やはり俺の逆行は間違っているのか? 作:ペンギンって可愛いですよね
陽乃に腕を掴まれたまま、
俺と小町は半ば強制的に玄関前へ連行された。
小町は小町で、
「お、おにいちゃん……すごいお姉さんだね……」
と呟いていた。
いや、すごいどころじゃない。
小学生の皮を被った“魔王”だ。
陽乃は玄関の前でくるっと振り返る。
「じゃあ二人とも、行こっ♪」
「いやいやいやいやいや!
どこへ連れてくつもりだよ!!」
「ふふっ、うちの車が待ってるから大丈夫だよ?」
車?
いや、普通の車だよな?
まさか小学生で運転なんてしないだろうし――
と思った瞬間。
家の前に止まっていたのは、
黒塗りのリムジンだった。
……え?
いやいやいやいや。
なんで。
なんでうちの前にこんな……
映画かドラマの世界に出てくるような……
大統領が乗るやつみたいな車が……。
「……えっ……!?
お、おにいちゃん、これ……
おにいちゃんのお友だちの車なの……?」
(小町、お前の兄にはこんな友だちいない。
断言できる。)
陽乃は当たり前のように言う。
「迎えの車だよ~。うちの執事さんが運転してるの」
執事!?
小学生が執事!?
なんだその人生チートモード!?
ドアが開く。
スーツ姿の渋い男性が頭を下げる。
「お嬢様、本日もご機嫌麗しく。
ご友人の皆様も、どうぞこちらへ」
小町
「ひっ……!?」
俺
(ひっ……!?)
陽乃は満面の笑みで言う。
「さ、乗って? 八幡くん、小町ちゃん」
「いやいやいや!! 帰る!! 俺は帰る!!」
小町も俺の服をぎゅっと掴む。
「おにいちゃん……なんか怖いよこれ……!」
そうだよな!?
普通はリムジンに怯えるよな!?
よかった、正常だよ小町は!!
しかし陽乃は涼しい顔。
「大丈夫だよ~。
ただの車だから♡」
“ただの”じゃねぇよ!!!!
しかしここで執事さんが静かに言った。
「奥様より、本日のご予定はすべて把握しておりますので。
安心してご乗車くださいませ」
奥様……?
陽乃の母親だよな?
もうすでに俺たちが来ることを“予定”されている……?
(……やばい。
この家……俺の小学生人生の常識を全力で破壊してくる……)
陽乃は小町の手をそっと握る。
「怖くないよ? 小町ちゃん。
乗ってみよ?」
「……う、うん……」
小町、落ちた。
陽乃に落ちた。
天使は魔王にあっさり懐く。
俺は天を仰いだ。
(……帰りたい。
でも帰れない。
断れない。
なんだこれ……今日って休日だよな?
なんでこんな異世界イベントが起きてんだよ……)
「八幡くんも? 乗らないと置いてくよ?」
「置いてってくれていい!!」
「……それはムリ♡」
はい詰んだ。
こうして――
比企谷八幡(小学生)、
人生初のリムジンに強制搭乗。
「わぁぁ……広い……ホテルみたい……」
八幡(やめてくれ小町、楽しむな……
兄の精神が削られる……)
「二人とも仲良しでかわいい~♡」
八幡(かわいくねぇよ、助けろよ誰か……)
エンジンが静かにかかる。
俺の人生も静かに終わった。