アイより高く軽やかに   作:にいづま

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クイズ番組:かな

「どうしようかな……」

 

 事務所に入るとアクアが書類を前にして呟いていた。

 

「どしたのアクア。困った顔して」

「あ、かな」

 

 アクアが顔を上げる。ルビーと話し合いをさせてからのアクアは笑顔が多くなって雰囲気がだいぶ柔らかくなった。思い返すと、幼い頃に彼女と初めて会ったときも同じような優しい雰囲気だった。これがアクアの素の姿なのだろう。

 

「ミヤコさんからオファーが来てるって言われたんだけど、どうしようかと思ってて」

「どんな仕事なの?」

「クイズ番組。アイドル対抗クイズ対決ってのが特番でやるらしいの。それに出ないかって」

「出ればいいじゃない。アクアは学校の成績いいでしょ? ルビーと違って。」

 

 毎回平均よりやや下くらいのルビーと比べてアクアは学年トップの成績だ。B小町の二人は双子なのにほとんど似たところが無い。背の高さも顔形も性格も。同じなのは髪の色くらい。それを考えると、それぞれの個性を活かした個別の活動の方が二人には合っているのかもしれない。

 

「出るのはいいんだけど、どのくらいやればいいかって考えてる」

「どのくらいやればって、どういうこと?」

「資料を見た感じ単純に知識を問われるものが多いし問題の難易度も抑え気味だから、普通にやったら私は多分優勝する。ただ、今回は大手事務所のアイドルも多いし、そういう人を押しのけて目立っても印象悪くなりそう」

 

 黒川あかねの騒動を間近で見ているアクアが炎上を心配する気持ちはわかる。ただアクアは武道館を超えてもっと上を目指すと言っていたはず。折角のチャンスに甘っちょろいこと言ってる彼女の頭を軽く小突く。

 

「いて。か、かな?」

「B小町は本気でドーム目指すんでしょ? ルビーは一人でいろいろ挑戦してるんだし、アクアももっとガツガツ行きなさいよ。知名度アップのチャンスよ? 同年代のアイドルくらい食ってやるくらいの気概を見せなさい」

「……確かにそうね。ルビーに負けてられないし、小娘どもをなぎ倒していくくらいでないとね」

「小娘……? あんた出演するアイドルのなかでも年下の方でしょ」

 

 やる気を出したのはいいけど言葉のチョイスは何なのよ。さっきは普通にやったら優勝するなんて怖いこと言ってたし。今まで隠れてたけど、こいつの本性はけっこう面白いやつなのでは?

 

 

 アクアが出たクイズ番組が放送される日になった。折角だからと事務所で見る。私の他にはルビーとMEMちょと、妹に連れてこられたアクア。ルビーとMEMちょは楽しみだとニコニコしているけどアクアは苦い顔。番組でどんなことやらかしたのやら。

 

「あ、始まるよ」

 

 明るいジングルの後、司会のタイトルコールで番組が始まった。このクイズ対決は四半期ごとに行われている特番で、今回の出演者の中には他のクイズ番組でも活躍しているアイドルもいる。SNSでの視聴者の反応を見ると、そのアイドルが優勝候補らしい。

 

『そして次は初登場、星野アクアちゃんです』

『よろしくおねがいします』

 

 最初は出演者の自己紹介。それぞれの簡単なプロフィールが流れる。アクアはB小町twinsの武道館公演が決まって、勢いのある双子グループの姉と紹介されていた。

 

『アクアちゃんはこの番組初めてだけど、クイズは得意なの?』

『自信はあります。クラスで一番テストの点がいいんです。母校の威信をかけて頑張ります』

『いい意気込みだね。それで、その母校の偏差値は?』

『40です』

 

 画面の向こうで笑いが起きる。『今回のオモシロ回答枠かな?』といった視聴者の反応。アクアの顔はにこやかなまま。いつもより目が輝いている気がする。クイズ番組に出てみたかったのかしら。

 クイズが始まった。最初の方は知識より閃きが必要な問題。

 

『アクアちゃん押し負けちゃったね』

『うーん、わかってたんですけどね』

 

 次はアクション要素のあるクイズ。

 

『お疲れですねアクアちゃん』

『体力使うのはいつも妹に任せてるんです』

 

 アクアはちょくちょく正解を出すくらいで真ん中くらいの成績。番組中盤まではそれほど目立ってはいない。だけど最後の早押しクイズになって、アクアは弾けた。

 

『現存十二天守で最も北に……』

『弘前城!』

『三大栄養素とは、脂質・炭水化物・あと……』

『タンパク質!』

『平成のギャル語で、チョベリグといえば何の……』

『超ベリーグッド!』

 

 ほとんどの問題を瞬殺していくアクア。それまでトップだった優勝候補のアイドルをあっという間に捲っていく。

 

「さっすがおねえちゃん!」

「すごいねアクたん。問題のジャンル関係なく正解していってる……」

「普通にやったら優勝するってのマジだったのね。にしてもガチ過ぎなんじゃ?」

 

 アクアは「だって問題簡単だったし」なんて言い訳を呟いてる。

 

『ゴーギャンが描いたこの絵画のタイトルは何でしょう?』

『はいっ!』

『おおっと、またアクアちゃんが押した! さあ答えは?』

『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』

『正解! 優勝は、星野アクア!』

 

 最後の問題もアクアが答えて他の出演者の反撃すら許さない。クイズ番組はアクアが圧勝した。

 アクアはカメラに向かってピースして喜んでいる。珍しいアクアの満面の笑顔だ。やっぱ顔が良いなこいつ。

 

『アクアちゃんすごいね。予習とかしてきたの?』

『授業でしっかり聞いていたところが出題されたので、学校の先生のおかげですね』

『いやそんな問題ばかりじゃ無かったでしょ!』

『それに、やっぱり妹にはおねえちゃんのかっこいいところ見せたいですから、頑張りました!』

 

 そんなアクアの感想で番組が終わった。

 

「……まあ、視聴者の印象には残るんじゃない?」

「アクたん、これ大丈夫? 終わった後で他の出演者の人に詰められなかった?」

「目立ちすぎたとは思ったから謝罪はしておいたの。優しい人ばかりで助かったわ。あと怖いのは視聴者の反応ね」

「大丈夫じゃない? 番組の反応見てるけど、おねえちゃんのインパクトが強すぎてネガティブな反応はあんまり無さそう」

 

 私もスマホで反応を調べてみる。

 ざっと見てみると『強すぎ。こんな隠し玉どこにいたんだ』『回答早いな。これならクイズ王にも勝てるんじゃない?』『大人っぽいけどホントに高校生?』『母校ってどこだよって調べたら陽東高校じゃん。芸能科って実は頭良くないと入れないのか?』『シスコンなら仕方ない』との言葉が並ぶ。確かに批判的なものはそこまで多くない。他の出演者もSNSで反応してるけど『アクアちゃん強かった! 次は負けない!』『ラスボスがいました。現場からは以上です』と、アクアを賞賛したり彼女に慄いている投稿ばかりだ。とりあえず炎上の心配は無いだろう

 

「ルビーちゃんニッコニコだね」

「えー? だってみんなおねえちゃんのことほめてるんだよ。嬉しいにきまってるじゃん」

「シスコン……。でも結構面白かったわ。アクアも楽しそうだったじゃない」

「番組の間はクイズに夢中になれたし楽しかったわ。けど流石にやり過ぎちゃったから、あの番組はもう呼んでくれないでしょうね」

 

 アクアは少し残念そうに呟いた。

 

 その後、アクアがこのアイドルクイズ番組に呼ばれることは無かった。ただ番組の中では殿堂入りみたいな扱いでちょくちょく話題に出ているらしい。一回の出演で特大のインパクトを残せたと言っていいだろう。アクアには別のクイズ番組のオファーが続々来ているらしく、ミヤコさんも嬉しそうだ。

 ただ、アクアは物憂げな表情を見せている。

 

「どしたのよ。知名度上がって良かったじゃない」

「あの番組が放送された後から、ネットで『魔王』とか『ラスボス』とか『シスコン大魔神』とか呼ばれてる」

「あーそれは……。気の毒ね」

 

 アクアに本気を出すよう背中を押しただけの私は悪くない。

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