「何かネタないかなあ」
動画の編集作業の合間。私はPCの画面を見つめてつぶやいた。
家族のことがひと段落して始めたユーチューバー。MEMちょとして活動していた私は順調にチャンネル登録者を伸ばしていって、10万登録目前まで来ていた。さらなる登録者増加へ、起爆剤となる動画を取るべくネタ探し、と称して動画を見ていた。
「うーん……」
最近人気なのは、流行りの曲を歌ったり踊ったり。でも最近の曲ってどうもピンとこないんだよね。
「他には……。なにこれ」
急上昇ランキングにあったとある動画。サムネイルではひよこの覆面を被った上半身裸の男。筋骨隆々の肉体を惜しげもなくさらしている。動画タイトルを見ると踊ってみたの動画らしい。使っている曲は
「B小町、懐かしー」
私は思わず声を上げた。昔はB小町のファンで、アイドルに憧れたのもアイがいたからだ。あの事件が起こったときはショック過ぎてしばらくごはんがのどを通らなかった。あれからもう10年になるんだなと思いながら動画を再生する。
どこかのダンスルームだろうか。その中で直立しているサムネイルの男と、両脇には男と同じくひよこの覆面を被った二人の女の子。こちらは普通にジャージを着ている。赤と青のジャージが何だかお笑い芸人みたいだ。
イントロが始まり、画面を見た私はしばらく唖然として、そして爆笑した。
「あははは!」
覆面を被ったマッチョの不審者がアイのダンスを完璧に再現していた。かわいく手を振ったり、目の横でピースをしたりとアイらしいアドリブも含めて。両脇の女の子もたかみーとニノの振付を再現して、不審者のダンスを引き立てている。滅茶苦茶クオリティが高い。高い故に爆笑してしまえる。
動画を上げているのは『ぴえヨン』というユーチューバー。他の動画は正しい筋トレのやり方とか痩せる10分間筋トレメニューとかの内容。それらも再生は多いが、この踊ってみた動画は投稿数日で100万再生を越えて、ぶっちぎちのトップだった。チャンネルの概要欄を見ると苺プロダクション所属とあった。苺プロはたしかB小町が所属していた事務所だ。
気になって苺プロのHPを見に行くと、今はネットタレントのマネジメントが中心の事務所になっているらしい。配信者募集中とトップページにある。
これは運命かもしれないと私は思った。動画の撮影・編集にコラボのやりとり、許諾の手続きに確定申告などなど、個人で全てをやっていくにはそろそろ限界でどこかの事務所に所属してバックアップを受けたいと考えていたからだ。善は急げと投稿フォームをクリックした。
所属の話はとんとん拍子に進み、私は契約のため苺プロの事務所を訪れていた。事務所は思ったよりも小さい。事務所に入るといかにも仕事が出来そうな美人な女性が出迎えてくれた。斎藤ミヤコと名乗った彼女が社長らしい。
契約の話はすぐに終わった。小さい事務所ではあるものの配信者へのサポート体制はちゃんとしていて私はほっとした。撮影に使う機器も最新のものを貸してくれたりするそうだ。
「ぴえヨンさんの踊ってみた動画がバズってから、B小町の歌を歌ってみたり踊ってみたりする動画が流行ってるの。それで新しい機材とかも買えたりできたのよ」
「あ、私もあの動画見ました。B小町のアイさんをよく見てたから懐かしいって」
「そう。アイの……。MEMちょさんも踊ってみたとか取ってみる? ダンスができる部屋もあるのよ」
「いいんですか? もしかしてB小町が使っていた部屋だったり?」
「その通りよ。部屋は予約制だから気を付けてね」
社長と話していると、おはようございますの声とともにドアが元気よく開いた。誰か来たのかとドアの方を見て驚いた。すごい美少女がいる。
中学生くらいの子で、流れるような金色の髪に大きい瞳は人目を吸い寄せる輝きを放っていた。私はしばらくその少女をぼーっと見つめていた。
「ミヤコさん、今日は……。あ、えっと、お客さん?」
少女が話しかけてきて我に返った。
「あ、はい。ユーチューバーのMEMちょです。今日から苺プロ所属になります!」
「そうなんだ。わたしは星野ルビーです。苺プロ所属の、えっと、今はモデルです。これからよろしく!」
美少女の笑顔がまぶしすぎる。眼福だなあと思った。
そのまま二人と話していると、ルビーちゃんがあっと声を上げた。
「もうすぐ動画の準備しないと。おねえちゃんはもう帰ってた?」
「アクア? まだ帰ってないわね」
ちょうどよく事務所のドアが開いた。ドアの方を見て再び驚く。またすごい美少女がいた。
背はすらりと高い。サラサラした金の髪は短く、切れ長の目と相まって歌劇団の男役みたいな子だ。その目が向けられて思わずどきりとしてしまう。
「ごめん、ちょっと遅れた……。あなたは、新しくうちに所属してくれる方ですね。はじめまして。星野アクアです。よろしくお願いします」
「あ、ユーチューバーのMEMちょです。よろしく」
頭を下げるアクアちゃんにつられて私も頭を下げる。
「おねえちゃんどこ行ってたの? もう準備しないと」
「カントクのところ。わかったから引っ張らないで」
アクアちゃんはルビーちゃんに手を引かれて事務所の奥へ連れていかれた。私は戦慄した。めっちゃ美少女のルビーちゃんにめっちゃ美少女のアクアちゃん。姉妹そろって顔面偏差値エグくない?
「あの子たちは私の娘なの。仲良くしてくれると嬉しいわ」
「娘!? はー。そうなんですね」
私は思わず社長の顔を見つめた。あまり姉妹と似てないが社長のミヤコさんもかなりの美人だ。遺伝子ってすごいと感心した。
「あの子たちも配信者なんですか? 動画の準備って言ってましたけど。もしそうならコラボしたいなーって」
「あの子たちは違うわよ。動画の準備っていうのは、次のぴえヨンさんの動画ね。たまにサポート役で動画に出てるの」
「え!? 踊ってみた動画に一緒に出てた覆面被ってた子ですか? あの顔で顔出ししないのもったいなくないですか?」
「事務所で進めてるプロジェクトがあってね。それが始まるまでネットでは顔出ししないつもりよ。MEMさんも二人と配信したいならちょっと待ってね」
「は、はい」
社長は妙齢の美女。所属しているのはひよこ覆面の不審者筋肉男に、社長の娘の超絶美少女姉妹。苺プロってすごいなあと私は思った。