とあるホテルで開かれた『今日あま』の打ち上げに呼ばれていた。『今日あま』の最終回は無事配信された。有馬さんが本気の片鱗を見せたこともあってか、最終回だけは評判がよかったらしい。
「こうやって見ると改めて多くの人が関わってるのね」
「そうよ。私たちの演技には多くの人の仕事が乗っかってるの」
会場には現場で会ったスタッフ以外にも多くの人がいた。私の隣には有馬さん。着飾っている彼女はとても綺麗だ。
「アクアはなんで制服で来たのよ」
「ドレスとかもってなくて」
「アイドルになるんでしょ。打ち上げに呼ばれる機会なんてこれからいっぱいあるわ。何着か用意しときなさい」
「確かにそうね。でも買うとなると高いし……。有馬さんはどうしてるの?」
「子役をやってたときに引くほど稼いだ貯金で一通り揃えたわ」
「ええ……」
そんな話をしていると誰かが近づいてきた。
「撮影お疲れ様でした」
「あ、先生」
『今日あま』原作者の吉祥寺先生だった。二人が話すのを横目にその場を離れる。鏑木プロデューサーはどこだろう。
「やあアクアちゃん。最終回は評判だったよ」
彼が私を見つける方が早かった。
「収益的にはキビかったけど、君みたいな才能に機会を与えるのが目的だから、それは達成できたかな」
「ありがとうございます」
さて、本題はここからだ。
「それでですね、鏑木プロデューサー。その才能にもっと機会を与えてみませんか?」
「うん?」
「もう知っているかもしれませんが、私は妹と一緒にアイドルになるんです」
「そういう話は聞いているね。たしか『B小町twins』だったかな」
「ええ。でも苺プロから10年ぶりのアイドルなので、あまり伝手がないんです。どこか私たちのデビューにふさわしい舞台とかご存じないですか?」
「なるほどね。……あの『B小町』の名前を受け継ぐなんて大きくでたなと思ったけれど、君を見たら納得できたよ。どことなくアイに似ている」
「そう言っていただけてうれしいですね。アイは私たちの目標ですから」
「アイが目標か。面白い。繋がりがあるアイドルフェスがあってね。そことかどうだい? 詳しい話はまた後でしよう。契約の話にもなるし事務所も通さないとね」
「ありがとうございます」
「どこまでアイに近づけるか、楽しみにさせてもらうよ」
去っていく鏑木プロデューサーに頭を下げる。どうにかこのドラマに出演した最大の目的は達成できた。ほっと息を吐くと有馬さんが近づいてきた。あちらも話が終わったようだ。
「アクア? もうそろそろお開きよ」
有馬さんと一緒に会場を出る。すっかり日が暮れていた。
「上機嫌ね」
「原作者の吉祥寺先生に褒められたの。そういうアクアも機嫌良さげね」
「鏑木プロデューサーと次の仕事の話ができたの」
「次、次の、仕事……。よ、よかったわね」
不憫な子だと思う。仕事がない時間を耐えて、やっと主役が出来たと思ったら現場はアレ。この様子だと次の仕事も決まってないんだろうな。
有馬さんにはお世話になった。このドラマを紹介してくれたし、現場で気分が悪くなった私を介抱してくれたのも有馬さんだ。それに、彼女の芸歴の長さは役に立つ。
「有馬さん、今フリーだっけ?」
「そうだけど、何?」
「苺プロに入らない? フリーだといろいろ大変でしょ?」
「気軽に言うわね。アクアにそんな権限あるの?」
「私、社長の娘なの。ある程度の融通はきくわ」
有馬さんは怪訝な顔をしている。警戒しているようだ。
「私なんか入れても事務所にメリットなんかないわよ? 無駄飯喰らいが増えるだけよ」
「芸能界のイロハを教えてほしいの。マナーとか暗黙の了解とか、外からわからないことをね。特に妹に。あの子何だか危なっかしいの」
「あー、あの失礼な妹? 確かに思ったことすぐに口走りそうね」
「そうなの。お願いできない?」
「アクア、もしかしてシスコンなの? ……まあいいわ、入ってあげる。妹に言っといて。舐めた口聞いたらコロスからって」
「はいはい。ありがとう有馬さん」
「その『有馬さん』ってのやめない? 他人行儀すぎるわよ。これから同じ事務所になるんだし」
「わかったわ。かな」
「呼び捨てなのね。まあいいけど。最初に会ったときも思ったけど、アクアって年下の気がしないのよね」
こうして苺プロに新たな仲間が加入した。