やはり俺の逆行は間違っているのか? 作:ペンギンって可愛いですよね
いじめというのは、突然爆発するわけじゃない。
水が溜まっていくみたいに、静かに、確実に積み重なる。
そしてある日、耐えきれなくなって溢れる。
その“ある日”が――今日だった。
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◆ 靴が、ない。
放課後。
俺が鞄を背負って廊下に出たとき、
雪乃が靴箱の前に立ち尽くしていた。
何も言わず、
何も訴えず、
ただ、そこにあるはずの“上履き”を見つめていた。
雪ノ下雪乃は泣かない。
小学生だろうと関係ない。
プライドが強いとかじゃなく、
“泣いたら負ける”と本能的に知っている。
未来でもそうだった。
雪乃は、弱音を吐くことが一番苦手な少女だった。
その背中が――小さく震えていた。
胸が痛んだ。
傷を、また雪乃に負わせるわけにはいかない。
「雪ノ下」
声をかけると、雪乃はわずかに肩を揺らした。
「……問題ありません」
問題あるだろ。
靴箱の底を見ると、明らかに“隠された跡”がある。
乱雑な土の跡、押し込んだ形跡。
犯人は分かってる。
女子グループだ。
理由は単純。
嫉妬。
排除。
その二つ。
黙って見過ごすわけにはいかない。
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◆ 葉山隼人、決断の時
後ろから走る足音がした。
「雪ノ下さん!」
葉山隼人が駆けつけた。
息を切らしながら、雪乃の靴箱を見て――
次の瞬間、表情が固まった。
「……靴、ないの?」
雪乃は静かに答える。
「自分で探しますので。お気遣いなく」
その目は強がりだ。
俺は知っている。
葉山は歯を食いしばった。
今までなら、ここで“目をそらして”終わりだったはずだ。
誰か一人に肩入れするのが怖くて、
“みんな”を選ぶことで自分を守ってきた。
だが今の葉山は違う。
「……僕が探す! 一緒に!」
「は、葉山くんが……?」
女子グループの何人かが廊下の奥でこちらを見ていた。
露骨に嫌な顔だ。
だが葉山は引かない。
「雪ノ下さんが困ってるのに、放っておけないよ!」
その言葉は、
過去の葉山なら絶対に言えなかった言葉だ。
八幡が逆行した世界線で、
葉山隼人はすでに変わり始めている。
俺も隣に立つ。
「行くぞ、葉山。どうせ近くに捨ててある」
「うん!」
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◆ 犯人の影
体育倉庫の裏。
予想通り、雪乃の上履きが落ちていた。
明らかに、蹴られ、踏まれた跡がある。
雪乃は小さく息を飲む。
だが雪乃は拾わない。
汚れた靴を履きたくないとかじゃない。
そうじゃない。
誰にも弱さを見せたくないだけだ。
未来の雪乃を知る俺には分かる。
葉山も気づいたようで、
そっと上履きを拾った。
「ごめん……僕がもっと早く気づいてれば……」
雪乃は首を横に振る。
「あなたのせいではありません」
「でも……」
「いえ、あなたが何かをしていたわけではないでしょう?」
その通りだ。
隠したのは女子グループ。
雪乃の“強さ”が気に入らない連中。
だが、雪乃の言葉の奥には――
未来でのあの孤独な感情の影が見えた。
“どうせ誰も助けてくれない”
そう思い始める前に止めなきゃダメだ。
俺は言った。
「帰るぞ。俺らも一緒だ」
雪乃が驚いたように俺を見る。
葉山は大きく頷いた。
「うん! 送ってくよ雪ノ下さん!」
雪乃は一瞬迷い、
それでも、小さく口を開いた。
「……好きにすればいいでしょう」
それは、雪乃なりの“ありがとう”だ。
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◆ 陽乃の“静かな反撃”
その帰り道の途中。
電柱の陰。
学校の門の上。
視界の端。
雪ノ下陽乃がいた。
雪乃を見守るように、
葉山と俺を観察するように、
女子グループの動きを確認するように。
全部――見ている。
そして陽乃は、笑っていた。
優しく、柔らかく、
しかし内側に冷たい光を宿した笑み。
「靴が消えた」
「隼人くんと八幡くんが動いた」
「雪乃ちゃんが傷つきかけた」
陽乃は、それだけで十分だった。
夜。
女子グループは、それぞれ家庭で親から強めに叱られることになる。
・先生からいきなり電話
・親が学校へ呼び出し
・誰がやったか言わなくてもなぜか把握されている
すべて――陽乃の手配だ。
子供が知らないルートで、
大人の世界に“情報”が流れる。
雪乃も葉山も、原因に気づかない。
だが俺は確信した。
陽乃は、いじめの火種を未然に潰した。
俺や葉山を巻き込む前に、静かに――徹底的に。
この世界線で雪乃が本格的に傷つくことは、もうない。
だが同時に、
陽乃の興味は確実に俺へ向いている。
「八幡くんって、ほんとに面白いね」
翌朝、俺の机に突然座って陽乃は言った。
「雪乃ちゃんを“守る側”に回るなんてさ」
興味。
警戒。
期待。
全部混ざった、底の見えない瞳。
また面倒なフラグが立った。
だが――
少なくとも雪乃はいま、救われた。
そして葉山隼人もまた、
“選ばなかった後悔を繰り返さない”少年へと変わり始めていた。