ハードな国に転生したけどカッコ良く生き(り)たい 作:王の物置
〇〇のほうがいいとかあったら…えて…教えて…
「……なんか、更に大きくなった?」
あれから数時間。
名付ける前ですら見上げるほどだったというのに、今では首が痛くなるほど見上げなければ目も合わない…こっち目線ほぼ壁である。
どうしてこうなった?ただでさえ大柄だったのに、これでは
「コレが、オークロードってやつですか?」
「………」
ラプラスの反応を見るように目をやるがラプラスは押し黙ったままボーッと立っている…オレの横顔をちらりと見たラプラスの仮面の奥の瞳は、じっとオレの心を見抜いていたような気がした。
……なんだよ怖いなもう!こういう時に戯けれるのが道化ってものじゃないのか?絶対フットマンとかなら不気味ながらもオーバーリアクションしてたよ?ラプラス、お前中庸道化連降りろ。
「ゲルド…!俺の事わかるか?」
「勿論です、エドルス様」
その受け答えはハキハキとしていて…生気が感じられる…良かった。この世界に意識が曖昧になるオークはいなかったんだ。
「………無事成功して良かったわー!良い報告ができそうやな」
ラプラスはようやく口を開いたかと思えば当たり障りのない事を言う…まぁいつものことではあるがいつにもまして何を考えているのか分からんやつである……
「そうですね、上手く行って良かったです」
…ゲルドの方に視線を向けると、ゲルドは前と同じように、片膝をつくが…今回はそれをしても若干見上げないといけないくらいにはデカい。遠くから見れば子供に視線を合わせる親である。
「私は命を、力を得ることができました。このご恩、必ずやお返しします」
「そんな重く考えないでくれよマジで。別にコッチは利用するだけだし…尽くすだとか考えなくて良いよ…」
あーヤダヤダと言いながら場を和ませるが、ゲルドはもう1段深く頭を下げ、目線をさらに合わせてくる……気恥ずかしいからやめてほしいな。頭を上げてほしいとアワアワしてみても一向に上げる気配がない。何という頑固者だろうか。
「命を救われたのなら尽くすのは当然です」
「…そっか」
それじゃあ日本国民全員助産師に尽くす羽目になるだろって内心ツッコミを入れつつ、ゲルドの主張に頭を抱える。
全く、意志が強いと言えば聞こえは良いが…――まぁいいか、こういう人は一人二人言った所で変わるようなタイプじゃない。
……今できることはコレだけだろうし、これ以上留まっても時間の無駄だ…そろそろお暇するかな。
「ラプラスさん、俺からは以上ですけど…良いですか?」
「そかそか、ならもう戻りましょかー」
おっと予想外の返答……ここから離れる気満々だったが、まさか了承されるとは思っえいなかった。てっきりまた何かしら言われるものだと思っていたのだが。
―改めてゲルドを見上げる。こう改めてみるとデカいな……マジで小型巨人と言いたくなるようなデカさだ…単純な身長と、筋肉のある体格から醸し出される圧は尋常じゃない。
「…ゲルドに……周りを助けるのもいいけど…とりあえず、今は生きることだけ考えてくれよ…もう行っていいよ」
ゲルドは静かに立ち上がる…俺もゲルドとシンクロするように背を向ける…
「ゲルド」
ゲルドは素早くコチラへと振り返る…そんなに姿勢を正すようなまねしなくても…むず痒いなもう!
「何かあったら、また会いに行くから…!」
ゲルドは俺の言葉に頷くと、今度こそ背中を向けて歩き出した。
名付けしてすぐほったらかしにするのは申し訳ないと思うけど…まぁゲルドなら問題ないだろう。
「良かった良かった。流石エドルスサマやでークレイマンのやっちゃに言われたとおりにできたなー」
ゲルドとの会話を打ち切ってしばらくしてから、ラプラスはヘラヘラと笑って話を振ってくる。事実を述べるだけなら誰でもできる…道化は道化らしくこの陰鬱な空気から笑いの一つでもとってみろよ…
「…そうですね。それじゃあ、行きましょうか…クレイマン様の下へ…」「あいあい…そう急かさんといてな。」
ゲルドが見えなくるほど遠くへと行くのを見届けてから、ラプラスと共にこの荒野をあとにした。
■
「報告は聞きました。無事にオークへの名付けは終了したようで何よりです」
ラプラスに案内されるまま重厚な扉を潜ると、あの荒野と対極にあるような…カーペットから、細部の小道具まで調律を保っている美しい部屋が広がっていた。
クレイマンの視線に促されるままに「失礼します」とだけ言って、重い足取りで椅子に背を預けずにソファへと腰を下ろす。柔らかいソファはオレを持ち上げるように反発するが、今のカチコチな身体と相まって、少し気持ち悪かった。
クレイマンはいつも通り真っ白な衣装に身をつつみ、一人紅茶を嗜んでいる……クレイマンの所作は、やはり優雅というやつで、見え張りと言うのかもしれないが…その几帳面な生活が見て取れる。
…荒々しい見た目に反して深い落ち着きを持つギィや、優雅に現世を満喫するルミナス。そして裏で陰謀を巡らせるまさに悪役といった風貌のクレイマン。
イメージする魔王というとやはりこの三人が俺のなかではそれらしい…2人にクレイマンを引き合いに出すなど、2人に聞かれれば怒りを通り越して呆れられるだろうな。
「実に見事な手際でしたよ、その身に秘めた素質……実に素晴らしい。これで計画は大きく前進します、その働きに見合った報酬を与えたいと考えています」
「…ありがとうございます」
クレイマンは優雅にティーカップを傾け、その細い目でこちらを試すように見つめている。
「しかし報酬……ですか」
報酬か。まず今は『何もない』はあり得ない。変なことを言えば更に立場が危うくなる。かといってメジャーな者で行くのも難しい…金、は必要ないし…力…?はクレイマンに頼るようなものでもない。
ゲルドが魔王になったとき優先的に……ってのも過去クレイマンがそういう話をしていたよな。過去持ち出した話を今もう一度確認というのは…遂行力を…信頼性を疑うことにほかならないのだから選択肢にはいらない。
今反感を買うような真似は絶対に避けなければならない。…理想は俺個人として求めるもので、クレイマンが妥協できるような内容で、俺側の利益が分かりづらく、相手側の不利益が分かりやすいもの……
「…―クレイマン様の領を自由に行き来する権利を頂きたいです」
「ほう? なぜそのようなものを……? いえ、その程度の願いであれば容易いことですが」
クレイマンからしてみればこの願いはパッと聞いた感じ意味のわからない話だ。俺が浅く思考して考えたのだからクレイマンの深読みが通用するはずがない。
「実は最近貴族間でのいざこざが増えてきておりまして…どこかの影響なのか王族そのものに対する疑念の声も増えてきているように感じているので、自由に出入りできる程度の安全な場がほしいと考えており今回の内容に至りました」
…要求そのものには大した意味はないが、ウチが変な気配を感じているのは事実だ。
実際にマリアベルのせいなのか多少王族への当たりが強くなってきているのを感じる。ラーゼンやフォルゲン含む騎士団が王族側なので暗殺…だとかはまだ起こらないだろうがな。
「成程、人間の国というのは些かしがらみが多いようですね。」
「――良いでしょう、私が治める地上全ての領へと自由に踏み入れられる許可を与えます。部下達には私から直接伝えておきましょう」
クレイマンもやはりこの内容なら納得する。ロッゾ家の脅威についてはユウキや…それこそ古参であったカザリームから聞いているだろうし、ある程度筋の通った内容であるはずだ。
「ありがとうございます」
まずは無事に1つ目の話題を終えられた…気が緩むような状況ではないが…椅子に座り直す。
「それで……一つ…私からご提案が。」
「ラプラスから話があると聞いていますよ。それで?提案というのは?」
ようやく本題にはいれる。
クレイマンはニッコリと微笑んでカップを手に取る、俺も真似るようにニッコリとスマイルを浮かべて同じように茶の入ったカップを手に取る。
…下手な発言をすれば命の危険があるのは未来視がなくともよく分かる。
「はい、私が今回提案させていただくのはオークロードに対する今後の方針についてです」
「ほう?続けて」
「――多く名付けをしており、それを喰らうことでジュラの大森林を統べる新たな魔王を生み出すという事ですが…それでは魔王へと至った際に力を蓄えすぎて、反逆を起こす可能性があると…私はそう考えています」
俺が話したいのはゲルドのことについてだ。リムルとの戦いの中、少しでも犠牲を減らせればそれが一番…「この私がオーク風情に敗走すると?」
「いえ!そういうわけではございません!」
舌打ちしたくなるのを抑えて…変わった空気をもとに戻すため、急いで訂正して話を戻す。
発言を間違えたらしい、体温が上がり、周りが寒くなっているように感じる…反省だな…魔王の覇気を目の前で浴びるというのはなんとも心臓に悪い。
「ココで一つ。オークの飢えに苦しんでいる民の一部を……オークロードの幹部になるに相応しい十数名程度でも構わないので食料を分配し、恩義を売った後、現在の侵攻計画を更に細かく分けるようにしてゆっくりと侵攻を進めてみてはいかがでしょうか?」
クレイマンの顔色を確認すると、再び思考するターンに入ったらしい…怒りのままに惨殺されることを回避できたようで何よりだ。
「当然長引く分出費は重なるでしょうが。少数に配るだけなので他の魔王には悟られずに、オークロードに対し行動次第で支援するという意思表明をできるので、ある程度の抑止にはなるのではと考えています」
「……それが有事の際の枷になるとは思いませんが。それにより多くの魔王に計画が露呈するリスクもあります」
…確かに、言われてみればそうだ。最初はまだしも国として定着したのなら支援が枷のレベルになるとは思えない…やはり自分の頭を使うような話は駄目だな。
「確かにそうであるかもしれません。しかしやっておけば、後々魔王へと至った際に協力関係を築きやすいのも事実のはず…」
俺の一言にクレイマンは顎に手を当て、あからさまに考えるような仕草をとる。
「抑止などどうでもいいですが…提案自体は悪くありません。優秀なスペアを生かすことも、オークを我が軍へと引き入れることも容易になるでしょうし……良いでしょう。その提案を受け入れて差し上げましょう」
クレイマンの言葉に、胸の内で小さく息を吐き出す。
…一応クレイマンからの言質は取った。クレイマンが実践してくれるかどうかは置いておいて、前向きな返答をしてくれただけでも中々の収穫ではないだろうか…どうなるというわけでもないがまぁ悪くはない。
「もう出ていってもらって構いませんよ。報酬の件は追々通達します」
「はい、今回はありがとうございました。」
クレイマンの言葉に俺は即座に立ち上がって、可能な限り丁寧に礼をしながらニコリと笑って後ろに下がる…
「それでは私はコレで…失礼します」
かぁ〜!ようやく解放される…!全く生きた心地がしなかったぜ…!やっぱり考えなしに行動するものじゃないな。
「――ところで」
「……はいっ!」
…扉に手をかける瞬間、クレイマンに声をかけられる。…早く、早く立ち去らせてくれ…もう集中力続かないよ、一刻も早く消えたいよ。なんか目をつけられることをしたか…?
考えても考えても一向に何も出てこない。考えるのをやめて振り返る…クレイマンが怒っている様子は、ない。
「茶菓子を包んでいますので是非持ち帰ってください。外に待機させていますので是非」
「……!はい!わざわざありがとうございます!」
クレイマン様まじありがとう。
クレイマンのところのお菓子美味しいから好きなんだよね、ビスケットが好き、まぁココまで頑張ったご褒美としては弱いけど…貰えるものは貰っておこう。
「それでは…失礼しました…!」
部屋を出ると、案の定銀髪の褐色エルフのメイドさん…エヴァさんがニコリと微笑み包まれた箱を差し出してくる。
「どうぞ、是非召し上がってください」
「…あ。ありがとうございますエヴァさん」
箱は両手で抱えられそうなほどの大きさで多分厚さ的に一段ではない…こんなにもらって良いんですか?!
内心ウキウキで受け取りつつ、立ち去ろうとして視線を向けると…エヴァさんはキョトンとした顔で俺の方を見つめている、どうかしたのか…ま、まさか…俺の喜びが漏れていたのかな…
「では!私はコレで!」
バレていたであろう事実が、更に俺の体温を高める。
羞恥の気持ちを心内のみに押し殺して、俺は転移でその場を去った。
「…お名前お伝えしていましたっけ…?」
エドルス
定期的にやらかすのはこの男。すぐ気が緩むのはあまりにも悪すぎる癖。もう少し頑張りましょう。
ゲルド
独自に行動を開始。進軍するようなことはないと思うが、ジュラの大森林に足を踏み入れているかもしれない。
クレイマン
まぁええかの精神。多分全く何も一切計画に関係のない場面だったら洗脳前の素が出るのかも…?