ヒンナさんの攻撃で、私は瓦礫の下敷きになった。
……けど、不思議と私の体には、傷一つついていなくて…。
「間に合いましたか…」
「湿島さん……?」
イコルの部下である老人の湿島さんが、血液によって形成された膜のようなもので私を覆い、助けてくれていた。
「………ヒンナ……」
「………ついカッとなって、またやらかしてしまったわ」
近くにイコルも来ているみたいだ。
そっか、イコルはヒンナさんのことが好きだから、心配になって様子を見に来たのかもしれない。
魔法少女達の方はどうなったんだろうと、様子を見てみる。
………同じく血液の膜のようなものに守られていて、全員無事っぽそうだった。
もしかして、これも湿島さんが? いや、もしかして……。
「……………何で、私達を助けて……」
白い子、ホワイトポイズナーが、呆然としたように呟く。その独り言のような呟きに対して、イコルが反応し、返答をよこす。
「魔法少女に死なれたら困るからね。僕達の目的は、“絶望”とか、負の感情によるエネルギーだ。魔法少女が死ねば、”希望“が消える。”希望“のない”絶望“から得られるエネルギーなんて、微々たるものさ。だから、だよ」
イコルはまるで説明するように言う。けど、その答えに納得したのか、ホワイトポイズナーは敵に助けられたという屈辱に悔しさを滲ませながら、イコルを睨みつけていた。
私は再び周りを見渡す。
……さっきから、違和感を覚えていた。
この場に、いるはずの人物がいない。さっきまで確実にいたはずなのに、ヒンナさんの攻撃の後、明らかに欠けている人物が、1人いる。
「………夕音叔母さんは……?」
「……さあね」
ヒンナさんは、まるではぐらかすかのように言う。
どうして、夕音叔母さんがこの場にいないのか、説明する気はないとでも言いたげの様子で……。
「聞いたでしょ。夏場夕音、幹部ジェネシステネーブルは幹部マインドライフだったのよ。ま、それがバレたなら、組織での立場はなくなるでしょうし、逃げたんじゃないかしら」
……逃げた…。
じゃあ、夕音叔母さんは……幹部マインドライフは、どこに……。
「……まさか……」
幹部マインドライフの目的は、魔法少女ブラックルーイの体を乗っ取ること。
そして、この場に、もう1人の私は……ブラックルーイはいない。
瓦礫に埋もれた……という線はないだろう。もしこのアジトにブラックルーイがいたのなら、湿島さんやイコルが助けに入っているはずだから。
とすれば、最初から……。
ヒンナさんがアジトを破壊したのも、幹部マインドライフの行方をくらませるため…?
そして、初めからブラックルーイを避難させていたのなら、行方をくらませた幹部マインドライフの行き先も、当然その避難先になるわけで…。
………駄目だ。ヒンナさんも敵だ。イコルや湿島さんも、もう信用できない…。
「……千夜、話があるの、私は……」
「『ブラックハンド』」
私は、ヒンナさんをブラックハンドで拘束する。明らかな違反行為、だけど、彼女のことは信用できない。それに、言い訳は用意できる。
「な……ルーイ、お前何を……」
イコルが動揺する。そうだよね、ヒンナさんのこと、好きなんだもんね。
……だからイコルも、私の味方にはなってくれないだろうね。
「ヒンナさんは、アジトを破壊しました。以前もそれで幹部会議で責任追及されていたんですよね? だったら、今回の責任も追求されるべき、でしょう?」
「落ち着けルーイ、お前は……」
「………夕音叔母さんは、幹部ジェネシステネーブルとして組織に身を置いていました。けど、幹部マインドライフとして身を置いていたわけではない。……幹部マインドライフは、組織の一員ではない。ですよね?」
そうだ。だから、私の行為は、組織への裏切りにならない。
幹部マインドライフを捕まえる。その大義名分を、私は持っている。そして……。
「私が幹部マインドライフの行方を追います。けど、ヒンナ様は駄目です。幹部マインドライフに、加担していた疑いがありますから」
「……ルーイ、お前何か勘違いしてるな? 言っておくが、ヒンナはお前のことを考えて……」
私はあくまで、”悪の組織に所属している者“としての会話を続ける。イコルもヒンナさんも、私がただの光千夜になっていることは、もう知っている。
だからこそ、私はただの光千夜としてではなく、組織の魔法少女として接する。
イコルやヒンナさんに、拒絶の意思を示すためにも。
「………さよなら。魔法少女達の相手は、イコル様達に任せます」
「待て、ルーイ!」
「『クイックポイズン』」
この場を立ち去ろうとする私に、イコルが掴み掛かろうとする。けどそれを、ホワイトポイズナーが阻止する。
「……よく分からないけど、組織の幹部である貴方達にブラックルーイを渡すわけにはいかない」
……彼女達からすれば、私は救助対象なんだろう。
街を守るために魔法少女をやっているくらいだし、良い子達ばかりなんだろうな。
……今は、その善性に甘えよう。
私はとにかく、幹部マインドライフを探さないといけない。
私が助けないと、もう1人の私は、何の疑いもなく、奴に……良いように利用されてしまうだろうから。
そう思い、私は全速力でアジト跡地を去る。
まだそう時間は経っていない。遠くまでは行っていないはず。
探そう。幹部マインドライフが行きそうな場所を。
スマホを開く。地図アプリを見て……って、このスマホ地図アプリ入ってない!?
なんで……。検索エンジンにも制限かけられてる……もー何で!!
「あーもう! 時間がないのに!」
「あら……?」
焦る私の様子に、1人の少女が声を漏らす。スマホと睨めっこしていた私は、その少女の存在には気付かずに、どうすれば良いかと頭を悩ませていたんだけど…。
「……光千夜さん?」
「へ?」
少女の方から声をかけられたことで、私はようやく、その少女のことを認識する。
私は、その少女の方へ顔を向ける。
………誰だろう。私、こんな子知り合いにいたっけな…?
「…………『夢幻の魔』は外してたはずなんですが……。まあ、魔法少女姿でしか会ってませんもんね。初めまして。私の名前は西織妖愛。魔法少女エンシェントカラミティ、といえば分かりますか?」
エンシェントカラミティ……って、私が倒した魔法少女!
そっか、狐とか出してた人だ。
「あー! こんこん!」
「はい……? 何ですかその手」
「あ、ごめん。挨拶。狐の妖怪出してたから、手で狐作ってこんこん!って」
「……????」
狐の挨拶、あんまり受けがよろしくないみたい。もう1人の私は乗ってくれたんだけどなぁ。
「それで、どうしてここに…?」
「『雲外鏡』でこちらに来たので、散歩をと思いまして。…そしたら、何やら頭を抱えている千夜さんが見えたもので。………何かお悩みですか? よければ手を貸しますよ?」
『魔法少女の力を私利私欲で使いやがって…………』
あ、妖精さんもいる。
この前は人質にとってごめんね〜。
………そうだな。闇雲に1人で探しても、幹部マインドライフの居場所は探れない。けど、エンシェントカラミティは手札が多い。彼女の手を借りれば、幹部マインドライフの場所も探り当てることができるかもしれない。
そうと決まれば…。
「……実は、探してる人がいて」
「はい、協力しますよ?」
『おい、こいつは敵だぞ! 敵に塩を送るなんて真似、オレは許さないからな!』
「……って言ってるけど……」
「気にしないでください。魔法少女の力を使えるのは私の方なので」
「……うん、そっか……。それじゃあお言葉に甘えて」
妖精さんも大変そうだなぁ。西織さん、全然言うこと聞いてくれなさそうだもんね。
連携も取れてなさそうだったし、苦労してそう。ま、今の私にとってはありがたい話だけど。
「……ということなので、魔法少女に変身しますね? スマイル」
『お前本当に…! あークソ。もういいよ。最初っからそうだったもんな。対価だなんだのほざいてたし。ん? てことは、人探しの対価も、ナイトルーイに要求するんだよな?』
「何言ってるんですか? 友達に対価を要求するわけないでしょう」
「へ? 友達?」
「はい、そうです。私達、友達ですよね?」
……そ、そうだったんだ。てっきり話の通じる敵同士、って関係性だと思ってたけど……友達になってたんだ。
もしかしなくても、結構距離感近い子なのかも?
『無償で敵に協力すんのか!? 何やってんだ! そんな暇あるなら勉強しとけ!!』
「敵じゃなくて友達です」
「うん、そうだね。………えと、じゃあ、妖愛ちゃんって呼んでも良い? ほら、私のことも千夜ちゃんって呼んで良いからさ」
「良いんですか…?」
最初に友達って言ったのそっちじゃなかったっけ?
……距離感近いのか遠いのかわかんない子だなぁ。ま、いっか。仲良くなれるならなるに越したことはないし。
「うん、全然いいよ! だって友達なんでしょ?」
「……そ、そうですね。そうですよね……友達、ですもんね……!」
心なしか、妖愛ちゃんの頬が赤くなってる気がする。
もしかして、照れてる?
……可愛いところあるなぁ。
「……それじゃあ、改めてよろしくね、妖愛ちゃん」
「……はい、私の方こそよろしくお願いしますね、ち、千夜ちゃん」