キューの名前は、キュート。
かつては、悪の組織『ワ・ルーイ』から地球を守るために、魔法少女の力を少女達に与えて、日々『ワ・ルーイ』の脅威から皆を守っていたっきゅ。
けど、もうキューはそれをやめることにしたっきゅ。
なぜなら……。
「………わぁあ!!!」
『……千夜、どうしたんだっきゅ? そんな大声出して……』
「……おはようキュート。いやーなんかね、凄い良い夢を見ていた気がするんだけど……うーん、思い出せないんだよね〜」
光千夜。
キューが契約していた、夏場夕音の、姪っ子にあたる子だっきゅ。
キューと契約していた夕音は、もうこの世にはいないっきゅ。けれど夕音は、遺言を残してくれていたっきゅ。
自分にもしものことがあれば、姉さんのことを頼むと、そう言っていたんだっきゅ。
だからキューは、夕音の姉である、光歌朝の幸福を守ることにしたんだっきゅ。
『って、千夜! 鼻血が出てるっきゅ!!』
「わー! 本当だ! 何で!?」
『ティッシュを持ってくるっきゅ!!』
でも、キューは、何だかんだでこの生活が気に入ってるっきゅ。
歌朝のことを見守る過程で、歌朝の娘である千夜や聖歌の面倒も見ることになったっきゅ。
聖歌も千夜も、まだ子供で、未熟なところもたくさんあるっきゅ。時折心配になるような行動をすることもあるっきゅ。けど、キューは2人のことが大好きで、幸せになってほしいと思ってるっきゅ。
「ティッシュあった〜?」
『あったっきゅ! って! 何で床に鼻血垂らしてるっきゅ!? 床が汚れるっきゅ!』
「あはっ、手汚したくなくてさ〜」
『そういう問題じゃないっきゅ! 床の掃除は誰がやると思ってるんだっきゅ!?』
「大丈夫だよ〜。後でちゃんと拭く予定だったから。今はパジャマ汚したくないから拭かないけど〜」
本当に、世話が焼ける子だっきゅ。
……仕方ないっきゅね。キューが雑巾を持ってきて、床を拭いておくことにするっきゅ。
そう思って、キューは雑巾掛けを始めたっきゅ。すると……。
「千夜、起きてる?」
千夜の部屋の前に、聖歌がやってきたっきゅ。その瞬間…。
「キュートそれ頂戴!」
千夜はものすごい勢いでキューから雑巾を取り上げて、床に付着してる鼻血を拭い始めたっきゅ。
千夜にはこういうところがあるっきゅ。
キューの前ではだらしない姿を曝け出す癖に、聖歌や他の人の前では、優等生振ろうとする癖が。
けど、それは、千夜がそれだけキューのことを信頼しているということでもあるっきゅ。千夜は、学校でも人気者で、誰彼構わず助けちゃう癖があるっきゅ。
そういうところは、夕音によく似てると思うっきゅけど……。
逆にそれで、千夜には頼れる人が、極端に少ないっきゅ。
勿論、千夜の友人達は皆、千夜のことが大好きで、頼めば断らずに協力してくれる子達ばかりっきゅ。
でも、千夜自身が、周りに頼ろうとしないっきゅ。
だから、キューはいつも、千夜が心配で、いつも千夜について回るようにしてるっきゅ。
「入るわよ。……って、何で床掃除してるの?」
「あはは。ちょっと鼻血が出ちゃってさ。……えーと、まあ、それで掃除中?」
「鼻血って、大丈夫なの? どこか体調でも……」
「大丈夫! ていうか、準備しないと。今日学校で小テストあるんだよね〜」
千夜はそんな風に、はぐらかしたっきゅ。キューが見た感じ、特に千夜の体に異変はなさそうだし、大丈夫だとは思うっきゅ。
……多分千夜も、あまり聖歌やキューのことを心配させたくないと思ってるみたいっきゅ。
「………今日朝ご飯私が作ったから」
「へ? そうなの? お姉ちゃん料理もできるなんて、将来は良いお嫁さんになりそうだね〜。……私と結婚する?」
「貰ってくれる人がいなかったら、それもありね」
「じゃあ無理だ。お姉ちゃんのこと放っておく男なんていないし」
千夜の鼻血という一件はありつつも、2人は無事に身支度を終え、それぞれ学校に向かうっきゅ。キューは周りに見えないようにして、千夜の周りをついていくっきゅ。
そんな風に、何気ない日常を送りながら、キュー達は朝を迎えるっきゅ。
結局、千夜はそれ以降鼻血は出さなくて、聖歌も千夜のことを心配そうに見つめていたけれど、何事もなく1日を終えたっきゅ。
………キューは、ずっとこんな日々が……。平和な日常が続いていくと、そう思ってたんだっきゅ。
でも、それは……。
あまりにも楽観的で、愚かで………。
馬鹿で幼稚な、考えだったっきゅ。
その日は、たまたま、歌朝の体調が悪い日だったっきゅ。
風邪気味っぽくて、家事もあまり手が回っていないって話だったっきゅ。
けど、千夜と聖歌はショッピングモールに一緒に行くって話があったから、仕方なくキューが家に残って、家事をすることになったんだっきゅ。
…………今思えば、この時千夜について行っておけば、少しは違う展開が待っていたのかもしれないっきゅ。
だって、千夜はこの日から。
………キュー達の前から、行方をくらましてしまったんだっきゅ。
その事実を知ったのは、聖歌が家に帰ってきた時だったっきゅ。
玄関のドアが開いた音がして、歌朝は寝込んでるから、キューが代わりに出ようと、玄関に向かったんだっきゅ。
『おかえりっきゅ! それで、どうだったっきゅ…………ど、どうしたんだっきゅ!? というか、千夜はどこっきゅ?』
「きゅ……きゅーと……あの……ちがう…いや……」
家に帰ってきた聖歌は、転んで擦りむいたのか、足には傷ができていて、髪もびしょ濡れで、酷い姿になっていて……。
「……あ……ちがうの……わた……し……あ、いや……ちよ……が……」
今にも泣きそうな顔をして、キューに必死に訴えかけてくる様子を見て。
……段々と、キューの胸が締め付けられていくような感覚がしたっきゅ。
『せ、聖歌、落ち着くっきゅ! まずは部屋に入って、風呂にでも入って、ゆっくりするっきゅ! 話はそれからっきゅ』
キューが声をかけても、聖歌は玄関に座り込んで、動こうとしなかったっきゅ。
身体的な外傷は、見た目こそ酷い有様に見えるっきゅけど、擦り傷と髪の乱れ程度で、大きな怪我は見られなかったっきゅ。つまり、これは……聖歌自身の精神の問題で……。
「……しょっぴんぐもーるに……」
『……ショッピングモールっきゅ?』
「…ばけものが……でて……。ち、ちよが……ばけものに、おそわれて……」
聖歌の言葉で、キューは全てを、察したっきゅ。
『………ち、千夜が……どうしたんだっきゅ?』
「……おそわれた……ばけものに……それで、わたしは……ちよを……みすてて……!」
化け物がでた。聖歌は、確かにそう言ったっきゅ。
化け物、それを扱って、街を襲わせるもの……。
キューは、忘れていたんだっきゅ。
何のために、夕音を魔法少女として戦わせていたのか。
何のために、キューがこの世界にやってきたのか。
この一件は、キューにその目的を、強く思い出させるものだったっきゅ。
それからのキューは、再び、魔法少女を作って、悪の組織『ワ・ルーイ』と戦うことを決心したっきゅ。
契約した相手は、光聖歌。
……元々、千夜と聖歌に魔法少女の素質があることは、知っていたっきゅ。けれど、2人には、戦いとは無縁の世界で……幸せに暮らして欲しかったから。だから、魔法少女の契約は、しないようにしてたっきゅ。……けど、千夜が失われた今、聖歌を突き動かしているのは、『ワ・ルーイ』への憎悪と、妹の敵討ちだけだったっきゅ。
今の聖歌から、それを取ってしまえば、壊れてしまうんじゃないかと。そう思って、キューは、聖歌から魔法少女の契約を申し込まれたときにも、断らなかったっきゅ。
そうして、キューと聖歌は、一緒に組織と戦う日々を送っていたっきゅ。
聖歌は、段々とかつての調子を取り戻してきていて、苺との交流も盛んになって、元気になっていったっきゅ。けど、キューは……。
『………千夜……』
キューの心は…。
空っぽのまんまだったっきゅ。
聖歌が苺と楽しそうにしていることも増えて、それ自体は喜ばしいことのはずなのに……キューの心は、満たされなかったっきゅ。
足りない何かを探し求めていて、けど、その不足はもう埋められなくて。
どうしようもなく辛くて、苦しくて……。
いっそ、死んでしまった方が楽になれるんじゃないかって、そう思えるくらい、キューは生きているということに意味を見出せていなかったっきゅ。
……もう、キューは限界だったんだっきゅ。
そんな状態で、いつものように戦場に聖歌と出向いたとき……。
キューは、ぼーっとしていて、それで……。
怪人が、キューのことを狙っていることにも気付かずに……。
そうして、そんなキューを守ろうとした聖歌が、怪人の攻撃をモロに喰らってしまって……。
一歩間違えていれば、今度は聖歌が死んでいても、おかしくなかったという状況だったっきゅ。
このままでは、聖歌まで死んでしまう。そう思ったキューの中に、とある発想が思い浮かんだんだっきゅ。
…………歌朝のように、千夜の記憶を消してしまえば……。
千夜との思い出を、キュー自身が、キューから奪う。
そうすれば、もう……。
辛い選択だったっきゅ。
千夜との思い出を、失いたくない自分がいて……。同時に、このままだと今度は聖歌を失うことになる、第二の夕音を作ってしまうことになると、そう思って、板挟みになって、どうしようもなくなったっきゅ。
………悩んで悩んで、悩んで悩んで悩み抜いた末に。
キューは、キューの記憶から、千夜の記憶を消し去ることにしたんだっきゅ……。
それが、キューと千夜の、全て。
キューが、今まで失っていた、千夜に関する記憶っきゅ。
新しいおもちゃだ^ ^