アイより高く軽やかに   作:にいづま

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3話くらい小話が続きます。


閑話:アイドルのおしごと
ゲーム配信:ルビー


「おねえちゃん、今日の配信はゲームやろ?」

「また? この前もやったじゃない」

「いいじゃん。ゲーム配信ってけっこう好評なんだよ? 経費でゲーム買えるし」

「後の方が本音ね。まあいいわ。ちょっとは手加減してね」

「わーい」

 

 B小町twinsは週に1・2回のネット配信をしている。配信でやることは主に次のお仕事のお知らせや、ライブとかの振り返り配信。依頼をもらっての商品のPRとかやってるけど、わたしたちが雑談したり何か企画をやったりするときもある。その企画の中でもゲーム配信は人気だ。主におねえちゃんの反応が面白くて。

 わたしは最初に二人でゲーム配信をしたことを思い出した。

 

 

「MEMちょ、何か配信のネタない?」

 

 デビューして少し。まだ駆け出しのわたしたちの主な活動場所はネットになる。初めたては自己紹介やレッスンルームを使ったミニライブとかの配信をやったけど、他のこともやってみたい。というわけで二人でMEMちょに相談することにした。

 

「定番だけどゲーム配信とかするのはどう? 苺プロは権利関係とか大丈夫だし」

「ゲームって、ファミ〇ンみたいな?」

「ファミ!?」

 

 おねえちゃんのあんまりな発言にMEMちょは驚いてる。その名前を使うのはおばあちゃんくらいの年代の人だと思う。

 

「……えっと、アクたんってあんまりやってこなかった人?」

「あんまり、というか、まったく。家にないから」

「ないの? ってことはルビーちゃんも?」

「わたしは友達の家で何回かやったことあるよ」

「やったことないのは今時珍しい? 私は弟いたから一緒にやってたりしたけど、姉妹だけだとこういうこともあるのかな」

 

 わたしたちの家にゲームハードは無い。B小町が解散して事務所の売り上げが減り、どうにか家計を切り盛りしてたミヤコさんに買ってもらうのは気が引けたし、そのころからお仕事を始めて遊ぶ時間が少なくなったから。わたしは休みになったら友達と遊びに出かけたりしてたけど、おねえちゃんはカントクさんのところにお手伝いに行ったりしてたからなおさら遊ぶ時間はなかった。

 

「前世でもやったことなかったの?」

 

 MEMちょに聞かれないように小声で聞いてみた。

 

「前世は……。ああいうの禁止されてたの」

「ええ!? 厳しい家だったんだね」

 

 そういえば芹那せんせも遊ぶものを買ってもらえるような家族じゃなくて、勉強ばかりしていたって言ってたな。親がアレって大変だよね。

 

「おねえちゃんがやったことないなら他のことしようかな」

「いや、これはチャンスだよ。いつもクールなアクたんが初めてのゲームに戸惑う珍しいシーンが見られるかも。っていうか私が見たい。それに」

「それに?」

「こういう配信に使うものって経費に出来るんだよ」

「おねえちゃん、買いに行こう!」

 

 そんなわけで人気のレースゲームをすることになった。友達の家でやったときにおねえちゃんと一緒にやりたいなって思ってたんだ。配信に必要な機材の準備は事務所のスタッフさんに手伝ってもらってすぐに完了。ネットに強い事務所はこういうところがありがたいよね。さっそく配信開始。

 

「B小町twinsチャンネル! B小町twinsの歌が上手い方、星野アクアと」

「ダンスが上手い方、星野ルビーです! 今日はゲーム配信。『ヤマヤカート80』で対決するよ」 

「初めてやるゲームだけど、頑張ります」

「まずはキャラクターセレクトだね」

 

 最初に自分の使うキャラクターを選ぶ、のだけどおねえちゃんの動きがない。

 

「ねえルビー」

「どうしたの? おねえちゃんのカーソル動いてないけど」

「これ、どうやって持つの?」

「え?」

 

 横を見るとコントローラーを片手に困り顔のおねえちゃん。ここからのレベルなの!? 視聴者のコメントもざわついている。配信を見学してたMEMちょにコントローラーの使い方を教えてもらって、ついでにゲームモードの設定もやってもらって、ようやくスタート。

 

「ええっと? このボタンがこれで?」

 

 わたしも上手いわけじゃないけど、おねえちゃんはそれ以下。アクセルもブレーキもボタンをいちいち確認をしないとできない。カーブのたびに壁に激突し、壁のないところでは場外へ落ちていく。スタッフさんとMEMちょは笑いっぱなしだ。つられてわたしも笑ってしまう。こんなんじゃ勝負にならない。おねえちゃんはレベルの低いCPU相手にも大差をつけられての最下位だった。

 

「もうっ! ルビーもスタッフさんも笑いすぎ!」

「ぷくく……おねえちゃん全然進んでない。何周遅れになったの」

「だって難しいのよこのゲーム」

 

 おねえちゃんに笑っていたから運転に集中できなくてわたしも下位でのゴールだった。でも視聴者は盛り上がってるみたいだし良いか。

 

「もうちょっと簡単な……。あれ? 初心者用モード?」

 

 このゲームには初心者用にカーブから落ちにくくなるアシストモードがある。MEMちょがゲームモードを設定したときに解除していた。視聴者のコメントでおねえちゃんが気づいたみたいだ。

 

「面白いの見られそうって設定解除してたわね。やりなおしましょう。今のままだと勝負にもなってないわ」

「はいはい」

「次はもっと簡単なステージで!」

「はーい。次はどのステージがいいかな?」

 

 わたしが呼びかけると視聴者がこのステージがいいとコメントを書き込んでくれる。そのコメントを見てるMEMちょとスタッフさんが笑いをこらえている。たぶんカーブが多い上級者向けのステージばかりが書き込まれているんだろうな。

 

「コメントでは、このコースが多いわね。次はここで」

「え!? おねえちゃん、大丈夫?」

「大丈夫よ。今度こそちゃんと走るから」

 

 おねえちゃんは何だかノリノリだ。MEMちょの狙いどおり、いつもと違うおねえちゃんが見れている。

 さっきより難しいコースを走ることになったわたしたち。アシストモードのおかげでどうにか曲がれているけど。

 

「おりゃ! ううん? うーん?」

 

 カーブのたびに体を傾け、ハンドルみたいにコントローラーを回すおねえちゃん。あまりにも初心者の動き。周りの笑いも大きくなっている。

 

「おねえちゃん。いくら体動かしてもボタン押さないと曲がらないよ?」

「わかってるわよ! ここさっきのよりカーブ多いじゃない!」

「みんなに聞いたらこうなるのも当然だと思うよ」

「騙されたのね、私は……」

「無駄に高い演技力で悲劇のヒロインみたいな雰囲気だしても最下位だよ」

 

 コメントを見てみると『ムキになってるの笑える』『ゲーム苦手なの意外だ』『アクアちゃんかわいい』とかのコメントが並ぶ。いつもクールでちょっと近寄りがたい印象を持たれがちなおねえちゃんだけど、これでファンのみんなが親しみを持ってくれたらいいな。

 わたしたちの初めてのゲーム配信は大好評に終わった。

 

 

「B小町twinsチャンネル! B小町twinsの背が高い方、星野アクアと」

「背の低く見える方、星野ルビーです! 今日はゲーム配信。『シン・ヤマヤカートDX』をやっていくよ」

 

 二人とも忙しくなって、わたしたちの配信もお仕事の告知や準備があまり必要ない雑談が多くなっている。

 今日の配信は以前やったゲームの最新作。久しぶりのゲーム配信は視聴者も楽しみにしていた人が多くて、コメントも盛り上がってる。

 

「今日は何度私の体が傾くかって楽しみにしてるってコメントがあるわね」

「仕方ないんじゃない? レースゲーム配信のメインコンテンツになってるし」

「見てなさい。今日こそは傾きゼロで終わらせるから」

「無理じゃないかな」

 

 あれからおねえちゃんはゲームは上手くなったけど相変わらずカーブで傾くクセが抜けてない。視聴者もそれを楽しみにしている。

 わたしもコントローラーを握りしめて、ようやく勝負になるようになったおねえちゃんとの対決を楽しんだ。

 

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