怪人を街に解き放つ。
一般市民は、怪人の毒牙にかからないために逃げ惑う。
その光景を、俺は影からひっそりと見守っていた。
本来なら、怪人を解き放つ上で俺が怪人の動向を管理する必要などないのだが、やっぱり人が死んだりしたら責任負えないし、後遺症が残るほどの怪我をさせたらその罪背負わなきゃならんくなりそうで嫌だから、見張っておいてあげた方がいいんだよね。
仮にも怪人って俺のせいで産まれた存在なわけじゃん?
その怪人が被害を起こして、魔法少女に倒されたとして責任誰が負うの?って話になってくると、自然と俺にも矛先が向かってくるわけですよ。
そんなんごめんですからね。勿論、街の修復費用とか、そういうのはかかってくるかもしれんけどさ。
俺こと千夜の実年齢的には、ギリ許されんこともないかなって気もするわけですよ。
洗脳されて仕方なく……あいつらに無理矢理……とか何とか、うまいこと言えば。
まあ、それでも許されんようであれば光堕ちしてクロマック君討伐した後に失踪する感じにしようかなって思ってるけどね。罪を償うのとかやだし。
だってそうでしょ? 実際洗脳装置にぶち込まれたのは事実だし、たまたま前世の記憶があるから何とかなってるだけで、本来なら洗脳されてたわけだし。
そうなったら、今の俺みたいに怪人の行動の制御なんてしてくれないよ? 多分死人出しちゃうと思うよ?
そう考えたら、俺のやってることってだいぶ良心的じゃね? 善の心100%じゃん。これは光堕ちの資質アリだな!
……ま、光堕ちした後のこと考えても仕方ないよね。1番楽しいのって光堕ちする瞬間だと思うし、その後のことはまあなるようになるでしょ。
それに、一般市民も避難し切ったみたいだし、そろそろ、かな。
うん、多分逃げ遅れた人はいない、はず。
……あんまり一般市民に俺が街の破壊に加担している様子を見せると光堕ちしにくくなるから、ね。できるだけ皆逃げてからの方がいいかなって。
……本当に逃げ遅れた人とかいないかな? 1人2人くらい隠れてたりするかも…?
でも、もう魔法少女来ちゃったし、まあ、多分大丈夫っしょ。
ブラックルーイ、行きまーす!
「怪人…! 行くよ、シャイニング!」
「分かってるわ。街に被害を出させるわけにはいかないもの。これ以上、罪を……」
魔法少女2人組。今日は黄色の3人目の子はいないっぽいね。基本2人行動なのかな?
にしても、相変わらずシャイニングシンガーさんの顔色は悪いですね。やっぱ何か抱え込んでるっぽいな……。精神的な成長はまだできてない感じか。
俺の見込みだと、キューティバースがシャイニングシンガーに喝を入れてくれるんじゃないかと踏んでいるんだけどね、それのが王道っぽくない?
まあ、ここは現実。アニメの世界じゃないし、もし上手くいかないようなら俺がこっそり介入してやるしかないかもしれないな。
例えば、広井として変身前のシャイニングシンガーと接触する、とかね。
さて、と。今後の展望はこれくらいにしておくとして。
流石に怪人君単独でキューティバースとシャイニングシンガーの2人を相手取るのは厳しいと思われるので、ここでおいらが登場!
2対2のタッグバトルを開始するぜ!
「せっかく気持ちよく暴れてくれてたのに。人の邪魔をするのがそんなに楽しい?」
「街を守るために、必死に戦っているだけだよ。ここは、私達にとって、大切で大好きな…生まれ育った街なんだから!」
怪人を見つけ、聖歌と2人で対処しようとした私達の目の前に現れたのは、『ワ・ルーイ』の味方をする魔法少女、ブラックルーイだった。
ブラックルーイの姿を視認した途端、聖歌の体がびくりと震える様子が見えた。
それは、隣にいた私だからこそ気づけた、些細な様子だったけれど。
………やっぱり、聖歌は私に、何かを隠しているみたいだった。
「どうして守るの? 建物が壊されるから? 街の景観を破壊されてしまうから? でもさ、私以外にも街の建物を壊す存在はいるよ? 老朽化した建物を壊したり、新しい施設を作る上で、邪魔な建物を壊したり。そいつらはいいの?」
「それは……その人達は、必要だからやっているだけで……。貴方みたいなのとは違う…!」
「私だって必要だからやっていることだよ。クロマック様が世界を征服する上で、街を破壊することが必要になってくるからやってるの。どうして私が駄目で、他が許されるの?」
そういう話じゃない。どうして、彼女には通じないんだろう。
……やっぱり、分かり合えないんだ。
対話は無意味だ。なら、私は力づくで、魔法少女ブラックルーイを止めるしかない。
「私はブラックルーイの相手をする。シャイニングは、怪人の相手をして!」
「……わかったわ…」
聖歌はブラックルーイを前にすると、調子が狂ってしまうみたいだった。だから、私がブラックルーイの相手をして、聖歌が怪人の相手をする。これが、おそらく最善のはずだ。
『キューティ、ブラックルーイの実力は未だ不明っきゅ。慎重に行くっきゅよ』
「うん。分かってるよキュート」
私はブラックルーイに向き合う。
初めて出会った時、ブラックルーイが使ってきた魔法は、『ブラックハンド』と『闇の炎』。
『闇の炎』は汎用攻撃魔法、といった感じで、『ブラックハンド』は拘束魔法と、おそらく魔法の対消滅作用持ち? といったところだろうか。
警戒するべきは、『ブラックハンド』だ。
初戦闘では、私の繰り出した『ホイップゴースト』が、ブラックルーイの『ブラックハンド』によって、黒い沼に引き摺り込まれ、無効化された。
拘束と魔法の無効化、2つの効果を持つ魔法。警戒しない理由はない。
そして、初の戦闘では、『ブラックハンド』はブラックルーイが地面に出現させた黒い沼から手を現していた。つまり、空中では使えないはず。
なら……。
「キュート、『浮遊の魔』をお願い!」
『分かったっきゅ』
私はキュートに『浮遊の魔』をかけてもらい、空中へと浮遊する。
私が空中戦を望んでいるという意図を汲み取ったのか、ブラックルーイもまた自身に『浮遊の魔』をかけ、空中へと浮遊し出した。
……にしても、ブラックルーイは自分自身で『浮遊の魔』をかけていたようだった。私や遊美ちゃんは、キュートにかけてもらわないと、『浮遊の魔』を発動することもできないのに。
……やっぱり、ブラックルーイの実力は侮れない。
「『ストロベリーアロー!』」
私が単独でブラックルーイを倒せるか、そう考えた時に、正直にいうと、無理なんじゃないかなって思ってる。
怪人だって、私単独で撃破しようとすると、かなりの苦戦を強いられてしまうし、それが魔法少女相手となれば、当然怪人を相手するよりも難易度は跳ね上がる。
だから、私はブラックルーイを倒すことを目的にはしない。
今、私達が戦っている場所に、遊美ちゃんが向かってきてくれている。
私はそれまで、できるだけブラックルーイに魔法を使わせて消耗させつつ、遊美ちゃんがくるまでの時間稼ぎを行う。
魔法少女には、一度の戦闘に同じ魔法を2度以上使うと、消費される魔力の量が倍以上に跳ね上がるという性質がある。
その性質がある以上、今の私との戦闘で一度ブラックルーイが放った魔法は、以降この戦闘において使われることはないといってもいいはず。
そう。なるべく魔法を使わせ、遊美ちゃんが来た時点で、ブラックルーイを追い込める状況を作っておく、それが多分今の私に求められていることだ。
「苺の矢か。食べたら美味しそうだね。けど…」
ブラックルーイは私が魔法を発動したのを見て、懐からナイフを取り出した。
「…? 刃物? そんな物じゃ、私の魔法は…」
「これは武器じゃないよ。ただの魔法発動のための道具だから、ね」
そう言ってブラックルーイは、そのナイフを躊躇いなく自身の左手に突き刺し、真っ赤な血を、空中で垂れ流し始めた。
「なっ……」
「『ブラッドフィッシュ』」
唱えた途端、ブラックルーイの手から流れる血が変形し、魚のような形を取って、私が放った『ストロベリーアロー』に突撃する。
自身の血を利用する魔法。
そんな魔法があるなんて、初めて知った。
……でも、これで手札を一つ知れた。それに、今日の戦闘では、もう『ブラッドフィッシュ』は使えない。
この調子で、次もブラックルーイに魔法を使わせる。
そうすれば…。
「『ホイップゴースト』!!」
私は以前、ブラックルーイの『ブラックハンド』によって封じられた、『ホイップゴースト』を召喚する。
今は互いに空中に浮遊している状態。おそらく『ブラックハンド』は使えない。
となると、何か別の魔法が飛んでくるはずだが……。
「……これじゃ足りないか」
ブラックルーイは再び自身の手にナイフを突き刺し、流れ出る血の量を増加させる。
……おそらく、次の魔法の行使にも血を使うつもりなのだろう。
それは私から見ても明白だったが、止めはしない。
ブラックルーイの手札を知ることは、ブラックルーイを止める上で、必要なことだから。
「『ブラッドテンタクル』」
ブラックルーイから漏れ出た血が、うねうねと動きながら、1つに収束し、触手のようなものへと変化していく。
『以前出会った幹部のものとそっくりっきゅ』
キュートのいう通り、私達が以前撃退した幹部が持つ触手にそっくりな『ブラッドテンタクル』は、私の放った『ホイップゴースト』に襲いかかり、互いに攻撃しあって同時に消滅した。
………ブラックルーイの魔法は、奇妙なものばかりだ。
不可解な点も多い。ブラックルーイを見ると、聖歌の様子もおかしくなる。
「貴方は、一体何者なの……?」
私はつい、頭に思い浮かんだ疑問を口に出してしまっていた。
存在が不可解すぎて、彼女の正体が、掴めない。
「見ての通り、街を破壊する。君達にとってはわるーい魔法少女、かな」
「そっか……。そこだけは、はっきりしてるんだもんね。なら……」
不明な点は多くある。けど、彼女と私が相容れないのは事実だ。
だったら、私は彼女を止めることだけに集中しよう。
彼女の正体については、キュートに考察してもらえればいい。
「ブラックルーイ、私は貴方を止める。私の大切な街は、貴方なんかに壊させたりしない!」