ハードな国に転生したけどカッコ良く生き(り)たい 作:王の物置
『貴方から連絡をよこすとは…余程の急用なのでしょうね?』
「…はい、少しご報告をと…」
自室にて、俺はクレイマンに水晶越しで頭を下げていた。クレイマンは内心どうあれ急な予定にもにこやか対応してくれる…俺は絶対顔に出るのでクレイマンのそういうところは見習いたい。
「単刀直入に言います。私はヴェルドラが消失する夢を見ました」
俺の発言にクレイマンは少し動きを止めてコチラに視線を向ける…流石のクレイマンもヴェルドラが消えるともなれば驚くか。
『…続けてください』
俺がクレイマンに連絡を入れる理由は一つ…信頼をより強固にするためだ。
ショウゴが来てからしばらく経った…具体的にはいつになるか分からないが近いうちにヴェルドラが消える。
どうせ伝えたところで大して動きを変えないであろうことを予想しての連絡なのだが……
「私は…ヴェルドラが消える夢を見ました…本当にそれだけです。それだけの内容を見ました。噂程度にでも頭の隅に入れてくれればと思いまして報告した次第です」
『成程、かの暴風竜が……にわかには信じられませんね。消滅にはもう百年ほどかかると予想していたのですが…』
クレイマンは顎に手を当て、表情を変えずに思案する。
クレイマンの考えは読めてる。消えると仮定した時、ユウキの計画に狂いが生じる…しかしにわかには信じがたい。
なので間違いなくクレイマンが動くのはヴェルドラが消えてからだ、消えてから初めて俺の報告を信用する。
そして俺を魔王誕生のために派遣する……重要なことを報告したという実績がある手前、クレイマンにとって…ユウキにとって俺はある程度の信頼に値する人物になれるはずだ。
しかしまだ足りない。価値があるというのは有用性以外に、貴重性というものが大切だ。
「クレイマン様、もう一つ。お伝えしたいことが……」
『ふむ、言いなさい』
「ありがとうございます。決してクレイマン様に隠すつもりでは無かったのですが……実はわたくし、異世界人……転生者というものなのです」
クレイマンは表情を崩さない。話を聞いていないかのように平然としている。
……予想通りの反応だ。俺は知っている前提で話を振った。マリアベルだけじゃなく、キララにもショウゴにも知れ渡っている事実。
ラプラス達が聞いていないのはあり得ない。アイツらは必ずどこかに存在している…そんな負の信頼からくる確信だ。
クレイマンにユウキの脳内では既に結論が出来上がっているはずだ。俺の人柄を把握したうえで、そういう未来を覗き見るスキルを転生時に獲得したのだろう、と考えているはずだ。
「わたくしのエクストラスキル、予知夢の力によって、近年起こりうる記憶に残る出来事を少しだけ体験することが出来るのです」
クレイマンは俺の発言を聞いて、『やはりか』とでも言いたげに少し口角を上げた……そしてすぐに表情を戻す。
『……何故今、その話をしたのか……隠すつもりはないと騙っておきながら、何故今ようやく私に言うのか……話の流れに違和感を覚えます』
「申し訳ありません。それは私のエクストラスキルは非常に不安定な能力だからです。自分が行動を起こした結果の未来なのか、ただ起こりうる未来なのか…それすら分からないので可能な限り行動を起こすのは避けるべきと…」
俺の発言を聞くと、クレイマンはギロリとこちらを睨む…流石に言い訳としては苦しかった。
『………そういう事にしておきます。スキルの有用性はもうしばらくすれば分かる事でしょう……』
焦りすぎたな、もう少しそれらしい話を考えていれば良かった。予想外の事に対応できないのは悪い癖だな。
「私からは以上です。……クレイマン様の計画に微力ながら協力させていただければと思います」
『えぇ、期待していますよ』
クレイマンが水晶から消えるのを見送る…社会人の基本は上のものが電話を切るまで待つ…だったよな、いやかける方が切るんだったかな?
……原作が始まれば、更に俺の行動一つでも大きな問題になる可能性がある。クロエがリムルに駄々をごねた結果ヒナタに当たるようになったように。
より一層よく考えて行動しなければな…
■
温かい日差し、雲一つない美しい青空、打ち上がるショウゴ、砂埃を立てない気持ちの良い風…こういう日はピクニックにでも行きたい。
「平和だね〜」
「ウチには変なのが見えるんですけど?」
俺の言葉に対してキララが空を見上げ半笑いで呟き…太陽を直接見ないようにね〜なんて注意しながら俺はお茶を飲む…うーん……平和な1日だな!
…キララと会ってはや5ヶ月と言ったところ…キララはこの世界の言葉を覚え、色々とやらされているらしい。
色々が具体的に何を指すかはイマイチ把握できてないのだが…
「キララその、最近どう?別に同じ部屋ってわけじゃないけど…ショウゴと関わることもあるだろ?仲良くできてる?その、ほら……ショウゴって結構荒っぽいしさ」
「別に。あの汗臭ウニ頭と関わることなんてほとんどないし」
「……そっか」
彼女の返答に思わず苦笑いが溢れる。キララはなんだか無関心というか…俺含めた現代人の特性をバッチリ持っている。
興味が無い事はどうでもいい。限られた時間と体力を使ってまで、新しいことと向き合いたくないといった様子。
…悪いことではないのだが……なんというかすごく心配だ。
原作とは違う道に行かせるためにも…なんとかしてキララをいい方向に向かわせたい。
「ほんっと暑苦しいって感じ。汗臭いし、ウザいし、無駄に話しかけてきてくるし」
キララはショウゴを毛嫌いしている節がある。性格が合わないのだろうか。
しかしキララはショウゴを嫌ってるというか苦手なものを遠ざけるような傾向にあるように感じる…
ああいう体育会系と仲良くなるのには時間が必要なのか?いやまぁキララが毛嫌いする気持ちも分かる、微妙に鬱陶しいんだよなアイツ。めっちゃトゲある言い方するくせにすぐ会話打ち切ったら『もう少し会話広げようぜ…』とか言ってくる…面倒くさい彼女かな?
普通に人殺しできるメンタルしてるし、なんか最近はスキル使ってばっかでは勝てないと踏んだのか空手の練習らしきことをして鍛えてたし…
原作だと弱い者いじめするだけのカス。くらいのイメージしかなかったがあれはファルムスにいて性根が腐り果てた先にあった姿なのだろうな。
「キララはなんでショウゴが嫌いなの?」
「嫌いってわけじゃないし。ただ……あんま好きじゃないだけ。ウザいし、熱血馬鹿だし……アイツばっか持て囃されてさ、ウチは用済みですかっての!」
声に少しずつ怒りの感情が含まれるのを感じる、日々のストレスが溜まりに溜まっているようだ。
…にしても、アイツだけ持て囃されてる?別にそんなことはないはずなのだが……隣の芝生が青く見える…というやつだろうか。
まぁキララも年頃の子、ショウゴの分かりやすい力と比べてしまって嫉妬心のような……嫌な感情が湧き上がってしまっているのかもしれないな。
「……」
俺は何も言えなかった。
生半可な言葉はキララを傷つけるだけだと感じた、言葉をひねりだそうと考えたが…俺には生半可な言葉しか思いつけなかった。
キララはそんな俺の様子を見てか、会話を中断するように『あーもう』と首を横に振る。
「てかアレ、大丈夫なの?顔青いんですけど」
「えっ?」
キララが指差すのは空。そこには胴上げでもされてるみたいに一定高度で上にふっ飛ばされていたショウゴがいた。
「…なんかダランとしてない?」
「うん」
ソーッと、ゆっくりと高度を下げてショウゴを地面に下ろす。明らかに血色が悪い、白い…を越して本当に青くなってる。
「ホントごめん、大丈夫かショウゴ?」
「……触んな…」
声をかけても覇気のない言葉しか返ってこない、目も虚ろな気がする。思い切り意識があるかと揺らしてみても、反応が薄い……どころかどんどん反応が弱くなってきている。
「ショウゴ!ショウゴ?!聞こえるか?」「ちょ、やめてあげなよ」
「さんなっ……ウッ」
ショウゴは限界だと言わなくても分かるようにふらふらと壁の方に向かって行って――
「ぅ、ぅオェッ…!」
―そのまま吐いたッ!
「うっわ、きたな…」
「ご、ごめんショウゴォッ!人呼んでくるッ!」
一回戻しても吐き気を催すのか、何度も空嘔吐をするショウゴを尻目にラーゼンさんを大声で呼びに行った。
■
嘔吐事件があって数日後、外の庭で座り込んでいるショウゴを発見した…!流石にアレの影響がのこっている…ということはないだろうが何か悩んでいるのは間違いなかった。
「おっ、ショウゴ。どうしたの難しい顔して。らしくないね」
「……んだよ、いつも通りだよ。テメーには関係ねぇだろ」
偶然を装い後ろからスッと声をかける、後ろ姿でわかるくらいに何か考え事をしているショウゴ……相談に乗ってあげようと声をかけたのにこの態度、何か隠したいことがあるらしい。
ショウゴの…隠したいこと…?恋愛相談か?いや、ショウゴはそんなので悩むタイプじゃないよな。
となると――「キララと喧嘩したのか?大丈夫だ、回りくどいことをせずども…ちゃんと謝れば「ちげぇわ、テメーは俺の母ちゃんかよ」……ふむ、どうやら違うらしい。そうすると本当に分からないな。
ショウゴが悩むことって何かあるか?…わからないが……凄く気になるな。
「なぁショウゴ、何悩んでるか分からないけど……俺でよければ話聞くよ?」
「テメェに聞いたら意味ねーんだよな…」
俺に聞いたら意味がない…?つまりは俺以外だったら意味が有る? ……やっぱりキララの事か!?ショウゴはキララと喧嘩して仲直りしたいけどどうすればわからないって事なのか!
「…やっぱりキララと喧嘩したんだろ?キララは鋭いからな…俺の入れ知恵だと思われたくないんだろ?大丈夫だよ、キララはそんな事で怒るような「ちげぇつってんだろ話聞いてたか?」ほえ?」
ショウゴは溜め息をつく。なんだか俺との間に大きな壁ができたかのように距離が遠くなった気がする。
物の言い方がキツイ、まぁキツイのはいつものことか…!
「はぁ……鬱陶しいからさっさとどっかいけよ…」
マジトーンでチクチク言葉やめてね、傷ついちゃうから。
「まぁそう言うならそうさせてもらいますケドぉー。我流って大して強くなれないよ?じゃ、そういう事でー」
「おいコラ待てや」
去ろうとしたがショウゴの罵倒で足を止める…ハッハッハッ!ようやく話す気になりましたか省吾クン。
なんか青筋立ててる気がするけど気のせいだろう。すごく良い笑顔をしているからね…目を押さえたくなるほどまばゆい笑顔を浮かべている少年が怒っているのだとしたら相当な役者か意味もなく笑ってるやつだろう。
「オメー分かってんだろ?」
「?」
ショウゴの含みを持たせた言葉に……俺は首を傾げる。何か心当たりがあっただろうか?
ポンと手を打つ。そうだった、こいつは早く仲直りしたいけどどうすればいいかわかんないんだ……! ニヤニヤと笑う……が、そんな俺をショウゴは心底面倒くさそうに見つめる。なんだその表情は……!
ま、まさかそんなに俺に頼るのが億劫なのか…?大丈夫だぞ、俺はショウゴの味方だからな!
前世でもキラキラした青春を過ごしていない俺だが力になってみせるさ!
「…フッ、キララの事――ちょ、痛いです。冗談ですやん!組まないで!腕取れる!取れるから!」
腕に激痛走る、ショウゴに華麗に立ちバージョン十字固め?を決められる。腕が逆に曲がりそうだ!格闘技とかよく知らんけど関節技が痛いのはわかった…!
ショウゴは軽く?やるとすぐに技を解いてくれる、腕全体がピリピリと痛む…がその程度で済んだ。ショウゴの優しいところが垣間見えた気がするな…
「ショウゴもやろうと思えばスキルでも使えたでしょ?それなのに使わなかったなんて……!大きくなったなショウゴ!」
「うっせぇなマジで、白々しすぎんだよ。スキル使う気ならお前いつもの使ってただろ」
「……どうかな、至近距離だったし分かんないよ?」
俺は腕を軽く振りながら言う。……いや、マジで痛いなこれ。まだ腕がジンジンしてるよ。今度から問答無用でしばいてから話ふろうかな……
「フンッ、どうだかよ。それで…テメーはわかってんだろ?」
「いや全く、心当たりがない」「は?」「え?」「は?」「え?」
ショウゴが『コイツマジかよ』って目で見てくる……いや、マジで心当たりが無いんだけど。なんだろうか?
生憎俺は察しの良い人間ではないので許してほしい。知能高い枠ではないし、察しのスキルをゲットするには努力値が足りない。
「で?なんなの?」
「……はぁ、お前さぁ…」
ショウゴが頭に手を当てる。俺はしばらく何を言われているか理解が追いつかず、ポカン顔になっていたと思う。
ショウゴは天井を仰いだ。こんなヤツに…とでも言っているように……しばらくしてから、ショウゴは気まずそうに視線をどこか遠くに向けてから語りだす。
「……そのよ…アレだよ。さっきの……話の、やつだよ。その、強くなれる方法ってヤツだ…」
悩みがアスリートか戦国の世の人かのどちらかでしか聞いたことのないものだった…そんなしおらしく言っても悩みが全然物騒すぎて相殺できてないよ。
「…うーん、強くなれる方法か……ショウゴはなんというか…スキルに頼り過ぎ、なのかな…?なんか…こう、動きが真っ直ぐというか……分かりやすいというか、…すごく、綺麗で見やすいというか…スキルで突っ込んでくる前も綺麗だし…使ったあとも真っ直ぐで見やすい…?みたいな?」
俺のたどたどしいアドバイスを聞いたショウゴはどこか納得のいかないような顔をする。
ショウゴは俺の魔法に対する対抗策を有していないので、それを身につけるだけでもだいぶ変わると思うが……正直観察眼に優れているわけではないのでそういうの聞くのは、フォルゲンとかの方が良かったかもしれないな。
「……頼りすぎ、ね。そうかよ…」
「うん、是非魔法とか覚えてみない?結構基礎って役に立つよ。基礎だけでもどう?」
「…基礎ねぇ」
ショウゴは俺の言葉を繰り返しながら、ボーッと何か考え事をしている…やはりショウゴも魔法に思う事はあったのだろう。
「…そうかよ。じゃ戻るわ」
ショウゴは何か答えでも見つけたのか立ち上がって、この場を去ろうとする。
「ショウゴはさ、なんで強くなりたいの?」
「……あ?俺が……?」
俺は少し気になったから尋ねていた。ショウゴが何を思って強くなりたいと思っているのか、その強さを求めた先に何を見ているのか……とても気になってしまったのだ。
ショウゴは当たり前の事を言うようにケロッとした様子で言った。
「そりゃつえー方がカッコ良いだろ」
「え?戦闘民族?」
「まぁよ、つえーってのは…憧れる…だろ?」
こいつ駄目だ…早くなんとかしないと…コイツ本当に現代人か?俺の困惑したままショウゴの去っていく背中を見つめる。
「強くなる方法ねぇ……」
よく考えたら、俺も魔法を始めた動機はカッコ良いからだし同類か。やはり男の子はロマンに惹かれてしまうものなんですよな。
しかし…ショウゴが魔法を覚えたら…厄介だろうなぁー。対抗策とも呼べないショボいものを用意されるだけでもショウゴはスペックが高すぎてなぁ……
「あ、そうだ。俺も強くならなきゃ」
俺は今のままではダメだと悟った。ショウゴのあの強さを毎日目にして、俺は思ったのだ……このままじゃいけないって。
アレだけ煽ってたショウゴに負けたら…なんて言われるか分かったもんじゃない!
今からでも出力上げに────「オイッ!」
───ショウゴが戻ってきた…今話してたこと聞かれたか…?ヤバい、思ったよりも俺がピンチだということをショウゴにバレたら…!更に心理的優位が減ってしまうッ!
「な、なに?どうしたの?」
ショウゴは何か言おうとして口ごもり、また何か言おうとするのを繰り返している。そして意を決したように口を開いた。
「あー、その……ありがとよ」
礼を言われた。誰に…?ショウゴに。
「フッ、フフッ…!」
ショウゴがわざわざ戻ってきた理由を脳が理解した瞬間、不思議と笑いがこみ上げてくる。
「チッ…なんだよ……」
「いーやなんでもないよ、は、ハハハッ…!」
堪らえようとしても笑いがもれる。あの無愛想なショウゴがお礼を言った。それだけでなぜかすごく笑える…すごく感じが悪いやつなのは自覚しているけど…笑いが止められないものは止められないのだ。
「…そんなにおかしいかよ。やっぱテメーなんかに相談するんじゃなかったぜ…」
「ショウゴ!」
ショウゴは不貞腐れたようにその場を離れようとするので一旦呼び止める。ショウゴは振り返らずに背中を向けたままだ。
「どういたしまして…!」
「……フンッ」
それだけ言って今度こそ去っていく。わざわざお礼を言いに戻ってくるとか、やはりショウゴは柔道やってただけあって礼儀は正しいらしかった。