題の多くはファデュイによるものだ」

 

 詠月使の彼女は複雑な表情を浮かべながら言う。

 

 俺達がこのナド・クライで活動するにあたり、現地民とは多くの衝突と摩擦が発生している。

 

 彼女が率いる霜月の子はその影響を多大に受けているのだ。

 

 それを手放しで俺達を信用しろというのは、無理な要求だろう。

 

「過去に両者の間に多くの不愉快な摩擦があったことは十分に理解している。私も懸命に食い止めてはいるが、根本的な利益の衝突は友好的な手段で解決できるものではない」

 

 ファデュイはこの地でクーヴァキについて研究するにあたり、各地の新月神像に探査機を取り付けたり、彼らの土地に土足で上がり込んだりと月神を信仰する彼らにとっては許しがたい事をしてきた。

 

 両者の根本的な目的──その価値観の違いによる溝はそう易々と埋まるものではない。

 

「故に私とスカラマシュがこの場へ訪れたのはファデュイとしてではなく、あくまで個々の判断によるものだ。その証拠として、早速我々が知り得る情報を君達に明かそう」

 

 聴衆の視線がアルレッキーノへと向く。

 

「コロンビーナの力を回復するためには、虹月の月髄が必要となる。そして、我々はその入手方法について知っている。……さて、他に議題はあるかな?」

 

「……」

 

 彼女の向かいのファルカは何か思索し、少しの間その口を閉ざす。

 

 アルレッキーノは敢えて肝心な内容には触れてはいない。

 

 彼女もこれ以上の情報開示は彼女自身が秘匿したがっている事に繋がりかねないからだ。

 

 そして、目の前の大男に与えられた選択肢は二つ。

 

 一つは俺達を信用できないとして、協働を拒否すること。

 

 そして、俺達との協働を受け入れ、虹月の月髄の入手をこちらに任せること。

 

 その答えなど──わざわざ二択を問わずとも分かっていた。

 

「……そこまで言うなら、月髄を見つける件についてはアルレッキーノさんを信じよう。……実は俺達もある情報を得ている。それは『月の狩人』についてだ」

 

「ほう……」

 

「ヤフォダ、皆に共有してくれるか?」

 

「あ、ああ。コホン……簡潔に言うと、『月の狩人』の正体が分かったんだ。ヤツはカーンルイアの諜報員で、カーンルイアでは赤月の残党を排除することを生業にしていたんだ」

 

 成る程、だからこそ『月の狩人』か。

 

「赤月の残党?」

 

「記憶の中では『赤月』とか『黒日』とか話していたらしい」

 

 ヤフォダと呼ばれた少女の話を聞いて、膝の上のコロンビーナがアルレッキーノの方を向く。

 

 当の彼女もその意図を察したのか、無言で頷いた。

 

「……私の知る限り、『赤月』と『黒日』はどっちもカーンルイアの王朝の名前だよ。遥か昔、カーンルイア人は赤月を信仰して不思議な力を得ていたらしいよ。でも、クーデターが起きて、『赤月』は『黒日』にとって変わられたの」

 

 コロンビーナが言う不思議な力こそ、アルレッキーノが言ったアビスの力だろう。

 

 そして、新しい王朝である『黒日』はそれに頼らずともよくなった、若しくは別の手段でアビスに触れる事が出来るようになった。

 

「しかし、その頃の『月の狩人』はまだ狂気に陥ってはいなかったのだ。至って普通の青年で、彼にはソリンディスという恋人がいた」

 

 ソリンディス……『月の狩人』が復活したあの夜、彼が連呼していた名前の一つだ。

 

 それと……彼との戦闘で、何度も出任せで言った煽りも存外、的を射ていたという訳か。

 

 そして、裏を返せば、『月の狩人』がああなったのもこのソリンディスという恋人が深く関わっているのだろう。

 

 とはいえ、彼らは共に何百年も前の人物──今更、こちらがどうこうする事は出来ない。

 

「……コロンビーナ?」

 

「何?」

 

「何してるのさ?」

 

「スカラマシュが怖い顔してたから笑顔にしてるの」

 

 物理的に笑顔にされても、それは怖いだけでしょ……

 

「なんか昔の絵にありそうな感じだな……主に化け物とかの」

 

 ……この子、意外と言い方ひどくない? 

 

 

 

 






第六位について②……

月神の嬢ちゃんの懐きっぷりに隠れがちだが、アイツの佇まいは常に戦いに備えているみたいだったな。事実、アイツはあの場で全員の行動を俯瞰していた。あの振る舞いは相当に戦い慣れてないと出来ないな。
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