………さて、死に際の最後の戦闘と行きますか。
「………ラフ」
『………やるんだね』
私はラフを呼び付け、戦闘の準備を行う。
……注射器、持ってくればよかったかな。この際千夜ちゃんに打ち込んどけば、代償の心配はもうなくなるし。
………ヒンナちゃんに手渡しておいたんだけど、結局注射してないっぽいんだよね。
まあ、今のところ大丈夫そうだからいいんだけど。
「………さて、いくか」
「……まずは自己紹介から……」
『お前馬鹿か!?』
「言ってる暇ないよ!」
エンシェントが自己紹介だなんだとか言ってたけど、ここで素直に自己紹介するようじゃ、悪には見えないよね。
容赦ないところを見せつけないと、ちゃんと千夜ちゃんが私のこと悪だと思ってくれないからさ。だからごめんね!
「『闇の炎』」
「私のと同じ…?」
そうだよ。だって『闇の炎』は、私が君に埋め込んだ魔法なんだから。
………当時の私……幹部マインドライフとして、だけど。
「『アッコロカムイ』」
私が『闇の炎』を放つと、エンシェントがタコのような巨大な生物を召喚する。
が、私の『闇の炎』に、そいつは焼かれて。
「…たこ焼きになっちゃったね、なんちて。……『ブラッドフィッシュ』」
千夜ちゃん、さっき私の魔法に驚いていたけど、意外と余裕ありそうだな? なんて思いつつ、彼女の繰り出した『ブラッドフィッシュ』を軽く躱す。
「『糊付け』」
「『
すかさず、エンシェントが新たな妖怪を召喚する。
フクロウのような見た目をしたそれを、私は『
「『ブラッドテンタクル』」
エンシェントをいなしたと思ったら、今度は千夜ちゃんの番。
『ブラッドテンタクル』、触手の攻撃が、私のことを襲う。
「おっと……」
……忌々しい魔法だ。
オクトロアが、千夜ちゃんに埋め込んだ魔法。
……そうだ、確かに千夜ちゃんは、オクトロアによって、私のスペアボディとして組織に拉致された。
けど、私が千夜ちゃんを洗脳して、組織にストックさせておくという目的の裏で、オクトロアもまた、千夜ちゃんに介入していたんだ。
……オクトロアが千夜ちゃんを拉致したのには、私のスペアボディにする以外に、何か理由がある。
私のスペアボディにするというのはただのブラフで、オクトロアはオクトロアで、千夜ちゃんを何かしらで利用するつもりなんだろう。
私が死んでも、まだ千夜ちゃんの将来は安泰とはいえない。
……けど、そこはヒンナちゃんに託すしかない。私と違って、ヒンナちゃんは幹部全員に程良く好かれてる。オクトロア以外の幹部を味方につけて、オクトロアの野望を打ち砕くことだって、できるはずだから。
………それをする上で気がかりなのは、彼女の存在……なんだけど……。
「『闇の炎』」
「……妖魔!」
千夜ちゃんが、私の埋め込んだ『闇の炎』を行使してくる。
触手が跋扈する中、避けるのは困難だ。というわけで、私は持っていた妖魔を身代わりにして、『闇の炎』を凌ぐ。
オクトロアが妖魔の在庫で嘆く姿が見える。申し訳ないなんて気持ちは一切湧かない。ざまあみろ、なんてね。
「………狭いのであまりやりたくありませんけど……決め手にかけるので仕方ありません。『八岐大蛇』『土蜘蛛』『九尾の狐』」
「……あ、こんこん!」
心の中でオクトロアを煽っていたら、エンシェントがまた新たな妖怪を繰り出してきた。『八岐大蛇』『土蜘蛛』『九尾の狐』。
千夜ちゃんが手を狐の形にしてこんこん、とか言ってたけど、何のことかはよく分からない。とりあえず可愛かったとだけ。
それにしても、厄介だ。
今まで繰り出してきた妖怪は、魔法で相殺できるくらいの代物だった。
けど、今回は見るからに大物。
一つの魔法であっさり処理できるような、そんな簡単な存在ではなさそうに思う。
………なるほどね、イグニスがやる気になるのも分かる。
確かにエンシェントカラミティは厄介な存在だ。イグニスからすれば、さぞやりごたえのある相手だったことだろう。彼、割と戦闘好きなところあるからね。
ま、戦闘のことばかり頭にあるせいで、自身が経営していた会社を倒産させたと聞いた時は、流石の私もびっくりしたけども。
片手間でできるようなことじゃないってことだね。ま、片手間でできるくらいなら皆やってるだろうし。
ともかく、エンシェントの魔法。これをどうするかが厄介だ。
いや、エンシェント単体ではそこまで大した脅威じゃない。私にとっては、赤子を捻るよりも簡単にエンシェントを倒すことができる。
何故なら…。
「『
私は『
同士討ちを狙う魔法、それが『
「……なっ……何で争いをはじめて…?」
『土蜘蛛』と『八岐大蛇』は、私に『
ちなみに、『九尾の狐』は省いておいた。理由はなんとなく、千夜ちゃんが好きそうだなと思ったから。
同士討ちなんて見せたら、ショック受けちゃうかなと思って。
「残りはこんこんだけ! 頑張れこんこん!」
ありゃ、私の予想ってあながち間違いでもないかもしれないね。あだ名まで付けちゃってるよ千夜ちゃん。一応それ、千夜ちゃんのじゃなくてエンシェントのだからね?
まるで自分のペットみたいに扱ってるけど、それ君のじゃないからね?
でも、ちょっとしくったかな。
「やってください、『九尾の狐』」
『九尾の狐』が、私に襲いかかる。
私は妖魔を盾にしながら、必死に攻撃を躱す、が。
………キツイ。流石にネームバリューのある妖怪だ。強い。
何がきついって、これに加えてエンシェントと千夜ちゃんも相手にしなきゃいけないのがきつい。
………まあ、いいんだけどさ。
元々私は、この戦いに死ぬつもりで挑んでる。
ここで死んで、それで終わり。それが私のライフプランなんだから。
だから、これで、いいんだ。きっと。
これで。
「…マインドライフ、覚悟!」
千夜ちゃんが、黒いナイフを持って私に襲いかかってくる。
………ああ、この子に殺されるのなら、悪くない生だったかな。
なんて、そう思いながら私は瞳を閉じて……。
「夕音!!!!」
瞬間、私の名前を必死に叫ぶ、悲痛な声が聞こえてきて……。
その声に、思わず私は目を開け、声の主を確認する。すると、私の目の前には…。
「うそ……ヒンナちゃん……?」
「……………悪役ぶって、勝手に死ぬんじゃないわよ……。置いていかれるものの気持ちくらい、考えなさいよ」
千夜ちゃんと『九尾の狐』を押し除けて、私のことを助けたのは。
私の、かつての宿敵。
そして、私の、かつての同僚。
幹部ヒンナ。
「……私の知らないところで勝手に野垂れ死ぬなんて、許さないわ。……それは、同じ気持ちよ。私も、ルーイも」
「……うそ、でしょ、何で……」
そして、この場にやってきていたのは、ヒンナちゃんだけじゃなかった。
ヒンナちゃんの後ろで、私のことを心配するような目で見つめていたのは……。
さっきまでこの場にいなかった、もう1人の千夜ちゃんで。
「……ジェネちゃん、話をしにきたよ」
私はこの時、私の計画が、明確に失敗したということを悟った。