都内の一室。いつもは会議室として使われているこの部屋に、今日は多くのメディアの記者が集まっている。
「おねえちゃん、人がいっぱいいるね」
小学生みたいな感想を言うのは私の隣に座っているルビー。心なしか遠い目をしている。この子もこんな顔するのね。
もっとも、私もルビーと大差ない顔をしているだろう。二人でそんな顔をしていたら隣に座っている姫川さんが話しかけてきた。
「もっと堂々としとけよ。俺達が悪いことをしたわけじゃないんだ」
「そうですけど。緊張しますね、記者会見って」
今から行われるのは私達姉妹と姫川さんの関係を明かす記者会見。どうしてこうなったんだっけと、私はドームライブの後からのことを思い返していた。
☆
「え? 本当に? 人違いじゃなくて?」
ライブが無事に終わって次の日。私は混乱してばかりだった。ライブ当日の朝に見つかっていた身元不明の遺体がカミキヒカルだと判明したというニュースが飛び込んできたからだ。そして同時に先代B小町の新野さんが行方不明になっているという情報まで出てくる。何で? カミキは家から出てないんじゃないの? 新野さんとどんな関係があったの?
私はその情報に混乱するだけで済んだけど、ミヤコさんと壱護さんは対応に追われていた。カミキの死と同時期に失踪した女性。何か関係があるのではないかと誰もが思うことだ。苺プロにはメディアからの問い合わせの電話が相次ぎ、ミヤコさんは先代B小町が解散した後の新野さんについては何も知らないと電話に出るたびに話している。
「どうしよう」
事務所から離れて、かなとルビーと一緒に個室のあるカフェへ。そこはカミキ対策の話をする定番の場所みたいになっていた。
「カミキがB小町の人と関わりがあったなんてね。……もしかしてママの住所とかばらしたのも?」
「それは、もうわからないわね。でもカミキがB小町と関わりがあったと知られたら」
「ママの秘密がバレちゃうかもしれないね」
ルビーと話す中、かなは複雑な顔。
「この新野って人。あの時私を助けてくれた人なのよね」
「あの時?」
「カミキに引き抜かれそうになった後、トラックに轢かれそうになったって話したじゃない? あの時に車道から私を引き上げてくれた人よ」
思わぬところで新野さんの話が出てきた。かながいた交差点にたまたま居たというのは出来過ぎている。やはりカミキと繋がりが? カミキの炎上事件を起こしたのも彼女? と考えていたらあかねもお店に入って来た。もう一人を連れて。
「ちょっと待たせちゃったかな」
「よう、星野。有馬もいるのか。久しぶりだな。星野の妹とは初めてか」
あかねは姫川さんと一緒だった。
「姫川さん?」
「え? あの月9にも出て、おねえちゃんとも共演してた人、ですよね。何でここに?」
「何でって。俺もカミキの件では当事者の一人だからな」
「当事者?」
困惑するルビーとかな。そういえば教えてなかった。
「俺もカミキの子供なんだ。だから星野たちとは母親が違う兄妹になるな」
かなとルビーは二人揃って首を傾げ、やがて姫川さんの言葉の意味が理解できたのか『ええええ!?』と叫んだ。
☆
二人が落ち着いたところで会議を続ける。
「アクアちゃんとしては、やっぱりカミキの娘だってことは知られたくないって思ってる?」
「そうね。彼の娘であったと知られるのは避けたい」
前まではカミキが生きている事前提で計画を進めていた。その彼が死んでしまった今、知られなくても良いことを自ら発信する必要も無い。
「でも、B小町とカミキとの接点が出来ちゃったから、このままだと秘密が暴かれる可能性があるわけよね」
「そうなのよね。どうするか……」
私達の話を聞いていた姫川さんが口を開いた。
「こうすりゃいい。俺と星野達が兄妹であることを公表するんだ」
「え? わたしたちがカミキの娘だって公表するの?」
「違うかな。あくまで公表するのは『姫川さんとアクアちゃん・ルビーちゃん姉妹の父親が同じ』ってことだけ。父親のことは触れない」
「そうすればあとはメディアが勝手に勘違いしてくれるってわけね。父親は上原清十郎だって」
「でもそれは、姫川さんに迷惑がかからない?」
「いいんだよ。カミキの件で探られて欲しくないのは俺もだ。それならもっと大きなスキャンダルで隠してしまえばいい」
「確かにすごいスキャンダルではあるけど……」
姫川さんに血の繋がった妹がいるなんて、トップ俳優の一大スキャンダルだ。今はカミキ一色のメディアもこのネタには食いつくだろう。
「それに、アクアちゃん言ってたよね。アイのことを知ってもらいたいって」
「そっか。わたしたちの父親のことを話したら、ママについても話さなきゃいけないんだ。ミヤコさんは上原さんと接点ないもんね」
父親が違うとなると必然的に母親の話になる。私達は苺プロの社長夫妻の娘だというのは知られている話だ。まさかミヤコさんが不倫してたなんてことにするわけもいかないし……。
「姫川さんのお父さんが隠し子作ってたってことになるけどいいの?」
「いいんじゃないか? 女癖悪かったらしいから皆疑わないだろ。俺もあの父親ならありえるって思ったし」
今度、上原さんのお墓にお参りして謝ろう。絶対。
☆
どうせなら大々的に発表しようと姫川さんが提案して、関係各所でいろいろ調整して、今回の記者会見だ。数多くのメディアの記者が集まっている。やっぱり姫川さんのことだから注目されてるな。
会見が始まった。司会の挨拶の後で姫川さんが話し始める。
「この度は告知しました通り、私と星野アクアさん、星野ルビーさんとの関係についてお話します。まずは、こちらをご覧ください」
姫川さんが記者たちの前に一枚の紙を広げる。私的DNA型鑑定書。以前私が姫川さんに見せたものではなく、今回の会見のために取り直したものだ。
「ご覧のように、私と星野アクア・ルビーさんとは異母兄妹になります」
記者のざわめき。私も鑑定書を見た時は信じられない気持ちだったことを思い出す。とりわけ驚いているのはアイドルのゴシップを追っている記者たち。熱愛報道か!? と思って来たらこの発表で大慌てしている。用意していた記事を書き直すのだろうか。交際発表じゃないって事前に配信で言っていたのに。
ざわめきが落ち着くのを待って、姫川さんが話を続ける。
「私達の関係が判明したかの経緯を説明します。ご存じかもしれませんが私は幼少期に両親を心中で亡くしていました。そんな中、ある噂を耳にしたんです。両親の心中は隠し子がいたことにショックを受けての事だと。両親を失って家族というものに憧れがあった私は、半信半疑ながらも自分と血の繋がった人がいるのかもしれないと調査をしていました。そんな中で星野アクアさんと舞台で共演をした際に、彼女の母親が私の父と親交があったことを聞きました。もしかしたらとDNAを調べ、彼女が私の妹であると判明した、ということです」
姫川さんの言葉が終わって、一人の記者が手を上げて質問する。
『どうして関係を公表したのですか?』
「それは、端的に言うと私のわがままです。先程も少し話しましたが、私は家族というものに憧れをもっています。ですから二人の妹に兄として関わっていきたい。どういうものかはまだわかりませんが、兄のようなことをしていきたいと思っています。しかし妹はアイドルです。私も俳優として知られていますし、妹たちの近くにいれば彼女達のファンの皆さんにいらない心配をさせてしまう可能性がありました。なのでこの場を設けて兄妹であるとあらかじめ発表したわけです」
姫川さんは淀みなく答える。話し方や表情で『親のしでかしたことは後ろめたいが、それでも血の繋がった家族を見つけた喜び』みたいな微妙な感情を表現している。流石はトップ俳優。会場の雰囲気も姫川さんに同情的だ。
『あの、星野アクアさん、ルビーさんへ質問があるのですが』
別の記者から、今度は私達への質問。
『兄妹であることを知った時はどんなお気持ちでしたか?』
「とても驚きました。『東京ブレイド』の舞台でお世話になっていて、尊敬できる人だと思っていたので、そんな人と血が繋がっているなんて信じられない気持ちでした」
『今後はどう付き合っていきたいと考えていますか?』
「突然『おにいちゃん』ができたのでまだ戸惑っているんですけど、芸能界の先輩としてすごく心強いので、まずはお仕事のことをいろいろ教えてもらいたいと思ってます」
当たり障りの無さそうなものが続いた後、ついにその質問が来た。
「星野さんの母親は苺プロダクションの社長であったと記憶していますが、その母親が父親とは別の男性と関係をもっていたことについてどう思っていますか?」
母親についての質問。ルビーが答える。
「ミヤコさん……斎藤社長はわたしたちの父親とは関係ないです。会ったことも見たこともないんじゃないかな」
記者たち首を傾げる。ルビーの言葉の意味がわからないようだ。私もマイクを取る。
「ルビーの言葉通り、斎藤社長は私達の父親とは関係がありません。なぜなら、私達の実の母親は斎藤社長ではないからです」
記者がざわめく。ざわめきが収まらない内に私は言葉を続けた。
「私達の生みの親は、アイ。先代B小町のセンター、星野アイが実の母親です」
私の言葉に記者たちは大混乱になっていた。しばらく経って、混乱から回復した記者から質問が飛び出す。
『アイが何歳の時の子ですか?』
「私達を出産したときは16歳でした。母が1年ほどアイドルを休止していたときがありますが、その時に出産しました」
『アイさんはどんな母親でしたか?』
「いいお母さんでした。ミヤコさん、今の社長と二人で育ててくれていました。いつも笑顔で、忙しい時でもわたしたちと触れ合う時間を作ってくれてました」
矢継ぎ早の質問にルビーと二人で答えていく。そして、ある記者からとうとうあの事が聞かれた。
「アイさんが殺害された事件の時、お二人はどうしていましたか?」
あの時のことを話すのは、警官に事情聴取された時以来だ。
「あの事件の前の日はいつものように母娘三人で一緒に寝ていました。布団の中で、ドームライブ楽しみだねって笑い合っていたんです。朝になって、母と妹と3人で身支度をしていたら呼び鈴が鳴って、迎えが来たのだろうと母が玄関に行きました。私はまだ迎えが来る時間ではなかったから、おかしいと思って母を追ったんです。玄関へ続いている扉を開けたら、母が、見知らぬ男に刺されている姿が目に入りました」
あの日見たことは今でも鮮明に思い出せる。マイクを握る手が震えている。話し始めたら止まらなくなってしまった。もしかしたら私はあの日起きたことを誰かに聞いてほしかったのかもしれない。記者たちは先程までの喧騒が嘘のように静まり返っている。
アイが致命傷を受けてから命が尽きるまで全てを話した。話し終わって、自分が涙を流していることに気づいた。
「アイドルでありながら、未成年でありながら子供がいたアイに対して、思うことがある人は多いと思います。特に当時のファンの皆さんにとっては。ですが、アイは娘の私達を愛していたのと同じくらい、彼女なりに精一杯ファンの皆さんを愛していました。どうかそのことだけは信じてください」
頭を下げる。私の言葉で会見は終わった。
次回最終回になります。