TS魔法少女は光堕ちしたい!!   作:布団から出られない

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ヒロイン


5章 悪役少女は今度こそ光堕ちを成功させたい!!
109悪役少女は夢を見る


 

 

あれ? 俺、寝てた?

 

「……ん………何してたんだっけ」

 

俺はベッドから降りる。

見慣れない天井……いや、違う。

俺は、この光景を知っている。この天井を、知っている。

 

ここは……。

 

「………もしかして、私の部屋?」

 

俺が、かつて光千夜として、平穏に暮らしていた時の、自室。

それがなぜか今、俺の視界を支配していて…。

 

「………何があったんだっけ? ………とりあえず、部屋出てみるか」

 

そう独り言を呟きながら、俺は自室の扉を開ける。廊下に出て、最初に目に入ってきたのは……。

 

「…千夜、今起きたのね。……休みの日だからって、あんまり寝過ぎちゃダメよ。規則正しい生活をしないと、生活リズムが崩れるから」

 

サラサラの長い髪に、整ったスタイル。そして、10人いれば10人が振り返るであろう、美しい顔を持った、少女。

彼女は……。

 

「お姉ちゃん…?」

 

「? どうしたの千夜、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

 

……久しぶりだ。思えば、組織に拉致されてから、ずっとお姉ちゃんとは顔を合わせてなかったんだよな……。

……目の前のお姉ちゃんは、記憶にあるよりもずっと美人に成長していて……。

 

「お姉ちゃんって、男が放っておかなさそうな見た目してるよね」

 

「どうしたのよ急に。……私、今は恋愛とか考えられないから、そんなこと言われても困るわ」

 

困る、なんて言いつつ、お姉ちゃんはなんでもないことのように涼しい顔をしながら言う。……お姉ちゃんのことを好きになった男は苦労するだろうなぁ。お姉ちゃん、鉄壁の乙女って感じだし、男を寄せ付けないオーラがあるというか、恋愛するつもりはないですよって全身でアピールしてるんだよね。

 

まあ、でも……。

 

「本当に美人だなぁ……お姉ちゃんって」

 

「……千夜も十分可愛いわよ。…それこそ、その辺の男が放っておかないくらいには」

 

おぉっと、男に好かれるのはごめんだぜ。なんたって俺は、光堕ちを目指す悪役魔法少女!! 男に惚れて光堕ち、なんてヒロインムーブをかますつもりは毛頭ない。

 

光堕ちするなら、盛大に、かっこよく、優雅にしたいものだ。間違っても色恋を絡めたくはない!

 

ん? あれ? そういえば俺って…。

 

「……さて、それじゃあリビングに行きましょ。……今日は夕音叔母さんがお昼を作ってくれたみたいだから」

 

「え? ジェネちゃんが? うん、行く行く!!」

 

そっかぁ、ジェネちゃんが手料理を作ってくれるのかぁ。

 

そういえば、ご飯はいつも師匠が作ってくれてたから、ジェネちゃんのご飯を食べる機会ってなかったような気がする。

どんな味なんだろう? ジェネちゃんって料理上手なのかな?

 

………って……。

 

「……私昼まで寝てたの!? 今何時!?」

 

「12:30よ」

 

「えぇ!? せっかくの休日が……! お姉ちゃん、もっとはやく起こしてよ〜」

 

「起こしたわ。けど、中々起きないんだもの。……普段は完璧なのに、家ではたまに抜けてるところを見せるのね」

 

お姉ちゃんは微笑ましいものでも見るかのような目で私のことを見つめながら、言う。

う……まさか12:30まで寝ていたとは思わなんだ。

普段こんなに遅く起きないんだけどなぁ……なんで起きれなかったんだろ。不思議だね。

 

ま、いっか。飯だ飯!!

腹が減っては戦はできぬ、野郎ども! 腹ごしらえの時間じゃあ!!

 

いざ行かん! 俺は勇み足で、リビングの扉を開け、戦前の食事を楽しむことにする。

 

食卓には、豪勢な食事が並んでいて……。

 

「な、なにこれぇ!?」

 

「ステーキ! ピザ! カレー!」

 

色々な料理が大きなテーブルに並べられていて、それを囲むように7つの椅子が置いてある。

 

「………私カレーが食べたい。残しといてくれない? 今ちょっとゲームで忙しくて……」

 

「こらこらキュヴァちゃん、駄目だよ食事中にゲームなんてしちゃ。食事は感謝の気持ちを持っていただかなくちゃ。ね?」

 

「まだ食べてないからセーフ。ノーカンノーカン」

 

ジェネちゃんがエプロン姿で、キュヴァちゃんに説教をしている姿が見えた。……キュヴァちゃん、相変わらずゲーム依存症だなぁ。魔法少女と街へ襲撃に行く時も、ゲームのためにサボってるくらいだもんねぇ。

 

「夕音叔母さーん! 私お腹空いた〜! もう我慢できないよ〜!」

 

奥の方の席では、もう1人の俺、千夜ちゃんが、お腹を空かせた様子でジェネちゃんに強請る。ああ、そっか、もしかして……。

 

「私待ちだった感じ…?」

 

「ええ、そうね。千夜待ちだったわ」

 

「そうだよー。愛結ちゃんが寝てたから、皆で待ってたんだよ」

 

「……ったく、どうせ夜更かしでもしたんでしょ? いい? ミステリアスであるためにはね……」

 

既にお姉ちゃん、千夜ちゃん、師匠は席についていて、キュヴァちゃんはゲームこそしているものの、既に食事を摂る準備はバッチリといった感じで。

俺のお寝坊さんで、大変ご迷惑をおかけしてしまいましたぁな展開なんだなと察するのは容易だった。

 

「ヒンナちゃんいつもそれ言ってるね。私ヒンナちゃんからミステリアスさなんて感じたことないけどなぁ……」

 

「は? どうしてよ。これだから素人は……。ね、ルーイ、貴方なら、ミステリアスが何たるか、理解してるでしょ? ほら、言ってやんなさい、この分からず屋に、私のどこがミステリアスで、私がいかに素晴らしい存在かを!」

 

「師匠、ミステリアスは多くを語らないのでは…?」

 

師匠、本当どうしちゃったんですかね。最初出会った時は間違いなくミステリアスの化身だったのに、今となっちゃこの有様だよ。

 

でも、本気出せばもっとミステリアスできそうだとは思うんだけどなぁ。

 

「相変わらずやってるみたいね。……千夜も起きたみたいだし、そろそろ食べましょうか。夕音、今日はありがとうね」

 

「全然大丈夫だよ! 歌朝姉には世話になってるからね。……さ、皆食べようか。ほら、手を合わせて!」

 

俺達は一斉に『いただきます』と告げ、食卓に並べられた豪勢な食事を次々と取っていく。

ああ、いいなぁこういうの。

師匠がいて、もう1人の俺がいて、お母さんとお姉ちゃんがいて…。

 

そこに、たまにキュヴァちゃんとか……あーあとラフやゆーちゃんを呼んでもいいな。

 

そうだ、こうやって、皆が揃って、幸せに……。

 

 

 

 

「……ルーイさん」

 

「……幹部様?」

 

「仕事ですよ。今回は、魔法少女キューティバースを相手にしてもらいます」

 

なんで、幹部様が?

……あれ? そっか。俺って、確か……。

 

 

………悪役魔法少女、で……。

 

俺は昨日、ジェネちゃんと会って……それで……。

 

【………愛してる】

 

……あ……そっか。

 

ジェネちゃんはもう。

 

いないんだ。

 

 

 

お姉ちゃんも、お母さんも。

3年前に拉致されてからは、もう顔も合わせていないし、今どこで何してるのかすら分からない。

 

皆で食卓を囲む、なんて、そんなこと、絶対に起こり得ない。

 

だからこれは、夢。

 

俺が頭の中で生み出した、虚構。

 

全部が嘘で、偽物で…。

 

「ルーイさん?」

 

今まで豪勢だった食事が、灰色になって崩れ去っていく。

お母さんとお姉ちゃんは、いつの間にか消えて、もう1人の俺の姿は見えなくなった。

 

その場に残ったのは、ジェネちゃんとキュヴァちゃん、それに幹部様で……。

 

「オクトロアと、キュヴァちゃんには気をつけてね」

 

ジェネちゃんはそう告げて、まるであの時みたいに、穏やかな表情を浮かべながら、バラバラに崩れて、粉々になっていく。

それと同時に、幹部様とキュヴァちゃんが物凄く怖い目になって。

 

「ジェネさんが逝きましたか。彼女には色々と頼ってたんですがね……。しかし、仕方がありませんよね。裏切り者なんですから」

 

「幹部マインドライフだって。騙してたんだ、嘘つきだったんだよ、ジェネシスは」

 

酷く冷たい声で、二人は言う。

確かに、ジェネちゃんは裏切り者だ。けど、それは……。

 

「幹部様、ジェネちゃんは……」

 

「……貴方に光堕ちなんてできませんよ、ルーイさん」

 

「……へ……?」

 

「貴方は、ここで一生『ワ・ルーイ』のモルモットとして生きていくんです。……組織のために生き、組織のために死ぬ。3年前にここに連れてこられた時点で、貴方の運命は既に決していたんですよ」

 

「足掻いても無駄だよ。組織にとらわれた時点で、自由はない。ただ、良いように使い潰されるだけ。未来なんてない。お先真っ暗で、ただ闇に堕ちていくだけ。それしかできない」

 

一生、組織にだって?

そんなの、ごめんだ。

 

だって、俺はお母さんやお姉ちゃんともう一度会いたいし、最高の光堕ちをしたい。

自由にスマホでゲームしたいし、光堕ちしたいし、久しぶりに学校通ってみたい。

勉強も久しくしてないからそろそろやりたいし、ゆーちゃんとも遊びたいし、光堕ちして久しぶりに遊美にも会いたい。

 

悪の組織でずっとなんて、そんなの嫌だ!

 

「ジェネさんをみすみす死なせた貴方に、光堕ちができるとでも?」

 

「ジェネシスを救えなかった貴方に、自分を救うことなんてできない」

 

そんなことない……。俺は、ジェネちゃんと約束したんだ。

 

絶対に光堕ちするって。

だから、だから……!

 

「……負けないよ。絶対に光堕ちする。俺は、組織になんて呑まれない」

 

はっきりと、2人の言葉を否定する。

俺の意思を、示すことで。

 

瞬間、世界が崩れ去っていく。鏡が割れるかのように、幹部様とキュヴァちゃんは、粉々になって消えていく。

 

やがて、眩しい光に包まれて……。

次に目にしたのは………。

 

「見知らぬ天井だ」

 

「………起きたわね」

 

「師匠」

 

ミステリアスさを微塵も感じない、ツンデレツインテ幹部の姿だった。

 

「今失礼なこと考えなかった?」

 

「考えてないですよ」

 

事実を頭に思い浮かべてただけだしね。

……にしても、変な夢みたなぁ。

 

………………ジェネちゃん、もういないんだもんね。ちょっと寂しくなっちゃったのかな。………まあ、でも、大丈夫。引きずらない。ジェネちゃんは、それを心配してたんだから。

 

夢の中で宣言した。絶対光堕ちするって。だからもう、ジェネちゃんのことを引きずるのはこれでおしまい。

ま、思い出としてたまに思い返すくらいはするけどさ。

 

それで……。

 

「師匠、あの……」

 

「言いたいことは色々あるでしょうけど、詳しい説明は後よ」

 

師匠はそう言って、部屋の扉を開ける。

 

「……幹部集合会議が始まるわ。ルーイも来なさい」

 

ていうか、ここどこ?

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