「いやーこんな会場よく取れたね。わ、ホントにお客さんが入ってきてる」
舞台袖から会場を見たMEMが感嘆の声を上げる。MEMのライブ本番まであと少し。この企画を発案した私も会場で準備をしていた。リハーサルも終わり、お客さんの入場も始まっている。後は開演を待つだけだ。
「『今ガチ』でMEMの登録者も倍増したからね」
チケットは完売し、物販も売り切れのグッズが出ているほどだ。『今ガチ』が終わってからあまり日がたっていないこともあり、まだMEMが世間から注目されているタイミングでライブができることも幸運だった。
「アクたん、ありがとね。もうアイドルを諦めた私がこんな舞台に立てるなんて思わなかった。『今ガチ』だってあかねを助けてくれたし動画作るの手伝ってくれたり、いろいろ助けてくれた。みんなアクたんのおかげだよ」
何だか最近お礼を言われることが多い。
「まだライブ終わってないでしょ。お礼はその後聞くわ。それよりMEM、大丈夫? 手が震えてるわよ」
言われて気づいたらしいMEMは自分の腕を見て、ほんとだねと笑った。
「いやー、ライブ配信で何千って人が見てるのに今更って感じだけど。今回は生だからね。こんな多くの人に見られるって思うとやっぱり緊張しちゃうね」
そういえば、とMEMは私に聞いてきた。
「アクたんもジャパンアイドルフェスの前はすごい緊張してたよね。本番は全然そんな素振りなくてすごいなあって思ったけど、どうやって乗り切ったの?」
「あれは、その、ルビーが手を握って『一緒に頑張ろう』って言ってくれて……」
「なにそれてぇてぇ。……あ! アクたん! 私も今すっごく緊張してるんだけどなー。誰か手を握って励ましてくれたら緊張なんてふっとぶんだけどなー」
言うんじゃなかった。だがMEMのライブは私が企画したもの。MEMが緊張している責任の一端は私にあるわけで。深くため息を吐いた後、ルビーがやったのと同じようにMEMの手を握って彼女を見つめた。
「MEM、このライブを計画したときに言った私の言葉は嘘じゃない。MEMにはアイドルの素質があるって思ってる。今日のためにレッスンも頑張ってきたから、MEMならきっと大丈夫」
MEMは顔を真っ赤にして、私の言葉を堪能しているようだった。
「これは反則……。美人に間近で褒められるって効くねえ。よし、やる気出てきた! じゃあ準備してくるね!」
元気に楽屋へ入るMEM。この分なら大丈夫そうかなと思っていると、入れ替わりでルビーが来た。
ルビーは初ライブでファンの生の視線と歓声を浴びてアイドルになったことをより実感したらしい。活動により積極的になっている。今日もルビーは別に来なくてもよかったのだけど、見学したいとついてきて会場を見回っている。
「MEMちょと何話してたの?」
「緊張してたみたいだから元気づけてた」
「あ、やっぱり緊張してたんだ。ライブ前のおねえちゃんみたいだったから心配だったんだ」
「言ってくれるわね。でもあの時は本当に助かった。ありがとルビー」
私の言葉にルビーは目を丸くした。
「おねえちゃんが素直にお礼を言うなんて」
「私のことどんなふうに思ってるの」
初ライブの醜態で私も反省した。ルビーも言ったように私達は二人で『B小町twins』だ。今までは私が先導していっていたけど二人で頑張っていかないと。ルビーは本番に強いタイプだ。これからも頼ることはあるだろう。
楽屋のドアが開いた。気合を入れなおしたMEMが出てくる。
「ここまで来たらもうやるっきゃない! アクたん、ルビーちゃん、いってくるね!」
MEMのライブが始まった。舞台の上の彼女は緊張している様子はない。MEMも舞台度胸がある。
「MEMちょ、いいね。歌やダンスももちろんだけど、自分のいいところがわかってる感じ。すっごく楽しそう」
ルビーの分析。前世からのドルオタだけあって見る目がある。実際MEMのダンスは上手いし歌も歌えてる。本職のアイドルと遜色ない。
MEMのライブは順調に進んでいる。あまり配信では見られない彼女の姿にファンも熱狂している。
『みんな、おつMEMー! また配信でね!』
アンコールも歌い終わって、MEMの一日アイドル計画は成功に終わった。
「アクたん! ライブの演出はよかったけど、あれ、あれは反則でしょ!」
「サプライズよ。本当はゲストで呼びたかったんだけど時間がなかったの。でも盛り上がってたでしょ? みんなからのコメント」
「よかったけどさあ! ちょっと泣いちゃったじゃん!」
コメントというのは『今ガチ』メンバーからMEMへの初ライブ祝福のビデオレターだ。あかねから呼びかけてもらって準備していた。MEMもファンの反応も上々だったので準備した甲斐があった。
「MEM、アイドルはどうだった?」
「よかった。すっごくよかった。すっごくたのしかった。今までは見られなかったみんなの生の笑顔が見れて、ほんと、私は配信者やっててよかったって思った。アクたん、ほんとありがとう!」
「……そう」
MEMの賞賛を私は素直に受け取れない。ライブの演出に関わってみたけど、もっとMEMを輝かせてあげられたんじゃないか、もっと上手いやり方があったんじゃないかと考えてしまう。
私の表情で察したのか、MEMは私の手を握った。
「アクたん、私のライブはこれが最後って思ってない? こんなに楽しいこと一回切りにしたくないよ。私はもっと登録者を増やして、もっと大きなことをやる。今できなかったことは次にできればいいんだよ」
逆に励まされてしまった。
「ありがと、MEM。初めてMEMが年上だって思えた」
「ちょっと、アクたん? せっかくいい話したのにー!」
ステージを楽しめるというのはアイドルの才能の一つだと私は思っている。そういう意味でMEMはやはりアイドルの素質がある。ルビーやMEMほどステージを楽しいと思えない私は、きっとアイドルに向いていないんだろうな。
それでも私はステージに立たなければならない。アイの夢を叶えるため。ルビーとの約束のため。
明日はルビーと次のライブの打ち合わせだ。今日の会場より小さいステージだけど、アイドルフェスの時みたいな醜態は晒さないようにしないと。