アイより高く軽やかに   作:にいづま

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『それが始まり』:アクア

 都心から少し離れた山奥。私はルビーとミヤコさんとで『それが始まり』というホラー映画の撮影に来ていた。

 アイの映画撮影についていった時にその監督に気に入られ、子役になることになったからだ。

 私と一緒にアイも使ってもらえると聞いて承諾した。正直芸能活動をする気はなかったけれど、アイの仕事をサポートできるのは嬉しい。

  

 控室につくと、ついてきたルビーが愚図り始めた。アイが恋しいとマジ泣きしている。まるで本当の幼児みたいだ。転生してきたから精神年齢はもう幼児じゃないはずなんだけど。

 呆れていると、バンッと机をたたく音がした。

 

「ここはプロの現場なんだけど! 遊びに来てるんなら帰りなさい!」

「えと……」

「私は有馬かな。今日の共演者よ」

 

 私と同じくらいの歳の子に怒られてしまった。帽子とワンピースが似合うかわいい子だ。この子はテレビで見たことある。確か……。

 

「この子あれじゃない? なんだっけ、重曹を舐める天才子役!」

「10秒で泣ける天才子役!」

 

 ルビーのあんまりな言い間違いに、有馬さんはヒートアップする。

 

「あなたコネの子でしょ? 監督のごり押しだってママも言っていた。そういうのいけない事なんだから! あのアイドルの子も、こないだ監督がとったドラマで全然出番なかったじゃん。どうせへったくそな演技だったんでしょ。媚び売るのだけは上手みたいだけど!」

 

 言いたいことだけ言って有馬さんは控室を出て行った。推しを貶され、ブチ切れている私たち姉妹を置いて。

 

「おねえちゃん……」

「わかってる。相手はガキだけど、目にもの見せるわ」

 

 

「ぐすっ……。うあああ……。ひっく。今のかな、あの子より全然だめだった……」

 

 台本を読んで、監督の意図を汲んだ演技をする。ただの子供では決してできない演技。その結果が、号泣する有馬さんだった。正直やってしまったと反省する。大人げがなさすぎた。マネージャーやスタッフに慰められている有馬さん。私も慰めにいったほうがいいかな。

 ベンチに座って泣いている有馬さんの前に立つ。何を言おうか考えていたら、キッと有馬さんが顔を上げた。涙をぬぐいベンチから立ち上がって、丸めた台本を私へ突きつける。

 

「今日は私の負けよ。でもね、次やるときは絶対に負けないんだから。覚悟してなさい!」

 

 いきなりの宣言。私は有馬かなという子を甘く見ていた。まだ3歳くらいだろうに尋常じゃないプロ意識が備わっている。とてもかっこいい子だ。

 

「今日私が上手くできたのは、監督がどういうシーンにしたいかか考えて、その通りやっただけ。有馬さんの方が技術や表現は上手だった。それに、悔しくて泣けるのはお仕事にこだわりをもっている証拠。有馬さんはきっと素敵な女優さんになるね」

「あ、うん……」

 

 私が有馬さんを褒めると、彼女はぽかんとした顔をしていた。

 

「おねえちゃん、もう帰るよ」

「ルビー、わかった。じゃあね有馬さん」

 

 私が手を振ると、有馬さんはぽかんとした顔のまま手を振り返してくれた。

 

 

 映画は無事に完成し、アイが監督からもらってきた完成版のDVDを家族3人で見ることになった。

 私の演技は我ながらよくできてたんじゃないかと思うけど、アイには敵わなかった。出番はそこまで多くはないけれど、存在感は随一だ。彼女の顔と、ほのかに闇を感じさせる演技は強烈な印象を与えていた。

 映画が終わった。怖かったのかルビーはアイにしがみついている。しがみつかれているアイは満面の笑顔だった。かわいい。

 

「ママ、何でそんな笑顔なの?」

 

 ルビーが聞くと、アイは答えた。

 

「だって、アクアと共演できたんだよ? 我が子と共演するの夢だったんだよねー」

「えー。わたしはこの映画出てないよ? おねえちゃんずるい」

「仕方ないでしょ。監督が指名してきたんだから」

 

 アイは私たちを抱きしめた。

 

「アクアもルビーも私に似てかわいいから、きっとまだチャンスはあるんじゃないかな? あ、もしかするとアイドルになってステージで共演、なんてできちゃうかも」

「あ、それいい! わたしもアイドルになる!」

「いや、私は……。うん。考えとく」

 

 『それが始まり』私たちの大切な思い出になった。

 

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