TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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97悪役少女は自身の欲望を吐露する

 

 

ジェネちゃんと約束してから、3日が経った。もう1人の俺こと千夜ちゃんはイコルの方に帰っちゃったし、師匠は構ってくれないし、ラフとは最近遊べてないしで、暇である。

街への襲撃も、しばらくは千夜ちゃんの方がすることになってるっぽいし……。

 

はーあー。なんかやることないかな……。

なんて、退屈すぎて逆に精神がすり減りそうになっていた俺だったが……。

 

「ただいまー」

 

そんな俺のもとに、1人の女性の声が届く。

このアジトにやってくる女性なんて、そう多くない。

師匠ではない、キュヴァちゃんはもっと少女な声をしている。そして、千夜ちゃんの声は俺と同じなので絶対違う。となれば……。

 

「おかえりジェネちゃん!」

 

ジェネちゃんだ。ジェネちゃんが帰ってきた。

俺はジェネちゃんのことを出迎えに行く。

 

相変わらず頭に包帯をつけていて、痛々しい見た目だ。けど、ジェネちゃんはちゃんと帰ってきてくれた。

 

どこにも行かずに、アジトへ。

 

これなら、俺の光堕ちについても告白できそうだね。

 

「……ごめんね、ちょっと色々あって。中々アジトに帰れなくて」

 

「全然大丈夫です! それで…………約束の話、何だけど……」

 

俺の言葉に、一瞬ジェネちゃんはポカンとした顔をする。

もしかして、俺との約束覚えてなかった…?

ま、まあそういうこともあるよね。……指切りしたのに、忘れてたんだ。

 

「………あー、そういえば、そんな話もしてたね。それで、その話したいことって結局何だったの?」

 

「………あー。えーと、本当はもう1人の私にもいて欲しいんですけど……」

 

許可、取ってないんだよなぁ。

共有するの忘れてたっていうか、2人きりで話す機会設けれなかったというか……。

 

だって、もう1人の俺、イコルのアジトにいるんだもん。変に合流しようにもさせてもらえないしさぁ。

 

……まあ、向こうの千夜ちゃんだって、俺ではあるんだ。別に光堕ちのこと伝えたって大丈夫でしょ。

どうせ俺と同じような思考してるんだし、俺が独断でジェネちゃんに光堕ちについて告白しても大丈夫なはずだ。うん。

 

「………あー、ヒンナちゃんに連絡してもらって、一旦戻ってもらう?」

 

「……いえ、大丈夫です。もう1人の私には、後で伝えておくので」

 

「そっか。………それって、ヒンナちゃんとかにも聞かれたくない感じの話なの? もしそうなら、私の個室で話そっか」

 

師匠にも聞かれたくないですと、そう告げて、俺はジェネちゃんの案内するがままに彼女の部屋に入り込む。

 

彼女の部屋の中は、とても質素だった。ただ保湿の道具や肌のケアを行うための道具。化粧水などが置いてあったので、部屋こそ質素だが、美容意識は高いのかもしれないなと、なんとなくそう感じる。

 

ジェネちゃんは机の下にある椅子を引いて、そこに座る。そして、俺にはソファに腰掛けるように促す。

ちょうど、ジェネちゃんと俺が対面する形になるように、俺はソファに座り込む。

 

「さて、それじゃあ聞こうかな。ルーイちゃんのお話ってやつ」

 

ジェネちゃんは、優しい目をしながら、俺の話を待っている。

 

………話すんだ。ジェネちゃんが安心して逝けるためにも。俺が……大丈夫だってこと。

 

「……今の、私の状態について、話したいことがあるんです」

 

「今のルーイちゃんの状態、ねぇ……。うん、私の方が把握してるとは思うけど……まあ、本人にしか分からないことだってあるもんね。続けて」

 

「……実は私、組織の洗脳、受けてないんです」

 

言った、言ってやった、

俺は、洗脳なんてされてない。最初から、一度たりとも。

洗脳装置は、俺の前世を呼び覚ましただけにとどまり、俺自身の人格を歪ませるという効果は生じ得なかった。その事実を、今……。

 

「…………は? ……あのね、ルーイちゃん、君自身はそう思っていても、実際には……」

 

「光千夜として生きてきた記憶も、しっかり残ってますよ。……姉の名前は光聖歌。母の名前は光歌朝で……父の名前は……」

 

俺の発言に、ジェネちゃんは驚いたような顔をする。

まあ……そりゃ洗脳されてたと思ってた姪っ子が実は洗脳されてませんでしたって言われても、すぐには飲み込めないよねぇ。

 

「……もう1人の千夜ちゃんから、聞いたの…?」

 

「……あー、そうなっちゃうのか……。……えと、本当に洗脳も記憶消去もされてないんです。……えーと、そうだなぁ……」

 

「………そうだよ。そんなはずないもん。だって、洗脳装置に穴はないはずだよ。一度でも洗脳されてしまえば、もう終わりなんだから。………ルーイちゃんにとっての幸福は、もう組織に貢献することに書き換えられちゃったはずなんだから……」

 

ジェネちゃんは、少し悲しそうな顔をして、言う。

やっぱり、信じてもらえてないみたいだ。

……なら、言うか。

 

これを言えば、きっと……。

 

「………なら、これならどうです。私、元々組織のことは裏切るつもりだったんです。裏切って、正義の魔法少女として、悪の組織『ワ・ルーイ』を潰す。それが、私の目標だったんですから」

 

「……どういうこと……?」

 

「……私、昔から、悪い奴が改心して、味方になってくれる展開が好きだったんです。あ、ちなみに光堕ちって言うんですけど……敵対してたライバルキャラとか、敵の幹部とか、そういうキャラクターが、主人公の強い光に惹かれて、味方になって一緒に敵組織を潰してくれたりとか、そういうやつです。私、昔からそういうのが好きで」

 

「……光堕ち…? へ………何言って……」

 

「……そう! 私が組織に所属している理由は、その“光堕ち”を、私自身がするためなんです。魔法少女キューティバース達と敵対しているのも、その“光堕ち”のためなんですよね。ほら、最初は敵対していた方が、仲間になった時の尊さって上がるでしょ? だから私、わざと悪辣な振る舞いをして、キューティバース達とバチバチにやり合う仲を演出したんですよ!」

 

「……なに……それ……はは……じゃ、じゃあ、最初から、洗脳が効いてなかったと……? う、嘘でしょ…?」

 

ジェネちゃんは、びっくりしすぎてもはや顔が青ざめはじめてすらいた。

まあ、組織の洗脳装置に罹ってないとは思ってなかったんだろうね。今まで騙しててごめん。

 

「あと、分身もそうなんですよね。あまりにも悪辣でクズな奴が、いくら改心したといっても、クズすぎて周りが光堕ちを受け入れられず、むしろ悪役として華々しく散ってくれた方が良かったと感じてしまう可能性ってあるじゃないですか。そうなったら、私困るので。だから、”魔法少女ブラックルーイによく似た少女が、普通に日常を送る姿“を確認してもらうことにしたんです。そして、その少女がブラックルーイだと気付いた時に、魔法少女達は気付くわけです。あれ? ブラックルーイってそこまで悪い奴じゃないんじゃね?ってね!」

 

「やっばい………本当にやっばい……理解が追いつかない。本当にどういうこと……?」

 

ジェネちゃんが両手で頭を抱え出した。

包帯巻いてるし、痛むのかな…?

大丈夫かな…。

 

「ジェネちゃん、その……大丈夫?」

 

「……全然だいじょばないかも…。ちょっと整理させて」

 

「はい」

 

やっぱり頭痛いのかなぁ。

包帯、見るからに痛々しいもんね。

………結局、何でジェネちゃんは寿命そんなに長くないって話になってるんだろうか。師匠から聞いた情報だけじゃ、何も分からないんだけど……。

 

「……えーと、まず、ルーイちゃんは洗脳装置にかけられたけど、洗脳は失敗してたって感じでいいのかな?」

 

「はい」

 

「………それで、家族のことも覚えてたと?」

 

「覚えてました。お姉ちゃん美人で好きだったので。今何してるのかなぁ…?」

 

光堕ちしたらお姉ちゃんとも会ってみよっと。あれから成長してるはずだし、きっとめちゃくちゃ美人に育ってるんだろうなぁ…。

 

「……それで、光堕ち? というのがしたくてって話だよね?」

 

「そうですそうです。敵キャラが、味方キャラになる展開のことです。わかりますかね? あ、ほら、例えば、某有名漫画だと、宇宙から地球に飛来してきた、ツンデレの代表格でもあるあのキャラクターとか……」

 

俺はジェネちゃんにスマホを出すように頼み込み、光堕ちの例をネットで検索してもらう。

この世界にも、前世の俺の時にあった有名漫画とかは存在しているので、それを用いてジェネちゃんに説明する。

光堕ちがどんなものであるのか。どこがエモいのか、一つ一つ丁寧に。

 

「………な、なるほど? それで、千夜ちゃんは光堕ち展開を自分自身で行うために、わざと組織に洗脳されてるフリをしてたと…?」

 

「はい」

 

「…………ふ………は……あはは!! 何それ!! おっかしい!! うっそでしょ!? 私、ずっと騙されてたってこと…!?」

 

や、やばい……。怒らせちゃったかな…。

確かに、そうだよな。俺ってずっとジェネちゃんのこと騙してきてて……。ジェネちゃんは本気で俺のこと心配してくれてたのに、俺はそんなジェネちゃんの気持ちを……。

 

「あははは!!! 面白い!! そっか、そうだったんだ。……そっか……。良かった……」

 

「へ?」

 

「…………もう取り返しがつかないのかなって、そう思ってたんだ。けど……良かった。千夜ちゃんは………ちゃんと千夜ちゃんでいれたんだね……」

 

ジェネちゃんは、今まで見たことのないくらい、穏やかな表情で、俺を見つめる。

片方の手は、俺の頭に向けられていて……。

 

「本当に……良かった……」

 

ジェネちゃんの手が、俺の頭をなぞる。

それが何だか、心地よくて。

 

「……く………うふ………」

 

「ジェネちゃん…?」

 

「あははははははは!!」

 

と思ったら、突然笑い出したんですけど……。情緒不安定?

 

「そっかぁ。じゃあ、オクトロアのやってることも馬鹿じゃん。……千夜ちゃんのこと洗脳できてると思って、悦に浸ってるんでしょ? 馬鹿じゃん。あはっ! おっかしい!! オクトロアは無能だったんだ! ばーか! 私の上を取った気でいるけど、お前は千夜ちゃんのこと1ミリも洗脳できてないよーだ!!」

 

「言い過ぎでは?」

 

そりゃ、実際に洗脳されてはいないんだけどさ。幹部様は頑張って仕事してくれてるんだよ? そんな馬鹿にするなんて、ねぇ?

 

「はぁーあ! こんな予想外なこと、初めてかも。びっくりしたね。本当に…。なんか、下らないことで悩んでるのが馬鹿みたいになってきた」

 

「ジェネちゃん…?」

 

「……決めたよ。本当はさ、私にも目的が…計画があったんだ…。けど、千夜ちゃんに会って、変わったって言うか……。……………私、これで心置きなく逝けそうだよ」

 

ジェネちゃんは立ち上がる。

……何か、悩んでたみたいだけど、それも吹っ切れたみたいだし……。

 

………心置きなく逝けそう、か。

…………そう思ってくれたなら、告白した意味もあったのかな。

 

「………千夜ちゃん、私がいなくても、もう大丈夫だよね」

 

「……ジェネちゃんがいないと、寂しいといえば寂しいんだけど……」

 

「それはごめん。けど………ほら、仕方ないことってあるからさ。………だからまあ、私がいなくなっても、元気にやっててよ。私は……私にやれる精一杯をやるからさ」

 

……ジェネちゃんの顔は、清々しい。

頭に包帯を巻いていて、どう見ても重症なのに。

 

とてもそうは思えないくらい、表情は明るくて。

 

「……………私の研究情報があるんだ。………それ、全部千夜ちゃんにあげる。代償のこととか、その他諸々、役に立つ情報があるはずだよ」

 

最後に、俺に鍵を渡して、そう告げて、部屋から出ていった。

 

………ジェネちゃんが死ぬ運命は、多分もう変えられないのかもしれない。

けど……。

少しでもジェネちゃんの心残りを解消できたなら……。

 

「………ジェネちゃん、俺、絶対に光堕ちするから」

 

………俺もとことん、光堕ちに全力を尽くさないとな。

じゃないと、ジェネちゃんが逝った後、天国で見守る彼女に申し訳ないから。

 




4章は110までの予定です
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