アイより高く軽やかに   作:にいづま

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最近考えるんです。
タイトルにつけた『軽やかに』ってなんだろうって。


怒りの少女たち:かな

 頭を下げているアクアとあかねを見て、私とルビーは困惑していた。

 

「本当にごめんなさい。謝ってすむものじゃないと思うけど、ごめん」

 

 カミキと会ったこととその日にあったことを話したら個室のあるカフェに連れてこられた。私の隣には一緒に呼ばれたルビー、向かいに座るアクアの隣にはあかねがいる。

 

「何でアクアが謝るかわかんないんだけど。あと、何であかねがいるの?」

「カミキに会うのをもっと強く止めるべきだった。かなに怖い思いをさせた。だから、ごめん」

 

 アクアは本気で後悔しているようだ。

 

「何言ってるのよ。カミキがスキャンダル只中の人なのにちょっと仕事がもらえるかも何て期待してほいほい会いにいったのは私。アクアが謝ることなんて何一つない」

「だけど」

「だけどじゃない。この話は終わりよ」

「わかった。ごめん、かな」

 

 終わりと言ったのになお謝るアクア。そんなに私が引き抜かれるのがイヤだったのかしら。私の待遇はだいぶ改善されたからアクアが気にすることはないのだけど。

 アクアと私の話が終わったとみて、あかねが話し始めた。そういえばこの子が何でいるのか、まだ答えてもらってない。

 

「かなちゃん、私からもごめんなさい。もっと早くカミキのことを話すべきだった」

 

 そしてあかねにも頭を下げられた。何でよ。

 

「カミキはスキャンダルがあったから表立って動かないと思ってた。かなちゃんにこのタイミングで声を掛けるなんて……。そうか。もしかしたらこのタイミングしかなかったのかも」

「あかね。私とルビーを置いてけぼりにしないでくれる?」

「ごめん、最初から話すね。まずカミキヒカルについて」

 

 あかねは話し始めた。アクアと一緒にカミキヒカルのことを調査して、彼がアクアとルビーの父親だということ。そして人を操って才能あるタレントを潰すことで欲求を満たしている狂った男だということがわかったという。

 

「私達が調べた限りだけど、カミキヒカルはそんな人だよ」

「じゃあ、アクアがあいつと会うのを心配したのって」

「カミキは危険な人だから会ってほしくなかった。でも、カミキはスキャンダルの渦中。また火種になるようなことはしないだろうし、大丈夫だと思ってた」

「それでカミキに会った私が死にかけたからアクアは後悔してるのね。やっぱり謝らないといけないのは私じゃない」

 

 アクアは母親であるアイを亡くしたことが心の傷になっている。私の軽率さでアクアの傷をもう一つ増やしてしまうところだった。

 

「でもさ。何でこいつは先輩にしつこく会おうとしたの? 先輩を狙うだけなら会う必要ないのに」

 

 ルビーの疑問。ルビーはカミキの名前を聞いてからずっと不機嫌そうだ。ずっと姿を見せなかった父親が実はこんなのでしたと言われればそうもなるか。

 

「考えたんだけど、カミキは焦っているんだと思う」

 

 あかねはそう言って、持ってきていたバッグから週刊誌を取り出した。今週発刊されたばかりのもので、表紙の見出しの一つにカミキヒカルの名前がある。

 

「カミキヒカルはこの間の撮影中の事件のことでスキャンダルになっていた」

「事件の動機は被害者と加害者とカミキでの痴情のもつれなんじゃないかってネットの記事で見たわ」

「今週の週刊誌に載ってる記事は、それを発展させたものって感じかな」

 

 記事にはカミキヒカルの女性遍歴が載っていた。昔よく聞いた女優やアイドルの名前が並ぶ。ただ二人で食事をしていたとか噂程度のものから、一緒にどっかの部屋から出てくる写真があるなど信憑性のあるものまでさまざまだ。

 

「あれ? でもここに出てきてる人って」

「気が付いた?」

 

 カミキと関係があったと名前が挙がっている人は全てもう芸能界にいない。それも、薬物による中毒死、炎上が原因で自殺、交通事故で死亡など、もうすでにこの世にいない人も多数だ。

 

「この人たちみんな、あれの被害者ってこと?」

「これだけの人がカミキと関わりがあるって、警察も捜査してそうだけど」

「一つ一つの事件は手口も様々で、繋がりがあるわけじゃない。カミキと関連付けての捜査は出来なかったんだと思う」

「なるほど。ミッシングリンクってやつね。……推理小説か何かなの?」

「みっしんぐ? よくわかんないけど、要は警察には捕まえられないってことだね。じゃあ、あかねちゃんが焦ってるって言ったのは?」

 

 そういえば焦ってるとはどういうことだろう。あかねはちらと私の顔を見て、少し眉を寄せてルビーの疑問に答える。

 

「ルビーちゃん。関わった人が全員悲惨な目にあってる男から『食事行かない?』って誘われて、会いに行く?」

「ぜったい行かない」

「そうだよね。本人がどれだけ偶然だって言っても警戒される。女性と二人きりで会うなんてそれこそ無理だろうね」

「悪かったわねそんな奴についていく女で」

「まあまあ。かなちゃんはカミキの裏の顔を知らなかったんだし、私とアクアちゃんが伝えなかったのも悪いから。話を戻すけど、警戒されるとカミキは目的を果たせない。だから彼はかなちゃんと会う必要があった」

「カミキの目的って?」

 

 私が聞くと、あかねはルビーを見つめた。

 

「B小町twinsの殺害。アイさんによく似てるから、ルビーちゃんだけが狙いかもしれない。やり方にもこだわるなら、アイさんと同じようにドームライブ直前で『誰か』を使って玄関先で刺殺、みたいに考えていた。でも苺プロに元社長が帰ってきて、B小町の勢いも増してる。ドームライブまでの時間が短くなった。そして、週刊誌の記事。カミキは記者にマークされて、今後実行犯にしようとしてる人に接触することも難しくなる危険がある。カミキは早急に動く必要があった」

「それでチョロそうな先輩に声ををかけたんだ。その『誰か』にうってつけの人だったから」

「確かにあの男の口車に乗せられそうだったけど。でもほんと、ずいぶんと舐められたものだわ」

 

 怒りで声が震える。カミキにとって私はその程度。本命の二人の踏み台にすぎなかったらしい。

 

「あれは先輩を誘うのに失敗した。じゃあわたしもおねえちゃんも大丈夫?」

「わからない。もう手口にこだわらずに事件を起こすかもしれないから、引き続き注意が必要だよ。それに」

「まだ何かあるの?」

「週刊誌の記事で事件の背後にカミキがいるかもしれないって私達以外にも気づく人達も出てくる。警察も捜査をし直すかもしれない。その捜査の結果、カミキが逮捕されるなんてことになったら、まずいことが起きるかも」

「いいんじゃないの? あれが捕まるんなら」

「捕まった後で、カミキ本人がB小町二人の父親だと明かしてしまったら? アクアちゃんとルビーちゃんは犯罪者の娘になる。アイさんに子供がいたということも含めて、苺プロも巻き込んでの大スキャンダルになってしまう」

「最後の置き土産にB小町を炎上させて再起不能にするって? ひどい自爆攻撃ね」

「……なにそれ」

 

 ぞっとするほど低い声がルビーから聞こえた。思わず彼女を見る。顔から表情が抜け落ち、目が暗く澱んでいる。ルビーのこんな顔初めて見た。

 

「ドームまであと一息ってところなのに、こんなのに潰されるの? ふざけないでよ。わたしもだけど、おねえちゃんやミヤコさんたちがどれだけ頑張ってきたと思ってるの」

「ルビーちゃん、その気持ちわかるよ。カミキはかなちゃんに手を出した。かなちゃんがこれまで頑張ってきたこと。これからのこと。それを全部踏み潰そうとした。絶対に許せない」

 

 あかねは冷え切った瞳をしていた。彼女の後ろに殺気を含んだ怒気が見える。

 

「けど、許さないにしてもどうするの? カミキが私を殺そうとしたなんて証拠は残してないだろうし」

 

 私の疑問にアクアが答える。

 

「あかねと話していた計画があるの。私達を『犯罪者の娘』ではなく『被害者の娘』にする。そのためにはルビーとかなの協力がいるの。手伝ってくれる?」

「もちろん。なんでもやるよ」

「私も協力するわ。あんな奴に舐められっぱなしじゃ気が済まない」

 

 私達はその日、カミキヒカルを許さないことを誓い合った。

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