アイより高く軽やかに   作:にいづま

13 / 38
不在の『今ガチ』
MEMちょアイドル計画:MEM


「アイドルかあ」

 

 苺プロ事務所のソファで私はため息をついた。ここは長いソファと背の低い机が置いてあって、何となくみんなが集まる場所になっている。今はルビーちゃんとアクたんが初ライブまでにやることを話していて、かなちゃんはその二人の隣で本を読んでる。インターネットウミウシって何だろう。

 

「MEMちょどうしたの? 溜息ついて」

 

 かなちゃんが聞いてきた。

 

「うーん、ちょっと羨ましいかなって」

 

 ルビーちゃんとアクたんの二人は双子アイドルグループ『B小町twins』としてデビューした。まだネット配信や、以前からやってるモデルの仕事が主だけど、初ライブ後はファンへの顔出しを増やしていく予定らしい。順調そうだった。

 

「二人がアイドルやってるのを見ると、私もアイドルに憧れた時期があったことを思い出して。家族のこととかいろいろあって、年齢の問題で諦めちゃったんだけど」

 

 かなちゃんが首をかしげる。

 

「あれ? MEMちょって何歳なの? 18くらいだと思ってたんだけど。配信ではリアルJKって言ってるし」

 

 しまった。事務所では公然の秘密だけどまだかなちゃん入ったばかりだから知らないんだ。

 

「えっと、去年で干支二周目が終わりました」

「二周目……って、ええ? サバ読みすぎでしょ」

 

 マジかって目でかなちゃんが見てくる。視線が痛い。

 

「でも、この業界ってホント年齢にうるさいわね。私もうだうだ言われたから気持ちわかるわ」

「ほんと? かなちゃん!」

「MEMちょ!」

 

 座ったままガシッと抱き合う。この事務所あったけえ。アクたんが何やってんだこいつらと言いたげな目で見ていたのは気にしないでおく。

 

「そういえばMEMちょ、『サインはB』の踊ってみた動画とか出してたよね。結構さまになってた」

「確かに。歌は、まあ味のある声だったけど」

 

 ルビーちゃんと話していたアクたんはこちらに顔を向けた。

 

「ねえMEM。まだアイドルやりたいって思ってる?」

「そりゃあねえ。アイドルに憧れてた情熱を持て余して配信者やってるところもあるし。一回くらいはステージに、とかって夢見たりするんだけどねー」

「ふーん……」

 

 その日の会話はそれで終わり。何か考えてるようなアクたんが気になった。

 

 

 数日後。私は苺プロの会議室に呼ばれていた。ホワイトボードの前にアクたんがいて、机には社長のミヤコさんとルビーちゃんに先輩配信者のぴえヨンさんがいる。ぴえヨンさん、お面かぶったままだけどボードが見えるのかな。

 アクたんはホワイトボードの前まで行くと何やら書き始めた。『MEMちょ一日アイドル計画』?

 

「この企画は当事務所所属配信者MEMちょのライブイベントを行うというものになります。MEMちょのチャンネル登録者も30万人に迫り、ファンの方からリアルイベントの要望も多く届いています。この要望に応えるため、アイドルライブ形式のイベントを考えています」

 

 アクアちゃんが何やらプレゼンを始めた。リアルイベントはやりたいって言ってたけど、自分にはもうできないって思ってたからアイドルライブってのは考えてなかった。

 

「会場は都内のこのあたりの会場を考えています。資料を見てください」

 

 配られる資料。しっかりしている。アクたんは本当に私より10個くらい年下なんだろうか。

 

「少しいいかしら」

「はい」

 

 ミヤコさんは予算的なこと、ぴえヨンさんは動員数とか配信者の目線から、ルビーちゃんはグッズとかファンからの目線でいろいろ質問していって、それにアクアちゃんが答えていく。

 

「MEM」

「は、はい!」

 

 やりとりを聞いていたらアクたんに呼ばれた。

 

「この企画を立ち上げたのはB小町のライブに活かせるというのもあるけど、一番はMEMにアイドルの素質があると思ってるから。一回くらいはやってみたいって言ってたよね。もってる情熱を発散してみたくない? MEMなら最高のステージになると思う」

 

 真剣なアクたんの顔は頼もしい。いきなりアイドルって聞いて戸惑ったけど、自分でもできる気がしてきた。

 

「アクたん、わかった。アイドルやるよ!」

 

 

 その日から私のアイドル計画が始まった。ダンスレッスン受けたりボーカルレッスン受けたり、グッズを企画したり、1曲だけオリジナルの歌を作ってみることになったり。大変だけど充実した毎日だ。ただちょっと気がかりなことがある。

 

「社長。アイドルってお金かかるんですね」

 

 大量の見積書を見ながらつぶやく。

 

「座席完売してグッズがたくさん売れて、何とか黒字ってくらいね」

「どの世界も裏側って大変だ……」

 

 自分のチャンネルでライブの告知をすると、コメントも盛り上がってる。視聴者の人も楽しみにしてくれるみたいだ。だからライブはけっこう楽しみなんだけど、一つ懸念がある。それはぴえヨンさんから言われたこと。今のチャンネル登録者は30万人くらい。それだと数千人規模の動員は厳しいかもしれないということだ。何とか登録者がどばっと増えそうな手段があったらいいけど。

 家に帰って自分のパソコンを開く。あ、メール来てる。番組への出演の依頼だ。なになに? 

 

「これは、いけるかも」

 

 まずは事務所に連絡する。この番組で知名度を上げれば、ライブもきっとうまくいくだろう。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。