ハードな国に転生したけどカッコ良く生き(り)たい 作:王の物置
「――成程、つまり抜け出した先でそのスライムと出会った、そしてスライムが擬態のスキルを持っている貴重なスライムだと判断したので連れ帰ったと」
「はぃ…その…飼ってもいいですか?」
こっそり戻ろうと自室の窓から侵入したら普通にラーゼンが待っていた。俺の行動を先読みされていらしい。
戻ってきたらめちゃくちゃ小言言われてめちゃくちゃ説教された、ずっと正座で足がしびれてきた。
「飼っても良いかと言いますが、それがどのような益に繋がるのです?様々な勢力から反感を食らう可能性があるということを承知したうえでもするべきだとお考えなのですか?」
「ぐぅ…」
ラーゼンに正論をぶつけられて何も言い返せない、突拍子のないことを言って迷惑をかけているのは純度100%で俺なのだ。
つまりここから勝つには相手が折れるまで耐えるしか無いということだ。
「そもそも根本的にこの国家は魔物を悪とする西方聖教会に属するものが多く半宗教国家とも呼べる国です。魔物を飼うなど言語道断、そんな考えは捨てるべきでしょう」
「で、でも!魔物を毛嫌いしていると…その、可能性が狭まってしまうと思うんです……」
「利益と損益が見合わないと言っているのです」
「ぐ、ぐぅ」
少しでも反撃をしようとするがすぐに叩き潰されてしまう。相手が強すぎる……
話の正当性で言えば相手に分があり、頭の良さで言えばこれまた相手に分があり、年の功で言っても相手に分がある。
これでどうやって勝てば良いんだ?マジで勝利への道筋が見えない…せっかく持ち込みに成功したのに捨てることになるのか…
「でもぉ!やっぱり!やってみないとわからないですよねぇ!?」
「確かに何事も行為に対する価値が重要。一度見定めてから考えましょうか。そうすれば自ずとこの行動にどのような影響があるか分かるはずです」
これは…希望があるのかもしれない?ここで下手に言うのは逆効果…ちゃんと考えてから……
「まず多くの者の反感を食らうのは大前提としてそれ以外の面で良い面、悪い面を挙げていきましょう」
長所、かぁ。スライムって可愛いところ以外なんか長所あるか?考えろ考えろ、ラーゼンさんが何を求めているかを考えろ……!
「えっと良い面はまず、み、見た目です!この愛くるしいまんまるとした姿を見てください!これはもう可愛すぎて目眩がしちゃうほどです!」
「確かにそのような声を上げる者が一定数存在してるのは認知していますが魔物は魔物。この国の者からすれば敵であります」
効果がないようだ……言ってることは正論だし相手の意思は固い。取りつく島がない…
しかし俺は諦めないぞ!なんだって言ってやる…!
「しかしあまりにも魔物に対する敵意が高いと魔王が統治する国などとの交渉が不可能になります!」
「それは飛躍し過ぎでは?それに仮に交渉相手となる場合にも魔物達との価値観の擦り合せやこれから魔物についてどう扱っていくのかなどさまざまな問題が存在していますよ。そもそも交渉の場に建つ必要があるのかという話ではありますが…」
……ひどい!酷すぎる!鬼だこの魔法使い!なに6歳児のワガママにマジな返ししてるんだよ!
ラーゼン大人げないぞ!なんだニコニコしやがって!いい笑顔だなこの野郎!そんなに子供をいじめるのが楽しいか!
「今必要がないからこそやるべきなのです!いずれこの西側諸国周辺に新たな魔王が誕生した際、より円滑に交渉をするためにも今、魔物との友好的接触は必須なのです!」
「その考えは確かに一理ありますがそのスライムをここに置く理由にはなりませぬ。スライムは雑食であり強い酸を出すことができます。小麦や布は勿論、鉄器具を食べたという事例も存在します。どの様に扱うのかは知りませんがそのような危険分子を王城に置いて良いのですか?」
くぅー!結構いい感じの演説したと思ったのに魔物の危険性を出されたらそうですねとしか言えない。
そりゃ人間より強くなりやすくて弱肉強食な社会を生きる魔物は怖いだろう。
しかしやらねばならないことなのだ。
なぜならいつかはわからないけど近い内にスライムがトップの国ができるから…!そして多分このまま進んだらその国にここが滅ぼされるから…!
まぁ近い内にそういう事が起こるので魔物に対する耐性をつけてもらいたい。
なんか他に説得できる言葉がないのか?
いや、そういえばスライムは溶かして食べる系のモンスターだと図鑑で見たが俺がスライム君を掴んでいる間俺は手が溶かされるなんてことは起こらなかった。
「このスライムは本当に温厚で優しいんです!」
百聞は一見にしかず…俺は逆転の手を打つべくスライムくんの身体に手を突っ込む。
頼む溶かさないでくれなんて願いを込めつつラーゼンさんに顔を合わせて話を続ける。
「ほら、溶けない。悪いスライムじゃないんです!だからお願いします!」
スライム君を掴んでラーゼンさんの目の前へと近づける。
するとラーゼンさんは興味深そうにスライムを眺める…長年付き合ってきたからわかる、この反応をするラーゼンさんは一般人の感情で表現したら『マジかwおもろw』くらいの好意的な感情だ。
掴みとしては弱いがラーゼンさんの心をわずかに寄せることが大切なのだ。
「たしかに…溶かす様子もなく、悪意があるとも思えませぬ……」
あと少し、もう少しで進展がある!
「お願いします!勿論ココに置く以上、管理は徹底させていただきます!この部屋から絶対に出しませんし、何か一つでも問題を起こせば私が対処します!」
前世で学んだ技術、誠意を見せること。やっぱり改めて条件も提示した上でお願いするという行為は大切なのだ。
その気持ちが伝わったのかラーゼンは少々考えた後に渋々と言いたげな態度で首を縦にふる。
「まぁ……いいでしょう。ただし!何か問題を起こすようならすぐにでも追い出しますのでそのおつもりで」
「ありがとうございます!」
……よしっ!なんとかなった。これでスライム君の居場所は確保できたし、俺の目標は達成だ!
「―――しかしそれほどまでにそのスライムを側に置きたい理由があるのですか?」
惹かれた理由?そりゃ初めて近くで見た魔物で…まぁ可愛いし……確かに。ない…うん、スライムを飼いたい理由なんて……ないな!全く思いつかない。
「えっと……可愛いから?」
スライム君を抱きしめてラーゼンさんに聞かれてるであろう問いに答える。
やれやれという身ぶりを隠しきれていないラーゼンさんに苦笑いで返しておく。本当に申し訳ない…いつも感謝してます…
「まぁ良いでしょう。この事は内密にしておきます」
「ありがとうございます!」
ラーゼンさんはなんやかんや優しい人だ、自分の無茶振りにも付き合ってくれる。
こんなにも優しいおじいちゃんを困らすのは少し申し訳なさを覚える…少し迷惑をかけるのを自粛したほうが良いだろう。
「それはそれとして王より2週間、素行矯正のため厳しく指導するように言われております。手始めに精神魔法の解除百連発からしていきましょうか」
「は……い?」
その言葉を最後に俺の意識は何もないまっ真暗な間に置き去りにされる…右を見ても左を見ても先も見えない何もない。ここが現実ではないことを証明している。
「えっ?あのー?!」
叫べど叫べど返ってくるのは自分の声だけで返事は来ない。
「………えっ?解呪マジでしなきゃいけないの?!」
返答の来ない世界で俺はあの言葉が本気だったんだと理解する…
「死んだー!」
いくら待とうとも嘆こうとも時間が過ぎるのみでなんのしんてんもおこらない。
「…………」
やっぱ俺ラーゼンの事嫌いかもしれん!他人の身体乗っ取る奴とかロクな奴いねんだわ!
これからも積極的に迷惑をかけていこうと心に決めた。
エドルス
アホ。あんまり深く考えずに進路決めるタイプの人。現在精神世界で格闘中。ラーゼンへの好感度DOWN。最近習う魔法がびっくりするほど難しくなってきているらしい、頑張って追いつこうとしているが全く理解できない。
ラーゼン
やっぱり今人生を一番楽しんでるジジイ。ちょっと無茶やらしても結果が返ってくるのを見てニッコリ。ずっと監視しているのはいつ気がつくかなとニヤニヤしている。エドルスのスキルの異常性には気が付いているがそれはそれ。最近はもうちょっと、もうちょっと行けるの意識で課題の難易度をちょっと(ちょっとじゃない)上げているらしい。