やはり俺の逆行は間違っているのか?   作:ペンギンって可愛いですよね

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第四話 静かに広がる影と、陽乃の微笑み

いじめというのは、殴るとか蹴るとか、分かりやすい暴力だけじゃない。

もっと静かで、もっと陰湿で――

誰も“いじめ”だと認識しない段階からすでに始まっている。

 

雪ノ下雪乃の周囲には、そんな影がじわじわと広がり始めていた。

 

 

◆ 葉山隼人と雪乃、そして“違和感”

 

ある日の掃除時間。

 

雪乃が黙々とほうきを動かしていると、

近くの女子がわざとぶつかり、

雪乃の持っていたちりとりが床に落ちた。

 

「あ、ごめ~ん。わざとじゃないよ?」

 

「……気にしていません」

 

雪乃は淡々と拾った。

女子たちはそれを見てクスクス笑う。

 

小学生のいじめなんて、こんなものだ。

まだ小さく、まだ表面だけ。

だけど、芽は確実に育ち始めている。

 

俺は見ていて胃が痛くなった。

 

未来の雪乃は誰にも頼れなかった。

その原因のひとつが、小学校時代の孤立だ。

 

だが今回は――

 

「雪ノ下さん、大丈夫?」

 

掃除道具を持った隼人が駆け寄ってきた。

 

女子グループが一斉に顔をしかめる。

 

「え~隼人くん、なんであの子に……?」

「またぁ?」

「意味わかんないんだけど」

 

嫉妬。

排除の空気。

 

これがいじめの本体だ。

 

雪乃は、隼人の声に小さく瞬きをした。

 

「……問題ありません」

 

「でも、ちりとり落ちちゃって……」

 

「自分で拾えますから」

 

雪乃はぶっきらぼうではなく、ただ礼儀として距離を置いているだけだ。

しかし、女子たちにはそれが“気に入らない態度”に映る。

 

未来と同じ流れだ。

このままでは――

 

誰かが傷つく。

 

そして、その“誰か”は決まっている。

 

 

◆ 八幡、まだ傷を知らない雪乃を見る

 

放課後の教室。

雪乃は一人で読書をしていた。

 

幼いながら姿勢は完璧で、

ページをめくる指先まで綺麗だ。

 

だがその美しさが、同時に“孤立”を生む。

 

不公平な話だ。

美しさは、子供社会では武器にならない。

むしろ標的になる。

 

俺は近づいて、声をかけようと――

いや、待て。

いきなり話しかけたら怪しい。

未来知識を持つストーカーじゃねぇんだ、俺は。

 

とその時。

 

「やっはろー♪」

 

こいつはタイミングが悪すぎる。

 

雪ノ下陽乃が教室に入ってきた。

 

雪乃が顔を上げる。

 

「……お姉さま?」

 

「雪乃ちゃん、お迎えだよ~。

あ、ついでにちょっと教室見に来ただけ」

 

陽乃の笑みは柔らかく、でもその瞳だけが別次元に鋭い。

 

そして――俺と目が合った。

 

「八幡くん。今日も隼人くんの隣だったね?」

 

「……たまたまだ」

 

「ふぅん?」

 

陽乃は微笑む。

 

怖すぎる。

 

 

◆ 陽乃、女子グループの“気配”を察知する

 

陽乃は、雪乃の近くにいた女子たちに視線を滑らせた。

 

一瞬、その目がすべてを見抜いた。

 

「雪乃ちゃんって、人気あるもんねー。

かわいいし、頭いいし。

ね?」

 

陽乃はあえて優しく言う。

だが女子グループはその一言にビクッと反応した。

 

分かりやすいな。

 

陽乃はその反応をしっかりと確認し、

にっこり微笑んだまま言葉を続ける。

 

「雪乃ちゃんに何かあったら、

お姉ちゃん、すぐ気づいちゃうんだよね~」

 

その瞬間、空気が凍った。

 

脅しではない。

ただの“事実確認”だ。

だが陽乃の声は、最弱の子供相手では凶器になり得る。

 

女子たちが怯えた顔で目を逸らす。

 

雪乃は気づいていない。

陽乃が防波堤になっていることに。

 

俺はぞくりとした。

 

これが――雪ノ下陽乃の「本気の前の段階」だ。

 

まだ笑顔。

まだ柔らかい。

だが、ここから“本気”になると、地獄が始まる。

 

 

◆ 陽乃は八幡を観察し続ける

 

陽乃は雪乃の手を引き、教室から出る前に俺を振り返った。

 

「ねぇ八幡くん」

 

「……何だよ」

 

「あなたみたいな子が隼人くんと仲良くしてるの、

すっごく不思議でね」

 

「俺だって不思議だよ」

 

「でも――雪乃ちゃんを救う“誰か”って、

案外こういう子なのかもって思ったりもするの」

 

陽乃はにこっと(笑顔100%)で言った。

 

だがその言葉は、俺の胸に重く落ちた。

 

“救う”なんて言葉、俺は使ってない。

未来でさえ使わなかった。

 

なのに陽乃は、俺の意図の欠片に触れた。

 

この人は本当に恐ろしい。

 

そして陽乃は去り際に、こう囁いた。

 

「いじめってね、始まる前に止めるのが一番簡単なんだよ」

 

意味深で、優しくて、残酷な声。

 

陽乃はすべてを理解していた。

いじめが芽生えたこと。

葉山の動揺。

雪乃の孤立。

そして――なぜか俺の存在。

 

雪ノ下陽乃はこの世界線でも“圧倒的な観察者”だった。

 

 

◆ 俺と葉山、そして雪乃の未来が変わり始める

 

陽乃が教室を出ると、

女子グループは途端に静まり返った。

 

葉山はその様子に気づき、

雪乃の靴箱の方を心配そうに見ている。

 

俺は小さくため息をついた。

 

「……動くか」

 

未来と同じように傷つけさせるわけにはいかない。

 

だが今回は、俺一人じゃない。

葉山もいる。

そして――陽乃という最強の盾と刃がいる。

 

この世界線では、

“あの日のいじめ”は原作ほど簡単には進まない。

 

だが、簡単に終わるとも限らない。

 

少しずつ、

三人の関係が動き始めていた。

 

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