俺が目を覚ましたのは、師匠のアジトだったらしい。そういえば、最初に師匠が壊したアジトは幹部様のアジトだったな、なんて考えつつ、俺は幹部集合会議へと出席する。今回もう1人の千夜ちゃんは幹部イコルのところで待機することになっている。
なんで俺が出席することになったか、それは、今回の会議の内容が、ジェネちゃんについてのものだからだ。
もう1人の千夜ちゃんよりも、俺の方がジェネちゃんとの関わりは深かったからね。
「……さて、それでは始めましょうか。幹部集合会議を」
幹部様が言う。7席の内、空席が2つもあるが、現在の幹部はこれで全員なのだ。
………ちなみに、俺は相変わらず座らせてもらえてない。イコルとキュヴァちゃんの間くらいの位置で立たされたままだ。
座席は幹部様、師匠、空席、イグニス、空席、イコル、キュヴァちゃんの順で並んでおり、円に卓を囲むようにして座席が並べられているため、丁度師匠と空席の間が俺のいる位置の反対側に当たる。ちなみにその空席は、元々ジェネちゃんが座っていた位置でもある。
「……今回の議題は、あいつに関すること、で良いのよね?」
「そうですね。幹部ジェネシステネーブル。いえ、幹部マインドライフ、彼の話についてです」
幹部様がそう告げた瞬間、イグニスがギョッとしたような顔をする。知らなかったんだろう、ジェネちゃんが幹部マインドライフであったということを。
……というか、幹部様は知ってたんだね。ジェネちゃんがマインドライフだったってこと。クロマック君にバレたら大変だろうから、隠してくれてたんだろうか。
「……おい、どういうことだ? 幹部マインドライフが、ジェネシステネーブルだと?」
「……ええ。そうですよ。ジェネシステネーブルは、幹部マインドライフが、夏場夕音という女性の体を乗っ取った姿だったんですからね」
師匠は、元から知ってたんだろう。そして、師匠と交流のあるイコルもまた、師匠から知らされていたから、知っている情報ではあったのだろう、特に驚く様子もなく、ただそこにある事実を受け止めている。
………じゃあ、キュヴァちゃんは?
キュヴァちゃんは、ジェネちゃんが幹部マインドライフだってこと、知ってたんだろうか?
【……キュヴァちゃんは、クロマックの差金】
あれが、事実なのだとすれば。
キュヴァちゃんがジェネちゃんの正体を知らないとする方が、納得できる。だって、幹部マインドライフだと知っていたなら、クロマック君にそのことを報告しているはずなんだから。
俺はそう思い、キュヴァちゃんの様子を伺ってみる。
「………そっか。じゃあ、幹部ジェネシステネーブルは、組織の裏切り者で、私達に嘘をついていた。そういう認識で間違い無いんだね?」
「ええ、その認識で構いませんよ。なんせルーイさんの体を乗っ取ろうとしたわけですからねぇ。ですが、その野望はヒンナさんによって阻止。ルーイさんの体が乗っ取られることはなく、幹部マインドライフに関しても、ヒンナさんが処分してくださいました」
「………っ……、そうね……」
………と、いう筋書きになっているらしい。というのも、師匠がアジトを破壊するのは、これで2度目。もう1人の千夜ちゃんがいうには、幹部イコルは師匠のことを好いているし、他の幹部からの師匠への好感度はわりかし高めではあるらしいのだが、だからと言って、何のお咎めもなし、というわけにはいかないだろう。
だからこそ、功績として、“幹部マインドライフを始末した”というものが必要になってくる。これがなければ、師匠の立場はもっと悪くなっていただろうから。
師匠も悔しそうな顔をしている。……“親友”の死を利用しなければいけない状況に、納得がいっていないのだろう。
でも、それでも師匠はその選択をした。生き残るために必要だったからか、あるいは…。
「………ふーん……。ずっと、嘘ついてたんだ。それで、イグニス……は見るからに知らなさそうだったけど、イコルはまるで前から知っていたかのように反応が薄かったね。なんで?」
キュヴァちゃんは、探るようにイコルにそう問いかける。その眼差しは、まるでイコルのことを疑っているかのようで…。
「僕はヒンナから事前に情報を聞いていたからね。会議前には、既にジェネシステネーブルがマインドライフであることを知っていたよ」
「……そうなんだ。……それじゃあ、ルーイは?」
「……へ?」
「ジェネシスの近くに1番いたのは、ルーイだったでしょ? だから、知ってたのかなぁって」
ジェネちゃんの正体について、か。
まあ、実際研究資料を見るまでは知らなかったわけだし、知らないと言っても良いとは思う。だから、まあ。
「……知らなかったよ。私がジェネシス様がマインドライフだったって知ったのは、ししょ………ヒンナ様が彼を始末した後のことだったから」
知らない体でいいだろう。ここで知っているといえば、じゃあなんで今まで黙ってたのか、洗脳が解けてるんじゃないか、とか、色々言われてもおかしくはないからね。
「……ふーん、そっか」
キュヴァちゃんは、俺の言葉を聞いて。
酷く冷たい視線で、睨みつけるように俺の顔を見つめていて。
右目は隠れていて見えない。左目だけの視線。なのに、凍てつくような視線は、確かに俺を貫くようにこちらに向けられていて。
ふと、彼女の口元が、動いているのが見える。
何か、言葉を。
俺に見せつけるかのように、口だけを動かして、声は発さずに、伝えようとしているのが見えた。
俺は注意深く、キュヴァちゃんが何を俺に言おうとしてるのか、その口元に注目して、言葉を読み取っている。
読み取れたのは、4文字の言葉で…。
《うそつき》
他の幹部は、キュヴァちゃんの口パクに気付く様子はない。
俺だけが、彼女の口元に注目していて。
……うそつき。
確かに彼女の口は、俺にそう告げるかのように動いていた。
……俺が、後から師匠に聞いたとか言ったから? だから嘘つきと?
でも、なんで? キュヴァちゃんは、俺がどのタイミングでジェネちゃんの正体を知っていたかなんて、全然わからないはずなのに…。
……ともかく、今考えても仕方がない。ジェネちゃんが最後に残してくれた言葉、あれを信じるなら。
キュヴァちゃんのことは警戒しておいた方が良いのかもしれない。
……とりあえずは、会議の内容に集中するか。
「さて、ジェネシスの席が空いたことで、我々幹部は7名から5名へと減ってしまいました。ですが、ここから幹部を補充する、というわけにもいきません」
トーレスト、ピュア、ジェネシステネーブル。3名欠けて、キュヴァちゃん加入で1名補充、という形だったよね、確か。
あれ? じゃあ、補充がダメってわけじゃないよね? なら……。
俺は人差し指を自分に向けて、くいくいと、幹部様にアピールをしてみる。
幹部様は、ちら目でこちらの様子を伺ったように見えたのだが……。
「ですので、今まで7名でやっていた業務を、5名で行うこととなります。つきましては、各業務の見直しと、それぞれの担当について……」
圧⭐︎倒⭐︎的⭐︎無⭐︎視
うん、なんで? 今確かに俺の方チラ見してたよね? 俺がアピールしてるのに気付いてたよね? 幹部様ー! ここに幹部できそうなの1人いますよー! 気付いてー!
「はい、ということで、今後はこの方針で進めていく形でお願いしますね。それで、最後に、ルーイさんについてですが……」
よしよし! やっと来た! 幹部様、やっぱり俺のことちゃんと見てたんだね!
ついに俺も幹部に昇格する時が来たんだ。これからは、悪の組織『ワ・ルーイ』の幹部ブラックルーイとして、魔法少女達の前に姿を現すんだ! これは悪役ムーブが捗
r
「今後は私と共に行動してもらうことになるので、よろしくお願いしますね」
あれぇ? 俺が幹部になるって話は???
「ちょっとオクトロア、どういう……」
「ヒンナさんは確かに、幹部マインドライフを始末してくれました。ですが、アジトを破壊させてしまった責任自体が消えるわけではありません」
…幹部様、俺ってそんなに幹部向いてない?
「……それは……」
「どうやら後処理は事前に済ませていたようですが、それでも、です。貴重なアジトを一つ、使い物にならなくしてしまったのですから。ヒンナさんに預けることは当然ながら、ヒンナさんが委託するという形でイコルさんに預けている現状も、許容できるものではありません」
ふむ。つまり今後は俺は幹部様のアジトで過ごすことになるってことだよね。
あれ? でも幹部様のアジトって、最初に師匠が壊したんじゃ……。
「は、はい幹部様! その、幹部様のアジトって、前にヒンナ様が壊しちゃいましたよね? じゃあ、活動場所ってどこに……」
「ピュアが使っていたアジトになります」
「へ?」
ピュアが使ってたアジト…?
いや、確かに、ピュアのアジトは師匠によって壊されたりしてないけどさぁ………。
…あいつのアジトに住むの? これから?
………いやじゃああああ!!! いやじゃ嫌じゃ!!
建物に罪はないとはいえ、あのピュアのアジトだぜ? あいつが住んでたってだけで事故物件よりも最低な物件でしょ。
………幹部にはなれないし、嫌な奴が住んでたところに住まなきゃいけないし。
「それでは、幹部集合会議はこれにて終了致しますね。皆さん、今後ともよろしくお願いします。それとルーイさんは会議終了後は私についてくるようにお願いしますね」
…………今回の会議、だいぶ渋かったなあ………。
なりたい(なれない)