アイより高く軽やかに   作:にいづま

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キャラ付け相談:あかね

 通話ボタンを押して5コール。いきなり連絡するなんて失礼だったかなと思っていると彼女の声が聞こえた。

 

「はい、星野アクアです。黒川さん?」

「あ、はい、黒川あかねです」

 

 私は星野アクアさんに、助けられた時以来の連絡をしていた。

 

 

『今ガチ』炎上騒動は収まりつつあった。MEMが発案してくれた『私たちから見た今ガチ』の動画が成功したのが大きい。本当にみんなには助けられてばかりだ。

 

「あの時はありがとう。私が今生きているのは星野さんのおかげです。あの動画作るのも手伝ってたって聞いたし、本当にご迷惑をお掛けしました」

「あれはMEMに泣きつかれて仕方なく手伝ったの。それより大丈夫そうでよかった」

「うん。みんなのおかげ。あ、私の両親がちゃんとお礼がしたいって言ってるんです。お伺いしていいですか?」

「わかった。私の家族にも話しておく。それより敬語はむず痒いから普通に話して。黒川さんの方が年上だし。あと、アクアでいいよ。妹もいるから」

「じゃあ、アクアちゃん。私のこともあかねって呼んでくれないかな?」

「わかった。あかね」

 

 アクアちゃんの声は安心する。何だかお医者さんと話してるみたいだ。

 

「それで、あの、相談したいことがあるんだけど」

 

 次の収録から私は『今ガチ』へ復帰することになる。復帰前に共演者のみんなからキャラ付けを提案された。それでどんなキャラにするかみんなと相談したけどいまいちピンとこない。

『アクアちゃんに話してみたら? 連絡先交換したんでしょ? 外から見てる人の方が参考になるかも』

 MEMの勧めもあってアクアちゃんへ相談することにした。頼り過ぎかもとは思ったけど、アクアちゃんは快く相談に乗ってくれた。理由は詳しく言えないけど『今ガチ』が盛り上がらなかったら私達が困るから気にしないで。なんて言ってる。本当に優しい人だ。

 

「なるほど、キャラ付けね。前向きなキャラとかどう? 騒ぎになったけど心機一転って感じを出していくとか」

「うーん、みんなからアドバイスはもらったけど、どうも抽象的でイメージできなくて」

「それなら具体的な人をイメージしたら? 自分の理想の人を演じてみるとか」

「理想の……」

 

 ぱっと思いついたのは昔共演した子役の顔。ぶんぶんと頭を振る。昔は理想だったけど、今は、今は違うから!

 

「うーん……。あ、アクアちゃんの理想ってどんな人?」

 

 それ以上思いつかなくてアクアちゃんに聞いてみた。

 

「私? 私の理想は、アイ。前のB小町のセンターだった人」

 

 先代B小町のアイさん。どんな人だろう?

 

 

 アクアちゃんとの通話を終えて、早速B小町の情報を探ることにした。動画サイトで検索したら出てくるのは『B小町twins』の動画。アクアちゃんが妹さんとやってるアイドルグループだ。アクアちゃんがどんなことをやってるか気になって1番新しい動画を見る。

 

『今日は質問コーナー。みんなからの質問に答えていくよ。まずはこの質問。『センターはどちらですか?』だって。センター? わたしたち二人しかいないよ?』

『私が分身したらルビーがセンターになるかな』

『おねえちゃん何言ってるの?』

『……ほんと、分身したい。自分が二人ほしい』

『おねえちゃん働きすぎじゃない? この前だって夜遅くまで動画の編集してたし』

『ルビーがもっと家事とか手伝ってくれれば時間が浮くんだけどねー』

『昨日一緒に夕飯作ったじゃん』

『洗い物は全部私がやったんだけど?』

『……えっと、そういうわけでわたしたちは二人でセンターです! 次はこの質問!』

 

 冗談めかして話されてはいるけど、ひょっとして夜更かしの原因は『今ガチ』の動画のことかな。アクアちゃんの頑張りに改めて感謝した。

 動画は二人のトークが続く。姉妹ならではの息の合った会話が小気味よい。でも、アクアちゃんは警察署で話したときとも、さっき通話したときとも、どこか違う気がする。

 

「あ、こうすればよかったんだ」

 

 動画内のアクアちゃんは普段のアクアちゃんとは違う『アイドルの星野アクア』を演じている。役を演じていればそれが身を守ることにもなる。素の自分を晒すのは傷つくだけだってMEMにも言われた。この先芸能界を生きていくうえでも必要になることだろう。なおさらキャラ付けを頑張らないと。

 アイの情報集めに戻る。昔のB小町のPVを見るとグループの中心に圧倒的な存在感を放っている人がいた。この人がアイか。アイドルグループのセンターだけあってルックスは抜群。何より吸い寄せられるような瞳に目を奪われる。けどそれだけじゃない。一挙手一投足そのすべてが目を引くように計算された動きをしている。この人を演じれば目立たないということはないだろう。キャラ付けの目標は決まった。

 翌日からアイに関する情報集めを本格化した。彼女に関する資料を集められるだけ集める。番組やドラマなど映像、雑誌のインタビュー。人気アイドルだっただけあって情報には困らない。

 

「吸い寄せられるような瞳は自信からくるものかな。友人関係は薄そう。でも異性関係は何かある。家庭環境は良い? いや、この人格形成を見ると劣悪な方向かな」

 

 いつものように彼女の情報を付箋に貼ってプロファイリングの真似ごとをする。もっともっと、アイのことを知らなくては。

 

「アイがブレイクしたきっかけは映画『それが始まり』。あ、アクアちゃんも出てるんだ。もう一人の子役は……。見るのは後でいいかな」

 

 彼女の情報には最後、事件のことがあった。ドームライブの当日、ストーカーに刺殺される。当時のことは何となく覚えている。そのころにはもう劇団に所属していたけれど、お父さんが不審者には気を付けるようにお母さんと話していた記憶がある。

 

「そういえばお父さん、アクアちゃんの名前を聞いてすごく驚いてたけど、何かあったのかな」

 

 今度一緒に挨拶に行ったらわかるのかな。アイさんのことを調べたけど、アクアちゃんのことももっと知っていきたいな。

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