ハードな国に転生したけどカッコ良く生き(り)たい 作:王の物置
誤字報告してくださっている方々本当にありがとうございます!
「……」
全身に鈍い痛みが残っている。
筋肉の奥にじわじわと広がるような、不快な重さ…何をしていたんだったか…
かけられていた布団を勢いよく蹴り飛ばす。不機嫌さを隠す気もなく、周囲を睨みつけた。
――人の気配はない。
清潔に保たれた、妙に広い部屋だけが広がっている。病室にしては随分と煌びやかで、豪華であった。
ファミレスでしか見ない明るい色の天井、美術品のような装飾が施されている室内…とても見知った病院とは言えない…
確か俺は…気がついたら見知らぬ場所にいて……
「おはよう。不機嫌そうだね」
誰一人いないと思っていた病室、声が聞こえた方に目をやれば、リンゴでウサギを作って皿に並べている赤髪の男の姿が目に入る。
男はその様子を何事も無いかのように切り分けて、皿に乗せ……それを自身に手渡した。見ず知らずの人間にリンゴを差し出す不気味な奴だ…
「アンタは――」
その心配しているような、ヘラヘラしているような男。コチラに…心配そうに駆け寄ってきた赤髪の男……確か俺は……
柔道終わり、いつものように水を待っていた時だ。
目眩がしたかと思えば気がつけば見知らぬ人間が目の前に立っていた、全く見たことのない場所に来ていた…
そしてそれと同時に突如として重力から解放されたように身体が軽くなり、全能感に満ち溢れたと言ってもいいほどに何でもできるような感覚襲われた。
そして自分をジロジロと睨む塵共にその力をぶつけようとした瞬間……浮遊感…そして視界が高速で移動し、全身を打ち付けたような衝撃が走った。
意識を失う直前に見た、光景……他の奴らとは違い……一切の驚きを見せず心配そうに駆け寄ってきた赤髪の…男。
「テメェ!」
怒りに呼応するように、力が身体から溢れ出す。ついさっきは試せなかったこの力……さっきとは違う、目と鼻の先にいるのなら上手くいく。
勢いよく地を蹴れば、今まで感じたことのない速度で…全身で風を切りながら前へと進む。この速度に相手は構えすらとれていない。圧倒的な速度から放たれる蹴りは一切揺れることなく、狙った場所へと吸い込まれるようにスムーズに入っていく。
今までにない感覚、新たな体験。つい笑いがこぼれる――「お前バカヤロッ!」
勢いよく、全身全霊で、蹴りを入れようとした瞬間。足場が上がった…
背中に奔る鈍い痛み…口から空気が抜ける感覚…地面に打ち付けられたような衝撃が背中を襲う。
しかし目の前にあるのは地面。地面に打ち付けられて再び口から空気が抜ける……勢いよく天井にぶつかったのだと、この時ようやく理解した。
「ッ!やっべ……また加減間違えた、おい返事しろ!目を閉じるな!」
それがショウゴが意識を手放す前に聞いた最後の言葉であった……。
「チョッ、だ…だれかー!」
■
異世界人ショウゴ…強力なユニークスキル乱暴者を持ち、その身体能力で召喚直後に大量の殺人を行った男。
そんな惨劇を起こさないために対策を考えていたある日、俺は一つの策を思い付いた。
その作戦とは前世で少し流行った室内エアグライダーの要領で風をぶつけて浮かし、凶暴強力なショウゴを何もできない状態にするという策。
踏ん張りが効く人間でも掴むところが何もない状況で身体を浮かすほどの風が吹き上げればどれだけ身体能力が高くても空を飛べない限り無効にできると踏んだのだ…
名付けて"空に浮かして何もできなくさせよう大作戦"。
正直完璧すぎる作戦だと思った。
風魔法で飛んだり、宙を歩いたりはいつもしているし慣れたもので、お茶の子さいさいだと思っていた……しかし、こういうものはやってみて初めて欠陥に気がつくというものだ。
召喚されたショウゴらしき日本人。暴れそうな気配があったので当初通り作戦を決行した……。
ショウゴは浮く…というより勢いよく発射され、天井に埋まるのかという勢いで大激突。周りはビビるわ、天井にヒビ入るわ、ショウゴは白目剥いて泡吹いてるわ……大惨事である。
幸いすぐにラーゼンが駆けつけたので事態の収拾は早かったが、慌てて治癒魔法をかけたにも関わらずショウゴは起きずにぐったりしていたのだ……正直殺したかと思った。
自分に使うのと人に使うのとは勝手が違った……元々急上昇させるつもりだったとはいえ、まさか勢いのまま天井にまでブチ上がるとは思っていなかったのだ。
「いってぇ…」
そんな事を考えていると、ショウゴがどうやら目覚めたようだ。ムクリと身体を起こして周りをキョロキョロと確認している…
「大丈夫?ごめんね。痛いところとかない?」
ショウゴは状況がよく分かっていないのか目をパチクリしながらキョロキョロと辺りを見渡している。
どうしたのだろうか…まさか…記憶喪失?!そんなに威力が強かっただろうか……?
そんな心配をしてオロオロしていれば、こちらを目線で殺さんとばかりに睨みつけてくる。うん、記憶喪失ではなさそうで一安心だ…そんな事になっていたら俺は罪悪感でおかしくなっている事だろう。
「俺の名前はエドルス。君は?」
「あ?お前に教える名前なんてねぇよ」
「じゃあウニね。よろしくウニ!…なんか語尾みたいじゃない?よろしくウニよ〜」
「……」
スキンシップとして馴れ馴れしく肩を組めば、今にも殴りかかってきそうな雰囲気を醸し出すウニ頭…殴りかかっても勝てないと分かっているのかコチラを睨みつけるのみだ。
そんなに怒るなら最初から名前を名乗ればいいのに…。
「俺はエドルス。君は?ウニ頭くん」
「チッ、省吾…」
今度は笑顔で語りかければ、ウニ頭は怒りを抑えられないと言ったふうに身体を震わせる……いつでも襲いかかれるとでも言いたげだ。
しかし何も怖くない――なぜなら勝てるから!
前世の俺ならニコニコしながらYESマンになるのが精一杯であったであろう人種に余裕のナメてる受け答えが出来る…これが力か、力に溺れるというのはこういう事を指すのか。
「よろしく、ショウゴ君。これから忙しくなるし…色々不満に思うことも出てくるだろうけど、困ったことがあるならいつでも言ってね。恋愛の相談から喧嘩でストレス発散まで…なんでも出来ることなら手伝うよ」
「……」
歯を噛み締め、目筋が鋭くなっているショウゴの顔を改めて見て思う…この世界、顔面偏差値高いよな。もしかして異世界人って…イケメンじゃないとなれない領域なのか?
「…あーごめんごめん。喧嘩してもストレス溜まるだけかw」
「ッ…!」
殴りかかってくるが魔法で華麗に防御、ショウゴが何度殴ろうとピシピシなるだけで傷一つつきやしない。魔術師は近距離戦が不利だと言うがステータスが高いだけのレベル1の戦士に負けるわけがないのだ!
「あ、やるなら1日1回ね?勝敗は目に見えてるし、最初から勝つことが決まってる勝負なんて何回もしたくないからネ!」
「男なら正々堂々と戦いやがれ!」
ガハハ!何を言われようと何も痛くない。なぜなら俺のほうが強いから!何を言われても負け犬の遠吠えに脳内変換できてしまう…。
それに闇雲に煽っているわけではないのでな…これも全てショウゴに一つの目標を持たせるためだ…人っていうのは明確な目標があれば良くも悪くも真っ直ぐに突き進む。
ショウゴはまだ来たばかり…喧嘩っ早いだけの子供だ。こういう奴は諭されるより、焚き付けた方が良い方向に進むかもしれない。
決して趣味とか私怨とかそういうものは一切介入していない、全ては未来を変えるためにやっていることなのだ…!
「セーブ中です…しばらくお待ちください……」「ぜってぇ殺す!」
趣味とかでは決してない!そう、決して!
ショウゴについて
原作では召喚当日にその場にいた魔術師30人をぶっ殺したらしく、本当に日本から来たのか疑いたくなるような事をしている異世界適正◯の男。転スラ日記曰くモットーは早寝早起き。
リムルの大賢者とかはリムルの心の声を色々と曲解して出来上がっているが、コイツの乱暴者とかのスキルは自前の強くなって弱い奴を罵りたいとかの真っ当に過激な思いから来ていると個人的には考えている。