家から電車を乗り継いだ先、駅から少し歩いたところに目的の場所はある。
「ここに来るのも久しぶりね」
都内にある墓苑。そこにはアイが眠るお墓がある。まずは掃除から。墓石を拭き、供えられた花を入れ替える。
アイのお墓にはあまり来なかった。どうしても事件の時に何もできなかった過去の自分を思い出してしまうから。精々がお盆や年始、ルビーやミヤコさんと一緒に来るくらいだ。親不孝な娘だと思う。それでも今日はアイのところへ行きたい気分だった。
墓石に向かって手を合わせる。アイ。私達は元気にやってるよ。
ミヤコさんとの話し合いが無事に終わったらしく、壱護さんが苺プロに帰って来た。今はバイトとしてミヤコさんにこき使われている。壱護さんの復帰でミヤコさんの忙しさもどうにか落ち着いた。私達はもちろんかなのサポートも手厚く出来るようになって早速連ドラの出演も決まり、彼女も喜んでいた。苺プロは順調だ。ただ気になることもある。
カミキヒカル。私達の父親かもしれない人物。
「アイ。カミキとはどういう関係だったの? カミキはどんなやつなの?」
思わず口から零れる。
アイは父親のことを話さなかった。子供の私達にも、壱護さんやミヤコさんにも、担当医だった雨宮芹那にも。口に出したくもないほどの人だったのだろうか。それでも彼との子である私やルビーには愛情を注いでくれた。嫌いな人との子供をそこまで愛するだろうか。私にはやはりアイの気持ちがわからない。
ともかくカミキについて知っておきたい。アイのことや姫川さんのことなど、彼が当時のことを話せば特大のスキャンダルになる。私達への影響がどうなるか想像もつかない。彼がどんな人物か、当時何が起こっていたかを知らないと対策も出来ない。
とりあえずは探偵にカミキの調査をしてもらっている。特に彼がアイを追って宮崎に行ったことやアイの事件の犯人と繋がりがあったかについて。あかねにもカミキのことについて調べてもらっている。彼が劇団ララライに所属していたから、あかねなら劇団の人に詳しい話が聞けるかも知れない。
どちらもまだ報告はない。一体どんな報告が来るのか。今から恐ろしい。
「アイ。私達を見守っていてね」
そろそろ帰ろうとアイに声を掛けてお墓から離れる。墓苑を歩いていると一人の女の子が見えた。幼稚園か小学校低学年くらいだろうか。浮世離れした雰囲気のある、とても綺麗な子だ。黒い服を着ているから彼女もお墓参りに来たのか。周りを見ても彼女の保護者らしき人は見当たらない。迷子だろうか。ともかくあんな小さい子が一人になっているのは放っておけない。
「どうしたの? おかあさんとはぐれちゃったの?」
しゃがんで女の子に声を掛けると、女の子はどうしてか、むっとした表情をした。
「君たち姉妹は二人とも私を子供扱いしてくるね」
私達B小町を知っているみたい。ファンの子? 二人とも、ということはルビーにも会ったのか。こんな子イベントとかにいたかな? いたら絶対忘れない見た目の子なんだけど。
「全く。カミキヒカルについて忠告してあげようと思ったのに。星野アクアさん? いや、雨宮芹那さんと言ったほうがいいかな」
「え?」
女の子は私の前世の名を言った。それにカミキの名前まで。この子は何者だ?
「貴女は一体?」
「私は、君達を正しい運命に導いてあげようとしている。そんな存在だよ」
「運命? 導く? 神様みたいなことを言っているね」
「似たようなものだからね」
女の子はそう言った。私の前世を知っているあたり、本当に神様なのかも知れない。周りでカラスが鳴いている。
ちょうどよかった。神様に聞いておきたいことがあった。
「神様なら、前から聞きたいことがあったの」
「ん?」
「私が前世の記憶を持って生まれたのはどうして? アイを助けるためじゃなかったの? 貴女の目的は? もしかして死神? アイを救えなかったのにのうのうと生きている私を殺しに来たの?」
「い、いやいや、何を言っているんだい? 私は死神じゃないよ」
女の子が少し焦っている。違うのか。
「だったらどうして私達を転生なんかさせたの? 神様ならどうしてアイを救ってくれなかったの? 正しい運命って何? アイが殺されるのは正しい運命だったって言うの? アイはアイドルの幸せも母としての幸せも手に入れるって夢を見てて、もう少しで手が届くとこまでいって、それなのに……」
どんどん言葉がヒートアップしていく。止められない。
「それなのにあんな末路だなんて、あまりにも不憫じゃない!? アイが殺されるのが正しい運命だったって言うなら、私はあなたを……」
そこでどうにか言葉を止めることが出来た。女の子は目を丸くして私を見ていた。怖がらせてしまっただろうか。溜息を吐く。神様とか言っても幼い子供だ。そんな子相手に何を言っているのだろう。
「ごめんなさい。怖い思いをさせたわね」
「いや……ここまで思い悩んでるとは思ってなかった。君はまだ、自分を許していないのか」
「本当にごめんなさい。それじゃ、もう行くわね」
子供相手に情けないところを見せてしまって恥ずかしい。会話もそこそこに立ち去る私の背中越しに女の子の声がした。
「これからもっと大変なことが起こるのに。そんな様子では乗り越えられないかもしれないよ」
「え?」
振り返ると女の子は居なくなっていて、ただカラスの鳴く声だけが聞こえた。
★
翌日、私とルビーは一緒に家を出た。
「今日は久しぶりにお仕事一緒だね」
「そうね」
「だからおねえちゃん、もうちょっと嬉しそうにしてよ」
「嬉しいわよ。ただちょっと最近考えることが多くて」
あの少女と会った後、家に帰った私は自己嫌悪で頭を抱えていた。幼い子に当たり散らすなんて何をやっていたのか。それにあの女の子も言っていた。きっとアイのことで私を責めているのは私自身しかいないのだろう。本当に、もう自分を許してもいいのかな。
ルビーと一緒に事務所へ入ると、かなが何故かソファに突っ伏していた。
「おはよ。どしたの先輩? この前は連ドラの出演決まったってめっちゃ喜んでたのに」
ルビーが尋ねると。かなは突っ伏したまま器用にスマホを操作して画面を見せてきた。
「えーっと? うっわ最低」
画面にはとあるニュース記事。有名な映像監督が何人ものタレント相手に不倫していたとある。相手とされるタレントには有名な女優や売り出し中の若手もいて、芸能ニュースはこのスキャンダル一色だ。
「この監督、かなが出る予定の連ドラの監督よね」
かなが出演する予定だった連ドラはアイが初めて主演をしたドラマのリメイク作品。ゆらさんが主演だし、どんなドラマになるか私も楽しみにしていたのだけど。ざっと記事を見たけど監督の相手として並んでいる名前にゆらさんの名前が無くて少し安堵する。
「これでドラマの話がなくなりそうなのよ。ほんっと最悪。色情魔。女誑し。大体あの監督は女癖が悪いって有名だったでしょ。何でそんなのに近づくのよ」
ひとしきり愚痴を呟いた後、かなはゆっくりと体を起こした。
「まあでも、若手の子の気持ちはわからないでもないわね。私は運よくこの事務所に拾われて仕事やれてるけど、アクアと再会してなかったらフリーのままで仕事も無くて、なりふり構わず仕事を取ってくる方法を選んだかも。なんて。もしもの話は考えたくないわね」
「そう? かなは昔からプロ意識高かったから思いとどまりそうだけど」
「私を買い被り過ぎよ。何度も心が折れそうになってた。本当、運が良かったわ」
しみじみと言うかな。それでも最後まで折れなかったのは、かなが強い子だからだろう。
「あ、そろそろ時間だ。じゃあ先輩。わたしたちは、お仕事、行ってくるね!」
「わざわざ仕事を強調するんじゃないわよこのクソガキ。今度は連ドラの主演やるから見てなさい」
かなとルビーのじゃれあいは微笑ましい。手をひらひら振るかなに振り返して事務所を出た。
それにしても、あの監督はかなの言う通り女癖の悪さで有名だった。不倫の噂も絶えずあったけど、何で今になって暴露記事が出たのだろうか。まさか、アイのドラマがリメイクされるのが気に食わなかった? まさか、そんなことないわよね?