やはり俺の逆行は間違っているのか? 作:ペンギンって可愛いですよね
小学生のテストというものは、
未来知識持ちには“油断を誘う罠”である。
――やってしまった。
数学(算数)も国語も理科も社会も、
気づいたら全部解いていた。
いや、解けるんだよ。
未来の知識が邪魔して問題を“考える前に解いてしまう”んだよ。
そして結果。
満点(100点 × 全教科)。
雪ノ下雪乃と並んで1位。
俺の名前が一番上に印刷されているテスト表を見て、
クラスがざわついた。
ざわ…ざわ……
「え、嘘。比企谷くんってあの比企谷だよね?」
「なんで……なんで雪ノ下さんと同じ点数なの?」
「ていうか全教科満点とかありえなくない?」
そして雪乃の隣でテスト表を見る隼人が、
キラキラした目で俺を見る。
「すごいよ八幡! 本当にすごいよ!!」
やめろ。
そんな目で見るな。
俺はただ、無意識に本気を出しただけなんだ。
雪乃もわずかに目を見開いた。
「……あなた、意外とやるのね」
誉められて嬉しいはずなのに、
俺は胃の奥がキュッと縮む。
なぜなら――
クラスの女子たちの空気が、
明らかに変わったからだ。
「八幡くんって雪ノ下さんと仲いいんでしょ?」
「しかも同じ満点とか……なにそれ」
「調子乗ってない?」
……あー、これ完全に“嫉妬”のやつだ。
未来の俺なら分かる。
子ども社会は“無意識の序列”が大事だ。
雪乃は美人
→ 勉強もできる
→ 完璧で近寄りがたい
→ 嫉妬の対象
そこに、
「陰キャっぽい男(八幡)が、雪乃と同列に立つ」
この構図が最悪。
女子グループの中心が小さく言った。
「……なんであんな子が雪ノ下さんと同じなの?」
はい出た。
差別的価値観で序列を守ろうとする思考。
俺の失態はこれだ。
“空気を読んで手を抜く”というサバイバル術を忘れてしまった。
未来の高校・大学・社会人の知識があると、
小学生テストはどうしても本能で満点になる。
やばい。
これは完全に
「いじめの火種②」
になってしまう。
⸻
◆ 隼人、完全に八幡を尊敬し始める
休み時間。
隼人が駆け寄ってきた。
「八幡、本当にすごかったよ!
僕、こんなに満点とった子初めて見た!」
やめてくれ。
そんな純粋な目で見ないでくれ。
「いや……ただの偶然だ」
「偶然で全部満点はないよ!
しかも雪ノ下さんと同じだなんて……!」
横で雪乃がテストを整理しながら言う。
「そうね。
あなた、本当に普段から手を抜いていただけみたいね」
図星すぎる。
だがそのせいで――
女子たちの敵意は“八幡+雪乃”に向き始めていた。
⸻
◆ 陽乃、すべてを理解した目で笑う
帰り際。
昇降口の柱にもたれ、腕を組んでいたのは――
当然のように雪ノ下陽乃だった。
「ねぇ八幡くん。
テスト、満点だったんだって?」
笑顔。
だが眼だけが“分析”している。
「……ああ。まあ、その……」
「すっごいねぇ。
でもどうして今まで隠してたの?」
うっ。
これは地味に痛い質問。
陽乃は一歩近づき、俺の耳元で小声でささやいた。
「ねぇ。
君って――本当はどれくらい“隠してる”の?」
背筋が凍った。
こいつ、
本当に全部見透かしてくる。
しかも続ける。
「隼人くん、あなたのことすごーく尊敬してたよ?
雪乃ちゃんも、ちょっとだけだけど興味を持ってた」
(ああ、最悪だ……)
「でもね?」
陽乃はくるりと振り返り、女子たちの方を見る。
「クラスの子たち、嫉妬してるよ」
知ってる。
知ってるんだよ、それは。
陽乃はにっこり笑う。
「大丈夫。
いじめになりそうなら、私が先に潰すから。
ね?」
……心強いのか、怖すぎるのか分からない。
⸻
◆ こうして“満点事件”は、新たな火種となる
• 雪乃+八幡 → 頭が良いコンビ扱い
• 隼人 → 八幡を本気で尊敬し始める
• 女子 → 雪乃の“特別枠”に八幡が入ったことに不満
• 陽乃 → 八幡にさらに興味
• 八幡 → 後悔しかない
俺はその日の帰り道で頭を抱えた。
(……次は手加減しよう。絶対に。)
だが、八幡という男は未来知識持ちのせいで、
“手加減がいちばん難しい” んだ。
この満点事件は、
のちに三人の絆へ、
そしてクラスの力関係変動へとつながっていくことになる。
学校での“満点事件”という地雷を踏んだその日の夜。
俺は家に帰りたくなかった。
なぜなら――
小学生のテストというものは、
100点を取ると親が異常にテンションを上げるという仕様があるからだ。
案の定、玄関を開けた瞬間――
「おかえり八幡! テスト100点だったんだって!? すごいじゃない!」
母親の声が炸裂した。
……誰だ告げ口したやつ。
隼人か? 先生か? それとも雪乃……は言わないか。
リビングに連行された俺は、
プリントを手にした母親がキラキラした目で迫るのをただ受けるしかなかった。
「ほら見て小町! 100点! 全部100点よ!
お兄ちゃん頑張ったのねぇ〜〜!」
「おにいちゃんすごーーい!!」
小町、目がウルウルしてる。
抱きついてくる。
くそ、かわいい。
だが今は可愛いじゃ済まない。
母
「どうしたの? 八幡。
そんなに賢かったならもっと早く言ってくれれば良かったのに!」
「……いや、あの、その……」
(言えるか!!)
“未来の知識が小学生テストと相性良すぎて全部解けただけです”
なんて言えるか!!
小町はプリントを抱えてぐるぐる回り始めた。
「おにいちゃん天才!? 天才なの!?
小町、こんなおにいちゃんがいて誇らしいです!!」
ぐはっ。
妹の尊敬が一番ツラい。
「……やめてくれ、小町」
「えっ? なんで!?
褒められたら嬉しいでしょ? 小町は嬉しいよ!」
(違う……俺が嬉しくないんじゃない……
お前が可愛すぎてその笑顔が胸に刺さるんだよ……)
母はさらに勢いづく。
「八幡、これはもう――塾ね! 塾!
あなたには才能があるのよ!
これは伸ばさなきゃ!」
「ま、待ってくれ。塾とか……」
(無理だ。
未来の高校内容知ってる俺が小学生の塾入ったら絶対浮く!
逆に怪しまれる!!)
母
「心配しなくていいわ!
優等生コース……いや、英才教育コースにしましょう!」
「やめてくれぇぇぇ!!」
ついに声が出た。
小町と母がびくっとする。
俺は咳払いしてごまかした。
「……いや、その。
たまたまだ。ほんと、たまたまなんだよ」
母
「たまたまで満点取れるわけないじゃない」
(あるんだよ……
未来人にはあるんだよ……)
小町は俺の膝に座り、にこっと笑った。
「じゃあおにいちゃん、次も100点だね!」
やめてくれぇぇぇぇぇぇ!!!
(次は絶対手加減する!! 絶対にだ!!)
心の中で泣き叫びながら、
俺は夕食の時間を迎えた。
母は鼻歌、
小町は俺にまとわりつき、
俺は死んだ魚の目。
満点事件は、こうして――
学校だけでなく家にも波紋を広げることになった。
夕飯の時間になったころ、
仕事から帰ってきた父さん(比企谷八郎)が玄関を開けた。
「ただいま~……って、なんだこの空気は?」
リビングに入ってきた父さんは、
まるで祝い事でも起きたかのような雰囲気に目を丸くした。
母さんは上機嫌でエプロン姿のまま出迎え、
小町はプリントを掲げて走り寄る。
「お父さん! お父さん!
見てこれ! おにいちゃん、全教科100点!!」
「おお~、マジか八幡!」
父さん、素で驚く。
そして俺の顔を見る。
期待と誇りが入り混じった……
なんか今まで見たことない種類の表情をしていた。
「……すごいじゃないか、お前」
頼むから、そんな真っ直ぐな目で見るな。
母
「ねー!? すごいでしょ! 八幡頑張ったのよ!!」
小町
「おにいちゃん天才なんだよ~!!!」
父
「はっはっは!
俺の息子だからな!!!」
(おい父さん、それは違う。
俺が天才なんじゃなくて、“未来を知ってるズル”なんだよ。)
しかし父さんのテンションは上がり続ける。
テーブルにつくと、なぜか父さんがワインを取り出した。
「お祝いだ! 今日は八幡の満点記念日だ!」
「やめろ! 俺のためにそんなことするな!!」
思わず叫んでしまった。
父
「えっ?」
母
「あら、嬉しさで照れてるのよ」
違うんだよ、母さん!!
照れとかじゃなくて、俺はもう社会的に死にかけてるんだよ!!!
父さんは完全に調子に乗った。
「よし八幡!!
お前にはもっと伸びてもらわんとな!!
将来は医者か!? 弁護士か!? いや官僚か!?
父さん夢が広がるよ!!」
「広げるな!!!!!」
(やめてくれ……
未来を知ってるだけの俺にそんな期待しないでくれ……)
小町は嬉しそうに言う。
「おにいちゃん、将来ノーベル賞とか取っちゃうかも!」
「無理だ小町!!
その未来はない!!!」
父
「おおっ、科学者か!?
やっぱり父さんの息子だな!!!」
「父さんは文系だろうが!!!」
八幡の心はすでに限界だった。
⸻
◆ そして父は、さらに追い打ちをかける
食後。
父さんは真面目な顔になり、
俺の肩に手を置いた。
「八幡」
「……な、なんだよ」
「実は父さん……
お前のこと、ちょっと心配だったんだ」
(うっ……)
未来の俺でも似たことがあったから刺さる。
父
「でも今日のテストを見てな。
お前は誰よりもできる子なんだって、確信した」
「……」
父
「自信を持っていいんだぞ、八幡」
くそ……
なんだよその父親らしい優しい笑顔は……
刺さる……心に刺さるんだよ……!!!
けれど八幡は未来を知っている。
この満点事件は、
ただの“火種”に過ぎない。
学校では嫉妬の空気。
陽乃からは“観察対象”としてロックオン。
雪乃と隼人は距離が縮まり、クラスの力関係も揺らぐ。
その上、
家で褒められるとか
期待されるとか
そんなものは全部――
プレッシャーでしかない!!!
八幡は布団に入ってから、本気で心の中で泣いた。
俺は布団にもぐり、枕に顔を押しつけていた。
(……明日は絶対手加減する。
間違いなく手加減する……
というか満点なんて二度と出さない……)
そう誓ったところで、
カチャ。
静かにドアが開いた。
軽い足音。
小柄な影。
(やばい……この足音……)
布団がふわっと持ち上がり、
温かい何かが入ってきた。
「……おにいちゃ~ん……」
小町だった。
そのまま俺の胸のあたりにぴとっとくっついてくる。
「あのね、おにいちゃん……
今日、本当にすごかったんだよ……?」
寝ぼけ声で褒めてくるな。
ダメージが倍だ。
「こ、小町……なんで来たんだよ……」
「小町ね……いっぱいおにいちゃんを褒めちゃったら……
なんか、急に会いたくなっちゃって……」
(なんだその可愛すぎる理由!!
兄の心臓にクリティカル入るぞ!!)
小町はぎゅっと俺の服を握り、
「おにいちゃん、すごいって言われて……
嬉しくなかったの……?」
と心配そうに尋ねてくる。
ぐっ……
胸が……痛い……
「……まあ、その……」
(“未来人だから嬉しくねぇんだよ!”なんて言えるか!!!
むしろ申し訳なさで死にそうなんだよ!!!)
小町はそのまま俺の腕に抱きつき、
「賢くても賢くなくても、
小町はいつもおにいちゃんが大好きだからね?」
完全に心臓が止まりかけた。
この妹、反則。
破壊力が高すぎる。
「……ああ、はいはい。ありがとな」
俺が頭をぽんと軽く撫でると、
小町は一層嬉しそうにくっついてくる。
しばらくして小さな寝息が聞こえてきた。
……可愛い。
……天使か?
(……って、俺……
未来より小町を可愛いと思ってないか……?
やばい……
なんか前よりシスコン化してないか……?)
(……絶対守る。
この世界線だろうと別の世界だろうと、
小町は俺が守る。)
そう静かに誓いながら、
俺も眠りについた。