アイより高く軽やかに   作:にいづま

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今更ですがタイトルは伴名 練の短編「ひかりより速く、ゆるやかに」をもじったものです。


二人で:ルビー

 キレイに整えられた石畳の上を歩く。空は良く晴れていて、たまに吹くそよ風が気持ちいい。

 今日の仕事はB小町twins最後の写真集の撮影。私の隣にはおねえちゃん。衣装は私とおそろいの白のワンピースだ。

 

「今日は晴れて良かったね」

「そうね。今日の撮影が駄目になったら次はいつ出来るかわからないから」

 

 今は撮影の休憩時間。息抜きに撮影場所の公園を二人で歩いていた。

 

「今日が写真集の撮影で、明日は新曲の収録。明後日はトーク番組だっけ? 二人のお仕事が続くね」

「ずっと別々で仕事をしてたのに、皮肉だわ」

 

 おねえちゃんが卒業発表してから壱護さんが積極的に動いて、これで最後だからと二人での仕事がどんどん入って来ている。卒業記念のグッズもいっぱい出す予定で、今撮影しているの写真集もその一つ。稼ぎ時を外さないところはさすがに元社長だけあると思う。

 今までは同じ家に住んでいるのに、おねえちゃんに会うのは朝出かける前に会うか夜家に帰った時に会うかどちらかくらいだった。最近はずっと二人での仕事。おねえちゃんの卒業が理由だとわかっていても、ちょっとうれしい。

 二人で公園のベンチに座る。おねえちゃんは少し疲れた顔。ここ最近は寝不足気味と言っていたから心配だ。

 

「おねえちゃん、最近休めてる?」

「あんまり。でももう最後だし、頑張らないと」

「無理し過ぎないでね」

「私なんかを応援してくれた人に出来る限りのことはしておきたいの」

 

 アイドルに乗り気じゃなくて、自己評価も低かったおねえちゃん。そんなおねえちゃんは自分を好きでいてくれる人がいるってことが最初はどうも信じられなかったみたい。デビューした頃、おねえちゃんへ宛てたファンレターが届いた時、『私のファンっているの?』って驚いた顔をしていたのを思い出す。わたしは何言ってんだこいつって思って見てたんだけど。

 そんなおねえちゃんは自分のファンに何ができるかってずっと考えてきた。卒業することを決めてからは、応援してくれたせめてものお返しとして自分のファンにいろんなものを残していこうとしている。もちろんわたしも協力している。二人でやってきたことの思い出を形にして残していきたい。

 

 ベンチに座って景色を眺める。撮影の合間だけど、久しぶりのゆっくりできる時間だ。

 しばらくのんびりしていると、おねえちゃんが呟いた。 

 

「もうすぐドームライブ。アイが立てなかったステージに立つのね」

「そうだね、まだ実感がわかないけど」

「ルビーは怒るかもしれないけど、ドームライブが決まったらやりたいことがあった」

「なに? やりたいことって」

「私達を産んでくれた人を公表すること」

「ママの秘密をみんなに言おうとしてたの?」

 

 驚く私。おねえちゃんは続ける。

 

「アイの事件の後、世間は一週間でアイのことを話題にしなくなった。あれだけのアイドルが、私の人生を支えてくれたアイドルが忘れ去られるのが悔しかった。だからB小町twinsがドームライブをするくらい大きくなったら、アイのことを話すつもりだった。私達を必死で育てる傍らで地下アイドルからトップまで登り詰めようとしていた、すごい人がいたんだって。でも、もう無理ね」

 

 そこまで言って、おねえちゃんは悲しそうに顔を伏せた。

 

「私達の母親がアイだと公表したら、必然的に父親は誰かって話になる。私はカミキに似ているから、アイとカミキの関係もすぐに判明する。カミキに注目が集まっている今、彼が隠し子を作ってたなんて知れたら苺プロが吹き飛ぶわ」

「もう私達のママがアイだって公表したくてもできないね」

「カミキはアイを殺すほど執着していた。もしかしたら、彼が壊れたのはアイと別れたことが原因かもしれない。でも私達にとってはアイは大切な母親。なんだけど、世間の人はそう見てはくれないでしょうね」

 

 わたしはアイの秘密、わたしたちがアイの子供だということをずっと隠していきたいと思っていた。それがママの願いだと思っていたから。けれどおねえちゃんの思いもわかる。わたしだってママのことを自慢の母親だってみんなに言いたい。でもそれは、いまだにくすぶっているカミキの話題に新たにガソリンを注ぐことになる。

 本当にカミキってろくなことをしてないな。せんせを殺し、ママを殺し、今もわたしたちを悩ませている。

 そんなことを考えていたら、おねえちゃんでない人の声が聞こえた。

 

「お姉ちゃん、顔が怖いよ」

 

 いつの間にか小さい女の子が私達のいるベンチのそばにいた。神秘的でキレイな子。宮崎で会った子だ。

 

「久しぶりだね。お姉ちゃん達」

「あなたは、アイのお墓で会った子ね。あの時はごめんなさい」

「いや、気にしていないよ」

 

 おねえちゃんが目の前の子に謝ってる。何でだろう?

 

「おねえちゃんもこの子と会ったことあるの? わたしは宮崎で会ったんだけど」

「そういえばルビーにも会ったみたいなこと言ってたわね。私は東京でルビーは宮崎。あなたはどこに住んでるの? 今日も一人だし、お母さん心配してない? どこに行くかちゃんと言ってきたの?」

 

 心配そうなおねえちゃん。産婦人科医だっただけあって、芹那せんせは小さい子に優しかったことを思い出す。

 

「君達は相変わらず私を子供扱いするね」

 

 でも女の子ちょっと不機嫌そうだ。おねえちゃんの言葉が気に食わなかったのか。

 

「それで、何しに来たの? もうそろそろ休憩が終わるから手短にしてほしいんだけど」

 

 わたしの言葉に女の子はふっと笑みを浮かべた。

 

「カミキについての話をしに来たんだよ。二人とも知りたいでしょう?」

「何? あいつがせんせやママを殺した証拠でも見つけたの?」

 

 芹那せんせの事件を調べていて、わたしが持っていたせんせのネームプレートにはせんせ以外にも複数の人の指紋がついていることがわかった。その中にカミキの指紋があるか検証してもらっている。もし指紋が見つかれば、あいつがせんせを殺した直接的な証拠ではないけれどせんせが死んだ場所にあいつがいたことの証明にはなる。

 でも、もしあいつの指紋があった場合でもわたしたちはこのことを公表しないと決めた。公表したらアイとカミキの関係がバレる可能性が高いから。だから、あいつがアイの秘密をバラした場合か、あいつが誰かを手に掛けたときに公表しようと決めた。できれば、おねえちゃんの卒業まではあいつは静かにしていてほしい。

 

 ただ、女の子の言葉はわたしたちが思いもしないことを言ってきた。

 

「そうじゃないよ。もう心配はいらないって話をしようと思ってね」

 

 そう言われて、わたしとおねえちゃんと思わず顔を見合わす。

 

「本来なら目の前にいた偶像に目が眩んだままの人だった。そんな人の心を変えるなんてね。アイドルってすごいものだね。いや、やらないはずの人がアイドルになったから運命が変わったのかな?」

「何言ってるの? もう心配いらないってどういうこと?」

 

 わたしの疑問に女の子は答えない。

 

「ともかくだ。君たちはもう何も気にしなくていい」

「本来なら? 本当は? あなたの言う運命って一体……」

 

 おねえちゃんは立ち上がって女の子に詰め寄ろうとした。

 

「アクアさん、ルビーさん。そろそろ撮影再開しまーす」

 

 撮影のスタッフさんの声。二人で振り向いて返事をして、顔を戻すともう女の子はいなかった。

 

『それじゃあね。ドームライブを楽しみにしているよ』

 

 カラスの羽ばたく音と一緒に、どこからか女の子の声が聞こえた。

 

 

 時間が過ぎるのは早い。あっという間にドームライブの前の日だ。

 わたしたちが警戒していたこともあるけど、カミキの方はあれから拍子抜けするほど何もなかった。おねえちゃんが雇った探偵にカミキを見張ってもらっているけど、炎上が下火になっている今もカミキはほとんど家から出ていないらしい。ママの時みたいに誰かを使う準備をしているのか。それとも本当に動いてないのか。あの女の子の言う通り、本当に心配ないのかな?

 

「明日で終わるのね」

 

 今、わたしはおねえちゃんの部屋ベッドで横になっている。もちろんおねえちゃんも一緒。絶対に眠れてないだろうおねえちゃんを眠らせるために一緒に寝ることにした。二人だとベッドがちょっと狭い。

 

「そうだね。おねえちゃんがわたしを世話するのも、わたしがおねえちゃんに守られるのも、もう終わり」

 

 わたしが言うとおねえちゃんはわたしの頭をなでてくれた。

 

「終わりじゃないわよ。アイドルじゃなくなるけど、私がルビーのお姉ちゃんなのは変わらないんだから」

「でも、大変じゃない? わたしの世話」

「大変だと思ったことは……いっぱいあったけど。でも全部無くなるのは寂しい。たまには頼って来てね」

「うん」

 

 ベッドの中でおねえちゃんに抱きしめられる。

 

「あ……」

 

 抱きしめられて思い出した。あのドームライブの前の日、わたしとおねえちゃんはこうやってママに抱きしめられて眠りについたこと。あの日、わたしはとてもはしゃいでいた。次の日にはママのドームライブが見られるんだって疑いもしていなかった。

 明日は大丈夫だろうか。あの時みたいにおねえちゃんやわたしが刺されることが起きたりしないだろうか。それを阻止するためにみんなが協力してくれた。それでも不安は残る。わたしの不安が伝わったのか、おねえちゃんの抱きしめる力が強くなる。

 明日は無事にドームライブができますように。わたしは目を閉じてママに祈った。

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