俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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雪について……

スネージナヤで生まれれば、嫌になる位に雪に翻弄される。その極寒の吹雪は一寸先の視界を白で覆い尽くし、その身体から生気を奪っていく。そして、身体も、叫びも、血も、死体も──ありとあらゆるものを呑み込んでいくんだ。まるでアビスみたいだと思わないかい?……って、流石に趣味が悪いかな。


あなたの声が絶えるまで

 

 

 

 純白の雪が赤く染まっていく。

 

 眼前では血と唾液が混ざった泡を吹きながら不自然な呼吸を繰り返す肉塊が転がっていた。

 

 彼女の顔は潰れ、腕や脚は不自然な方向へ曲がり、特徴だった金髪で辛うじて誰か判別ができる有り様だ。

 

 凄惨な死体と思える姿になりながらも、彼女は生きていた。

 

 だが、助からない──それは揺るぎ無い現実だ。

 

 当たり前だ、自分よりも遥かに巨大な魔物の突進をまともに受けたのだ。

 

 寧ろ生きていることこそが幸運──否、不運と言うべきか。

 

 その末路は失血で死ぬか、それとも窒息で死ぬか、はたまた凍え死ぬのか。

 

 過程が変わっても、死ぬという結果に変わりはない。

 

 傍らにいた銀髪の少女が俯きながら、首を横に降った。

 

 死ぬのは、見た瞬間に分かっていたとして、もはや会話することすら叶わないようだ。

 

 このまま放置しても助からないどころか、彼女は苦痛に呻きながら死んでいく。

 

 こんな時、どうするのか──そんな事、講義をしていた教官が嫌になるほど言っていた。

 

 まるで機械の所作のように、持った小銃を構える。

 

 狙うのは彼女の頭部、正確には鼻の後部──人間の生命活動を司る脳幹。

 

 装填されている徹甲弾は骨を貫き、その部位を破壊するのに十分な威力がある。

 

『■■■は何処から来たの?』

 

『■■■と幼なじみなんだ! だから、あんなに息がぴったりなんだね!』

 

『同じ分隊だね! よろしくね、分隊長!』

 

 脳裏に透写される彼女とのやり取り、誰に対しても自分から話しかけて、短い間に部隊のムードメーカー的な存在になっていたと思う。

 

 口下手な俺でも彼女と話すのは苦では無かった。

 

 なのに、彼女へと小銃を構える俺の手は一切の震えを起こさない。

 

 これから仲間が死ぬのに──俺が殺すのに、俺はただ機械のように引き金へと指を掛ける。

 

 それでも、僅かな所作さえもが記憶に──脳に焼き付いていく。

 

 だからこそ、今もハッキリと覚えている。

 

 これは初めて仲間が死んだ時の──初めて仲間を撃ち殺した時の記憶だ。

 

 ──また、私を殺すの? 

 

 当然だ、もう助からないなら……仕方がない。

 

 ──また、■■■だけが生き残るのか? 

 

 そうだ……その結果はもう、変わらない。

 

 ──また、■■■を裏切るのかい? 

 

 違う、俺を……俺達をアビスに売ったのは■■■だ。

 

 ──皆、受け入れたのにね? 

 

 違う……あんなものは俺の仲間じゃない。

 

 ──でも、願いは叶ったんだよ? 

 

 違う……

 

 ──皆、此処に居るんだよ? 

 

 ……違う……俺は絶対に認めない。

 

 ──もう、手遅れだよ。

 

 まだだ……まだ俺は生きている。

 

 ──私の俺の僕の手手手ををを取取取れれればばば??? 

 

 違う、絶対に認めない……

 

 ──早速くくししなないいとと。

 

 絶対に……違うんだ。

 

 ──死失滅喪終にににににたたたたたくくくくく無な亡ナ難いよ。

 

 黙れ……お前が……皆の声で喋るな。

 

 ──また、私を殺すの? 

 

 黙れ……

 

 ──また、俺を名簿から消すのか? 

 

 黙れ……黙れ……

 

 ──また、■■■が生き残るのか? ■■■を裏切って? 

 

 黙れ……黙れ……黙れ……っ! 

 

 ──■■■は皆を見捨てるの? 

 

 ……黙れっ……違うんだ……っ。

 

 ──本当は分かってるんだろ? ただの独り善がりだって。

 

 ……っ。

 

 ──ねえ、■■■。

 

 ……っ、その名前を……俺の名前を……呼ぶな……っ! 

 

 ──ねえ。

 

 ……ぁっ……

 

 ──早く。

 

 違う……黙れ……黙れ黙れ黙れっ!! 

 

 ──こっちに来てよ。

 

 ……っ!? 

 

 彼女の──皆の影の手が眼前へと。

 

 ……ぁ……

 

 迫って──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──スカラマシュ」

 

「……ん、コロンビーナ……?」

 

 目を開けると、彼女のアイマスク越しの閉じた双眸が此方を覗き込んでいた。

 

 ……どういう状況だってばよ? 

 

 というか、これは覗き込んでいるというのか? 現に彼女は目を閉じたままだし。

 

「大丈夫? とても苦しそうだったよ」

 

「えっ、あ、ああ……大丈夫。ちょっと悪い夢を見ただけだから」

 

 そう、悪い夢……ただの昔の悪い夢だ。

 

「まだ会議は始まらないから、そのままゆっくりしてて大丈夫だよ」

 

「ゆっくりって言ってもね。こんな固い長椅子じゃ……あれ?」

 

 目を閉じた時、俺は確かに固い長椅子に横たわった筈だ。

 

 頭も痛む上に、反発MAXの鉄板は寝苦しいことこの上無い有り様であった。

 

 だが、いつの間にか何か柔らかい感触が後頭部にある。

 

「スカラマシュ、あまり動くとくすぐったいかも……」

 

「ご、ごめん……というか、俺はいつの間にコロンビーナの膝を枕にしてたの?」

 

「横になったスカラマシュがとても苦しそうにしてたから。少しでも寝心地を良くしようと思ったの」

 

「そ、そっか……わざわざありがとう」

 

「ううん。お礼を言わなきゃいけないのは私。旅人とパイモン、ラウマや他の皆──サンドローネとアルレッキーノ、スカラマシュも私の事を助けてくれてる」

 

 彼女の小さな手が触れる、その指が包み込むように俺の手に重なっていく。

 

 細い指でありながらも確かな安心感があるのは彼女が月神である故なのか、それとも……

 

「だから、私も皆の事を──スカラマシュの事を助けてあげたいの」

 

「コロンビーナには十分に助けて貰ってるよ……ほんと十分な程にね」

 

「フフッ……良かった」

 

 あまり肩入れするのは良くない──それは嫌になるくらいに理解している。

 

『月の狩人』の一件が片付けば、俺達とコロンビーナ、此処にいる他の面々との関係は以前のものへと戻る。

 

 下手を打てば、此処にいる彼らと殺し合うことにだってなり得るだろう。

 

 敵を撃つ事に躊躇いなんて無い──それに疑問を持てば、次に撃たれるのは自分かもしれない。

 

『また、私を殺すの──?』

 

 夢で見たあの時の──俺が撃ち殺した仲間の声をした問い。

 

 その問いの答えなど既に決まっていた、

 

 ──ああ、何度だって撃つさ。

 

 こんなのは一回じゃない、何度も何十回、何百回も──繰り返してきた。

 

 敵を、既に助からない仲間を何度も撃ち殺してきたし、助けを求める味方を見殺しにしてきた。

 

 今更、躊躇いなんて無い──既に俺の手は取り返しがつかないぐらいに血に塗れているんだから。

 

 だからこそ、今も思い出す。

 

 彼らの目と、彼らの怒りを、彼らの叫びを──

 

『ねえ、■■■』「ねぇ、スカラマシュ」

 

 ──理不尽にも消えていく他なかった彼らの存在を。

 

「大丈夫?」

 

「……大丈夫だよ。ああ、俺は大丈夫さ」

 

「でも今、凄く辛そうだったよ……?」

 

「……そう、見えたかな?」

 

 鈍く痛む頭の片隅に顔をしかめながら、思わず溜め息が漏れる。

 

 我ながら情けない話だ、少しでも疲れを取りたくて仮眠を取った筈なのに、これでは逆に疲れを溜めるだけじゃないか。

 

「──大変失礼な事を聞いてしまうのですが、お二人は本当にご交際はされていらっしゃらないのですか?」

 

 その様子を傍らで見ていたフリンズさんが唐突に問う。

 

「……えっ?」

 

「お二人についての噂は度々、僕も聞く機会はあったのですが、実際にここまで仲睦まじい関係でいらっしゃるとは思っていなかったもので」

 

「……まあ、交際というより、そういった関係ではないつもりだけど?」

 

「……? 私はスカラマシュのこと好きだよ?」

 

「いや、フリンズさんが聞いてるのは多分、そういう事じゃないと思うんだけど……」

 

「成る程……いやはや、お二人は本当に仲がよろしいのですね。僕は傍観者に過ぎませんが、見ていて大変好ましいものです」

 

「そ、そういうものかな?」

 

「ええ、その証拠に彼方のファルカさんをご覧になってください」

 

 フリンズさんに言われた通り、ボードの前に座ったファルカさんの方を見る。

 

 彼は金属のコップを片手にコーヒーを口にしていた。

 

「……おかしいな。少ししか入れてない筈なのにやけに甘いな?」

 

「古来より恋愛物語などにおいて砂糖を吐くという比喩があります。お二人のやり取りはまさにそれですね」

 

「いや、比喩というか実際に甘くなってるみたいだけど?」

 

 後、傍らの砂糖の包装には10倍濃縮とか記載されている。

 

 ……からかってるんだよな? そうなんだよな? 

 

「──知らぬ間にだいぶ人が増えたものだねぇ」

 

 入り口の方から歩いてくるスメールの砂漠民の装いが特徴的な女性は少し呆れたように言った。

 

「それに貴重な光景が見れたものだねえ。女性に膝枕をして貰ってるファデュイの人間なんて、そうそうお目にかかれるものじゃない」

 

 そうやって軽薄な笑みを浮かべながら言う彼女こそ、秘聞の館の女主人──ネフェル。

 

 こうして対面するのは初だが、諜報の世界で彼女の名を知らぬ者はいないだろう。

 

 彼女が確保する情報の精度、その速度はこの地域で活動する勢力にとって、戦略を決める一手にすらなり得る。

 

 そして、彼女自身は基本的に特定の組織に肩入れするような事はしない、

 

 現に彼女を抱え込もうとしたファデュイのエージェントを、彼女自身が一蹴してみせている。

 

「おっ、ようやく来たな……ヤフォダの嬢ちゃんはどうした?」

 

「ヤフォダなら秘聞の館で待機させてるよ。情報共有と会議が終わったら『月の狩人』についてより詳しく調査するつもりだからね。その方が合理的だろ?」

 

「ん? 確か、『今回だけ、次はない』とか言ってなかったか?」

 

「……」

 

「しー! せっかく誤魔化せてるのに、思い出したらどうするんだよ!」

 

 いや、普通にもう手遅れだと思うんだけど? 

 

「こ、コホン……ファルカさん、何か言ったか?」

 

 ラウマさんもなんとかこの場を誤魔化そうと、慣れぬ様子でとぼけてみせる。

 

「あ、ああ……何も言ってないぞ。なぁ、フリンズ?」

 

「蛙か何かが鳴いたのでしょう。この辺のは特に元気なもので、夜中にコンサートを開く事もあるんですよ」

 

 いや、誤魔化すにしても流石に無理があるでしょ……

 

「ま、まぁ、蛙の事は置いておくとして、本題に入るとしよう。これだけの顔ぶれが揃う会議で進行役を任せて貰えることを光栄に思う。そういえば、ネフェルとスカラマシュは初対面だったな」

 

「スカラマシュ……成る程。アンタが新しいファトゥスの第六位か。うちのヤフォダが世話になったようだね」

 

「かの秘聞の館の主人に名前を覚えて貰えてるなんて光栄だね。君の所の従業員さんによる実験設計局の一件で、こっちは上の面々から大目玉を喰らわされたよ」

 

「おや、そいつはすまないねぇ。可能な限り、今後は控えるよう努力しよう」

 

「なら、そうしてくれ。何かある度に、上の面々からの苦情の書面が送り付けられるのも面倒だからね」

 

 尤も、その面々は主にスネージナヤ常駐組の『雄鶏(プルチネッラ)』と『富者(パンタローネ)』なのだが、彼女がそれについて知ることはない。

 

 特にパンタローネに至っては、それはもう嫌みったらしくネチネチと苦情を送ってくるのだから、途中から返事を書くことすら放棄してしまった。

 

 ちなみに同僚のサンドローネに至っては開く事すらせず、無言でゴミ箱へ放り捨てる始末である。

 

「スネージナヤに居た時、いつも『雄鶏』は言ってたね。『あの、クソパンタローネから金を巻き上げてみせると約束しよう』って」

 

「コ、コロンビーナ?」

 

 こら、コロンビーナさん? そんな乱暴な言葉使いしちゃ駄目でしょ。

 

 俺達の経費はクソパンタローネ宛に申請しなきゃいけないんだから、ちゃんと、クソパンタローネには感謝しなきゃいけないんだぞ

 

 今度も俺のサボ──調査業務の諸経費を申請しなきゃいけないんだから、クソパンタローネにはちゃんと敬意を持って接さなくてはならない。

 

 申請理由は……まあ、今回も現地調査ってことにしとくか。

 

「それにしても……凄い人数だな。今回の作戦は大掛かりだぞ!」

 

「ああ。おっと……そうだ、ネフェルには新しい依頼が入るかもしれないぞ?」

 

「こんな時にかい? 一体、誰が──」

 

「──俺だ」

 

 そうして、旅人達の傍に居た仮面の男性──ダインスレイヴはネフェルへと歩み寄った。

 

「『月の狩人』について調査しているのだったな? ヤツについて分かった情報を俺に共有して欲しい」

 

「アンタは?」

 

「俺が誰かなど重要ではない。俺の依頼は以上だ、引き受けて貰えるか?」

 

「秘聞の館は匿名の依頼を受け付けていない訳じゃないけど、あんたの依頼は断らせて貰うよ。見るからにあんたは只者じゃない。受けたらこっちが損をしそうだしね」

 

「……この目のせいか?」

 

「あんた、カーンルイア人なんだろう? それに仮面を付けてるなんて、よっぽど素顔を知られたくないのかい? 何はともあれ、生き残りのカーンルイア人は滅多にお目にかかれない相手だ」

 

 元来、人というものは、得体の知れない存在というのは、自らの遠くに置こうとする質がある。

 

 それが500年前に滅亡した亡国の生き残り──その中でも更に特別な存在であれば、なおのことだろう。

 

「……俺はダインスレイヴ、カーンルイア人だ。俺達が追う『月の狩人』はレリルと呼ばれていた。そして、レリルは俺の……古い知り合いだ」

 

「成る程、つまり貴方は常人と一線を画す存在なのですね」

 

「さてな……今となっては俺の身分には何の意味もない。それよりも何故、俺がレリルの調査を依頼するのか聞いて貰いたい」

 

「同じカーンルイア人で古い知り合い……あんたらは昔は友人だったってことかねぇ。しかし、そんな彼がどうして五大罪人になったんだい?」

 

「……そうだな。まず、他の五大罪人は欲望を抱いている。カーンルイアが瓦解し、奴等が五大罪人となったのも、アビスが彼らの欲望を増幅させたが故だ。だが、レリルに至っては、他の者と異なり、大きな欲望を抱いていた訳ではなかった。だからこそ、俺にはヤツが何故、他の者と同じ道を辿ったのか分からないんだ」

 

「つまり、あんたにも『月の狩人』がああなった理由は分からないし、その変化も突然だったという訳だ」

 

「ああ、そうだ」

 

 事前に共有された情報でも『月の狩人』──レリルという平凡な男性であった事は分かっている。

 

 彼の赤月の残党を狩るという仕事については物騒極まりないが、それ以外は何処にいてもおかしくない普通の青年。

 

 そして、復活した彼が何度も繰り返し呟いた恋人の名前──ソリンディス。

 

 虹月の月髄を入手する際に彼女の幻影を目にしたが、彼女は赤月の研究チームに配属し、それにまつわる何かについて研究をしていた。

 

 彼の豹変について、ダインスレイヴさんでも知らないと言うのなら、その切っ掛けは其処にあると考えるのが自然だろう。

 

「……あの夜の事は、数百年が経った今でも脳裏に焼き付いている。俺の兄……『預言者』ヴェズルフェルニルが黒王によって目を刺され、投獄された。その報を聞いた当時の俺は激しい怒りに駆られ、集められる仲間を全て集め、ヴェズルを救出するために王宮に攻め入る計画を立てたんだ。レリルもその内の一人だ」

 

 レリルもその内の一人……成る程、ダインスレイヴさんが集めた仲間こそ、後の『五大罪人』となる者達だったのか。

 

「俺達は王宮の門を破った後、それぞれの目標へと向かった。だが……仲間だと信じていた者達に俺は裏切られた。おまけに助けようとしたヴェズルからもな。そして、アイツはアビスの力を分け合い、俺を見捨てたんだ」

 

 そして、カーンルイアの『五大罪人』が誕生した。

 

 その後のカーンルイアの滅亡と共に七国では漆黒の災いが各国を襲い、甚大な被害をもたらす。

 

 ある意味、ダインスレイヴさんが遭った裏切りはテイワットの歴史が動いた瞬間でもあった訳だ。

 

「成る程ね、そういう経緯があったんだね。それで? 依頼の報酬として、アンタは何を用意してくれるんだい? 何事にも代償ってのは必要なものだよ?」

 

「この依頼に見合う報酬が何かは俺にも分からない。だが、レリルの過去を明らかにすることは今の貴様達にとって必要な事だろう。依頼を受けるかどうか判断するまで、ヤツに関わる情報を幾つか共有しよう。対策を立てる為に不可欠だからな」

 

「そいつは助かる。こうも偶然、『月の狩人』と因縁を持つ凄腕の剣士に出会えるなんてな。まさに『棚からクルムカケ』ってヤツだな」

 

 それを言うならぼた餅では……いや、そんなツッコミは流石に不粋か。

 

「まあ、実際に落ちてくるなら酒瓶の方が俺は嬉しいんだが……」

 

「おや、ファルカさんの棚からは炎水(プラーミアバダー)が落ちてきたりするのでしょうか?」

 

「いや、棚に置いてあるのは蒲公英(ダンディライオン)酒だな」

 

 いや、本当に置いてあるんかい……ただの例えだと思ったら、ちゃんと常備してあるのかよ。

 

「ダインスレイヴさんの話は良く分かった。後でまた二人で話そう」

 

「私達からも、皆に共有したい事があるの。私達はコロンビーナの力を取り戻すためにもう一つの月髄──虹月の月髄を手に入れるために『召使』と『散兵』が協力してくれた。二人の協力の甲斐もあって三つの月が集まった」

 

「おや、現ファトゥスがね……それはあんたら、ファデュイにも何か利益があるからかい?」

 

「利益があることは否定しないよ。ただ、アルレッキーノも言ったけど、あくまでその利益は俺達の個人的なもの。コロンビーナに手を貸しているのも、ファデュイとしてではなく、あくまで個人的な助力だよ」

 

「個人的な助力……ね」

 

「そもそも、コロンビーナは元同僚かつ、俺やアルレッキーノにとっては友人でもある。友人に協力するのに打算は要らないだろ?」

 

 無論、女皇の勅命があれば、否が応でも此方はその通りに動かねばならないだろう。

 

 だが、今に至るまで女皇から俺達の活動について言及されたことはない。

 

「それにファデュイとしても、最も優先しているのは『月の狩人』という未曾有の脅威への対処だ。そういう意味で、いまのところは君達と利害は一致している……違うかい?」

 

「……それは『月の狩人』を倒すまでか?」

 

「……そうだね。もとよりコロンビーナの捜索は本国、ひいては女皇からの勅命だ。いくら特権が与えられている執行官といえど、それだけは絶対遵守でなくてはならない。なればこそ『月の狩人』を排除した後、俺達は元の任務へ戻る──それだけだよ」

 

 如何にこの機会で互いに歩み寄ろうとも、もとより俺達の間には決して埋まらない溝がある。

 

 それは自分の立場故の境界──互いに敵対する組織に属する以上、それを取り除く事は出来ない。

 

「……大丈夫だよ、ラウマ。スカラマシュは絶対にひどいことをしないから」

 

「それは……」

 

「だって、スカラマシュがひどい人だったら、あの時の私や皆を助けてくれたりしてくれないでしょ?」

 

「……」

 

「……コロンビーナの言う通り、アルレッキーノとスカラマシュがいなかったら、私達はこうして一緒に動くことも、虹月の月髄を手に入れることも出来なかった。二人とも信用するのに十分な程、行動で示してくれたと私は思う」

 

「そうだな……スカラマシュさん」

 

「何かな?」

 

「前に『月の狩人』からクータルと私達を逃がしてくれた事もそうだが……それよりも以前、魔物に襲われた里の親子をそなたとクータルが助けてくれた事、遅くはなってしまったが……改めて感謝する」

 

「……お礼を言うならコロンビーナにしてくれ。俺はあくまで連れ添いでしかなかったんだからね」

 

「フッ……ああ、その子もクータルの騎士様が助けてくれたとその子は言っていたぞ」

 

「……あのちびっ子め。そもそも、当の本人はそんなことは一切、言ってないし、なんなら認めてすらないんだけどね?」

 

 非公認どころか、言われてる本人が否定してるのに、さも本当の事のように広まるのはほんと何故だろうか。

 

「そうだね……そのときは噂の第六位がまたやったって、界隈が騒いだもんさ」

 

「……ちょっと待って。何その界隈……というか、界隈が騒いだって事はネフェルさんは俺の根も葉もない噂について何か関係があるの?」

 

「いや、私は聞かれたから答えただけさ。私が聞いた話をありのままにね」

 

「何でそのまま話すねん。裏を取るよう努力してよ」

 

「勿論、裏は取ったさ。でも、大した報酬を寄越さない依頼主に真相を教える義理はないだろう?」

 

 つまり、俺の風評と尊厳は犠牲になったということ……というかこの人、俺の噂が広まった片棒を担いでないか? 

 

 相変わらず、テイワットの情報リテラシーはガバガバである。

 

「フフッ、スカラマシュも良かったね。これでお友達が増えるよ」

 

「これは果たして友達というものなのかね……? まあ、今はそんなことはどうでもいい。ところでコロンビーナ、今はどうなんだ? 力は戻ってきているのか?」

 

「う~ん……だいぶ取り戻せてはいるけど、完全に回復するにはまだ時間がかかるかも。三つの月が揃ってもテイワットから拒まれているのは変わらないから……」

 

 三月で唯一、健在の霜月はこのテイワットの偽りの空の向こうにある。

 

 同時にそれはテイワットが霜月の存在を拒絶していることに他ならないのだ。

 

「その拒絶にどう対処すればいいかは分からない。もしかしたら、此処を離れる時まで拒絶され続けるかもしれない」

 

 彼女が生まれたのは霜月が偽りの空の向こうへと追いやられた後。

 

 故に彼女は生まれた瞬間から、『世界の拒絶』によってその力を削られ続けている。

 

 やがては力のみならず、彼女自身の存在すら危うくなる恐れもあるだろう。

 

「でも……私は最後まで皆と『月の狩人』と戦うよ。アルレッキーノが言ってたみたいにお返しじゃなくて、親しみと感謝の気持ちなの」

 

「そっか……なら、俺からは言うことはないかな。戦う理由は選べるならその方が良い」

 

「それに今度、サンドローネ達とお茶会をするんでしょ? 私も参加したいな、サンドローネにも会いたいから」

 

「なら、俺からも伝えておくよ。特別ゲストがいるってね」

 

「フフッ……うん、ありがとう。スカラマシュ」

 

「そのためにも『月の狩人』と戦うための作戦は勿論、もっと情報を集めないとね」

 

「ええ、スカラマシュさんの仰る通りです。相手は並大抵の敵ではありません」

 

「ああ、だから幾つかの作戦を立てておいた。だが、どの作戦を実行するかは、次の三つの疑問の答えによって変わる」

 

「『月の狩人』は殺せるのか、平凡だった彼に何があったのか、あの姿になってまで求めたものとは何か……くらいかな?」

 

「流石だな。一つ目については幸いにも、此処にはアルベドがいるから、研究して貰おう」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「そして、問題は二つ目と三つ目なんだが……これらはネフェルの仕事ぶりに希望を託すしかない」

 

「へぇ、アタシに希望を託す……ね」

 

「感謝する。私にとっては些か信じがたい事だが」

 

「詠月使の言うことはコロコロ変わるね。ネガティブになるとヤフォダみたいだし、おべっかを言うときはフリンズにそっくりだよ」

 

「そんな滅相もない。僕はおべっかを言うような人ではありませんよ。僕の事は構わず、お二人の話を続けてください」

 

「わ、私は彼とそっくりなのか……?」

 

 えっ、気にするところは其処なの……というか、ヤフォダさんはネガティブになる前に、一人であたふたしてるようなイメージがあるが。

 

「フフッ、楽しいね。スカラマシュ 」

 

「楽しい、のかな……?」

 

 確かに思えば、こうして所属も生まれすらも違う者達が集い、各々が持ち寄った情報をまとめて、一つの目的を果たさんとする……そんなことは久しく無かったと思う。

 

 上からの命令に従って、討てと言われた敵を討つ。

 

 先遣隊でも、こうして執行官となった今でも変わらない。

 

 思えば、ファデュイに入ってからはそんなことの繰り返しだったと思う。

 

『■■■』

 

「──っ!」

 

「……? スカラマシュ、どうかしたの?」

 

「いや……なんでもない」

 

 会議のゴタゴタで感じなかっただけで、やはり疲れてるのだろうか。

 

 どうも、いつもは意識にあげないよう努めてるものが何度も過る。

 

「スカラマシュ?」『■■■?』

 

 その名が呼ばれる度に脳裏で反芻される、時間と共に通り抜けた情景。

 

 そして、その名前が呼ばれる度に──

 

「──いや、大丈夫。平気さ」

 

「うん、分かった。でも、無理しちゃ駄目だよ?」

 

 果たして、彼女の前の俺は、いつものように振る舞えているだろうか? 

 

 未だ鈍く痛む頭の疼きを堪え、いつものように彼女の話に相槌を打つ。

 

 きっと、それが彼女にとって、俺の望まれる姿なのだから。





第六位について③……

しかし、驚きました。あれほど仲睦まじい関係でありながら、当の本人達は特に意識にすら上がってないのですから。彼らの今後はどうなるのでしょうね。……おや、少し言い回しが過ぎましたか? そうですね……少し、乱雑な言い方になりますが『もう、付き合ってしまっては?』と言った所でしょうか。
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