キュートが“絶望”した。それにより、暫くの間私は魔法少女へ変身することが不可能になった。
「……困ったなぁ……」
困った、本当に困った。
千夜の命は、放っておけばどんどん削れていく。
私は、千夜の親友だ。私は親友として、千夜に友愛を抱いている。
だからこそ、千夜が死んでしまうことは、私が望むものではない。
千夜の命を担保するためには、千夜を『ワ・ルーイ』から引き剥がす他ない。
………けど、今の私は無力。他の魔法少女に任せる、というのも手段の一つとしてある。が、他の魔法少女と共に千夜を救い出した場合、私が千夜を好きにできる余地がなくなってしまう。
それは困るのだ。私は、あの、何でもできた、完璧美少女だった千夜を、普通の少女にしてあげたいのだ。
その顔を苦悶に歪ませて、何でもそつなくこなせた千夜が苦労する姿、それが見たい。
千夜の尊厳が破壊されて、惨めな姿になっているのもまた、愛おしい。
良い子だった千夜が、悪の組織の手駒として働かされている姿も、千夜がどうしようもない存在になってしまったみたいで、また好ましく感じてしまう。
私が千夜に求めるのは、それなのだ。かつての千夜とは乖離してしまった、刺激的な千夜。それを求めている。
けど、勘違いしないでほしい。
私は、千夜のことが嫌いなわけではない。千夜のことは大好きだし、親友だと思っている。
私のこれは、友愛の結果によるものなのだから。
しかし、悪の組織『ワ・ルーイ』は、千夜の命を脅かしている。
洗脳され、悪の手先として働かされている千夜には、それはそれでそそるものがある。けど、それで千夜の体にガタが来て、命を落としてしまうのは流石に許容できない。
つまり、私は……。別の手段で、刺激的な千夜を摂取する必要がある。
「………何か良い手段はないのかな」
………悪の組織『ワ・ルーイ』には千夜を置いておけない。
かといって、魔法少女達の手に渡すわけにもいかない。
私単独で千夜を救うのは不可能だし、千夜を刺激的な状態に持っていくのも不可能だろう。
とすれば、悪の組織『ワ・ルーイ』とはまた別の、何か悪意を持った組織があれば……。
…………そうだ。
よくよく考えれば、おかしな話だ。
そもそも、悪の組織とは何なのだ? 街を破壊して、人々を絶望させて。
何故そんな集団が生まれたのか。幹部達は一体何者なのか。
…………ああいう組織は、本当に『ワ・ルーイ』しか存在していないのか。
……そうだ。幹部オクトロアは、触手で体ができていた。幹部トーレストは、聞く話によると巨人だったらしい。
おかしいのだ。明らかに人間ではない。妖精もそうだ。
どこからやってきた? そもそもどういう種族なのだ?
…………もし、人間とは異なる存在だとして。
果たして、彼らだけしかその存在が確認できない。そんなことが、あり得るのだろうか?
「………他にも、オクトロアみたいな存在がいたって、不思議じゃないよね」
実際、妖精だって1匹だけじゃなかったのだから。
キュート以外にも、クールやレディだっていた。
なら、私達が認識できていないだけで、『ワ・ルーイ』の幹部のような、人間ではない“ナニカ”は、他にも存在しているのではないか?
そうと決まれば……。
「……探るか。早速」
私は自室にあるパソコンを取り出し、検索エンジンで検索をかける。
SNSに流れる奇妙な噂、例えば、UMAや心霊現象。それらを片っ端から漁っていく。
まずは、簡単なSNSで、情報収集。
けど、誤情報も多くて、フェイクニュースもちらほら散見された。
高度に加工されたものもあったが、私の目は肥えている。すぐに見抜くことができた。
あまり良い手掛かりを得られなかったので、オープンな場では、中々良いものが見つからない、ある程度クローズな場所で、かつ多くの人が書き込むような媒体の方が良い。と判断したため、オカルト掲示板で、オカルト話を探っていく。
中には、触手の人型怪人が現れた、だとか、喋る羊が現れた、だの、そんな書き込みが見受けられて……。
「………喋る羊、ねぇ……」
触手の人型怪人。これは、幹部オクトロアのことを指している可能性が高い。だから、情報を深掘りしても空振りの可能性がある。
けど、喋る羊。こちらは、私達も認識したことがない存在だ。
妖精の可能性はある。けど、少なくとも怪人ではない。だって、怪人は言葉を発せないのだから。
私は、使い捨てのメールアドレスを使って、書き込みにレスをしていく。
話が聞きたい。電話かメール、DMでやり取りしませんか? と。
少々がっつきすぎたため、怪しく思われたかもしれない。けれど、帰ってきた返事は、思ったよりも好感触なもので。
『信じてくれるんですか?』
『お願いします。あの日見たものが怖くて、誰かに話したくてたまらなかったんです』
嘘をついているかもしれない。けど、今の私には少しでも情報が欲しい。
私はそう思い、連絡をくれた人と、会う約束を取り付けた。
日付は、今日から3日後。
……さて、どうなるのやら。
そして3日後。私は、連絡してくれた人が指定した場所に向かう。
ぶっちゃけ、見ず知らずの人と会うのは怖い。だから私は、リーベルに頼み込んで、同行してもらうことにした。といっても、私の目的をリーベルに悟られるわけにはいかない。なので、彼女には、必要以上に干渉しないで、とあらかじめ告げておいた。
リーベルは、人の気持ちを慮る子だ。人が嫌だといっていることに、必要以上に突っ込む精神は持ち合わせていない。
私の行動に疑念を持っても、裏でこそこそ動くような真似は、彼女には向いていない。
彼女の魔法は、その隠密行動を得意としたものであるのにも関わらず、だ。
まあ、そんな話はどうでも良い。
今は、相談主が来るのかどうか、それが重要だ。
『どこですか?』
そう連絡が入れられる。
黒のカーディガンに、右手にだけ、クリーム色ベースの、ワンポイントに黄色い紅葉の刺繍が施された手袋をつけています。それが私です。と、そう送っておく。
………にしても、集合場所は私の自宅からさほど遠くない場所にあった。
こんな近くで、喋る羊とやらがいたなんて、全く気付かなかった。
まあ、クールやレディの存在にも気づけていなかったわけだし、そういうものなのかもしれないが。
「………Yさんですか?」
暫く待っていると、ようやく私に声をかけてくる人物が現れた。
その人物は、緑色の髪を肩より少し上くらいまで伸ばしていている、私と同い年くらいの女の子で。
少し暗い顔と、そばかすが特徴的な、身長が低めの少女だった。
「……Nさん、で合ってますか?」
「……はい。合ってますよ。……それで、喋る羊について、ですよね?」
………喋る羊。
妖精か、別の組織の、幹部のような存在か。
「……はい。それについて、詳しく聞きたくて」
「…………なるほど、それはどうしてですか?」
どうして、か。
魔法少女であることは、明かせない。今の私には、それを証明する手段もないのだから。
となれば。
「………オカルト研究部なので、そういう噂を探ってるんです。……あと……本当に喋る羊がいるなら、気になるじゃないですか。どんな存在なのか」
「…………そうですね。分かりました。それじゃあ、案内します。喋る羊のところまで」
「………へ?」
驚いた。喋る羊の所在場所を知っているだなんて。てっきり、遭遇しただけなのかと思ってた。けど、連れて行ってくれるなら好都合。このまま、彼女について行って……。
「……その前に、私達の後をコソコソとつけている人がいますよね? あれは、貴方の知り合いですか?」
………ドクンと、私の心臓が鳴る。
リーベルの存在がバレた。そのことに、私は焦りを覚えたのだ。
……彼女は一体、何者? どうして、リーベルの存在に気づいた?
だって、リーベルは、魔法少女に変身した状態で、隠密できる魔法、『インビジブルマスカレード』を使っているはずなのに……。
「………わかった。その人は、帰しておく。だから、私を喋る羊のところまで、連れて行って」
「…………分かりました。なら……私に捕まっていてください」
そう言って、彼女は、私の手を掴み。
腕に巻いていた、ブレスレットのようなものを触って……。
瞬間、私の視界が、揺れる。
さっきまで見ていた光景が、一瞬で切り替わる。
次に、私が見たものは……。
「ひ、ひぇえ……な、何なんですか? だ、誰なんですかぁ…?」
ビクビクと怯える、喋る羊。そして、傍らには……。
「……んな! 夜風! お前なんで人間連れてきてんだよ! ここはオイラ達だけの住処なのに!!」
人とは思えないほど小さく、私の頭くらいしかない、小人と形容するのが正しいくらいの子供のような人型の何か。
「……紹介しましょう。ここは、私達、『ユートピア』のアジト。そして私は、ユートピアの実質的な、まあリーダーみたいなもんといいますか……。そうですね、自己紹介から始めましょう」
少女はそう言って、くるりと、私に振り返りながら、カーテシーのような動作をし、自身の名を告げる。
「私の名前は、