「幹部、マインドライフ……」
それが、“魔女”の正体……。
けど、名前を言われても、正直私にはピンと来なかった。
「………ありゃりゃ、キュートとかいう妖精、完全にダウンしちゃった? まあいいか。君と契約してるの、その妖精じゃなさそうだし、関係ないね」
少女は、簡単にキュートを切り捨てる判断をする。けど、キュートにいなくなられると、困るのだ。
だって、キュートがいないと、苺ちゃんが変身できないから。
「……キュート、大丈夫?」
『……はは……夕音の死体が……ああ………ああ………』
……キュートは、今はまともに話せそうな状態ではない。
ライオネルやスターチスがここに来たら、キュートを安全なところまで連れて行ってもらった方が良いかも知れない。
勿論、シャイニングでもいいが…。
「…………さて、私はジェネシステネーブルへの復讐を開始するつもりだけど……君はどうする?」
「私……私は……」
キュートを安全な場所に移動させないと、苺ちゃんが変身できないままになる。かといって、“魔女”を目の前にして、何もしないのは…私の理念に反する。
どうしようか……。
『ホワイト、キューティが魔法少女に変身するための案は、考えてあるクル。だから最悪、キュートの身に何かあっても、クーがどうにかするクル。それに……』
クールは、私の後方を見つめ、押し黙る。
何事かと、クールの方に目を向けると、クールは首を振って、後ろを向くように私に示していた。
クールに従い、私が後方へと目を向けると……。
「ごめん! 待たせた!」
「……状況は?」
「ライオネル、スターチス…」
リーベル=ローゼンベルクが変身している魔法少女、ライオネルグレーテと、友崎鳴が変身している魔法少女スターチススクラッチが、私達の元へとやってきていたところだった。
「状況、なんだけど、キュートが……」
ライオネルは、キュートの様子を見る。
明らかに様子がおかしいキュートを見て、ライオネルは……。
「……どういうこと…?」
『……何故こんなにも絶望をされてますの…?』
「……後で説明する。とにかく、キュートを安全な場所まで避難させておいてほしい」
「……わかった」
私は、キュートの面倒を見るのをライオネルに任せることにする。
……ちょうどいい。彼女には、隠密行動を可能にする『インビジブルマスカレード』という魔法がある。
キュートを安全に戦線から離脱させるには、最適の人材だと言えるだろう。
………キュートの避難は、ライオネルに任せることができた。となれば、あとは……。
「………怪人の相手は私がするよ。………あの魔法少女の相手は……そっちに任せる」
スターチスは、私の意思を察してくれたのか、自ら怪人と戦闘することを申し出てくれた。
あるいは、そうするのが合理的だと考えたとか、ただそれだけなのかもしれないが…。
「……ふむ。じゃあ君も、あの偽夏場夕音の討伐に協力してくれるということで良いのかな?」
「………うん、そうだね。そうなる」
私は、目の前の少女と共に“魔女”を討伐することを選択することにした。
2対1。普通に考えれば、こちらが有利だ。けども、“魔女”は余裕の笑みを崩さない。
一体、何が狙いなんだろうか…。
「……言い忘れてたけど、私は魔法少女サマーハリケーンだよ。まあ、サマーとでも呼んでいただければ良いかな」
「私は魔法少女ホワイトポイズナー。ホワイトって呼んで」
「おっけー」
少女は……サマーは軽い様子でそう返す。詳しい事情は知らないが、彼女は”魔女“との因縁があるみたいだった。
「………ふふ、そうか、2人がかりか、卑怯だね。こっちも1人呼んでこようかな。ブラックルーイとか、ね?」
”魔女“は、私のことを挑発するかのように言う。まさか……私達が光千夜を助けようとしていることを知って……。いや、どうでもいい。私はただ、目の前の悪を叩くだけ。
「………お前ら組織の悪行は、知っている…。ブラックルーイに、これ以上悪事は重ねさせない……。“魔女”、お前を倒して、光千夜を救い出す。これ以上、お前達の被害者は出させない」
「……良い意気込みだね。それに、千夜ちゃんを助け出すために私を倒すと言うのは、理にかなった選択だと思うよ」
「……何…?」
「夏場夕音はね、光千夜の叔母に当たる人物なんだ。………光千夜は洗脳によって組織に従わさせられている。けど、その洗脳は解けないわけじゃないんだよね。きっかけがあれば、洗脳を解くことができるかもしれない。それは組織として好ましくない。けどね、洗脳が解けた、そんな時、私の存在があれば、千夜ちゃんを組織に留めることができるんだ」
「……どういう……こと…?」
「簡単だよ。私は、組織内で光千夜の味方として振る舞っている。彼女の信頼を勝ち取り、身内ということも彼女に理解させている。私は彼女に全幅の信頼を寄せられているんだ。………私が言うことならば、彼女は何でも素直に聞くと思うよ? 例えそれが、もう一度組織の洗脳を受けるようなことになったとしても、ね?」
……なんだそれは……。
……光千夜は、例え何かのきっかけで洗脳が解けたとしても、こいつがいる限り、また再洗脳されてしまうということじゃないか。
……それだけじゃない。洗脳が解けた光千夜は、孤独だ。だって、たった1人で悪の組織『ワ・ルーイ』の本拠地に放り込まれているのに等しいのだから。
心細いに決まっている。……そんな彼女に、叔母という立ち位置を利用して信頼を勝ち取って、もう一度組織の手駒に堕とそうとするなんて……。
「……お前は……やっぱり“魔女“だ! 生かしておけない…! お前のせいで、また光千夜が……組織の被害者が酷い目に遭うんだというなら……私がそれを止めてやる!! 『クイックポイズン』!!」
私は『クイックポイズン』……毒液を高速噴射する魔法を”魔女“に放つ。が、”魔女“は飄々とそれを躱してくる。
「くっ…!」
「ホワイト、冷静になりなよ。あいつのペースに乗せられちゃダメなんだから。戯言にかまわなくていいんだよ」
「戯言…………でも……」
”魔女“の言ったことは、到底許されることではない。
光千夜は………私と同じ組織の被害者は、今も組織の手駒としてこき使われ続けている。それは紛れもない事実なのだから。
「……可哀想にね。千夜ちゃんは今も、怪人を生み出すための実験を受け続けているんだよ。常人ならば発狂してもおかしくないそれを、薬と洗脳で幸福すら感じるように改造されて、無理矢理、さ」
怪人を生み出すための実験……。街を破壊する、あの化け物を……。あんなものを生み出すために、体を弄られて、薬まで投与されて……。
「……そんな……ふざ………けるな!!! 『スピア』!!!!」
「だから乗せられるなって……ああもう! 『濃縮飛風』!」
許せない! 許せない許せない許せない!!
光千夜のことを、自分達の利益を生み出すための道具としか考えていない悪辣な外道共め!! 1人残らず根絶やしにしてやる!!
「ばーか。冷静さを失った攻撃をして、私に当てれるとでも? もう少し頭を使った方が良いんじゃないかな。光千夜のように洗脳されて、脳がダメになったわけでもないんだからさ」
「………脳が、ダメになった…?」
「あは! そりゃそうでしょ。洗脳装置に入れられて、脳に何の障害が残らないとでも? 可哀想にね、度重なる実験と洗脳装置による洗脳で、彼女の体はもうボロボロだよ?」
「お前……! もう黙れ!!!!」
私は、怒りのままに”魔女“に襲いかかる。が、どの攻撃も、飄々とした態度で避けられて……。それがまた、私の怒りゲージを溜めさせてくる。
「ふふ、あーあ。はやく助けてあげないとね? 妖精なしでの魔法少女の変身なんて続けてたら、光千夜の体はいつまで持つのかな?」
「分かってるそんなこと! だからお前は死ね!!!」
「だーかーら! 落ち着けって!」
再び”魔女“に襲い掛かろうとする私を、サマーが止める。
……そういえば、彼女と一緒に戦っているんだった。なんて、少しだけ冷静になった頭でそう考える。
「…………けど、確かに私がここで倒されると困るんだよ。だって、私は幹部マインドライフ。洗脳装置を作った張本人なんだからさ。私が倒されれば、もう新たな洗脳装置を作ることができないからね」
………洗脳装置を作った?
………じゃあ、こいつがいたせいで……。
こいつのせいで、ブラックルーイは……光千夜は……。
「………お前……のせいか!!!」
絶対にここで仕留める! こいつだけは、許しておけない!!
「妙にペラペラと話すね。情報を私達に渡して……何が目的?」
「……さあ? ま、雑談みたいなものだよ。今まで、私が幹部マインドライフであることは隠してきたからね。久しぶりに自分というものを出せて、少しワクワクしているんだ。あーそうそう、そういえば、光千夜の洗脳、もう解け始めているみたいだね……。ま、私が宥めて、無理矢理組織のモルモットとして使えるようにしてる状態なんだけどさ。困るんだよね、組織から抜け出そうなんて思われちゃ。だから、君たちの存在は邪魔なんだよ」
光千夜の洗脳が、解け始めている…?
………なら、私達が光千夜を救うチャンスが、すぐそこまで……。
けど、彼女を救うには、邪魔な存在がいる。
「…………そうか、お前さえ倒せば…!」
ようやく、彼女を救い出せる。
あの暗闇の底から、悪辣な組織の被害者を、私の手で。
「『
”魔女“が魔法を行使する。
……瞬間、私の視界が歪み、”魔女“の姿が二重にも三重にも見えるようになってきて……。
「なに……これ………」
「くそ………! やられた!!」
「………お前達に光千夜は救えないよ。私が、あの子をどん底まで堕としていくからね。………急がないと……あの子の命はもう、持たないかもね? あはは! あははははは!!!!! 『
”魔女“が魔法を行使し、私とサマーにダメージを与える。
視界不良によって、攻撃を上手く避けることもできず、モロに喰らってしまった私とサマーは、多大なダメージを負い、そのまま空中から落下してしまう。
「じゃあね。これから私は、光千夜を再び洗脳するための作業に取り掛かる。はやく助けに来ないと、もう手遅れになるかもね?」
そう言い捨てて、”魔女“は私達の前から姿を消す。
「……く………そ……!」
急いで、皆に伝えないと…。
じゃないと…! 本当に光千夜のことを救えなくなる!!
急がないと。
いそが……ないと……。