俺が執行官……ってコト!?   作:爆死san

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誕生日……

誕生日おめでとう……これで合ってるかな? いや、今までの人生で誕生日を祝うという経験があまり無くてさ。まあ、難しい話は抜きにして、何かして欲しい事があれば言ってみてくれよ。可能な範囲は叶えてみせるさ。


???の章
ハピバ? 何それおいしいの?


 

 

 誕生日──それは読んで字のごとく、生まれた日の事である。

 

 無論、掃き溜めで育った俺でもそんなことぐらいは知っている。

 

 しかし、今まで生きていた中でそんなことはこれっぽっちも浮かんでこなかった。

 

 この時までは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それでね、この前帰ったらトーニャがプレゼントを用意してくれてたんだ。 誕生日当日には渡せなかったからってね」

 

 先日、タルタリヤは休暇を貰ったようで、彼の家族の下へ帰省していたらしい。

 

 その折に彼の妹であるトーニャという人物からサプライズでプレゼントを貰ったらしく、それが大層嬉しかったようだ。

 

「ほう、相変わらず君の妹君は気遣いが上手なようだね。それについては素直に好感が持てる」

 

「フン……逆にコイツは遠慮が無さすぎるのよ」

 

 まあ、タルタリヤに遠慮があるか無いかと言えば、必然的に後者だろう。

 

 例えば、彼と訓練場で会えば手合わせしてくれないか、または任務で組んだ時も終わったら手合わせしてくれないか……バトルジャンキーにも程がある。

 

「サンドローネ、タルタリヤの家族はファデュイに入っているわけではない。我々と同じ物差しで測るというのは筋違いだ」

 

「分かってるわよ……全く、なんで兄がこうなのに下の妹は礼儀を弁えてるのかしらね?」

 

「……お菓子、美味しい」

 

 マイペースなコロンビーナはタルタリヤの話より、目の前のお菓子の方が重要らしい。

 

 とまあ……ここまでの話はタルタリヤが数日、家族の所へ帰った時に待ち受けていたサプライズの話である。

 

 この中で普通に家族がいて、未だ関係が存続しているのはタルタリヤくらいであり、他の面々は彼のような普通の家族というのを持ち合わせていない。

 

 本人の様子からして、それは嬉しいものだったと察する事は出来ても、結局の所は我が身には関係がないのである。

 

 少なくとも、彼女のこの発言まで──

 

「──そういえば、スカラマシュの誕生日ももうそろそろだったわね」

 

「……そうだっけ?」

 

「なんで当本人が首を傾げるのよ。というか、貴方が自分のプロフィールに書いてあるじゃないの」

 

 サンドローネの言う通り、ずっと前にそんなものを書いた気がする。

 

 けっこう適当で埋めたのもあって、何を書いたのか、俺も殆どサッパリだ。

 

 というか、なんでサンドローネが俺のプロフィールについて知ってるんだよ? 

 

「いや、前に私が聞いたときは後、三ヶ月は先ではなかったか?」

 

「いや、俺が前に聞いたときはもう過ぎてるって言ってたけど?」

 

「……は?」

 

 ……そういえば、アルレッキーノに誕生日について聞かれて、これも適当な日付を言った気がする。

 

「……スカラマシュ、どういう事よ?」

 

 向かいのサンドローネが一気に不機嫌モードとなって睨み付けてくる。

 

 あれ? これは俺が悪いのだろうか……いや、普通に俺が悪いか。

 

 しかし、どう説明したものか……

 

「フム……スカラマシュ。お前がスネージナヤ・グラードで暮らしていた時、お前若しくは共にいた者の誕生日を覚えているか?」

 

 カピターノが少し考える素振りを見せた後、そんなことを問う。

 

「えっ? ああ……そもそも、俺も馴染みの面々も自分の誕生日なんか知りませんでしたね。物心ついた時からあの掃き溜めにいたんで」

 

「成る程な。現在も新兵でスネージナヤ・グラードの孤児だった者が度々、入隊してくるが、彼らも自らの誕生日を知らずにいる場合がある」

 

「まあ、毎日が野垂れ死ぬかの瀬戸際だったんでね。必然的にそんなことを考える暇もありませんでしたよ」

 

 その日暮らしのために機関紙を配ったり、廃材を集めたり、工場の掃除をしたり──今だからこそ、ほんの僅かなモラのために色々、やって来たと思う。

 

 ガチガチの固いパンでも食えるだけマシで、夜に燃料が尽きればあっという間に凍死しかねない。

 

 ある意味、毎日が生きるのに必死だった。

 

 そんな暮らしをしていた人間がファデュイに入り、紆余曲折もあって執行官という地位にまで登り詰めている。

 

 全く以て、人生というのは分からないものだ。

 

「……『壁炉の家』にも、稀に誕生日さえも分からないと言う子を迎え入れる事がある。とはいえ、フォンテーヌとスネージナヤでは、彼らを取り巻く環境は大きく異なるがね」

 

「まあ、一般人にとっては掃き溜めでも、住めば都と言うヤツでね。その当時はそこまで苦痛ではなかったよ」

 

 生きるのに必死だったとはいえ、そのやり方を把握してしまえば同じことの繰り返しだ。

 

 生きる為の燃料と食料を確保するために一日中、駆け回るだけの日々。

 

 だからこそ、俺達はその囲いから足を踏み出したんだ。

 

 その先で如何なる地獄が待っているかさえも考えずに。

 

「……なら、スカラマシュは自分で誕生日を決めても良いと思うよ?」

 

 少し辛気くさい雰囲気となってしまった中、真っ先に口を開いたのは意外にもコロンビーナだった。

 

「自分で決めるって言ってもね……」

 

 しかし、タルタリヤの話を聞くからに誕生日というのは、それは盛大に祝うものらしい。

 

 しかし、当の本人は誕生日も知らないどころか、語っている年齢もあくまで俺の推定である。

 

 それもあったか、誕生日を祝うという行為のイメージが湧かない。

 

「確かにコロンビーナの言う通り、お前自身で決めるというのも良いかもしれん。そして、何より名簿と異なる情報が出されていては、将兵達が事前に聞いた意味が無かろう?」

 

「ハハハ……ごもっともで」

 

 口ではこう言うもの、俺としては特に考えるつもりはなかった。

 

 あくまで、これはお茶会においての世間話……特に気に留めるものでもない話だからだ。

 

 翌日──若しくは数日後には忘れ去られる、そんな与太話だと。

 

 この話題の後のように、お茶会もつつがなく進み、そのままお開きになる。

 

 それでこの話は終わりだと思っていた──彼女を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『良いこと? 今日の20時に中央街のホテルに来なさい。時間厳守よ」

 

「……俺、今日はこの後、部下の訓練を見なきゃいけないんだけど?」

 

『私の演算なら五分前には此方に到着するわ。無論、貴方がヘマをしなければだけど』

 

 いや、結構ギリギリじゃないですか、ヤダー……

 

「というか、いきなり来いって言われても、全く要領を得ないんだけど?」

 

『う、うるさいわね! 貴方は私の言う通りに来れば良いの! それじゃ、私は伝えたから!』

 

 ガチャンという音と共に通話口からの彼女の声が途切れた。

 

「えっと……『傀儡』様は何と?」

 

「何か20時に中央街のホテルに来いだとさ。おまけに時間を厳守しろってね」

 

「……『散兵』様。くれぐれもホテルの一室を破壊するような真似をなさらないでくださいね?」

 

「ちょっと待って。なんで、俺が破壊するみたいな言い方するのさ? 前のだって部屋を吹っ飛ばしたのはサンドローネだよ?」

 

 しかもあれ以降、将兵の間では俺がサンドローネとコロンビーナに手を出したとかという根も葉もない噂話が広がっているらしい。

 

 何度だって言うが、俺は冤罪である……つまり、僕じゃないってこと。

 

「後、加えてですが、『少女』様からも書簡を預かっております」

 

「えっ、 コロンビーナから? あの子、何時来たのさ?」

 

「『散兵』様が執務室にお越しになられるよりも前です。私が暖炉の火を起こしてた最中でしたので、早朝ですね」

 

 ファトゥスで彼女へ特に何か任務が振られているのは、今まで見たことが無い。

 

 しかも、わざわざ本人がこの書簡を届けに来たというのだ。

 

 一体、何が書いてある事やら──

 

 少しばかり身構えながら開けると、その内容に思わず目を疑ってしまった。

 

『今日、来てね?』

 

 ──書かれてたのはこれだけだった。

 

 ちなみにだが、この書状は本来なら執行官が他の同僚、若しくは女皇宛に緊急の連絡をする際に使用するものである。

 

 要するに職権乱用ってこと。

 

「……これだけ?」

 

「まあ、『少女』様ですし……おそらくは『散兵』様に連絡したい旨を部下に伝えた結果でしょう。とはいえ、『少女』様本人がお越しになるとは思ってもいませんでしたが」

 

 前に聞いた話だが、コロンビーナは経費申請や、郵便物の手続きといったものにどうも疎いらしい。

 

 その例として、本人が外食する際も、だいたいはサンドローネ、若しくはアルレッキーノと共にし、経費も彼女らに合わせるそうだ。

 

「しかし、これで尚更、行かなくてはなりませんね」

 

「勘弁してくれよ……この書類の山を片付けたら、今度は極寒の訓練場だよ? ハードスケジュールにも程があるでしょ」

 

「そうは言われましても……後、『富者』様からも前の経費の申請について苦情を預かっております。もっと理由を明晰にしろとのことで」

 

 畜生、あのクソパンタローネめ……こんな時に限って、余計な仕事を増やしやがる。

 

 というか、明晰にしろってなんだよ? 生活物資の他に何の理由があるってんだよ。

 

 ちなみにその内訳はお菓子だったり、果実水といった嗜好品である。

 

『……一応、聞くけど、此処にある書類って全部、今日までに確認しなきゃいけないの?」

 

「はい。全部、本日が締め切りです」

 

「デスヨネー」

 

 やはり、救いの神はこの場にはいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵士達が拳銃を構え、射撃標的へと発砲を開始する。

 

 やはり、後ろで執行官が自分達を見ているというプレッシャーもあるのか、拳銃を握る兵士の手には僅かな震えがあったり、構えるまでにほんの少し間があったりとお世辞にも訓練成果を発揮できてるとは言い難い。

 

 しかし、此処にいる彼らは士官候補の将兵達だ。

 

 多少のトラブルがあろうと、放った銃弾は的へと飛び込んでいく。

 

 そして、少しの沈黙──やはり、彼らといえど緊張は拭えないか。

 

「まだ、撃つのを止めろとは言ってないよ?」

 

「「「「……っ、はっ!」」」」

 

 そして、再び銃声が響き渡る。

 

 各々が教本通りの構えを──否、一人だけ異なっている者がいた。

 

 拳銃を片手で低く構え、命中率より速射を重視したフォーム。

 

「そこの君、今のをもう一度やるんだ」

 

「はっ!」

 

 そう命令すると、再び同じように構え、発砲。

 

 しかし、今度は金属が不自然に噛み合う音ともに、銃口から銃弾が発射されることはなかった。

 

「なっ……」

 

 弾詰まり(ジャム)──実戦では最も起こってはならない銃のトラブルだ。

 

「どれ、貸して」

 

「は、はい……」

 

 将兵から手渡された拳銃のスライドには薬莢が挟まっており、硝煙の匂いが鼻を擽る。

 

「もしかして、街の劇場で何かそれらしい劇でも観たのかな?」

 

「そ、それは……」

 

 スライドを無理やり引くと、済んだ音と共に挟まっていた薬莢が吐き出され、そのまま積もった雪の中へと沈んでいった。

 

「街の劇場でどんな銃を使ってたのか知らないけど、これは自動拳銃だよ。反動は動作に作用するんだからちゃんと受け止めないと、だからジャムなんて起こすんだ」

 

「も、申し訳ありません……」

 

 何時の時も、戦場とは非常にシビアな場所だ。

 

 ほんの少しの虚栄心、慢心といったもので簡単に命を落とす。

 

 これはあくまで訓練だからこそ、醜態を晒すのみに留まっているが、実戦で敵は悠長に待ったりはしない。

 

「さて、君達にわざわざ説明するまでも無いけど、劇というのはあくまでフィクションだ。実用性よりも見た目を重視するのが彼らの仕事だ。でも、君達は違う」

 

 彼らはあくまで人を撃つ振り──俺達は敵を殺すために撃つ。

 

「君達の仕事はスネージナヤの──女皇の敵を撃つ事だ。カッコつけたいなら此処ではなく、劇団へ入団するんだったね」

 

 ファデュイへ入った以上、彼らが生きている内にこの舞台から降りる事は許されない。

 

 仮に彼らがファデュイを去る時は、彼らの棺桶も一緒なのだ。

 

「俺が君達に求める事は、常に正しい戦技を身に付けることだ。劇のヒーロー気取りは此処てはない他所でやることだね」

 

 そして、銃のスライドを指でなぞっていく。

 

「それに戦場じゃ、こんな彫刻は何の役にも立たないよ?」

 

 刻まれた繊細な彫刻を見るに、相当なモラが掛かってはいるのだろう。

 

 だが、実勢においてそんなものは無意味だ。

 

 もし、隠密中に暗闇で僅かな光で反射するような事があれば、それだけで自分はおろか部隊全体を危険に晒しかねない。

 

「……申し訳ありません」

 

「とまあ、ここまでは君に叱責ばかりしたけど、速射とその命中率については見事なものだね。それについては素直に称賛に値するよ。それに比べて、他の面々は撃つのが遅すぎる。敵が実戦で悠長に構えるのを待ってくれると思うのかい?」

 

「「「も、申し訳ありません!」」」

 

「とはいえ、君も要らぬ拘りがあるのは事実。君の撃ち方なら、いっそのことリボルバー式を武庫に申請してみたらどうだい? リボルバー式ならその撃ち方はかえって役に立つよ」

 

「はっ! 訓練後に打診してみます!」

 

「よろしい。なら、次に俺が見る時、おかしな真似はくれぐれもしないように……本日は解散だ」

 

「「「「はっ、ありがとうございました!!」」」」

 

 一糸乱れぬ敬礼の後、蜘蛛の子を散らすように訓練兵達が宿舎へと向かっていく。

 

 彼らの姿が見えなくなると、思わず深く溜め息を吐く

 

「お疲れ様です。『散兵』様」

 

「いや……柄でもない事をするのは疲れるね……」

 

「しかし、とても的確な助言だったと私は思います」

 

「まあ、腐っても前線上がりだからね……何かと染み付いてるのさ。……それで? 此方への列車は」

 

「今、向かっているとの事ですが、如何せんこの天候と気温ですし……多少の遅れはあるかと」

 

 まあ、極寒かつ雪が降っているとはいえ、吹雪いてないだけマシだろう。

 

 下手すれば、それだけで列車が止まる可能性もあるのだ。

 

「なら、気長に待つかね……此処から中央街までどれくらい掛かるっけ?」

 

「約一時間半はくだらないかと……」

 

 ……これ、本当に間に合うのだろうか? 

 

 サンドローネの演算なら五分前には到着すると言っていたが、その演算は誤差がありまくりではなかろうか? 

 

 そんなことを考えている内に、冷たい風と共にタイムリミットは刻々と迫っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執行官の身分の利点として、スネージナヤ国内では様々な優遇を受けることが出来る。

 

 例えば、劇を観たいとき、かのコロレヴェツキー劇団でも列を介さずに観ることが出来る。

 

 他にも外食する際もその経費を申請すれば、立て替えてくれたり。

 

 中でも列車に乗車する時、一等車両に乗るにも乗車券が要らないといった破格なものもある。

 

 とはいえ、俺が一等車に乗ったところで窓を眺めるか、そのまま寝るくらいしかする事はないのだが。

 

 しかし、殺風景な郊外から針葉樹が生い茂る森林、凍った湖、遠くに山が見える平原と景色が移り変わるのは観ていて飽きない。

 

 向かいの副官も少し気が抜けたのか、座席に背中を任せて仮眠を取っている。

 

 ……こうして思えば遠くにまで来たと思う。

 

 スネージナヤ・グラードの掃き溜めから雪原へ、そして戦場を転々として、こうして執行官として各地へと足を運ぶようになった。

 

 俺一人が生き延びて、こうして様々な景色を見ている。

 

 かつての仲間が望んでたであろう景色を望みもしなかった俺が見ているのだ。

 

 ……あの時から少しは変われているのだろうか。

 

 無論、執行官の席を与えられた以上、強さという面には相応の自信はある。

 

 だが、たとえ幾ら強くあろうと、その手からは絶えず零れ落ちていくものだ。

 

 失くしたくないものも、大切だったものも関係はない。

 

 ……いつも、そうだった。

 

 失くしたくないものが、大切だったものばかりが零れ落ちていく。

 

 いつも、俺ばかりが残る。

 

 他の面々は先に逝って、俺だけが置いていかれる。

 

 ……だから、絶対に認めてたまるものか。

 

 あんなものが皆であってたまるものか……彼らが死んだ──それは覆っちゃいけないんだ。

 

 あの時、俺は置いていかれた──だから、追いつかなきゃ。

 

 日は沈み、黒い空からは純白の結晶達ががゆっくりと降りてくる。

 

 その時、列車の汽笛が重厚な音を吐き出す。

 

 どうやら、もうすぐ街へと到着するようだ。

 

 少しばかり昔のことを思い出していたつもりが、それなりに時間が経っていたらしい。

 

「……って、ヤバい。もう時間が全然無いじゃん」

 

 サンドローネめ……何がヘマをしなければだよ、こんなの俺が全力疾走する前提じゃないか。

 

「『散兵』様、列車の係員には乗降口に事前に人払いをさせるよう言い付けております。しかし、市街の方は流石に……」

 

「いや、それで十分だ。助かるよ、ミハイル君」

 

 まさに持つべきはデキる副官といったところだろうか。

 

「いえ、私も『傀儡』様の愚痴を聞くのは控えさせて頂きたいものですから……なので、くれぐれも遅刻なさらないでくださいね?」

 

 意外と理由が切実だった……しかし、ここまでお膳立てして貰った以上、彼にこれ以上の負担を強いるわけにはいかない。

 

 此処は何としてでも、間に合わせてみせよう。

 

「勿論、執行官第六位として間に合わせるさ!」

 

「はぁ……では、お気をつけて」

 

 列車の外へ出ると、冷たい空気が肌を打つ。

 

 警備員が俺の姿を見て、直ぐ様に姿勢を正し、敬礼をする。

 

 彼らに答礼をしつつ、人で賑わう市街へと駆け出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして走っていると、昔のことを思い出す。

 

 売れ残りの固いパンを買うために、機関紙を持って街のあらゆる所へ走って向かう。

 

 気の良い中年の男がチップをくれる時もあれば、小店の店主が売れ残りの果物をくれたりもしてくれた。

 

 生活は確かに大変だ、でも、不思議と苦だと思ったことはなかった。

 

 子供の頃は少し急だった階段も全く障害にならず、何なら飛び降りるまでの余裕がある。

 

 通りで出店をやっている者達は俺がかつて、此処を走り回っていた汚い子供だったことを知らない。

 

 彼らの目に映るのは、ファデュイ執行官第六位『散兵(スカラマシュ)』としての俺。

 

 誰もが道を譲り、出店の店主は少し強張った表情で此方を見る。

 

 あの時の汚い子供は取り返しが付かない程に変わってしまった。

 

 その事実に充足を覚えるべきか、或いは寂しさを覚えるべきか──

 

 ……マズい、もう十五分しか無いじゃん。

 

 走る──雪が散り、街灯の光を受けて煌めく。

 

 後、十分。

 

 少し進んでいくと、煌びやかな装飾が特徴的な大きな建物があった。

 

 あれがサンドローネが言っていたホテルだ。

 

 後、八分。

 

 ホテルの扉を半ば押し退けるように開けると、外とは真反対の暖かい空気が肌を包む。

 

 そして、いかにも高級そうなスーツを着た若い男が恭しく一礼した。

 

「ようこそお越し下さいました、『散兵』様。他の皆様方は会場でお待ちしております」

 

 会場……? 

 

 ホテルマンの言った事が少し気掛かりではあったが、それに構わず足早に目の前の扉を開ける。

 

 残り五分──

 

「──誕生日、おめでとう!」

 

 同僚の第十一位(タルタリヤ)の声と共に、火薬の爆ぜる乾いた音が響く。

 

 煌びやかな紙片が舞い、少しの火薬の匂いが鼻を突いた。

 

「……へ? 誕生日?」

 

「前にお茶会でスカラマシュは自分の誕生日を知らないって言ってただろ? だから、俺達が代わりに決めようって話になったんだ」

 

「ちなみに発案者はサンドローネだ」

 

「ちょっと、アルレッキーノ!!」

 

 アルレッキーノのネタバレにサンドローネが憤慨するが、状況が状況もあって困惑が隠せない。

 

「フン……感謝なさい。どうせ、貴方の事だから、またなあなあにするつもりだったんだろうけど」

 

 仰る通り過ぎて、もはや言い返す余地もない。

 

「誕生日おめでとう、スカラマシュ。スカラマシュは嬉しい?」

 

「えっ? ああ……うん。色々と急すぎて理解が追い付いて無いけど……」

 

「フフッ……良かった」

 

 椅子にちょこんと座るコロンビーナが微笑む。

 

 なんか見慣れない帽子を被せられているが、サンドローネの差し金だろうか? 

 

「それにしても、ちゃんと時間通りに来たわね」

 

「時間厳守って言ったのは君じゃないか」

 

「そ、そうだけど……まあ、それに免じて貴方の格好には口を出さないであげる」

 

「サンドローネはね、スカラマシュが約束を守ってくれたのが嬉しいんだよ」

 

「コ・ロ・ン・ビ・ー・ナ……! 次に余計なことを言ってみなさい。その首をキュッとするわよ!」

 

「ハハッ、二人は相変わらずだなぁ。そうそう、折角の機会だからプレゼントも用意したんだ! 後でちゃんと確認してくれよ?」

 

「あ、ありがとう……」

 

 誕生日を祝われるというのはこういう感覚なのだろうか? 

 

 何とも言いがたいのだが……こう何処か高揚するような。

 

「スカラマシュ、誕生日おめでとう。今日ばかりはその責務を置いておき、素直に楽しむと良い」

 

「はは……ありがとうございます。とはいっても、どんな風に楽しむか分からないんですよね」

 

「それも含めて今日の機会に学ぶと良い。そうすれば、前にタルタリヤが話していた事の喜びが理解できるだろう」

 

「そうですかね……?」

 

 少し意外だった、あのカピターノがこうした事に協力するとは。

 

「スカラマシュ、誕生日おめでとう。急とはいえ、本日はこのホテルを貸し切っておいた。是非とも有意義な時間を過ごしてくれ」

 

「はは……なんかわざわざ悪いね?」

 

「あのサンドローネが誰かのために動くというのはそうそう無いことだ。だが、その理由が君であるならば、何処か納得がいくからね。僅かながら助力させて貰った」

 

 僅かの助力でホテルを貸し切ってしまうアルレッキーノさん、マジパネェっす。

 

「それに『壁炉の家』としても子供達に素敵な贈り物をしてくれた同胞に報いたいというのもあってね」

 

「そういえば、そんなこともあったね」

 

「是非、またフォンテーヌに足を運んで欲しい。子供達も楽しみにしているからね」

 

 なら、今度はもっと良いお土産を見つけなくてはならないな。

 

 また、フリーナ殿を訪ねて……いや、今はもうフォンテーヌの一般市民だったか。

 

 ファデュイからの依頼……いや、彼女のトラウマもあるし、難しいだろうか。

 

 そんなことを考えていると、タルタリヤが口を開いた。

 

「さて、ようやく主役(スカラマシュ)が来たんだ。蝋燭を用意しないと!」

 

 タルタリヤがそう言うと、先程のホテルマンが台車を運んでくる。

 

 その上には白いケーキと、火が着いた蝋燭が幾本か刺さっていた。

 

「さっ、蝋燭に息を吹き掛けて」

 

 ──ほんと、遠くにまで来たと思う。

 

 あの掃き溜めでは、こんな事は一度として無かった。

 

 きっと、あそこから一歩踏み出さなければ、こんな経験をする事は無かったのかもしれない。

 

 今の俺は恵まれてる──それはきっと間違いない。

 

 ……ごめん、今ばかりは、この時は自分の為に時間を使うことを許して欲しい。

 

 そんな少しの罪悪感を脳の片隅へ追いやり、ゆらゆらと火が揺れる蝋燭へ息を吹き掛けた。






命の星座……???座 (この者の星座は影に侵食されている)

誕生日……3月30日

所属……ファデュイ
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