「ブラックルーイ、私は貴方を止める。私の大切な街は、貴方なんかに壊させたりしない!」
キューティバースは、俺を“倒すべき敵“として見据え、俺との決別をはっきりと言葉に乗せる。
……そうだ、それでいい。
光堕ちする上で、最初の対立はなんぼあってもええですからね。
俺とキューティバースはお互いに理解し合えない存在として、これから幾度となく対立するんだ。
でも、広井として、普通の少女として、友人と遊んだりして情緒を育んだり、
キューティバース達の、まっすぐで純粋な綺麗な心に触れることで。
少しずつ、ブラックルーイの心の闇が溶けていくんだ。
そうして、キューティバースとのぶつかり合いの果てに、ブラックルーイは”正義“を理解する。
悪の組織の魔法少女として街を破壊することに疑念を抱き、嫌悪し、拒絶する。
だが、悪の組織の幹部はそれを許さない!
街を破壊することを強要し、従わなければ洗脳するだけだと脅されるブラックルーイ!!
罪悪感に紛れながら、泣きながら街を破壊するブラックルーイの存在を見て、キューティバース達は、ブラックルーイに一緒に戦おうと手を差し伸べる!!!!
んんんん!!! いいね!! 最高だ!
尊い、尊いよ……。もう死んじゃいそう……。
まだ死なないけどね。え?お前一回死んでるだろって?
とにかく、今は対立のターン。
キューティバースが俺のことを理解できない存在とすればするほど、互いに理解し合い、手を取り合えた時の尊さは限界突破する。
そうだ。その最高の
だから、俺はもっと悪辣に、彼女に嫌われるくらい、極悪に。
……全力で敵役を演じよう。
先程、一般人が既に戦場にいないか確認していた俺だったが、やっぱり完璧ではなかったらしく。
逃げ遅れた少女がこの戦場にいることがわかった。
一般人に俺のことが知られるのはまずい。
だって、光堕ちする時に反感買いかねないからね。
でも、逆にこれは、俺が悪を演じる上で、チャンスなのではないだろうかと、そう思うのだ。
魔法少女に追いつめられ、絶体絶命のブラックルーイ。
しかし近くには、逃げ遅れた少女の姿が……!
ブラックルーイは咄嗟に少女を人質にし、告げる!
“この子の命が惜しかったら、大人しく変身を解除しろ”
ってね。
そうして身動きが取れないでいる魔法少女達から、ブラックルーイは少女を人質にとったまま逃走。
魔法少女達はブラックルーイの外道さに憤りを感じ、また人質の少女を助けられなかったことを強く後悔するのだった……!
変身解除した場合は普通に人質解放して逃げるだけだしね。
うん。我ながら完璧なプランである。このプランにおける穴はない。
強いて言えばキューティバースが人質とかどうでもいい外道な魔法少女ちゃんだった場合だが、そんな性格の奴のところに光堕ちする価値なんかないから興醒めだし、見た感じキューティバースちゃんは正義の味方感マシマシで善の塊って感じだからその心配はない。
くくく、我がプランに一片の瑕疵なし。
さあ、そうと決まれば…。
外道悪役ロールプレイの開始だ!!
私は思案する。
ブラックルーイの手札を消費させるには、どうすればいいか。
私の魔法も、無限にあるわけじゃない。限りがある。だから、がむしゃらに魔法を行使すれば、それでいいという話ではない。
できるだけ、ブラックルーイに多くの手札を出させる。そのためには、ブラックルーイを追い詰めて、魔法を使わせる必要がある。
けど、私にブラックルーイを追い詰めることができるような手札は、そんなにない。
私1人では、ブラックルーイの手札を全て出し尽くさせるような魔法は、存在しない。
そうだ。私1人では。
じゃあ、2人なら?
私は、怪人と戦闘中の聖歌の方の様子を見る。
攻撃をいなして、なるべく魔法の消費を抑えて、なんとか倒せるように工夫しているみたいだ。街への被害も最小限に抑えてる。
上手く戦えてるみたいでよかった。
それに、余裕もありそうだ。
それなら。
「シャイニング! 『リズライド』をお願い! 終幕はブラックルーイを四方八方から囲むように!」
私は、地面にいる聖歌に向けて指示を出す。
聖歌は私の指示に、一瞬躊躇うようにブラックルーイの方を一瞥してから、渋々といった様子で『リズライド』を行使した。
やっぱり、ブラックルーイに何かあるんだね、聖歌。
「ありがとうシャイニング。それじゃあ、『フルーツ・パラダイス』!!」
私は聖歌が用意した『リズライド』……譜面達の上に、載せるようにして『フルーツ・パラダイス』を発動させる。
『フルーツ・パラダイス』によって召喚された魔法の果物達は、ブラックルーイへ攻撃を加えるために、『リズライド』によって用意された譜面の上に乗り、まるで曲が流れるように一定のリズムでスムーズに流れていく。
『リズライド』で一度設定された道筋は、解除することはできない。終幕は常にブラックルーイであり、どう抵抗しようと、私の『フルーツ・パラダイス』はブラックルーイの元に辿り着く。
対処法は、他の魔法で相殺するか、防御するか。
もしくは、魔法を発動させた私や聖歌を倒して、魔法を解除させるか。
それ以外の選択肢はない。
そして、どの手段を取るにしろ、ブラックルーイは魔法を行使せざるを得ない。
これが、私と聖歌の絆の力だ。聖歌の体調があまり良くなくても、私と聖歌の長年の絆が、この魔法の精度を担保してくれている。
ブラックルーイは、魔法を使う。
私は、確信を持って、次にブラックルーイが発動する魔法は何か、観察する態勢に入っていた。
「『ブラックハンド』」
だが、ブラックルーイが使用した魔法は、私の予想外のものだった。
だって、私の推測では、『ブラックハンド』は空中では使えないはずなのだから。
今ここでそれを使うということは、空中でも使用可能であった、ということだろうか?
もし、そうなのだとすれば……。
そう思い、私は周囲をくまなく探知する。が……。
「何も、ない…?」
周囲には、黒い沼のようなものは発生していなかった。
不発? そう思い、私はブラックルーイの方を見るが、彼女の口元には笑みが浮かんでおり、到底魔法が失敗した様子には見えなかった。
「どういう……こと?」
「……キューティバース。この戦場に今いるのは、何人だと思う?」
突然何を言い出すかと思えば…。
決まってる。私と聖歌と、ブラックルーイ。あとはキュートと、怪人。
怪人やキュートを人数に入れても5人だ。
それが、どうしたというのか。
「まあ、答えなくてもいいよ。けどさ、考えはしなかった? この場にもし、逃げ遅れた市民がいたら? もし、怪人に怯えて、腰が抜けてしまっている人がいたら? なんて、さ」
『まさか……』
「キュート! 今すぐに確認を……!」
言いながら、私は地面を見渡す。
すると、そこには……。
「うそ……」
「あはは!! 戦う前に確認しておくべきだったね!! あーあ、可哀想に、君たちが市民の避難状況の確認を怠ったせいで、何の罪もない1人の少女が、私の人質として利用されちゃうんだからさぁ!!」
黒い沼から出現した『ブラックハンド』に捉えられている少女の姿が見える。
彼女は……私のクラスメイトだ。
病弱で、あまり身体能力も高くない子だった。
体育も休みがちで、でも、優しくて穏やかで、可愛らしい子でもあった。
本当に、何の罪もない少女だ。
善良で、穏やかで……。
「……そんな……」
けど、彼女は病弱だった。
怪人が街を襲った時、彼女には逃げるだけの力がなかったんだろう。
実際、私は何度か怪人に襲われている彼女を救ったことがあった。
その時から、怪人から逃げられない人もいるという事実は、頭に入れておくべきことだったのに…。
「なんで………何でこんなことができるの!? あの子は……白沢さんは! 体が弱くて……それなのに…!」
「あははははは!!! 責任転嫁するわけ? あのさ、言ったよね? 事前に確認しなかった君達が悪いんだよ? ほら、その白沢さんを助けるためにさ、今私に発動してる魔法解除して、大人しくこの場から退いてよ」
「そんな……卑怯な…!」
『外道っきゅ……』
「卑怯で結構。外道で結構。言っておくけど、『ブラックハンド』はちょっと特殊な魔法でさ。私が自分の意思で解除するか、私が死ぬか、そのどちらかでしか、効果が切れないんだよね。魔力切れなんて狙っても無駄だから」
やっぱり、ブラックルーイは最低最悪な魔法少女だ。
彼女と分かり合える気なんて、全くしない。
一度でも、彼女と分かり合えるかもしれないなんて甘い考えを持っていた一時の私が馬鹿みたいに思えてくる。
私は今、腑が煮えくりかえりそうな思いをしている。
「ブラックルーイ……!」
「そんな凄んだ目で見られても、現状は変わらないよ。ほら、はやく魔法を解除して、変身を解いて、この場から立ち去ってよ」
キューティバースは、目力で俺を殺せてしまいそうなほどに、力強い目をこちらに向けてきている。
恨みのこもった目。たまらないね。
悪役ロールプレイは悪役ロールプレイで、味わい深いものがあるのかもしれない。
「ほら、はやく」
「っ………わ、かった。解除すれば、いいんだよね……」
悔しそうな顔をしながら『フルーツ・パラダイス』を解除するキューティバース。
残念だったね。せっかく追い詰めたと思ったのに。
「あはは! あーあ。解除しちゃった」
「約束でしょ? 白沢さんを解放して!!」
「やだ。だって君、まだ変身してるじゃん。変身してるってことは、まだ戦う意思があるってことだよね?」
「…っ、変身を解除したら、白沢さんを解放してくれる?」
『キューティ、罠だっきゅ! こんなの嘘に決まってるっきゅ! ブラックルーイの策略に嵌められちゃダメっきゅ!』
「変身解除、できないんだ? そりゃそうだよね!! だって、今変身解除したら、ここから落っこちちゃうんだもんね。あーあ、やっぱり他人のために自分を犠牲にできるようなヒーローなんて、存在しないんだなぁ……」
ここで少し残念そうな顔をしておこうかな。
こうすることによって、心の奥底ではヒーローの存在を待ち望んでいる悪役少女、という印象を植え付けられるかもしれない。
光堕ちのパターンは複数用意しておいて損はないしな!
でもキューティバースちゃん俺のこと睨みつけてるし、そこまで頭回す余裕ないかもなぁ。
ま、いいや。今は、俺の悪辣さを示して対立するフェーズだからね。
何ら問題はない。
「……キュート、変身を……」
『だめっきゅ! そんなことしたら……』
「それでも……白沢さんを助けるためには……!」
『それは違うっきゅ! わ、わかった! ブラックルーイ! 一旦地上に降りるっきゅ! それから変身解除をするっきゅ! それで文句ないっきゅよね!?』
「あは、そうだね。それじゃあ、一旦地上に降りてもらおうかな。一応言っておくけど、白沢さんは私の手の中にあるんだからね。妙な真似をすれば……」
「うん。わかってる」
俺とキューティバース、そしてマスコット君は、揃って地上に降りる。
殺意のこもった目で見てくるキューティバースに、普通は萎縮するものなのだろうが、尊い光堕ちを目指す俺にとっては、その殺意の眼光は好ましいものでしかない。
にしても、キューティバースちゃんってこんなに人に向けて殺意を飛ばすような子だったんだ? どんだけ憎くても、殺意を飛ばすような子ではないと思ってたんだけど。
どっちにしろ恨まれてれば恨まれてるほど、光堕ちの尊さは増すからいいけどね
まあ、こっから好感度上げなきゃいけないんだけどさ。
そこは未来の俺が何とかするでしょ! 今の俺は今に全力なんだから。
「地上に降りれたね、それじゃあ」
さて、白沢さんは……。
は?
「……死ね」
気づけば、俺は後方へと大きく飛ばされていた。
キューティバースも、シャイニングシンガーも、動いてはいない。
じゃあ、3人目の子か? そう思い、俺は顔を上げる。
そこにいたのは……。
「私の推し活を邪魔するばかりか、卑怯な手を使って……。これだから悪の組織は嫌いだ。私に害悪しかもたらさない。大人しくキューティバースに倒されていれば良いものを」
………純白の魔法少女だ。白いドレスに、ところどころ蜘蛛の糸のような意匠があしらわれていて、清楚な印象を与えながらも、毒毒しさを感じさせる容貌で。
特に特徴的なのは、その目だ。
……キューティバースよりも、鋭い眼光をしていた。
そして、俺に向けられた殺意。
その殺意に、俺は覚えがあった。
俺がキューティバースのものだと思っていた殺意は、彼女のものだったのだ。
いつの間にか俺の用意した『ブラックハンド』も解除されてる。
んで、状況証拠的に、今目の前にいる魔法少女は白沢さんとやらっぽそうだ。
………つーかこれ、やばくないか?
人質取って悪辣アピール! これで光堕ちの尊さが増したな! じゃねーんだよ!
人質魔法少女じゃねーか!? 何やってんの??
しかもお相手さん俺のこと殺す気MAXだよ!??
魔法幾つか使っちゃったし、魔力も結構消費した。
キューティバースちゃんの好感度もさっき下げちゃったばっかだし、シャイニングシンガーは怪人と戦ってるし。
白沢さんが俺のこと殺しそうになっても、止めてくれそうな雰囲気じゃなさそうじゃね?
え、俺しぬ?
もしかして、ここで俺の光堕ちライフ終了!?
待ってくれ! まだ死にたくない!!
俺は光堕ちしてないんだぞ!?
「死ね。外道」
親指を首に横切らせて下に向ける動作してる……。
中指も立ててる。
怖い……この子本気だよ……。
しかも俺さっき吹き飛ばされたし……、なんか強そうだよ……。
おいどうすんだよ、何でよりによって人質が魔法少女なんだよ!?
誰か俺を助けてくれー!
誰でもいい。なんか勢いで殺されそうですー!
幹部様ー! 助けてー!
クロマック様ー! 助けてー!
「Go to hell」
ぎゃああああああああ!!!!
自 業 自 得
というわけで曇らせ4号……じゃなくて新魔法少女ちゃん参戦です。