「んー今日も可愛い! 可愛いよー!」
幼稚園の制服を着ているわたしは前世からの推しに褒められている。転生って最高だ。
わたし、星野ルビーには前世の記憶がある。天童寺さりなって名前だったわたしは、幼いころに重い病気になって、何年も病院で過ごして、家族の一人のお見舞いに来なくたって、12歳で死んだ。ものすごく寂しい人生だった。そんな中でも心の支えになってくれた人が二人いる。
一人はB小町のアイドル、アイ。自分と同じ年なのに、テレビの画面越しでもわかる眩い輝きに夢中になって応援していた。
もう一人は雨宮芹那という若い女医さん。メガネをかけたクールな見た目の人だったけれど、親身になってくれて、何だって話せた。本当にこんなおねえちゃんがいてくれたらいいのにと何度も思った。アイの映像を見ることと芹那せんせとの会話だけが病室での楽しみだった。
生まれ変わって、前世でほしかったものを二つとも手に入れていた。アクアという優しいおねえちゃんが隣にいて、ママはアイ本人だ。前世で応援していたころ、ママは地下アイドル程度の人気だったのに、今やテレビや雑誌、いろんな場所でママを見ることができる。芸能界の高みへ登っていくママを一番近くで見られるのは幸せだった。
ただ複雑に思うこともある。ママの仕事が忙しくなっていて触れ合う時間が少なくなっていく。一日全く会えない日だって増えていった。そんな日はおねえちゃんと一緒にB小町のライブDVDを見ることにしていた。
「ここ、ここのターン神すぎて永遠に見れる」
「わかる。振り向きざまの流し目やばい。視線の先の人全員落としたね今」
話のわかる人がいてよかった。オタクトークをしながら過ごす日々は寂しくない。ほとんどずっと病室で独りぼっちだった前世と比べると、夢のような時間だ。
けれど目の前の問題が、自分が居るのは現実だと思い知らされる。
気づいたのはママのダンスをちょっと真似してみようと踊ったときだった。
「あれ?」
全く踊れない。思っていた動きをしようとしてみても頭がストップをかけ、転んでしまう。
歩くとか走るとかいった動作はできる。ただ、それ以上の、ターンやステップといった動作になると転んでしまう。
何度やり直しても、同じところで転ぶ。
もしかして前世と同じように体が動かせないのかな。思い出すのは病院で過ごした日々。歩こうとしても、どんなに頑張っても転んでしまう。どんどん体が動かなくなって、最後には寝たきりになって、このまま死んじゃうんだってベッドの中で過ごす。そんな日々。思い出したくないことが頭に浮かびそうになる。私は踊ることを避けるようになった。
「お遊戯の時間ですよー。先生と一緒に踊りましょうね」
ある日、幼稚園でダンスを踊ると聞いたわたしは教室から逃げ出した。
「ルビー。どうして逃げたの?」
慌てて追いかけてきたおねえちゃんが聞いてくる。
「……わたし、ダンス下手だから。何度か挑戦したけどできなかった。運動はできる気がしない」
「いつも元気に幼稚園の運動場で遊びまわっているじゃない。……もしかして、前世の影響?」
「……」
木の影でうずくまるわたしに、おねえちゃんは少し厳しい口調で言った。
「これまでのことは知らないけど。ルビーの人生は長いんだよ。本当にそれでいいの?」
普段は優しいのに後ろ向きなことを言うとすぐに叱ってくれる。おねえちゃんの言葉は前世の芹那せんせを思い出させた。
「えっと、こうやって……。あ」
ちょうど人が居なかった苺プロのダンスルームでわたしはお遊戯を練習していたけど、うまくできない。やっぱりわたしは踊れないのかなと考えているとママが入ってきた。
「あれ、ルビー。ダンスの練習? ママも一緒にやろっと。今度のライブで昔の曲やるから練習しないと」
スマホで曲を流しながら踊るアイ。推しのダンスを特等席で見られるの最高。あれ?
「ママ、そこの振りちょっと変。武道館の時もっと手、高かったよ」
「あれ、そうだっけ。ルビーはよく覚えてるね。どんなだっけ」
「ここはもっとこう……。あ」
ふらついて倒れる。ママが抱き起してくれた。
「ルビーの動き方、なんか倒れる準備してるみたい」
「うん。だって、転ぶの怖くて……」
「転ぶのを恐れたらもっと転んじゃうものなんだよ? もっと堂々と、胸を張って立つの。大丈夫、ママを信じて」
夜。わたしは家族一緒に眠っている寝室からひっそりと抜け出した。
家の一室。アイがいつもレッスンで使っている部屋に入る。
踊るのは怖い。けれど、推しの言葉に奮い立たなかったらファンではない。
一歩。一歩。ステップ。ターン。腕を伸ばして。胸を張って。
「……踊れてる」
(よかった。わたしも踊れる。アイみたいに。一番星のアイドルみたいに!)
「じゃあ次は、ママのダンスも踊ってみよう」
☆
『サインはB』を踊るルビーを、アイと私はドアの隙間からこっそりのぞいていた。
「よかった……」
ルビーが踊れていることに安堵する。あれほど嫌がっていたダンスを楽しそうに踊っていた。
「まだちょっと拙いところもあるけど、ほとんど完璧。もしかするとこの子……」
「そうだね。ホントすごい。私のダンスずっと見てくれてたんだ」
アイに抱きしめられた。
「いつか、言ったよね。我が子と共演するのが夢だって。ルビーとも一緒にステージで歌ったりできるかも。アクアもさ、アイドルにならない? 双子アイドルって話題になると思うよ?」
「私は……。見るのはいいんだけど、自分でやる勇気はあんまり」
「そっか。アクアも私に似てかわいいし、行けると思うんだけどな」
『STAR☆T☆RAIN』を踊るルビーを見ながら、私たちは母子の会話を楽しんだ。