俺の名前は
魔法少女モノ好きの一般日本人男性だ。
とある日、女児向け魔法少女モノアニメを見ていた俺は、その日の放送回のあまりの尊さに心臓が高鳴り、鼓動が早くなり、興奮のあまりに尊死してしまった。
そんなこんなで死んでしまった俺だが、どうやら2度目の生を手にする事ができたようで、性別も変わってしまっていた!
当初は長く連れ添った相棒が消えたことに絶望したが、今は女に転生して良かったと感じている。
ところで諸君、魔法少女モノはご存知だろうか?
日曜朝にやっている女児向けアニメ、それもよし。
深夜に放送している、一見緩いが実は世界観がシリアスな鬱アニメ、それもよし。
ギャグやエロに振り切っている人死にが発生しない世界観、それもまたよし。
魔法少女は、コンテンツとして多岐にわたる。
かくいうこの俺も、魔法少女モノは好きだ。
だって、可愛くて、可憐で、それでいてカッコ良いヒロインだぜ?
一目見ただけで見惚れてしまうし、憧れてしまう。
さて、何故俺がこんな話をしているのかというと。
「クロマック様、調整が完了致しました。これでこの小娘は、我々に従順になるでしょう」
この世界、どうやら魔法少女が存在している世界らしく、美人な姉と散歩中だった俺は、魔法少女の素質を持つものとして、怪人を連れた悪の組織『ワ・ルーイ』に身柄を捉えられ、洗脳装置? 的なのに入れられて脳みそくちゅくちゅされたのだ。
当時は驚いたね。俺、学校で転生者特有の知識無双かまして俺頭yoooooooooo!!ってしてた頃だったから、ショックだったよ。もう100点の答案をクラスメイトの皆に見せびらかして優越感に浸る時間はなくなったんやなって…。
で、それはいいとして。本来ならその脳みそくちゅくちゅで、俺はこの悪の組織『ワ・ルーイ』に洗脳され、組織の魔法少女として、悪事の限りを尽くすことになっていたのだが…。ところがどっこい、組織が捕らえた俺こと
あと仲良くしてたクラスメイトともう会えないのはさびちい…。黄葉ちゃん元気してっかなぁ……。
ま、結果として、脳みそくちゅくちゅは俺の前世の記憶を蘇らせるきっかけにしかならず、しかも何の因果か、俺が前世の記憶持ちというイレギュラーだったせいか、洗脳装置的な脳みそくちゅくちゅマシーンはバグを起こし、完全に壊れてしまったのである。俺以外に犠牲者が出ないから、結果オーライ。
まあ、悪の組織の幹部および首領達はこの事実に気付いていないみたいだけどね。
「……そうか。小娘、目を覚ますがよい」
「はい」
だから、首領であるクロマック君は、俺を洗脳できていないことに気付いていない。
ざぁこ♡ざぁこ♡よっわよわ〜♡
洗脳できてないのに、できてると思ってるなんて、オニウケるんですけど〜♡
と、まあ、状況を整理するとこんな感じだな。
ま、いきなり攫われたのにはオラびっくりしたけどよぉ、正直この展開、美味しいと思ってるんだよねぇ。
「さあ、小娘よ、魔法少女へ変身し、我にその姿を見せるのだ」
俺は言われた通りに、魔法少女へと変身する。
不思議と変身の仕方は分かった。脳みそくちゅくちゅで強制インストールされた?
いや、あの装置ぶっ壊れてるんだったわ。じゃあまあ、魔法少女のご都合ぱわーで最初から変身の仕方がわかる的な感じなのかね。
人間が手足を動かしたり、息を吸ったりするのに何も難しいことを考えないように、魔法少女が魔法少女に変身するのもまた、難しい思考は必要ないのかもしれない。
「ほう。それが貴様の魔法少女としての姿か」
鏡! 鏡はないかね? オラ自分じゃ自分の姿わかんねんだわ。
いや、元の容姿は知ってるよ? 美人な姉の妹だし、そりゃ可愛らしい容姿してたぜ。俺が男だったら告ってる。つかもう千夜ちゃんは俺のものだったわ。ガハハ!
「漆黒のドレスに、血のように真っ赤なベルト。そして、我々『ワ・ルーイ』所属であることを示すかのように手の甲に刻まれた、髑髏の紋章。クロマック様、どうやら我々は、手に入れたようです。あの忌々しい、魔法少女の力を!」
「くくく……! 魔法少女の力を手に入れる事ができたなら、もはや勝負はこちらのもの…! 世界征服もすぐそこだぁ…」
首領殿と幹部殿、めちゃくちゃ盛り上がっておられる。
まあ、実際には洗脳できてないんだけどね。
これ中身俺じゃなかったらマジで千夜ちゃん可哀想な子だったな。洗脳されて無理矢理従わされて……。
マジで俺で良かったねぇ……。
「して小娘よ、貴様、まさか自分の名前を覚えている、などということはないだろうな?」
……この聞き方、多分これ、洗脳装置的な脳みそくちゅくちゅマシーンで記憶まで消してるっぽい? 名前バリバリ覚えてるけど、隠したほうがいいよな?
逆にもう「俺の名前は広井大介! 前世は男、よろしくなァ!」とでも言うか?
流石にないか。
「覚えておりません。そもそも、私に名前などあるのでしょうか?」
「くくく、良い、良い。それでは、家族のことも覚えていないのだな? 貴様が懐いていた、姉のことも……」
「私に家族はおりません」
実際、既に前世はおさらばしてるしな。ある意味前世の家族はここにいない。
今世の家族は現役っすけどね〜。お姉ちゃん美人で好きだったよ。
俺がいなくなって焦ってるのかなぁ……。ちょっと迷惑かけちゃうかもしれん。でも、こっから逃げるわけにもいかないんだよなぁ。
とさてさて。何で俺がこの状況を美味しいと表現したのか、だが。これには理由がある。勿論、俺以外の無垢な女の子が邪悪な組織の被害を被らずに済んだ、というのもあるが、それとはまた別の理由である。
……光堕ち、という言葉を、知っているだろうか?
例えば、ことあるごとに敵対してきた好敵手。
敵の手に落ちてしまったヒロイン。
道を違えてしまったかつての親友。
そういった、本来正義である主人公と対立してしまった、悪側の存在である彼ら。
それらが、主人公側に寝返ること。
それが、光堕ちだ。
そう、俺は光堕ちが大好きだ。
だって、今まで散々争ってきた相手が、仲間になるんだぜ?
歪みあって、対立して、傷つけあって、そんな相手が、今までいた場所を裏切って、こちら側についてくれる。
こんなにも興奮する展開はないだろう。実際、俺が死んだ原因となった日の魔法少女アニメ放送回は、今まで対立していた敵が光堕ちするというものだったからね!
もう一度言う。俺は光堕ちが大好きだ!
つまりこれは、チャンスなのだ。
俺は、『ワ・ルーイ』の一員として、悪の魔法少女として振る舞い、正義のヒロイン達と対立し続ける。
しかし、長きにわたる戦いの果てに、気づくのだ。
少女達の尊さに、少女達の正義に。
そして、俺は少女達の手をとり、やがて……。
「くくく……」
思わず笑みが溢れる。
ああ、どう光堕ちしようか。どう悪を演じようか。
考えれば考えるほど、楽しみで仕方がない。
「ほう、もう既にそのような邪悪な笑みを……。クロマック様、これは大物ですね……」
「どうやらそのようだな。おい小娘、名前がないと不便だろう。我が貴様に、悪の魔法少女として相応しい名を与えてやろう」
クロマック君はそう言って、堂々とした振る舞いで宣言する。
「貴様の名前は、魔法少女ブラックルーイ。悪の手先として、この世界を絶望と恐怖で震え上がらせるのだ!!」
ああ、言われずとも、俺は悪の魔法少女として存分に振る舞ってやろう。
その先にある、光堕ちのために、なあ!