アイより高く軽やかに   作:にいづま

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その日まで
転生:アクア


「いいこでちゅねー。愛久愛海」

 

 今、私は赤ちゃんとして母親に抱きかかえられている。前世では味わえなかった至福の時間を満喫しながら、私はここにいたるまでのを思い返していた。

 

 宮崎の病院に勤めていた私、雨宮芹那は一人の患者を担当していた。アイドルグループB小町のセンターであり私の最推しだった人、アイ。初診の時は椅子からひっくり転げるかと思った。ショックでゲボ吐きそうになった。

 なんとか動揺を出さないようにして診察した結果、アイは双子を妊娠していた。

 検査の後、病院の屋上でアイと話した。彼女は言った。母としての幸せ・アイドルとしたの幸せ、どっちも欲しいと。

 そんな彼女の願いを聞いて、私の心も決まった。ファンとして全力で彼女を支える。

 アイはまだ未成年で小柄ではあったが、お腹の双子は順調に育っていった。

 そして、出産予定日の日。病院の近くで怪しい男を見つけた私は逃げる男を追いかけ、崖から落とされて命を落とした。

 

(はずだったんだけどな)

 

 目を覚ますと、私はアイの子供の一人として再び生を受けていた。星野愛久愛海というすごい名前を付けられて。

 まあ、名前のことはおいておいて、推しのアイドルが存分に甘やかしてくれるこの状況は、まさに天国だ。

 

「おぎゃあ、おぎゃあ」

「あ、瑠美衣が泣いてる」

 

 そんな時間もすぐ終わる。診察した通り私には双子の妹がいた。瑠美衣と書いてルビーと読む。私のよりはいくらかマシな名前だと思う。

 ともかく、そんな妹の存在があるから推しを独り占めできる夢のような時間はほとんどない。でも、それもいいかとも思う。前世では身内と呼べるような人は祖父母だけで、それも仲がいいとは言い難かった。身内が多いのは新鮮だ。

 やがてアイは、私たちを事務所社長の妻、ミヤコさんに任せて収録へ向かった。アイは今日からアイドル活動へ復帰する。生放送の音楽番組の収録と言っていた。

「なんで私がこんな……」

 子供の世話を任せられたミヤコさんは疲れて眠ってしまった。悪いとは思いながら時間を見計らってテレビをつける。ちょうどB小町の出番だった。グループの代表曲『サインはB』を歌う彼女たち。センターはもちろんアイだ。

「ああ、すごいなあ」

 前世で見ていたときと変わらず、いや、それ以上の輝きを見せるアイ。私はテレビのアイにくぎ付けになる。

(こうしてアイを近くで見守れるなんて、嬉しすぎる。死んだ後でも推しを推せるなんて奇跡みたい。どうして生まれ変わったのかとか、どういう原理で転生したのかとか考えていたことがそんなことが全部吹き飛んじゃう。やっぱりこの世界に転生させてくれた神様には感謝を……)

 

「んぁ?」

 

 ゆりかごから声がした。寝ていたルビーが起きたようだ。

 

「まって、Nステ終わってるじゃん。なんで起こしてくれなかったの?」

 

 ルビーは流暢に話しつつゆりかごから這い出ると、慣れた手つきでリモコンを操作してB小町の出番のシーンまで戻す。

 

「きゃーっ! やばーっ! ママかわいすぎー! 視聴者全員億支払うべき!」

 

 どういうわけかルビーも転生者だった。しかも前世からの熱狂的なアイ推しオタク。

 ほんとにどうしてこうなったのか。アイには普通の子供を産ませたかった。

 

 限界化してテレビにかじりつくルビー。その様子を見て私はさりなちゃんを思い出した。

 研修医の時に出会った子。そして、私が看取った子。さりなちゃんとルビーはアイへ向ける熱量がそっくりだ。

 

「あれ? おねえちゃん、どうやって戻すの?」

「リモコン貸して。確かこうやって……」

 

 私はルビーの隣に座って、肩を並べて大好きなアイが歌うのを繰り返し見る。

 ファンとして、娘として。アイドルとしての幸せはどうにもできないけど、せめて母としての幸せを全力で応援しようと私は思った。

 

 

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