アイより高く軽やかに   作:にいづま

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話し合い:ルビー

 かな先輩に会議室に連れ込まれておねえちゃんと二人きりになる。おねえちゃんは部屋に入ってからずっと気まずそうにしていた。

 

「えっと、ルビー。今日の仕事はどうだった?」

 

 当たり障りのない一言目。宮崎から帰ってからおねえちゃんはこんな感じで、わたしが返すと「ふーん、そう」って言って会話を終わらせる。今まではわたしの話をずっと聞いてくれていたのに。やっぱり勝手に一人で仕事取って来たことに怒っているのかな。

 

「おねえちゃん、ごめんね」

 

 だから先手を打って謝ることにした。

 

「何のこと?」

「おねえちゃんに黙って一人のお仕事取って来たこと」

「別にいいわよ。むしろ私やミヤコさんが出来ない事をやってるなんてすごいって思ってる」

 

 怒ってはいないみたい。ちょっと安心した。

 

「それで、一人でお仕事やって思ったけど、やっぱりおねえちゃんと一緒じゃないと寂しい。自分で始めておいてすごく勝手なのはわかってるけど、わたしはもうちょっとおねえちゃんとアイドルを続けたい。気分が乗らないかもしれないけど」

「気分が乗らない? どうしてそう思うの?」

「だっておねえちゃん人前でるの苦手だよね。初ライブのときとか握手会のときとかすごい緊張してたし。アイドルになったのだってわたしのためだよね。小さいころは遠慮してたし。今までわがままばっかりでごめん。でも、もうちょっとだけ甘えさせて」

「ちょっと待ってルビー。一体どうしたの?」

 

 おねえちゃんが困惑している。そういえば早くおねえちゃんを自由にしなくちゃと思って急いでばかりで、わたしの思いを全然話せてなかった。

 

「ごめん。最初から話すね。宮崎でおねえちゃんが芹那せんせだってわかったけど、その時に前世からずっとおねえちゃんに見守られてるって気づいたの。だからわたしに構うよりもっと自分の時間を大切にしてほしくて」

「待って! 待ってルビー」

 

 おねえちゃんが話をさえぎる。

 

「私が芹那だって、知ってたの?」

「ホテルに戻って話した時、わたしの名前を言ったよね。『さりなちゃん』って。教えたことないのに」

「ああ、その時か……。ねえ、ルビー」

 

 おねえちゃんは頭を抱えた。わたしがおねえちゃんの前世を知っていたことがそんなにショックだったんだろうか。

 

「私を許してくれる?」

「許す? 何を?」

「アイを救えなかったこと」

「はい?」

 

 何を、言っているの?

 

「私の前世は医者だった。アイに危険なストーカーがいるってことも知っていた。あの場面でアイを救えるのは私しかいなかった。なのに、何もできなかった。謝るのが遅すぎるし、謝ってもどうにもならないけど、ごめん。ごめんねルビー」

 

 涙声のおねえちゃんにわたしは呆然としていた。おねえちゃんは確かにアイの事件から変わったけど、あれはママの意思を継いで頑張ろうとしていると思っていた。事件のことで後悔し続けているなんて初めて知った。

 

「許すも許さないもないよ! 悪いのはあのストーカー男に決まってるじゃん。おねえちゃんは何も悪くない。おねえちゃんが責任を感じる必要なんてどこにもないよ!」

「そう、なのかな。だったら何で私は……」

「だっても何もないよ! おねえちゃんはあの時4歳だよ? 何か出来るわけない。むしろ、出来ることをしてたじゃん。救急車呼んでくれて、ママに最期まで寄り添って。精一杯やってたじゃん! だから自分を責めないでよ!」

 

 わたしはおねえちゃんを抱きしめた。ママが死んでからずっと自分を責め続けて来たんだろう。何にも悪くないのに。

 わたしはママの最期を見ていない。おねえちゃんが見ないようにしてくれたから。事件の時おねえちゃんはずっとママのそばにいた。ママの、前世からの推しが息絶える瞬間を見届けることしかできないなんて、どれほどショックを受けただろう。わたしだったら心が壊れていたかもしれない。本当におねえちゃんには守られてばかりだ。

 やがて、おねえちゃんがわたしから離れた。

 

「ごめん、取り乱した」

「いいよ。わたしこそ、ごめん。おねえちゃんが苦しんでいるって気づけなかった」

「いいの。私が見せないようにしてたんだから」

 

 お互いの抱え込んでいたことを話し終えて、ようやくわたしたちは前みたいに話せるようになった。

 

「じゃあ、最近一人の仕事が多かったのは、私をルビーから解放したかったからってこと?」

「前世からずっとわたしに構い切りでしょ? おねえちゃんには自分のやりたいことをやってほしい。わたしはこの通り元気だから一人でも大丈夫だって言いたかったの」

「それにしたってもっとあったでしょ」

「ごめんなさい。けど、おねえちゃんこそわけわかんないことで責任感じて。わたしがママのことでおねえちゃんを責めるはずないじゃん」

「それは、ごめん」

「それで、今でもアイドルやるの無理してる?」

「これだけやってればさすがにもう慣れたわ。でもファンと一対一のイベントはちょっと苦手ね。特にパーカー着た人。事件のこと思い出しちゃうから」

「やっぱり無理してたんだ。アイドルのほかにやりたいことないの? やっぱりお医者さん? それとも先輩みたいな女優とか?」

「わからない。今までずっとアイドルになることしか考えてなかったから。でもね、確かに無理はしてたけど、今は愛着もあるし意地もある。いけるところまで、できればドームまではアイドルをやりたい。私たちのファンにもドームまで頑張るって言ってるから、嘘はつきたくない」

「わかった。わたしたちは二人でB小町twinsだからね」

「一人でやっていこうとしてたでしょ。調子いいんだから」

「えへへ」

 

 おねえちゃんの隣はやっぱり居心地がいい。でもこれから独り立ちしなきゃいけないんだよね。わたしは離れられるのかな?

 

「それでこれからの仕事だけど、ルビーはバラエティ向きだから今の路線を継続するのもいいわね。二人一緒の仕事は配信でフォローできるし。私も自分の得意分野を活かして売り込みしていくわ。歌とか演技とかになるのかな」

「うーん、おねえちゃんと一緒に仕事したいけど、自分で始めたことだしなー。今のお仕事レギュラーだからやめられないし……」

「今ルビーが出てるバラエティってどんな感じなの?」

「収録はけっこう楽しいんだけど、ディレクターが昔カタギの人でさ。パワハラとか当たり前でADさんが毎回死にそうな顔してる」

「ああ。この業界では珍しくないけど……」

「コンプラギリギリ狙った番組内容だし、ちょっと間違えたらあっという間に炎上しそう」

「大丈夫なの?」

「うん。何かあってもいろいろ教えてもらってるし、大丈夫!」

「教えてもらって? そういえばルビーはどうやって自分を売り込んだの? 企画書の書き方とか知らないでしょ」

「ここだけの話にしてね? 実は、壱護さんに教わったの」

「壱護って、元社長の? 生きてたのあの人!?」

「釣り堀に居たのを見つけた。で、ギョーカイのこといろいろ教えてくれた」

「なるほど。使えるかも。壱護さんに戻ってきてもらうのもいいわね」

「ええ?」

 

 おねえちゃんの提案に驚く。壱護さんがいなくなって、ミヤコさんと一緒に苦労してきたおねえちゃんは壱護さんを許さないと思っていたから。

 

「思うところはあるけど、ルビーの売り込みから見るにアイを有名にした手腕は衰えてなさそうだし、業界との繋がりもまだありそう。ミヤコさんも私達の仕事が増えて忙しそうだし、サポートしてくれれば心強いと思う」

「でも、ミヤコさんがどう思うかな」

「問題はそこね。壱護さんの顔なんて見たくもないかもしれないし。会った瞬間殴りかかるかも」

 

 考えていると会議室のドアがノックされて、ちょうど話題にしていたミヤコさんが入って来た。最近はわたしたちのせいで険しい顔してばかりだったけど、今は何だか嬉しそうだ。

 

「二人で話してるところごめんなさい。でもすぐに聞いてほしいことがあって……。仲直りしたようね」

「まあ、ケンカってわけじゃなかったけど。心配かけてごめんね? それで、話って?」

「次のライブ会場が決まったの」

「どこどこ? 大きいところ?」

「場所は、武道館よ」

「武道館!? ホントに!?」

 

 わたしとおねえちゃんは思わず立ち上がる。ミヤコさんが嬉しそうだったのはそういうわけか。

 武道館。多くのミュージシャンやアイドルの憧れの場所だ。わたしたちはそんな場所でライブが出来るまでになったんだ。

 

「ダメ元で申請してたけど通ったの。MVのバズが大きかったのかしら。それともルビーの活躍? まあとにかく、ライブは絶対成功させましょう」

 

 おねえちゃんも武道館でのライブと聞いて興奮している。緊張は見えない。おねえちゃんの調子が戻ったなら武道館のライブは絶対大丈夫だって思える。

 武道館までこぎつけた。苺プロという大きくない事務所のアイドルとしてはかなりの速さだと思う。これからドームまではもうすぐかも、って考えると、この先おねえちゃんと一緒にアイドルをやれる期間は短いかもしれない。でもそれまでは、二人でのアイドル活動を精一杯やりきろう。

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