「夏場、夜風……。魔法少女って…?」
「……言葉のままの意味だよ。君もそうなんでしょ?」
少女………夏場夜風は、先程までの敬語はどこへやら、妙にフレンドリーな口調で、私にそう言葉を投げかけてくる。
……魔法少女、何故、私がそうだと……いや。
リーベルの正体に気づいた、ということは、リーベルが魔法少女であることにも気づけていたはずだ。
とすれば、そのリーベルを連れてきたであろう私もまた、魔法少女であろうことは予測できる。
「………なるほど、少なくとも、私が魔法少女の関係者であることは分かっていたわけだ」
「…ま、そうなるね。けどま、今回もハズレかな。妙に食いつきが良かったから、今回こそはって思ってたんだけどな〜」
ハズレ?
ということは、もしかして、喋る羊の話題は、誰かをここに誘き寄せるための、罠か何か?
とすれば、一体誰を狙って……。
「……私じゃない、誰か別の……魔法少女か何かを探してたの?」
「察しがいいね。まあ、正解」
確かに、喋る羊と聞いてその詳細を本気で調べようなんて思うのは、魔法少女関係かオカルト業界の人だけのものだろう。
「……………何のために、こんなことを…?」
「……それはこっちのセリフかな〜、何で喋る羊なんてものに食いついたわけ?」
……なるほど、先にこちらが情報を出せと、そう言いたいというわけか。
………しかし、困ったな。彼女達が私の目的に協力してくれるのかどうか、その判断がつかない限り、私は私の目的を話すわけにはいかない。
……となれば。
「助けたい親友がいるんだ。悪の組織『ワ・ルーイ』にとらわれていて、でも………私、訳あって、今魔法少女に変身できない状態で……」
「なるほど? 少しでも戦力が欲しくて、躍起になっていたって感じかな」
「うん、そういう感じ」
実際、千夜を救いたいのは本当だし、今私が魔法少女に変身できない状況に陥ってしまっているのも本当だ。その先に、私自身の手で千夜を陥れたいという欲望があるだけで。
「んま、そういう話なら、私達と利害が一致しないこともないかな」
「……そうなの?」
「まあね。私達も同じく、悪の組織『ワ・ルーイ』にはちょいと因縁があってさ」
因縁、かぁ。
まあ、どこまで行っても悪の組織なのだ。千夜の拉致や白沢薬深の拉致未遂以外に、悪事が行われていたっておかしくはない。
「……さて、それじゃあ……こっちの2匹の自己紹介の後に、君にも自己紹介してもらおうかな。まずはお互いを知るところから、でしょ? それじゃ、ドーン、メェナ。自己紹介お願いね〜」
夜風がそう言うと、小人のような少年(?)と喋る羊と思われるものが一歩前に出て、言葉を発する。
「オイラの名はドーンだ。人間が来てちょっとビビってるけど、危害を加えてこないなら、こっちも何もしない」
「あのぅ……えぇと……メェナですぅ……その……戦いとか……あんまり得意じゃなくてぇ………い、いじめないでくださいぃ……」
2人……1人と1匹と呼べばいいのか、2匹と呼べばいいのか、少々困る組み合わせなのだが、ともかく、2人も自己紹介はこれで終わりらしい。
となれば、最後は当然私の番で。
「山吹遊美です。一応、魔法少女やってます……。危害を加える気はないです。できれば、皆さんとは協力したいと思ってます」
丁寧に、誠意を込めて、私は自己紹介を行う。
そんな私の様子を見て、ドーンやメェナは、多少は安堵したのか、少し肩の力を抜いたように見えた。
「……山吹遊美ちゃん、ねえ……。名前は覚えたよ。……さて、それで………私達『ユートピア』の目的、だったかな」
「……利害の一致って言ってたけど、どういうことなの? だって、ドーンやメェナって、どっちかというと……」
「悪の組織側なんじゃないかって?」
そうだ。言葉を発する人外なんて、妖精か、悪の組織の幹部でしか見たことがない。
それ以外で、言葉を発する人外など、私は見たことがなかったのだから。
「……まあ、半分正解だよ。だって実際、私達は元々悪の組織に属していたんだからね」
悪の組織に、属していた……?
千夜以前に、悪の組織に加担している魔法少女が、もう既にいたと…?
………ドーンやメェナなんて、一切見た覚えがなかった。
私達が活動する以前に、悪の組織で働いていたのだろう。
「悪の組織に所属していたって……じゃあ、何で今は属していないの?」
「私達は捨てられたんですぅ………よ、弱いからって、いらないってぇ……」
「へ…?」
「私の場合はメェナ達とは違うんだけどね。……私の母親は、最低な母親だった。私のことを産み落としておきながら、私自身に関心を示さなかった。……私を魔法少女に覚醒させて、私で研究を行おうとした。まあ、だから逃げたんだけどさ」
……衝撃的な事実に、私は驚きを隠せないでいた。
まさか、彼女達は、とんでもない事実を握っているのでは……?
私は、もしかしたら、とんでもない事実を知ろうとしているのでは……?
……しかし、納得でもある。
夜風は、喋る羊で“特定の誰か”を釣ろうとしていた。
今思えば、それは悪の組織『ワ・ルーイ』に所属している者のことだったんだ。
喋る羊と聞いて、『ワ・ルーイ』の者はおそらくメェナを頭に思い浮かべるだろう。
メェナの存在を知って、探りに来た『ワ・ルーイ』の一員を、アジトに誘き寄せる。それが、彼女達の目的だったんだろう。
「……じゃあ、『ワ・ルーイ』のこと、何か知ってるの…?」
「…………私は、幹部マインドライフとか、その辺の情報なら握ってるよ。ただまあ、私は別に悪の組織『ワ・ルーイ』に所属しているわけではなかったからさ。組織のことについては、ドーンやメェナの方が詳しいと思うよ」
そう言って、夜風はドーンやメェナの方に視線を向ける。
「オイラは話す気ないぞ。面倒くさいからな!」
「えー? 話してあげてよ〜。遊美ちゃん、もしかしたら私達の協力者になってくれるかもしれないんだからさぁ」
「……え、じゃ、じゃあ、私が話せばいいんですかぁ? ……あ、あのぅ……初対面の人、苦手でぇ……」
なるほど。捨てられたから、組織への復讐を企んでる。だから、組織と敵対している私と手を組むのは、彼女達にとっては好都合、という話なのだろう。
……けど、好都合なのは、私にとってもそうだ。
彼女達の目的は、復讐だ。
正義感でも、何でもない。ただの復讐。そして、ドーンやメェナに関しては、元々悪の組織『ワ・ルーイ』に所属していたような奴らだ。そして、ほどほどに弱いときた。
…………使える。
千夜を救い出した後に、千夜を刺激的にするために、利用できる。
こいつらに、そこまで大きな力はない。
オクトロアや、他の幹部のような、底の無さ、“読めない”と思わせるような凄みはない。
小物も小物、小悪党。
私がコントロールするのに、丁度良い雑兵だ。
そんな風に考えていた私だったが。
「えーと、えい!」
メェナがそう言った途端、彼女(?)の体がモクモクと煙に包まれる。
急な奇行に、私は戸惑わざるを得ない。
やがて、モクモクとした煙の中から、1人の少女の姿が現れて……。
「よ、よぉし! この姿なら、多少は緊張しない気がします! うぅ……でも初対面の人と話すのは緊張しますぅ……」
驚いた。まさか、人型になれるなんて。
今のメェナの姿は、羊でも何でもなかった。
強いて言えば、頭に生えた羊のツノと、モフモフと、羊の毛皮のような衣類を纏っている点が羊っぽいというくらいだろう。
今のメェナは、紛れもなく人間の少女だった。
髪色は白で、癖っ毛なふわふわボブになっていて、肌は色白で、少しオドオドとした様子が可愛らしい、ただの少女でしかなかった。
「……そんなこと、できるんだ……」
「……ああ、初めて見るんだ? 組織の幹部がこれしてるの、見たことなかったの? まあ、私も見たことなかったけどさ」
知らないことだらけだ。
……本当に、思わぬ収穫だった。
組織が一体何なのか、組織の幹部の正体、組織の内部について。
それらについて、私は知る機会を得た。
そして……。
こいつらを利用すれば、私はいよいよ千夜を……。
「………ふ………ふふふ……」
………千夜、待っててね。
必ず、私があの悪辣な組織から、貴方を救い出してみせるから。
だから、そのあとは……。
思う存分………ね?