最近ですとウ〇娘のマチカネフクキタルで記憶に新しい方もいらっしゃると思います。
――みんな、どうだったかなー!?――
「二人ともすごいねえ」
「よくやるわね。ほんと」
私はMEMと二人、観覧スペースの最後方でアクアとルビーのライブを見守っていた。
ルビーに関しては心配していなかった。あの子はアイドルが好きで、出会ってからずっと楽しそうだった。初ステージだって全力で楽しむのだろう。
問題はアクアの方。ライブの一週間前から傍目にもわかるくらい緊張しっぱなし。いつも多いとは言えない口数がもっと少なくなって、気もそぞろだった。
気持ちはわかる。社長やルビーの話だとアクアは幼いころからアイドルになるために全力だったと聞いた。今日のステージ如何で今後が決まるとなれば緊張もするだろう。
まあ、ステージのアクアはちゃんと出来てるし、ルビーがどうにかしたのだろう。あの子の笑顔には何だかそんな力がある気がする。
「それにしても……」
多くのアイドルが集まるこのフェスではライブ前からのB小町のファンはあまりいない。まばらなサイリウムの色からもわかる。そんなステージで、あの二人は客席の目線をくぎ付けにしている。
眩しい。ステージ上の圧倒的な輝き。誰からも注目される光。私が子供のころになくしたものだ。いいな。あの子たちはそういう存在なのか。
「私だって」
出来ることならやりたい。昔のような太陽のような演技。でも、そんなものを私に求めている人なんていない。それでもあの光景に憧れる自分がいる。機会があるなら、また。
「あ、MEMと……かなちゃん!?」
浸っていたらなんか昔聞いたことがある声が聞こえた。気のせいよね。こんなとこいるはずないし。最近あの番組でよく聞いてたから幻聴が聞こえだしたのかしら。
「あかね、来てたんだ! 『今ガチ』の打ち上げぶり……。どしたの、それ」
「え? アイドルのライブだからいろいろ揃えたんだけど?」
MEMが反応してるってことは幻じゃなさそう。何故かMEMの反応がおかしいけど。まあ久しぶりに顔くらいは見ておくかと彼女の方を見て、絶句した。
黒川あかね。彼女が法被に鉢巻き、オフィシャルグッズのTシャツに、左手に団扇と右手にサイリウム。完全なるアイドルオタクの恰好をしてそこにいた。
「何て格好してるのよあんたは!」
「え、え? でもアイドルライブのこといろいろ勉強して、オタ芸だって覚えて」
「絶対やらないでよ! こんなとこでやったら、いや、どこでやったって迷惑よ」
しゅんとうつむくあかね。こいつとの久しぶりの出会いがこんななんて。何だか毒気を抜かれた。
「えーと、二人は知り合い?」
今まで成り行きを見守っていたMEMが入って来た。あかねが答える。
「うん。子役のときに初めて会って、一緒に舞台で演技したこともあるんだよ」
「じゃあ仲いいんだ」
「「ううん。全然」」
「はい?」
MEMの困惑する声。返事があかねとハモってしまった。思わず舌打ちが出る。
「かなちゃんは昔から口が悪くて性格がねじ曲がってていつも偉そうで。すっごく気に食わなかった」
「その言葉そっくりお返しするわ。あんたこそ昔から自分が絶対正しいって態度して気に食わなかったのよ。何よあの『今ガチ』の炎上。リアル恋愛バラエティーなんて合わないことするからあんな目にあうのよ」
「かなちゃんだって、『今日あま』は何!? 最終回はいいとして他の回はお話にならない演技だった」
「ええと、二人とも最近の相手のことしっかり見てるんだね」
私達に挟まれている哀れなMEMを置いて私たちは応酬を続ける。
「あれは周りが大根ばっかりだったからよ! 私が本気だしたら浮きまくりでしょう? あんただってあんなところに放り込まれてみなさいよ」
「私、周りが大根ばっかりなところに出るほど落ちぶれてないし!」
「ぐふう。あんたねえ!」
「ストップストップ。二人ともケンカはそこまで。今日はアクたんとルビーちゃんの晴れ舞台だよ」
MEMに言われてあかねと同時に我に返る。幸い、周りはみんなステージを見ていて私達のことは気にしていないようだった。ステージではアクアとルビーが客席に向けて手を振っていた。
「あの二人まぶしいね、かなちゃん。まるで子供のころの……」
「……そうね」
またいつか、あの頃の輝きを取り戻せるだろうか。いや、きっと。あの時よりも輝いてやる。そんな決意を胸に私はステージの彼女たちを見つめ続けた。
★
――これからも『B小町twins』をよろしくねー!――
ジャパンアイドルフェスのスターステージ。歌い終えた彼女たちは自分の出番を終えステージを降りていく。私は一つ溜息をついた。あの子の娘だから気になってはいたのだけど。
隣に座る男はいつものごとくニタニタ笑っている。自分達の後輩はどうでしたかって? 決まってるでしょう。
「安心しました。あの子たちはアイにはなれない。たとえ娘であろうと偽物です。あの子たちにアイの輝きはない。あの子たちにアイは越えられない」
酷いなあ、僕の子でもあるのに。なんて男は欠片も傷ついてなさそうに笑う。
この男は私の同志だ。ある一点だけで私たちはつながっている。アイを超える存在が許せないこと。ただその一点。
あの子たちのステージが終わって会場を出る。あの男はまだ次の原石を探すらしい。徒労に終わるだろうにご苦労なことだ。
家までの帰り道であの子たちのステージを思い返す。B小町なんて名乗ってはいるが、ステージ上では姉の方はぎこちないし妹の方は好き勝手し過ぎだ。今のあの子たちはアイの足元にも及ばない。もっと場数を踏めば少しは。そこまで考えてはっとする。彼女たちの未来に思いを馳せる自分がいた。もしかして私は彼女たちに期待しているのだろうか。いや、そんなことはないはず。私は目を閉じ、頭を振って、彼女達のライブの映像を振り払おうとした。