アイより高く軽やかに   作:にいづま

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出会い:ゆら

 都内にある中学校が今日の撮影現場だ。ちょっと早めに着いた私は下見がてら校舎を見て回っていた。自分の通っていた学校ではないけれど、学生時代を思い出して懐かしい気持ちになる。

 職員室はあそこ。ここの教室で生徒から事件の話を聞くんだっけ。それで化学準備室が死体が発見される場所。今日撮影するのは刑事ものの連続ドラマで、私は癖の強いベテラン刑事に振り回される新人警官の役だ。初めての1クール通して出る役だから楽しみにしている。

 一通り見て回って、控室替わりに使われている教室に入ると女の子がいた。黒髪で地味目なメイクの子だ。椅子に座って台本を読んでいる。彼女は私に気がつくと立ち上がってお辞儀をした。

 

「片寄ゆらさんですね。はじめまして。苺プロダクション所属の星野アクアです。今日はよろしくお願いします」

「あ、うん。よろしくお願いします」

 

 今まで大きな役をもらったことがなかったから自分の名前が知られていると思ってなくてちょっとびっくりした。星野アクアちゃん。派手な名前だけど、しっかりした礼儀正しい子だ。

 

「背、高いね。モデルみたい。ドラマの仕事はやったことある?」

「今は、モデルをやっています。演技の仕事は久しぶりなので、迷惑をかけないよう頑張ります」

「久しぶりって、前は何かやってたの?」

「幼稚園くらいの時ですが五反田監督の映画にでたりしてました」

「あの監督の。何だか癖が強そうな人っぽいけどどんな人なの?」

「口は悪いし実家暮らしなのにいつも偉そうですけど実力はある人です」

「……実家ぐらしなんだ」

 

 そんな風に雑談しながら撮影が開始されるのを待った。

 

 

 撮影は進み、アクアちゃんのシーンを撮る場面になった。彼女の役は事件の第一発見者の女子生徒だ。

 

「3時間目が化学だったので、準備のために入ったんです。入口で先生を呼んだんですけど返事がなくて……」

 

 青ざめた顔に少し震えているがはっきり聞こえる声。演技は久しぶりと言っていたがなかなか上手い。よく練習している演技に感じた。

 と思っていたのだけど。

 

「ひ、きゃああああ!」

 

 ナイフで刺された死体を発見して驚く場面。迫真の演技だけど、ただの1シーンにしてはやりすぎの演技だ。

 

「カット。もうちょっと抑えめにできる?」

「すみません」

 

 案の定リテイク。何度かやり直して、ようやくOKがでた。

 丁度いいから休憩という監督の声に現場の雰囲気が緩んだ。アクアちゃんを見ると、撮り終わったシーンのまま青ざめた顔で座り込んでいた。

 

 撮影が終わって、私は保健室へ足を運んだ。スタッフさんからアクアちゃんが休んでいると聞いたからだ。差し入れのミネラルウォーターを片手にドアを開ける。

 

「アクアちゃんいる? …あれ、誰だろう」

 

 保健室のベッドには女の子が一人横になっていた。さらりとした短めの金色の髪。目を閉じた顔は整っていて神々しささえ感じる。と、女の子ぱちりと目が開いた。

 

「あ、片寄さん?」

 

 あれ? この声は。

 

「え、ええと、アクアちゃん?」

「そうですけど……。ああ、地毛はこっちで、黒髪はウイッグなんです。あんまり目立っちゃいけない役なので」

 

 すごい美少女がいた。これで背も高いとなれば女の子から無茶苦茶モテそうだ。でもどこかで見たような気がする顔立ちだ。どこで見たっけ?

 

「すみません、今日はご迷惑をお掛けしました」

 

 私が考えていると、アクアちゃんは立ち上がって頭を下げた。

 

「そんなに気にしないで。まだ気分悪いなら横になってていいから。はい、お水」

 

 ペットボトルの水を渡すと彼女はベッドに座って一口飲んだ。様になりすぎていて、CMを見てるような気分になる。

 

「それで、どうしたの? あの死体を見つけるシーンから変な感じだったけど」

「昔いろいろあって、血とか死体とか見るとニセモノってわかってても気分が悪くなってしまうんです」

「それは、けっこう致命的だね。あ、だからあまり演技の仕事をしてこなかったの?」

「……はい」

 

 落ち込むアクアちゃんを見て、私は思わず言った。

 

「もったいないなあ。アクアちゃんこんなにかっこいいし、演技だって結構練習してるでしょ? なのにそれが活かされないなんてもったいないよ」

「もったいない、ですか」

「だってアクアちゃん絶対人気でるよ。モデル以外の仕事だって来るようになる。そんなときに演技の仕事ができないってなるとチャンスを掴めないかもしれない。それって悔しいでしょ? 芸能界って競争激しいし、使えるものは使って何でもやっていかないと」

「何でも……」

 

 アクアちゃんの目が少し変わった気がした。

 

「ありがとうございます。そうですよね。こんなところで立ち止まっていられません。乗り越えて見せないと」

「うん、その意気だよ」

 

 私の言葉でやる気を出してくれたみたいだ。

 

「あ、連絡先交換できませんか? もっと話を聞いてみたいです」

「いいよ。ちょっと待ってね。スマホとってくるから」

 

 駅から自宅までを歩く。自分の演技もなかなかよかったけど、何よりかわいい後輩ができたのがうれしい。

 そうだ。あの人に連絡しておこう。いつも才能ある子を探しているあの人なら、きっと彼女のことも気に入ると思う。私はスマホを取り出して電話を掛けた。

 

「あ、ミキさん? お疲れ様です。収録終わりました。それでですね、今日とってもかわいい子にあったんですよ」

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