その日。B小町のドームライブが予定された日にアイは家の玄関で男に刺され、死んだ。
霊安室のベッドの上。横たわるアイは眠っているかのように安らかな顔をしていた。ルビーはアイにすがって「ママ、ママ……」と泣きじゃくっている。私はもう二度と目覚めることのないアイを茫然と見つめていた。
霊安室から帰ったルビーはアイの死に対する心無いネットの反応に涙を滲ませながら怒り狂っていた。私はルビーを抱きしめる。
涙は流れない。私には泣く資格なんてない。玄関先、目の前でアイが刺され、息絶えるまでアイに抱きしめられていた私は、救急隊と警官が来るまで何も出来なかった。アイを刺した男に見覚えがあった。前世の私、雨宮芹那を殺した男だ。あの男はアイに子供がいることを知っていた。危険なストーカーがいることを私は知っていたのだから、もっと気をつけなければいけなかった。チェーンロックや、来訪者を確認したりするべきだった。それに、私の前世は医者だった。止血だってちゃんとして、命をつなぐことだってできたんじゃないか。そもそも、生まれてきてから私はアイのために何ができた? アイが望んだ、アイドルの幸せと家族の幸せ。どちらも叶えてあげられなかった。待ち望んだドームライブの直前でアイは死んだ。アイは『愛してる』と言ってくれたのに私は娘として全然愛を返してあげられなかった。アイのことを『お母さん』って何回呼んであげられただろう。後悔ばかりが頭に浮かんだ。
アイの葬儀はひっそりと行われ、私とルビーは斎場の外の車から葬儀の様子を見ていた。小さな葬儀場を囲む大勢のファンを見ながらルビーが言う。
「ママ、言ってた。わたしとアクアがアイドルになるんじゃないかって。おねえちゃんはなれると思う?」
ルビーは強い子だなと思った。アイドルなんてお金にならないし、ファンは身勝手だし、トップになれたとしても、アイみたいな末路がまっているかもしれない。それでも前を向いて夢を叶えようとしている。
ルビーがダンスを踊っているのをアイと見ていたときを思い出す。あのときのルビーは輝いて見えた。ダンスのセンス、アイ譲りのルックス。なにより見るものを引き付ける瞳。きっとルビーはアイに負けないくらいのアイドルになる。
では私はアイドルになれるだろうか。自信はない。ルビーのような輝きは私にはない。それでもやらなくてはいけない。
アイの最後の言葉が頭をよぎる。
『アクアもルビーも、もしかしたらこの先、アイドルになるのかなって思ってて。いつかなんか上手くいったら親子共演みたいなさ。楽しそうだよね』
何もできなかった私だけど、アイドルになった私たちを夢見ていたアイの想いを叶えるため。そして、ルビーを一番近くで守れるように、私はアイドルになる。
「きっとなれると思う。それで、いつか二人でドームに立つの。お母さんが立てなかったステージに、一緒に」
「おねえちゃん……。うん、うん!」
泣きだしたルビーを抱きしめて私は思う。今度は失敗しない。この子とアイの夢だけは守り通す。絶対に、何があっても。