やはり俺の逆行は間違っているのか? 作:ペンギンって可愛いですよね
いじめというのは、殴るとか蹴るとか、分かりやすい暴力だけじゃない。
もっと静かで、もっと陰湿で――
誰も“いじめ”だと認識しない段階からすでに始まっている。
雪ノ下雪乃の周囲には、そんな影がじわじわと広がり始めていた。
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◆ 葉山隼人と雪乃、そして“違和感”
ある日の掃除時間。
雪乃が黙々とほうきを動かしていると、
近くの女子がわざとぶつかり、
雪乃の持っていたちりとりが床に落ちた。
「あ、ごめ~ん。わざとじゃないよ?」
「……気にしていません」
雪乃は淡々と拾った。
女子たちはそれを見てクスクス笑う。
小学生のいじめなんて、こんなものだ。
まだ小さく、まだ表面だけ。
だけど、芽は確実に育ち始めている。
俺は見ていて胃が痛くなった。
未来の雪乃は誰にも頼れなかった。
その原因のひとつが、小学校時代の孤立だ。
だが今回は――
「雪ノ下さん、大丈夫?」
掃除道具を持った隼人が駆け寄ってきた。
女子グループが一斉に顔をしかめる。
「え~隼人くん、なんであの子に……?」
「またぁ?」
「意味わかんないんだけど」
嫉妬。
排除の空気。
これがいじめの本体だ。
雪乃は、隼人の声に小さく瞬きをした。
「……問題ありません」
「でも、ちりとり落ちちゃって……」
「自分で拾えますから」
雪乃はぶっきらぼうではなく、ただ礼儀として距離を置いているだけだ。
しかし、女子たちにはそれが“気に入らない態度”に映る。
未来と同じ流れだ。
このままでは――
誰かが傷つく。
そして、その“誰か”は決まっている。
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◆ 八幡、まだ傷を知らない雪乃を見る
放課後の教室。
雪乃は一人で読書をしていた。
幼いながら姿勢は完璧で、
ページをめくる指先まで綺麗だ。
だがその美しさが、同時に“孤立”を生む。
不公平な話だ。
美しさは、子供社会では武器にならない。
むしろ標的になる。
俺は近づいて、声をかけようと――
いや、待て。
いきなり話しかけたら怪しい。
未来知識を持つストーカーじゃねぇんだ、俺は。
とその時。
「やっはろー♪」
こいつはタイミングが悪すぎる。
雪ノ下陽乃が教室に入ってきた。
雪乃が顔を上げる。
「……お姉さま?」
「雪乃ちゃん、お迎えだよ~。
あ、ついでにちょっと教室見に来ただけ」
陽乃の笑みは柔らかく、でもその瞳だけが別次元に鋭い。
そして――俺と目が合った。
「八幡くん。今日も隼人くんの隣だったね?」
「……たまたまだ」
「ふぅん?」
陽乃は微笑む。
怖すぎる。
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◆ 陽乃、女子グループの“気配”を察知する
陽乃は、雪乃の近くにいた女子たちに視線を滑らせた。
一瞬、その目がすべてを見抜いた。
「雪乃ちゃんって、人気あるもんねー。
かわいいし、頭いいし。
ね?」
陽乃はあえて優しく言う。
だが女子グループはその一言にビクッと反応した。
分かりやすいな。
陽乃はその反応をしっかりと確認し、
にっこり微笑んだまま言葉を続ける。
「雪乃ちゃんに何かあったら、
お姉ちゃん、すぐ気づいちゃうんだよね~」
その瞬間、空気が凍った。
脅しではない。
ただの“事実確認”だ。
だが陽乃の声は、最弱の子供相手では凶器になり得る。
女子たちが怯えた顔で目を逸らす。
雪乃は気づいていない。
陽乃が防波堤になっていることに。
俺はぞくりとした。
これが――雪ノ下陽乃の「本気の前の段階」だ。
まだ笑顔。
まだ柔らかい。
だが、ここから“本気”になると、地獄が始まる。
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◆ 陽乃は八幡を観察し続ける
陽乃は雪乃の手を引き、教室から出る前に俺を振り返った。
「ねぇ八幡くん」
「……何だよ」
「あなたみたいな子が隼人くんと仲良くしてるの、
すっごく不思議でね」
「俺だって不思議だよ」
「でも――雪乃ちゃんを救う“誰か”って、
案外こういう子なのかもって思ったりもするの」
陽乃はにこっと(笑顔100%)で言った。
だがその言葉は、俺の胸に重く落ちた。
“救う”なんて言葉、俺は使ってない。
未来でさえ使わなかった。
なのに陽乃は、俺の意図の欠片に触れた。
この人は本当に恐ろしい。
そして陽乃は去り際に、こう囁いた。
「いじめってね、始まる前に止めるのが一番簡単なんだよ」
意味深で、優しくて、残酷な声。
陽乃はすべてを理解していた。
いじめが芽生えたこと。
葉山の動揺。
雪乃の孤立。
そして――なぜか俺の存在。
雪ノ下陽乃はこの世界線でも“圧倒的な観察者”だった。
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◆ 俺と葉山、そして雪乃の未来が変わり始める
陽乃が教室を出ると、
女子グループは途端に静まり返った。
葉山はその様子に気づき、
雪乃の靴箱の方を心配そうに見ている。
俺は小さくため息をついた。
「……動くか」
未来と同じように傷つけさせるわけにはいかない。
だが今回は、俺一人じゃない。
葉山もいる。
そして――陽乃という最強の盾と刃がいる。
この世界線では、
“あの日のいじめ”は原作ほど簡単には進まない。
だが、簡単に終わるとも限らない。
少しずつ、
三人の関係が動き始めていた。