やはり俺の逆行は間違っているのか? 作:ペンギンって可愛いですよね
リムジンが静かに動き始めた。
隣では小町が完全に固まっている。
「お、おにいちゃん……これ……ほんとに乗っていいやつ……?」
「俺もわからん……」
二人とも、平凡な一般家庭の子どもだ。
こんな高級車に乗っただけで胃が痛い。
陽乃は対面の席で、足をぶらぶらしながら笑っていた。
「ふふ、リムジンって広いでしょ? 八幡くん、小町ちゃん」
「いや……広いとかいう問題じゃないだろ……」
「ねぇねぇ、小町ちゃんはジュース飲む?」
「い、いいの……?」
「もちろん♪」
陽乃はミニ冷蔵庫を開け、子ども向けジュースを取り出す。
(……リムジンに冷蔵庫……?
いや、普通なのか? 金持ち基準では普通なのか……?)
小町は恐る恐るジュースを受け取った。
「ありがと……陽乃おねえさん……」
「きゃーー!! かわいい!! 何この子!?」
八幡(小町よ……そこで懐くな……!
魔王に気に入られると、ほんとに連れてかれるぞ!!)
陽乃は小町の手を握りながら、
「ねぇ八幡くん。
今日はね、うちのお母さんが“会いたいって”」
「は?」
「あなたのこと、気になってるんだって♡」
(なんでだよ!?
俺なんか“陽乃の観察対象その2”くらいの立ち位置だぞ!?
なぜ母親まで出てくる……!?)
陽乃はいたずらっぽく笑う。
「大丈夫だよ?
お母さん、優しいから」
(未来知識:雪ノ下母=めちゃくちゃ厳しい。)
「やめてくれ!!!
嘘だろ!!?」
陽乃はくすっと笑って誤魔化した。
⸻
◆ 豪邸の門、規格外すぎる
リムジンが止まった先は――
門だけで俺の家が入りそうな敷地だった。
門の両脇には綺麗すぎる緑。
長い石畳のアプローチ。
左右対称の花壇。
高級ホテルのエントランスみたいな玄関。
そして奥には、
二階建ての“家”というより豪華な洋館。
小町
「……おにいちゃん……ここ……お城……?」
八幡
「違う……たぶん……違わない……」
陽乃
「ようこそ♪ 雪ノ下家へ」
うわあああああああ!!!
現実味がない!!!
まじで異世界かよ!!!
執事さんがドアを開ける。
「お嬢様のご友人をお連れしました」
玄関の奥から足音が響く。
ゆっくり、しかし無駄のない歩き方。
俺と小町は思わず姿勢を正した。
現れたのは――
落ち着いた薄い色の着物を着た、
上品で、若く見える女性。
雪ノ下陽乃・雪乃の母親。
未来で何回か会ったあの人だ。
優しそうな微笑み。
けれど、その奥には鋭い光。
完璧な“本物の上流階級の人間”だった。
「おかえり、陽乃。
それから、いらっしゃい……八幡くん、小町ちゃん?」
小町
「ひっ……!?」
母親は穏やかに微笑んだ。
「初めまして。
陽乃の母です。
今日は来てくれてありがとう」
(……無理。
緊張で死ぬ。
雪ノ下母強すぎる……!!)
八幡は未来の記憶から悟った。
この人、相手を笑顔で見透かしてくるタイプだ。
陽乃の観察力の源だ。
小町は完全に縮こまりながらも、
「よ、よろしく……おねがいします……!」
と深く頭を下げる。
(小町……健気……!
守りてぇ……絶対守りてぇ……!)
母親は優しく微笑む。
「まぁ、小町ちゃん可愛いわね。
八幡くんも……礼儀正しいのね」
(いや今の俺、礼儀どころじゃなくガチガチなんだが!?)
陽乃が横から言う。
「でしょ? お母さん。
八幡くんって面白い子なんだよ?」
母
「……えぇ。そうね。
“とても興味深い子”だわ」
やめてくれ、
親子で同じ事言うな。
興味深くなくていい。
普通でいい。
ほっとけ。
八幡(いやマジで帰して……!!
この家に長居すると……精神が……死ぬ……!)
しかし雪ノ下母は優しげな笑みのまま続ける。
「さぁ、どうぞ。
お菓子も用意してあるわ。
ゆっくりしていってね」
陽乃の家に――
俺と小町は完全に“取り込まれた”のだった。