アイより高く軽やかに   作:にいづま

40 / 40
最近考えるんです。
タイトルにつけた『軽やかに』ってなんだろうって。


怒りの少女たち:かな

 頭を下げているアクアとあかねを見て、私とルビーは困惑していた。

 

「本当にごめんなさい。謝ってすむものじゃないと思うけど、ごめん」

 

 カミキと会ったこととその日にあったことを話したら個室のあるカフェに連れてこられた。私の隣には一緒に呼ばれたルビー、向かいに座るアクアの隣にはあかねがいる。

 

「何でアクアが謝るかわかんないんだけど。あと、何であかねがいるの?」

「カミキに会うのをもっと強く止めるべきだった。かなに怖い思いをさせた。だから、ごめん」

 

 アクアは本気で後悔しているようだ。

 

「何言ってるのよ。カミキがスキャンダル只中の人なのにちょっと仕事がもらえるかも何て期待してほいほい会いにいったのは私。アクアが謝ることなんて何一つない」

「だけど」

「だけどじゃない。この話は終わりよ」

「わかった。ごめん、かな」

 

 終わりと言ったのになお謝るアクア。そんなに私が引き抜かれるのがイヤだったのかしら。私の待遇はだいぶ改善されたからアクアが気にすることはないのだけど。

 アクアと私の話が終わったとみて、あかねが話し始めた。そういえばこの子が何でいるのか、まだ答えてもらってない。

 

「かなちゃん、私からもごめんなさい。もっと早くカミキのことを話すべきだった」

 

 そしてあかねにも頭を下げられた。何でよ。

 

「カミキはスキャンダルがあったから表立って動かないと思ってた。かなちゃんにこのタイミングで声を掛けるなんて……。そうか。もしかしたらこのタイミングしかなかったのかも」

「あかね。私とルビーを置いてけぼりにしないでくれる?」

「ごめん、最初から話すね。まずカミキヒカルについて」

 

 あかねは話し始めた。アクアと一緒にカミキヒカルのことを調査して、彼がアクアとルビーの父親だということ。そして人を操って才能あるタレントを潰すことで欲求を満たしている狂った男だということがわかったという。

 

「私達が調べた限りだけど、カミキヒカルはそんな人だよ」

「じゃあ、アクアがあいつと会うのを心配したのって」

「カミキは危険な人だから会ってほしくなかった。でも、カミキはスキャンダルの渦中。また火種になるようなことはしないだろうし、大丈夫だと思ってた」

「それでカミキに会った私が死にかけたからアクアは後悔してるのね。やっぱり謝らないといけないのは私じゃない」

 

 アクアは母親であるアイを亡くしたことが心の傷になっている。私の軽率さでアクアの傷をもう一つ増やしてしまうところだった。

 

「でもさ。何でこいつは先輩にしつこく会おうとしたの? 先輩を狙うだけなら会う必要ないのに」

 

 ルビーの疑問。ルビーはカミキの名前を聞いてからずっと不機嫌そうだ。ずっと姿を見せなかった父親が実はこんなのでしたと言われればそうもなるか。

 

「考えたんだけど、カミキは焦っているんだと思う」

 

 あかねはそう言って、持ってきていたバッグから週刊誌を取り出した。今週発刊されたばかりのもので、表紙の見出しの一つにカミキヒカルの名前がある。

 

「カミキヒカルはこの間の撮影中の事件のことでスキャンダルになっていた」

「事件の動機は被害者と加害者とカミキでの痴情のもつれなんじゃないかってネットの記事で見たわ」

「今週の週刊誌に載ってる記事は、それを発展させたものって感じかな」

 

 記事にはカミキヒカルの女性遍歴が載っていた。昔よく聞いた女優やアイドルの名前が並ぶ。ただ二人で食事をしていたとか噂程度のものから、一緒にどっかの部屋から出てくる写真があるなど信憑性のあるものまでさまざまだ。

 

「あれ? でもここに出てきてる人って」

「気が付いた?」

 

 カミキと関係があったと名前が挙がっている人は全てもう芸能界にいない。それも、薬物による中毒死、炎上が原因で自殺、交通事故で死亡など、もうすでにこの世にいない人も多数だ。

 

「この人たちみんな、あれの被害者ってこと?」

「これだけの人がカミキと関わりがあるって、警察も捜査してそうだけど」

「一つ一つの事件は手口も様々で、繋がりがあるわけじゃない。カミキと関連付けての捜査は出来なかったんだと思う」

「なるほど。ミッシングリンクってやつね。……推理小説か何かなの?」

「みっしんぐ? よくわかんないけど、要は警察には捕まえられないってことだね。じゃあ、あかねちゃんが焦ってるって言ったのは?」

 

 そういえば焦ってるとはどういうことだろう。あかねはちらと私の顔を見て、少し眉を寄せてルビーの疑問に答える。

 

「ルビーちゃん。関わった人が全員悲惨な目にあってる男から『食事行かない?』って誘われて、会いに行く?」

「ぜったい行かない」

「そうだよね。本人がどれだけ偶然だって言っても警戒される。女性と二人きりで会うなんてそれこそ無理だろうね」

「悪かったわねそんな奴についていく女で」

「まあまあ。かなちゃんはカミキの裏の顔を知らなかったんだし、私とアクアちゃんが伝えなかったのも悪いから。話を戻すけど、警戒されるとカミキは目的を果たせない。だから彼はかなちゃんと会う必要があった」

「カミキの目的って?」

 

 私が聞くと、あかねはルビーを見つめた。

 

「B小町twinsの殺害。アイさんによく似てるから、ルビーちゃんだけが狙いかもしれない。やり方にもこだわるなら、アイさんと同じようにドームライブ直前で『誰か』を使って玄関先で刺殺、みたいに考えていた。でも苺プロに元社長が帰ってきて、B小町の勢いも増してる。ドームライブまでの時間が短くなった。そして、週刊誌の記事。カミキは記者にマークされて、今後実行犯にしようとしてる人に接触することも難しくなる危険がある。カミキは早急に動く必要があった」

「それでチョロそうな先輩に声ををかけたんだ。その『誰か』にうってつけの人だったから」

「確かにあの男の口車に乗せられそうだったけど。でもほんと、ずいぶんと舐められたものだわ」

 

 怒りで声が震える。カミキにとって私はその程度。本命の二人の踏み台にすぎなかったらしい。

 

「あれは先輩を誘うのに失敗した。じゃあわたしもおねえちゃんも大丈夫?」

「わからない。もう手口にこだわらずに事件を起こすかもしれないから、引き続き注意が必要だよ。それに」

「まだ何かあるの?」

「週刊誌の記事で事件の背後にカミキがいるかもしれないって私達以外にも気づく人達も出てくる。警察も捜査をし直すかもしれない。その捜査の結果、カミキが逮捕されるなんてことになったら、まずいことが起きるかも」

「いいんじゃないの? あれが捕まるんなら」

「捕まった後で、カミキ本人がB小町二人の父親だと明かしてしまったら? アクアちゃんとルビーちゃんは犯罪者の娘になる。アイさんに子供がいたということも含めて、苺プロも巻き込んでの大スキャンダルになってしまう」

「最後の置き土産にB小町を炎上させて再起不能にするって? ひどい自爆攻撃ね」

「……なにそれ」

 

 ぞっとするほど低い声がルビーから聞こえた。思わず彼女を見る。顔から表情が抜け落ち、目が暗く澱んでいる。ルビーのこんな顔初めて見た。

 

「ドームまであと一息ってところなのに、こんなのに潰されるの? ふざけないでよ。わたしもだけど、おねえちゃんやミヤコさんたちがどれだけ頑張ってきたと思ってるの」

「ルビーちゃん、その気持ちわかるよ。カミキはかなちゃんに手を出した。かなちゃんがこれまで頑張ってきたこと。これからのこと。それを全部踏み潰そうとした。絶対に許せない」

 

 あかねは冷え切った瞳をしていた。彼女の後ろに殺気を含んだ怒気が見える。

 

「けど、許さないにしてもどうするの? カミキが私を殺そうとしたなんて証拠は残してないだろうし」

 

 私の疑問にアクアが答える。

 

「あかねと話していた計画があるの。私達を『犯罪者の娘』ではなく『被害者の娘』にする。そのためにはルビーとかなの協力がいるの。手伝ってくれる?」

「もちろん。なんでもやるよ」

「私も協力するわ。あんな奴に舐められっぱなしじゃ気が済まない」

 

 私達はその日、カミキヒカルを許さないことを誓い合った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

姫川大輝は逆行する_が、どうにも弟が弟じゃない。(作者:ある日の残り香)(原作:推しの子)

全てが終わってしまった後、姫川大輝は一人その人生に幕を下ろそうとしていた。だが、次に目を開くとそこは過去……『東京ブレイド』のスタッフ顔合わせの日だった。▼姫川大輝は今度こそ弟を救うと決意し、現場入りするが、そこには"妹"がいた。▼姫川大輝の逆行が、始まる。▼※小説書くのは初めてなのでなんもわからないです。▼※アンチ・ヘイトは念のためです…


総合評価:1921/評価:8.58/完結:28話/更新日時:2026年01月05日(月) 04:30 小説情報

嘘が壊す前に(作者:nazuna4849)(原作:推しの子)

カミキヒカルを救済するお話。アイがカミキヒカルのことを周りの大人たちにちゃんと相談すれば、ハッピーエンドになると思うの。▼※初めて小説書いたので暖かい目で見てください▼


総合評価:157/評価:7.2/連載:5話/更新日時:2026年03月10日(火) 22:26 小説情報

うろ覚えが雨宮吾郎になったけどさりなちゃんがアクアになってた。(作者:邪神ツクヨミ)(原作:推しの子)

ツクヨミ「やっべミスった」▼雨宮吾郎からルビーになった原作受動喫煙転生者が嘘に嘘を重ねまくった結果取り返しのつかないことになる話。▼(元タイのミリしらは誤用してたので改題しました)


総合評価:8030/評価:8.72/連載:8話/更新日時:2025年12月09日(火) 10:12 小説情報

男女比がおかしい世界に産まれました(作者:大気圏突破)(原作:推しの子)

雨宮吾郎は星野アイの出産直前に何者かによって殺められてしまった。しかし彼の魂は推しのアイドルである星野アイの息子『星野アクア』として誕生するが、産まれた世界は何かがおかしい。▼テレビを点ければ電車内で男性の尻を触ったことで逮捕される女性のニュースが流れ、国会では男性保護法案が制定されていた。極めつけは生みの親である星野アイが男装アイドルとして活動している▼「…


総合評価:2392/評価:7.39/連載:36話/更新日時:2025年11月04日(火) 22:55 小説情報

一番星の子(作者:孤独なバカ)(原作:推しの子)

歌好きの主人公が転生した先は推しの子である星野アイの子供だった。前世の曲を推しの子世界で歌って星野アイを超えようとするとありふれた話。▼曲は曲名のみ使用。歌詞は使わないつもりです。▼ごめんなさい。タイトルかぶりがあった為タイトル変更してます


総合評価:2282/評価:8.24/連載:23話/更新日時:2026年03月27日(金) 18:40 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>