私はイコルのアジトでだらだらと過ごす。
今日は特に予定もないし、眠いし寝てやろっかな〜なんてぼんやりと考えていたところ、丁度私の部屋にノックもせずイコルが入ってきたところだった。
乙女の部屋に入るんだから、ノックくらいはした方がいいんじゃないかな?
ま、別に気にしてないけどさ。
「イコル様、どうしたんです?」
「ヒンナから連絡があった。すぐに来てくれと」
イコルは焦った様子で私にそう言う。
ふむ、元々私と夕音叔母さんを引き剥がしたのは、ヒンナさんだ。そのヒンナさんが、わざわざ私を呼んでいる?
………まあ、もう1人の私がピュアの洗脳にかかっているんじゃないか疑惑は解けてる……というか、洗脳が終了したっていう風に認識されてるっぽいし、私ともう1人の私を会わせるという事にリスクが生じなくなったから……と考えられもするけど…。
「……わかりました。すぐ行きます」
何にせよ、私の組織での地位は低い。幹部からこうしろと言われたら、黙ってはいそうですねと受け入れるしかないのである。悲しいかな、本来であればクラスカーストトップの天才美少女千夜ちゃんは、悪の組織内ではカースト最底辺の下っ端天才美少女に型落ちしてしまうのである。
あ、ちなみに天才である事、美少女である事は光千夜が元々備えている基礎スペックなので、カーストが落ちようがこの事実が揺らぐことはない。
まあ、天才とは言っても、本物のそれには劣るだろうし、美少女度合いも私のお姉ちゃんには負けるんだけどね。
そんな風に自己肯定感マシマシな脳内思考を巡らせながら、私は幹部ジェネシステネーブルのアジトへと向かう。
私の見送り人として、イコルが湿島さんを付けてくれたので、彼と軽く雑談を交わしながら、私はアジトへと辿り着いたのだった。
「……失礼しまーす」
見送ってくれた湿島さんに礼を言った後、私はアジトの中へと立ち入る。
もう1人の私の存在は、見えない。そこにいたのは、ヒンナさんと、夕音叔母さん。ただ2人だけだった。
「……だから、どうしてそれをルーイに……千夜にやらせようとしてるのよ」
「………あの子と千夜ちゃんは接触させておいた方が良いと思ってね。……私の思惑通りに行くかは分からないけど……まあ、悪い結果にはならないはずだよ」
2人は何やら話し込んでいるようで、この場にやってきた私の存在に気づいていない。
………ふむ、せっかくだし、2人が私に気づくまで、会話を盗み聞いておこうか。
はっきり言って、私は2人のことを完全に信頼しているわけじゃない。仮にも悪の組織、絶対的な味方がいる、なんて甘い考えは、最初からしていない。
もう1人の私に関しては例外だけど、あれは元々同じ存在だから信頼するしない以前の問題だし。
だからまあ、私がいない状態での2人の会話を聞けるのは、私にとっては美味しい状況なのだ。
「…………夏場夜風にアジトの情報を持たせておいたのも、このため?」
「……それは違うよ。………そもそもマインドライフとしてのアジトをそのままジェネシステネーブルとしてのアジトとして流用したのは、いつでもあの子がここに戻って来れるようにだからね。あの子が逃げ出した時は、千夜ちゃんのことなんて頭にもなかったから」
夏場夜風……。
………あの子って言い方……。
もしかして……夕音叔母さんの娘さんのことかな?
うん、そうだよね。確かに私、従姉妹がいるって話を聞いたことがあったし、やっぱり夕音叔母さんには娘さんがいるんだ。
けど、夕音叔母さんの言い方的には、娘さんも組織にいたってことになるよね?
でも、おかしい。3年間の記憶がない私だって、夏場夜風の存在を認知してる。夏場夜風が、組織に生まれた時から属していて、途中で逃げ出した、と仮定するなら…。
………やっぱり、変だ。
だって、夕音叔母さんが組織に入ったのって……。
「…………ヒンナちゃん、巻き込んじゃってごめんね」
「………………いいわよ。あんたのことは嫌いだけど………あんたのことは、それなりに……す……。………嫌いじゃないから」
「ううん、それと、私の方がミステリアスしちゃってごめんね? ブラックルーイの叔母に当たる魔法少女な敵幹部! かと思えばそれはミスリードで、実は魔法少女の体を乗っ取る謎の幹部…! なーんて、ヒンナちゃんよりよっぽどミステリアスだもんねぇ」
「………こいつ! やっぱりあんた嫌いだわ! さっきのなし!」
あ、シリアスな雰囲気が消し飛んだ。
お互いに軽口を言い合うムードになってる。
……魔法少女の体を乗っ取る…?
……いや、冗談か。シリアスムードはさっき終えたもんね。もう1人の私が言うには、ヒンナさんはミステリアスごっこなるものが好きらしいし、それの話なんだろう。
「え〜? 私はヒンナちゃんのこと好きなんだけどなぁ〜? ヒンナちゃんは私のこと嫌い〜? 自分よりミステリアスだからって、嫉妬しちゃってるの〜?」
「今にみてなさい…! あんたが死んだら、私が本格的にミステリアスムーブして、魔法少女どもを震え上がらせてやるから!」
………これはもう、重要そうな話はしてくれそうにないかな。完全に雑談モードだ。
……ならまあ、盗み聞きを続ける必要もなさそうだ。
「………えーと、すみませーん。今着きました」
「あ、千夜ちゃんおはよ〜。ごめんね急に呼び出しちゃって」
「いえいえ、大丈夫です。それで、何の用事で呼び出されたんですか? 私」
イコルは結構焦った様子だったけど…。2人の感じを見るに、そう焦るようなことでもなさそうな気が……。
「いやぁね。私のアジトの存在が、魔法少女に漏れちゃったみたいで〜。魔法少女達の動向を探ってみたところ、私のアジトに真っ直ぐ一直線に向かってきてるみたいだからさぁ」
「ま、少しでも戦力が欲しくて呼んだってところよ」
……それじゃイコルや湿島さんにも協力してもらった方が良かったのでは?
なんて、そんな風に思わなくもないのだが、その答えはすぐに夕音叔母さんが言ってくれた。
「………信用できるの、千夜ちゃんとヒンナちゃんくらいしかいないからさ。だから、協力してほしいなと思って」
なるほど。私が組織の誰も信用していないのと同じように、夕音叔母さんが信用しているのも、組織内ではごく僅か、ということなのだろう。
悲しいことに、夕音叔母さんが信頼している私は、夕音叔母さんのことを信頼できていないのだけど。
表に出さなければ、特に問題はない、かな。
「……それで、確認なんだけど……」
「うん、当初の予定通り、シャイニングシンガーの相手は私がする。それで、ヒンナちゃんは…」
「ホワイトポイズナーとスターチススクラッチ、よね。それでルーイが相手するのが……」
私は、ヒンナさんから一つの紙を受け取る。
魔法少女の情報が載った、資料のようで。そこに書かれていたのは……。
「ライオネルグレーテと、サマーハリケーン?」
「……そ、たった1人で2人を相手取るのは、厳しいでしょうけど……。ま、戦力が足りないのよ」
………人数不利にも程がある。やっぱり、イコルや湿島さんに救援要請した方が…。
……いや、そもそも。
どうしてヒンナさん達は、もう1人の私を戦力として数えてないんだろう?
私は、夕音叔母さんがもう長くないって話を聞いて、もう1人の私に気を遣って、戦場に出ているに過ぎない。
でも、もう1人の私を戦場に出さない理由は、2人にはないはずで…。
「あの……」
「来たわよ」
もう1人の私について、どこで何をしているのか、ヒンナさんに聞こうとした、その時だった。
私の目の前には、魔法少女。
シャイニングシンガー、ライオネルグレーテ、スターチススクラッチ、ホワイトポイズナー、サマーハリケーン。
計5名。
妖精を含めれば、計8名になるだろうか。
「………へー。お供の幹部を引き連れてるんだ? 私にアジトがバレても構わないというスタンスの割には、臆病なんだね? 幹部マインドライフ」
「幹部マインドライフ?」
「………ああ、そうか。君は知らないんだ? 君の背後にいるそいつの、本当の正体に」
本当の、正体………?
一体、どういう………。
『クッポー!! クッポー!!』
「ありがとうハトッポ。……皆、向こうはどうやら、私達の誰を相手取るか、既に決めているらしい。………対策を講じられてる可能性があるから、ずらすよ」
「……あ」
もしかして、聞かれてた?
私達が会話してる時、この場に既にいた? ……そんな風には思えなかったけど…。
「シャイニングとライオネルは灰髪ツインテに、ホワイトとスターチスはブラックルーイに。………私は……奴とやる」
完全に当初の予定とは異なる配役だ。
けれどまあ、元々私は何かしら特別な対策を持ってきたというわけでも何でもないわけだし、別に構わない。
……にしても、本当の、正体……か。
……まあ、後で考えよう。今は戦いに集中だ。
「………ブラックルーイ……」
ホワイトポイズナーが私を見つめる。
その目は、どこか、悲しそうな目をしていて……。
「………残念だけど、今の私はブラックルーイじゃないんだ」
けど、そんなことはどうでもいい。
私は、私のやるべきことをやるだけだ。
光堕ちレースは、まだまだ続行中なんだから。
「私の名はナイトルーイ。宵闇から這い出る悪の混沌。貴方達に、私が倒せるかな?」
うん! やっぱりナイトルーイってしっくりくる! かっこよく決めたし! これは勝つる! やるぞー!