ハードな国に転生したけどカッコ良く生き(り)たい 作:王の物置
「剣とか鎧を売っているところとか普通にある…ファンタジーだ!」
「このパン美味しそう。でもさっきご飯食べたばっかりなんだよね…」
初めての街、初めての市場、初めて出た外、初めての事だらけでドキドキが止まらず目移りしてしまう。
敷居高そうな外装のお店から屋台的なものまで、出店のバラエティが豊富でどれもこれも気になる。
主食系はさっき家で食べたから炭水化物は避けたい……
しかしどこも気になる場所ばかりだ、この市場だけで1日は潰せそうだが少し見て回ってから一番気になっているのは屋台系統だ。
「おじさん、その串焼き三つください」
「あいよ!銅貨6枚だよ!ちょっと待ってよ、袋に詰めるから」
うーん安い、買い食いの醍醐味とも言える値段だ。
こう見えても一応おこづかいは貰っている、いつ使うんだと思ってもらっていたがこういう時の為だったんですね父上。
今はただ父上に感謝を…
「あんまり見ない子だけどおつかいかい?」
「はい!おつかいなんです!」
多分ばれない、バレるはずがない。バレてるなら俺の顔が割れているのと同義なので何も問題ない。その価値観のもと、俺は堂々と嘘をつく。
「そうか!えらい!俺が君くらいの頃は兄に買ってきてもらってばっかりだったよ、はい、串焼き三本ね!」
俺は屋台のおじさんの優しげな笑顔に罪悪感を感じながら串焼きを受け取る。
一度会釈だけしてその場を離れてから袋の中を覗いてみればいい香りが漂ってくる…本当に良い香りだ、あの頃夢見た祭りのメニューがそのまま目の前に出てきたようだ。
正直感動だ…!なんやかんや値段を理由に敬遠していたあの頃の串焼き、今は俺の手元に間違いなく存在している…しかも3本も!
一つ手に取ってみればますます食欲をそそる…ちょっとしたたる油がたまらなくいい。
俺は次の場所を探すべく歩きながら串焼きの一つを頬張ってみる。
「……ん〜!美味しい!」
前世の記憶からは該当する物がなかなか出てこないが不味い肉では断じてない。
野性味ある味というべきなのか……脂身は少ないがそれがまた肉の風味を際立てている。
……ラム肉特有の硬さと牛の甘みが合わさったみたいな感じたここにスパイスが欲しくなるが、この味はこのままでも十分に美味い。
俺は大口を開けてもう一口頬張る。
これで銅貨6枚なら毎日でも食べたい。良い世界に生まれ落ちたな……この世界最高!
一つ食べたらまた一つと手が伸びてしまう。
本当に美味しい、もう何本か買いにいきたいがここで行ってしまうのはせっかく外に出れたのにもったいない。
いつかまた買いに来よう、今回は少しでも戻るのはリスキーすぎる…最後の一口を食べ終わり、串焼きの魅力に後ろ髪を引かれるが次の場所まで歩く速度が上げる。
「あ、ブルベリー…?ブドウ?なにこれ?……これ一つください!」
「銅貨4枚になりますー」
一度外に出てみたらなんか外に出たい欲が消えるかと思ったが、むしろ強くなってしまった。
「知ってるカタチの野菜がある…!トマト…!すいませんこれ一つください」
「はいはい銅貨1枚ね」
ヤバい楽しい。次は逆の方向に行ってみたいし手探りも良いが誰かに案内もされてみたくなってきた。
次はどこに行こうかなんて考えて目的地という目的地がないまま歩きまわっていれば色々試しに買ってみてしまう…持ってきたお金がどんどん減っていく。
しかし全て美味しいのだ、どこの世界でも食は裏切らないのかもしれない。
「やっぱりパン屋の方も寄ってみるか!」
せっかく出てきたのだから気になったものは片っ端から買っていこう!
■
楽しみまくって食べまくって、最終的にたどり着いた場所は畑があって山があって、家はポツポツとしか見れない…いわゆる典型的な田舎であった。
ハチャメチャに遊んだあとにはこういうところでゆっくりするに限るよな。街は楽しいがその分だけ体力を使ってしまうのだ。
こういうところでゆったりと過ごしてウトウトするくらいが一番気持ち良い…
「あー、良い風」
周りをふらふらと歩いて、ちょうど腰掛けるところがあったので座る……いい場所だ。のんびりのどかなところだわ…
爽やかな気分で過ごしながらふと横を見ると丸い漬物石?が置いてある。
なぁにこれぇ…?
前世ではこういうのをスマホでとってネットに上げたらアカウント特定されるみたいな危険性があるというのを何処かで見た。
でも今世にネットなんてものは存在していないし何が目的でこんなところに置いてあるかとても気になる。
「ん~?」
興味本位で指で触ってみるが特に何も起こらない、本当にただの石みたいだ。
「……」
ぐるっと一周観察してみたり叩いてみたり乗ってみたり、色々やってみても何の反応もない。
神社の御神体的な丸い石だ、どう見ても石でしかない…実はこの国特有の名物だったり大切な文化財とかであったりするのだろうか?
だとしたら俺結構ヤバいことしてないか?
「んー?まぁいっか」
せっかくの思いで出てきたのにこんな石に時間を割かれてはもったいないだろうと俺は石を視界から外してまたボーっと景色を眺める。
うーん美しい…家と畑と山の割合が素晴らしい、活気がないというわけではなく…かと言って忙しなく動く人ばかりというわけでもない……本当に落ち着く…実家のような安心感。
結局なんで石があるのかという気持ちは晴れぬままだが今はそんな事よりここで一つ、昼寝でもしたい気分だ。
……やっぱり石の方に目がいってしまう。昼寝したいがどうしても石の正体が気になってしまう……偶然見たただの丸い石、しかし本当に気になって仕方がない……
「…」
さっきなんか動いた気がしたのだ、まぁ真夜中に歩いてるとつけられているような感覚になるのと似たようなものだろう。
俺はその石に近づいて触ってみる……うん、ただの石だ。
「……気のせいだよな?」
そう思って視界から外し……そして勢いよく石を見る。
「……」
ぜっったい動いた、間違いなく動いた!
図書館で蓄えた知識をフル動員してこれがなにでなんなのかを考察していく。
一つは魔法で動かしてる説、これはない…100%ない、断言できる…確認した感じ魔法陣や魔法の痕跡があったわけでもなかった。
2つ目はこういう魔物説、これは全然ある…俺自身魔物に詳しい訳では無いしこういう魔物がいても違和感は無い……しかしそうなると西方聖教会を信仰している人が多いこの場所で討伐されていないのがノイズすぎる。
そして最後、多分これだと思う理由…精霊のイタズラ説。
妖精は人をからかうのが好きだとかなんか絵本で読んだ。
史実を元にしていると書いてあったし信憑性は十分にあるはずだ。
妖精は悪戯好き、つまり俺で遊んでいる!そう考えると辻褄が合うのだ、先程から感じている違和感もきっとそれは妖精の視線に違いない!
「正体は分かってるぞ…!」
石にもう一度触れて見れば、やはりなんともならないが今回は何か不思議な感覚がある、何か見えるのだ…第六感が目覚めたとでも言うべき視界は変わらないのに何かが見えているという不思議な感覚。
触れれる、手の位置が変わったはずじゃないのにその何かに触れたり離したりできる。
俺はその何かにもう一度触れる、次はそれを自分の元へ手繰り寄せるように……
「……」
俺はそれをがっしりと掴む、感触は無いが何かを掴めている…どこでどうやって掴んでいるのかは分からないし見えないが何かを俺は掴めている。
そしてそれを俺の中に思いっきり引き入れる!
《ユニークスキル『
今聞こえたのは幻聴…?いや幻聴なんかじゃない、あの美しい声色は転スラのアニメで聞いたことがある、声の正体は…世界の言葉さんだ…!初めて聞けた興奮もあるがそれ以上に言っていた内容が気になってしょうがない。
なんだったのだろうか?なんて石ころに目を向けると……石ころは透明になっていた。
プルプルとしており、透き通っていて、水色に見えるそのボディを持って動くその正体――「お前スライムかい!」
どうやら精霊ではなかったらしい、スライムだった。
普通のスライム、この街で生き残る為に石に擬態をしていたのだろう。
擬態ってリムルのユニークスキルの捕食者の一つの権能で普通のスライムには使えないはずでは?という疑問が浮かぶがすぐに消え失せる。
なぜ擬態を解除したのだろうか?そう一瞬考えたがそれの考えをすぐに改め、最初に出た感想は『ごめんなさい』だった。
このスライムが生きてこれた理由、それは間違いなく擬態のスキルのおかげだ。
そして頭の悪い俺でもわかる、さっきの世界の言葉の意味と今の状況……俺に宿ってるらしいオサメルモノというスキルは多分だが相手の一部?の能力を奪える。
そしてその取った能力はこのスライムが持っていた擬態だ。
つまりこのスライムは俺にスキルを取られて擬態の能力をなくしたから、擬態が解除された……ということなのではないだろうか?
擬態という人の目を騙すスキルがなくなった以上、魔物のヘイト値が高いこの国でこのスライムは生きていけない。
殺す気で殺すのと殺す気じゃないのに殺すのとでは大きな差がある。
純粋な子供時代、アリを踏み潰して死にかけのアリをみて笑っていたが、大人になって蟻の巣を水攻めする遊びは出来ない。
「ご、ごめんよ…?」
どうにかして返してあげられないだろうかともう一度触ってみると先程同様の不思議な感覚に襲われるがどう頑張っても相手の物にしか触れれない。
多分奪うことしかできず返すことはできないのだろう…だから収める者というスキル名なのか?漢字で書くとどうだろうか?収納者?
まぁそんな事はどうでも良い…大切なのはこのスライムにどう贖罪をするかだ。
「……飼うか」
多分これしか選択肢は残されていない。
ラーゼンさんあたりに言えば見逃してくれるだろう…ラーゼンさんに頼るならアッチがコッチを見つけてくれるのを待つか俺が城に戻るかの2択だ。
「まぁ、俺から戻るのがいいよね」
自分で抜け出したのだから戻るのに迷いはない、自分で出ていったのだから用事があるなら自分で戻るのが道理だ。
「よし、じゃあ行こうか!っとおっとと!」
小さい身体のままスライムを抱きかかえるのは少し無理があったようだ。やっぱりラーゼンさんが見つけてくれるのを待とうかな…
「スライム君もうちょっと縮んでくれない?」
会話をできるかと話を振るが無反応…まぁスライムは喋れないので仕方ない。
――もうちょい身長が伸びたらな、そう思った瞬間、自身の視界が暗転して……そして視界が高くなった。
「は?え?」
どうしてこうなった?なぜ?幻覚…というわけでもなく、しっかりと地面を踏んでいる感覚がある。
「…あ、これが擬態ね!なるほど!」
しばらく考えてからようやく理解が追いついた、これがこのスライムの能力…擬態なのだ。
初めての出来事すぎて何が何だかわからなかったがそういう事なのか。
スライムを抱えて一旦歩いてみる…持つのも簡単、歩きも早い。本当に便利だ。
この便利さを手に入れてしまったらもう小さい小さい自分に戻れない……そう思えるほどに。
まぁ歩くことなんて町中とかでくらいしかない!特にスライムなんて人に見られたくないものを持っているときに歩くなんて正気の沙汰ではない。
移動方法は魔法でかっ飛んで行くのが最高なのだ!
「行くよスライムくん、エアッ!バスター!」
風にふっとばされ、宙に舞う感覚…様々な飛行できる魔法を扱おうと努力してきたがやはり最初の打ち上げはこれが最高に楽しい。
前の姿だとプカプカ浮いてるだけのチビだったが大人の身長になったことで少しはそれらしく振る舞えているのではないか?
この大人体型ならだいぶ絵になるだろう!
「ラーゼン様?どうかされましたか…?」
「――いや、またエドルス様が何やら面白そうな事をされていてな、私は一度エドルス様の自室へと向かう、残りの術式構築はお主らでしておけ」
「し、承知しました!」
エドルス
一番の収穫は身体を大きくできるようになったこと。手足が長くなったことの幸せをかみしめてスライムを抱えて空を飛ぶ。
支配者
収納者扱いで怒。つおい。相手のスキルを奪って使うことができる某魔王が持ってそうなユニークスキル。譲渡、返却はできない。
スライム
自力で擬態を覚えた凄い魔物、なお取られた模様。魔力感知も多分持ってる。リムルを含めても上位千匹に入りそうなレベルのスライム界のスーパーエリート。
ラーゼン
実は最初から最後まで見てた、エドルスの敗因は常時魔力感知で見られていた事を考慮していなかったこと。今回はラーゼンも一目おく戦法だったので見逃された。スライムの擬態を見破ったうえにそのスキルを使えるようになったエドルスを見て驚愕している。
王宮魔術師の方々
シンプルに可哀想。上司に仕事を投げられても頑張ってやっちゃう系のブラック企業部下。ラーゼンからの扱いは結構ひどめ、将来異世界人召喚にて何名か死亡するのが確定している模様。