私達は戦闘を終え、魔法少女サマーハリケーンと合流する。
………彼女には、聞きたいことが色々ある、だから私達は、苺ちゃんと光聖歌を呼んで、彼女から事情を聞くことにした。
光千夜のことは、はやく助けないといけない。けど、情報がないことには、彼女を助けるのは難しい。
………今すぐにでも行動したいところだけど、まずはサマーの持つ情報を聞き出すことからだ。
ちなみに、山吹遊美は彼女と知り合いらしく、また、リーベル=ローゼンベルクが、山吹遊美に『インビジブルマスカレード』を使って、こっそり戦場に連れてきていたらしい。
だから、山吹遊美も一連の流れ……“魔女”について、なんとなく事情をかじっている状態だ。
「………それで、貴方も魔法少女……ってことで良いんだよね?」
後から合流した苺ちゃんが、サマーハリケーンに変身していた少女に尋ねる。
彼女が魔法少女であることは、私達が確認している。そこに間違いはない。
「そうだよ。自己紹介しておくと、私の名前は夏場夜風。魔法少女としての名はサマーハリケーン。ま、サマーって覚えておけばいいよ」
夏場夜風。少女はそう自己紹介を行う。
その名前に、私達は特に反応を示すことはなかったのだが……。
光聖歌の眉がピクリと動いたのを、私は見逃さなかった。
「……夏場……ね……」
「……どうしたの?」
「いえ、何でも…」
何か、引っかかるところがあったのだろうが、光聖歌はそれを隠そうとする。
その様子を、夏場夜風も見ていたようで………。
「……名前に何か引っかかったところでもあるのかな? ………まあ、そうだろうね。君、光聖歌でしょ?」
「…それが、どうかしたの?」
「……私は君の従姉妹だよ。つまり、私の母である夏場夕音は、君からすれば叔母にあたる存在ってことだね」
「なっ……」
……驚いた。まさか、光聖歌の身内だったなんて……。
そして、敵の幹部であるマインドライフが、夜風の母である夏場夕音の体を乗っ取った。
夏場夕音といい、光千夜といい彼女らの血縁には、組織に狙われる何かがあるのだろうか。
「…………私はね、夏場夕音から生まれた。けど、厳密には私を産んだのは夏場夕音ではないんだ」
夏場夕音であるのに、厳密には違う……。つまりは、夏場夕音の体を乗っ取った…。
「……もしかして……幹部マインドライフ?」
「そ。私は、夏場夕音の体を乗っ取った、幹部マインドライフが生んだ存在なんだ。ま、だから私の父はある意味幹部マインドライフとも言えるんだよね」
けど、もしマインドライフが生んだというのなら、彼女は……。
「……生まれた時から、組織にいたの?」
「ん。まあね。ある程度育ってから、すぐに抜け出してやったんだけどさ」
なるほど。けど、じゃあ何故組織を抜け出したんだろう。
幹部マインドライフは、夏場夕音として光千夜に接することで、光千夜の信頼を勝ち取り、組織を裏切れないようにしていたはず。なら、同じように、夏場夜風にも、母親と接し、信頼を勝ち取ろうとはしなかったのか。
いや、そもそも……。
「洗脳されなかったの?」
同じように組織に属した光千夜は、組織によって洗脳されたことで、今悪の魔法少女として街を破壊している。なら、何故光千夜同様に夏場夜風にも洗脳を施さなかったのか。
「……あー、それは、恐れたからだよ」
「恐れた? 何を?」
「私の脳が廃人化してしまうこと。洗脳装置は脳に負荷がかかるからね。廃人化したら、使い物にならなくて困るでしょ? だからだよ」
『……では、何故貴方は組織を抜け出したんですの? 貴方からすれば、生まれた世界は組織であり、組織に属することは当然だったはずですわ』
レディの言う通りだ。彼女には組織を裏切る動機がない。
いや、動機ができるわけがない、というのが正しい。
組織で生まれたのなら、組織に属することに何の疑問も抱かないはずなのだから。
「……そりゃ、ずっと組織にいたら私の命がないってのは分かってたからね」
「命がない………。それは、どういうこと?」
「……うん。まず前提として、幹部マインドライフは、私が生まれた当時、ずっと夏場夕音として過ごしていたわけじゃないんだよ」
……?
「………ごめん、話が見えてこない」
「まあ、理解できなくても良いよ。ともかく、幹部マインドライフは、私を生んですぐ、夏場夕音の遺体から、元の自分の体へと乗り移ったんだ。夏場夕音の遺体は丁寧に保存して、ね。だから、私は私を生んだ母親が、すでに死亡している……いや、そもそも母親なんて存在していないってことに気づいてたし、幹部マインドライフが他者の体に乗り移れることも知っていたんだよ」
「………それは……」
苺ちゃんが、悲しそうな表情を向ける。
苺ちゃんは優しいから、夏場夜風の境遇に同情しているのだろう。
……私も、正直、幹部マインドライフへの怒りが、沸々と湧いてきている。
夏場夜風もまた、幹部マインドライフの……組織の被害者だったのだ。
光千夜以外にも、組織は被害者を出して…。
本格的に、奴らを許すわけにはいかなくなった。
「同情やめてね。ぶっちゃけ気にしてないから。結局逃げて親戚の家転がり込んだわけだけど、環境めっちゃ良くて、結果的に超楽しかったし。んま、そんなことは良いんだよ。ともかく、私は、何でマインドライフが私のことを生んだのか、その目的を知って、組織から逃げ出すことを決意したってわけ」
彼女は何でもないことのように、ケロッとした顔で言う。本心でそう言っているようにしか聞こえない。
………想像以上に楽観的な性格をしているみたいだ。
「………で、その目的っていうのが…………。私を、次の自分の体として運用すること。つまり、夏場夕音の体がダメになった後のスペアとして、私は生まれたってわけだよ」
なるほど……。手駒として生んだのではなく、幹部マインドライフの新たな乗っ取り先として、生まされたと……。
………やはり、あの組織は異常だ。クズの集まりだ。
………絶対に潰さなければいけない。
「………そのためにわざわざ産むなんて……合理的じゃない」
「何なのそれ……子供を何だと……」
友崎鳴とリーベル=ローゼンベルクも、彼女の話に困惑せざるを得ない。
無理もない。私だって、幹部マインドライフの行動に、嫌悪感しか湧いてこないのだから。
「……いや、別に私気にしてないから良いんだよ。深刻なのやめない?」
「………少し聞きたいのだけれど……。そもそも、どうして他人の肉体を乗っ取る必要があるの?」
「そそ、そういうのでいい。余計な同情は求めてないからね。それで、どうして他人の肉体を乗っ取ってるのか、だよね。……簡単だよ。幹部マインドライフは、魔法少女の力を手に入れようとしたんだ。けど、そのままの肉体じゃ、魔法少女の力は手に入らない。じゃあ、魔法少女の肉体に入れば? 自分は魔法少女の力を扱えるんじゃないか……そう考えたわけだね」
実際、幹部マインドライフは魔法少女として、魔法を行使していた。
………本当に、魔法少女の肉体を手に入れれば、中身が男でも、組織の奴らだったとしても、魔法少女として魔法を行使することは可能なようだ。
「………先輩、ここからが、大事な話なんですけど……」
今まで黙り込んでいた、山吹遊美が、口を挟む。
そういえば、彼女は夏場夜風と知り合いだったらしいというのを聞いた。
もしかしたら、このことも事前に聞いていたのかもしれない。
「………肉体のスペア。幹部マインドライフは、まだそれを求めてます。………それで、今のマインドライフにとって、肉体のスペアにあたる存在が………」
「……光千夜。魔法少女ブラックルーイだね。いやぁ、まさか私の従姉妹が私の代わりにスペアにされるなんてね。びっくり仰天。ま、私は代わってやるつもりはないけど」
そうか、それじゃあ……。
【私は、組織内で光千夜の味方として振る舞っている。彼女の信頼を勝ち取り、身内ということも彼女に理解させている。私は彼女に全幅の信頼を寄せられているんだ。………私が言うことならば、彼女は何でも素直に聞くと思うよ?】
幹部マインドライフは、いつかブラックルーイの………光千夜の体を乗っ取ることを目的として、彼女をそばに置き、信頼関係を結んだということ…?
そんな………そんなの……。
「……皆、急ごう。……はやくしないと、幹部マインドライフが、ブラックルーイの……光千夜の体を……乗っ取っちゃう……」
「……ま、あいつが表舞台に出てきた時点で、そういうことだろうね。……体にガタがきて、そろそろスペアに乗り換える時期になったのか、準備が完全に整ったのか。……いずれにせよ、光千夜を助けたいのなら、急いだほうがいいだろうね」
私達は、一刻も早くブラックルーイを、光千夜を助けなければいけないと決意する。
そのためにも……。
「………夏場夜風、組織のアジト。……もし場所を知っているのなら、教えて欲しい」
「………………いいよ。案内してあげる」