悪の組織『ワ・ルーイ』の幹部が1人、ジェネシステネーブルは、円卓の座につく。
幹部集合会議。幾度となく行われた、組織の幹部達による今後の方針を決定する会議だ。
この会議に、首領であるクロマックは参加しない。
取り仕切るのは、同じく幹部である触手の男、オクトロア。
彼は、誰よりも先に円卓につき、今回の会議の内容についての資料に目を通していた。
円卓の椅子の数は、全部で7。しかし、そこには1つ空席があった。
幹部ピュア。幹部トーレストを利用し、結局自らが破滅することになった男の幹部だ。
今回の会議の議題は、そんな彼についての話となっているようで…。
「……全員来たみてェだな。………ンで、ピュアがやられたって話らしいが……」
そう話すのは、燃えるような赤い髪を持った男、イグニス。彼の左には、同じく幹部であるジェネシステネーブルが座っており、右隣は空席となっていた。
「……トーレストを使い潰した挙句、自分自身の身も滅ぼすとは。何か企んでいるとは思ってたけど、結末は哀れだったみたいだね」
そう話す、少し身長が低めの少年の名は、イコル。現在光千夜ことブラックルーイ………或いはナイトルーイの滞在先の主であり、また、誠実をモットーにしている幹部でもある。彼の右隣には同じく幹部であるキュヴァが座っており、左隣は空席となっていた。
「そうですね。トーレストに続いて、ピュアまでやられてしまいました。…トーレストの時は、ピュアが勝手にトーレストを使い潰していました。ですが………今回は少々訳が違います」
そう話すのは、触手の幹部オクトロアだ。普段は人に敬称を付ける彼も、死人に敬称はつけないのか、トーレストのこともピュアのことも呼び捨てにしていた。
或いは、元より他者を尊敬することが少ないからこそ、漏れ出た本性なのかもしれない。
彼の両隣にはそれぞれ彼から見て右にヒンナ、左にキュヴァがいる状態であり、ヒンナの方は思考を明後日の方向に巡らせているからか、少しぼーっとしているような表情をしており、キュヴァの方はこっそり下でゲーム機を弄っていた。
勤勉な触手幹部の両隣は、不幸にも怠惰な女幹部が占領していた。
「……今回ピュアを殺害したのはおそらく幹部クラスの者です。………我々の中に、犯人がいる可能性は、否定できません」
オクトロアの言葉に、幹部達がピリつく。
ヒンナはオクトロアの発言で、ハッとした顔をし、イグニスやイコルは怪訝な顔をし始める。そして、ジェネシスは……。
「………どうして幹部クラスの者がピュアをやったって分かったの? 魔法少女にやられた可能性だってあるでしょ?」
冷静に、オクトロアの発言を噛み砕き、問いを投げ返していた。
「……ピュアは自身のアジトでやられていました。しかし、魔法少女が入り込んだ痕跡は……あるにはありましたが、かなり前のものです。ピュアがやられた時期とは一致しません。……となれば、ピュアをやれるのは、幹部クラスの我々の誰かとしか思えないでしょう」
幹部達は互いに顔を合わせ、特に関心のなさそうなキュヴァを除いて、互いに疑心の目を向ける。
ただ、その中でもヒンナは、幹部以外にピュアを仕留める可能性のある存在について、心当たりがあるようで…。
「…………ドーンやメェナの可能性があるわ。………あいつら、追い出した後何してるか分からないし、私達のことを恨んでる線も否定できないわ」
「………彼らにそんな実力はありませんよ。強くなる見込みもありませんでした。だからこそ、我々は彼らを追い出したんですからね。我々の成果をタダで享受されても困りますし」
ドーンやメェナ。幹部達と同じく、かつて悪の組織『ワ・ルーイ』に所属していた存在。ヒンナは、彼らの仕業ではないかと、そう問いかけるが、オクトロアによってそれは否定される。
「………ですから、ピュアをやれたのは、我々の中の誰か、その可能性が1番高いんですよ」
「…………他の組織の可能性は?」
「セキュリティは完璧でした。それに、我々以上に規模の大きい組織は存在していませんからね」
ヒンナは他の可能性の提示を行うが、それも全てオクトロアに否定される。
幹部達の疑念は深まる。お互いに、お前がやったんじゃないか、そんな目を向け始めている。
「……それで、結局何が言いたいのかな?」
「……全員のアリバイを証明したいんですよ。ピュアがやられた時について、推定時刻は、お配りした資料に載せてあります。その時間帯、何をしていたのかお伺いしても?」
幹部達はそれぞれ資料に目を通す。
そして、各々がその時間帯に行っていたことを話し始める。
「私はルーイと一緒に魔法少女と戦ってたよ。その後アジトに帰ったけど、ヒンナの姿は見えたから、私とヒンナは弾けると思う」
「ンなこといって、こっそりピュアのことをお前がやったんじゃねェか? 最近幹部に昇格したからって、調子乗ってンだろ! どうなンだよ! あぁ!?」
キュヴァの発言に、イグニスが突っかかる。が…。
「僕もその話はルーイから報告を受けている。キュヴァがピュアをやる暇がないのは正しいだろう。それに、ピュアをわざわざ始末しに行くくらいなら、ゲームでもしているだろう、それくらい、キュヴァは怠惰な存在というのは、関わりの薄い僕でもわかる」
「……チッ………じゃあそういうテメェはどうなンだ?」
「僕のアリバイは湿島が証明してくれている。それに、分かるだろう? 僕は誠実をモットーにしている。もし僕がピュアをやったのなら、素直に告白しているさ。逆に、そういう君はどうなんだ? 君こそアリバイがないんじゃないのか?」
「あ? 魔法少女にでも聞いとけ」
イグニスは言わなくても分かるだろ、とそう吐き捨ててそっぽを向く。
実際、彼はいつも通り、ピュアがやられた時間帯に魔法少女達との戦闘を行っていたようで、彼にはピュアを仕留める時間がなかったのは事実だった。
「………それでは、ヒンナさんはその時間帯に何を?」
「……アジトにいたわ。仕事をね……」
「仕事、してたんですか…?」
「……何よ」
「………ジェネさんは、腕輪型の転移魔法機を作り出しています。それを使えば、ピュアのアジトでピュアを始末した後、ジェネさんのアジトに帰還することも可能な訳ですが………どうでしょう?」
オクトロアは、ヒンナのことを責め立てるように、そう言う。
しかし実際、彼はヒンナのことを一切疑ってはいなかった。
強いていうなら、ルーイのためにピュアを排除した、とかそんなところだろうという認識はあったが、その線も薄いと、オクトロアは考えていたのだ。
「……腕輪型転移魔法機なら、ルーイが持っていることを僕が確認している。それに、ヒンナには動機がない。ルーイのためを思っているのは、もはや隠すまでもないだろう。だが、元より僕の元にルーイを預けた時点で、ルーイの安全は担保されている。ルーイのためにピュアを排除したという理由は成立しない。あとはわかるな?」
「……まあ、そうでしょうね」
当然、ヒンナにもピュアをやれる時間はなかった。
彼女はずっとアジトにいて、業務をこなしていたのだから。
……オクトロアが、本当に疑っているのは……。
「……それでは、貴方のアリバイを聞かせてもらいましょうか。ジェネさん」
幹部ジェネシステネーブルだ。
「………へぇ、私を疑うんだ?」
「まだアリバイを話されていないからですよ。アリバイがあるのなら、疑いの目を向けることもありません。………アリバイがあるのなら、ですが」
オクトロアの視線が、突き刺さるようにジェネシスに向けられる。
ジェネシスは、確かに幹部ではある。
しかし、他の幹部とは、今の地位についた経緯が異なるのだ。
特異で、他の幹部と同様の立ち位置とは、とても言えない。
彼女が幹部の立ち位置でいるために、オクトロアは彼女についての情報の多くをクロマックに共有していない。
それを伝えてしまえば、クロマックが彼女を幹部で置いておくことが困難になるからだ。
つまり、本来の幹部ジェネシステネーブルは、他の幹部よりも地位が低い状態にある。
ピュアの場合は、トーレストを使い潰しても許された。だが、他の幹部より地位の低いジェネシスが、ピュアを始末したとなったら?
それが事実かどうかは関係なく、一度そう認定されてしまえば、ジェネシスの立場はなくなる。
「………ちょっと、ね」
しかし、ジェネシスには反論の余地がない。
アリバイなど、ないのだ。
強いていうなら、ブラックルーイの分身が周囲にバレないための根回しをしていた、とは言えるかもしれない。
当然、それはブラックルーイの分身の存在をバラしてしまうことになるわけで……。
「アリバイは、ないのですね?」
「………」
「……なるほど。アリバイがないのであれば、ジェネさんがピュアを始末した、そう結論付けるのが、自然な流れになりますが……」
幹部達の疑心の目が、ジェネシスに向けられる。
ピュアをやったのはお前なのか、そう問いかける視線が、ジェネシスを貫く。
オクトロアも、イグニスも、イコルも、皆ジェネシスを疑っていた。
「待って!! アリバイならあるわ!!」
そんなジェネシスを見かねてか、彼女の隣に座っていたヒンナが、声をあげる。
「……何ですか、ヒンナさん。ジェネさんのアリバイについて、何か知っているんですか?」
「……アリバイなら、あるわ。だって私、ずっとジェネシスと一緒にいたもの。………私はジェネシスがアジトにいたのを見てる。だから、ジェネシスがピュアをやれるはずがないことも知ってる。どう? これで満足かしら?」
疑念の目は、晴れない。幹部達からすれば、今のヒンナは、ジェネシスを守るために、ありもしないアリバイをでっち上げたようにしか思えなかったためだ。しかし……。
「ヒンナが言うならそうなんだろう。オクトロア、僕達の中に裏切り者がいるとは思えない。他にやれた奴がいないか、探ったほうがいいんじゃないか?」
ジェネシスにアリバイがないと、そう証明する方法は、幹部達にはない。
疑念こそあれど、今の幹部達に、直接ジェネシスを糾弾することはできなかった。
だが、やれることはある。
「……アリバイがあるのは、理解しました。ですが……申し訳ないのですが、疑いの目が晴れないのも事実なのです。ですから…………ジェネさん、貴方の研究情報を、全て私に渡してください」
「……は?」
「全てです。貴方が研究してきた情報を、全て。包み隠さず、私に提出してください。できなければ……わかりますね?」
「……なるほどね、最初からそのつもりで……」
ジェネシスに、拒否する権限はない。ヒンナにも、これ以上ジェネシスを擁護できるような発言はできそうにもない。
全ては、オクトロアの手のひらの上だった。
一体どこの何ンドライフさんが犯人なんだ…?