もう1人の私は、幹部オクトロアの元で過ごすことになった、という話を、ヒンナさんから聞いた私は、現在ヒンナさんのアジトの元で、だらだらと過ごす日々を送っていた。
夕音叔母さんのこともあるし、光堕ちは絶対にしたい。けど、もう1人の私がオクトロアの場所にいる以上、中々連絡を取るのが難しくて、連携が取れていない、というのが現状だ。
ちなみに、ヒンナさんのアジトに滞在することになったのは、単純に成り行きだ。そもそも、私をイコルの元に預けたのは、ヒンナさんが夕音叔母さんのことを完全に信頼できていなかったからだし、その事情がなくなった今、イコルの元に私を預ける必要性がなくなったのだから、まあヒンナさんの近くにいても問題はないよねってな感じらしい。
『………はぁ、ヒンナめ……どうせぼくは暇なんだろうとか言って、仕事を押し付けて……。ぼくはエリート妖精なんだぞ……。こんなところで油を売ってて良いような立場じゃ……』
「あ、ラフ。仕事終わったの?」
『あぁ……千夜ちゃん。まあね』
部屋の奥からやってきたのは、かつて夕音叔母さんと契約していた妖精、ラフだ。現在は私と契約する形で、ヒンナさんのアジトにて一緒に過ごしている。もう1人の私は、光堕ちムーブをする上で支障が生じるとか何とか言って、契約はしなかったけど。
私はまあ、夕音叔母さんがかつて契約していた妖精なら、夕音叔母さんの忘形見みたいなものだし、契約しても良いかなって判断になった。どのみち、夕音叔母さんが用意した注射があれば、ラフとの契約をいつ解除しても問題はないしね。それに…。
『……調子はどう?』
「ぼちぼち。…………やっぱ絶好調かな」
ラフは、どうやら私のことを心配してくれているらしい。
何でなのかはわからない。けど、ラフは私ともう1人の私に対しては、友好的に接してくれていて。
以前夕音叔母さんに頼まれたのかと尋ねてみたけど、そうでもないらしい。どころか、どうにも夕音叔母さんとは仲が良くなかったらしいという話も聞いたりしている。
まあ、もう1人の私がラフのこと友達だって言ってたので、単純に仲がいいんだろうなぁと。
「……んー。にしても暇だなぁ…。ね、ラフ。せっかくだしなんかゲームする?」
『んー? 何する?』
私は、ラフと一緒に、どのゲームをするか話し合う。特にどのゲームがしたいとか、そういうのがなかったため、お互いにあれでもないこれでもないと話し合いながら、プレイするゲームを決めようとしていたのだが……。
私が1つのゲームカセットを選択しようとしたその時、彼女はやってきた。
「これとかいいんじゃない? 暇潰しにはなるよ」
1つのカセットを指で摘みながら、彼女は、幹部キュヴァは、私とラフの輪にさり気なく介入してくる。
さっきまで気配もなかったのに何故…?なんて、頭に疑問符を思い浮かべている私に、隙を与えないかのように、彼女は言葉を続ける。
「初心者でも癖なくて遊びやすいし、ゲーム性もシンプル。暇つぶしって観点だけで言うなら、多分1番適してるゲームだと思うけど、どう?」
「えーと、キュヴァ様、何でここに…?」
「……ん? あーそっか。拉致前ルーイだから私の呼び方が違うのか。ちょっと一瞬戸惑っちゃった。……簡単だよ。遊びに来ただけ」
拉致前ルーイ…。なんか新たな呼称ができてますね。
……そっか。彼女は私の事情を知ってる人物なんだったっけ。
イコルのアジトに滞在してからは中々会う機会がなかったから、忘れてた。
………でも、だからと言って信用はできない。だって、彼女は…。
【……キュヴァちゃんは、クロマックの差金】
……そうだ。夕音叔母さんは、幹部キュヴァのことを警戒していた。
今こうしてゲームだと言ってこの場所に来てるのも、私を監視するためだとか、何か理由があるのかもしれない。
「……私の顔に何かついてる?」
「へ? ううん、何も」
「そう」
ジロジロと見すぎたのか、少し私の挙動は不審だったかもしれない。
けど、キュヴァはそんな私の様子を気に留めることもなく、ゲームを起動した。
………警戒しすぎた、かな?
見たところ、普通にゲームしに来ただけっぽいし、もう1人の私からの情報によると、ゲーム依存症サボり系女子、って話らしいし、仮にクロマックの差金だとしても、案外その業務もサボったりしてたりするのかもしれない。
「よし、やるか!」
起動したのは対戦ゲー。所謂格ゲーと呼ばれるものらしいが、キュヴァが言うには、初心者でも簡単なゲームらしい。コマンド入力がシンプルで、取れる行動の幅もそこそこに止まるから、分かりやすいんだとか。
私は、まずラフと対戦する。
ラフもこのゲームには初めて触れるらしく(夕音叔母さんはラフに大量のカセットを用意していたらしく、消化してないゲームは多いらしい)、お互い初心者の状態でゲームが開始した。
初めはラフが優勢だったけど、私も操作に慣れてきて、逆転勝利。
いろんなゲームをやってきたラフだけど、初見同士なら勝てることもあるんだなぁなんて、そんな風に思いながら、私はゲームを楽しむ。
何度か対戦したけど、どれも私の勝利。初見ではあるものの、上達はラフよりも私の方が早かったらしい。
「それじゃあ、次は私ね」
「え、私の無双タイム終わり?」
「大丈夫。手加減するから。無双タイム継続は全然狙えるよ」
ラフをボコボコにしてホクホクしてたら、次はキュヴァが参戦すると言い出してきたので、私は手に持つコントローラーを握り締め、気合を入れる。
このゲームを提案したのは彼女だし、それなりにプレイしているはず。少なくとも1回はプレイしたはずだ。ゲーマーという話もあるし、手加減してくれてるとはいえ、油断はできない。
「よーいどん」
ラウンドが開始する。私はすかさず攻撃を入れ、キュヴァのキャラクターの体力を削っていく。時々反撃を喰らいつつも、ゲームは私優勢に事が運んでいく。
が、キュヴァのキャラクターの体力ゲージが限りなく0に近づいた時に、それは起こった。
「うえっ!?」
突然始まる、キュヴァの猛攻。私のキャラクターは、その猛攻を抜け出す事ができず、どんどん体力を削られていく。
「ちょ、これ、どうやって…」
「ないよ」
「へ?」
「抜ける方法ない。そういうハメ技だから」
抜けることのできないハメ技?
な、何それそんなんズルじゃん!
「チートチート! というか、初心者でも楽しめるんじゃなかったの!?」
「癖なくて遊びやすいとは言ったね。ゲーム性もシンプル。だけどシンプルが故に、一度嵌められたら抜け出せない。だからまあ、初心者向きではあるけど、このゲームはクソゲーだと思うよ」
「クソゲー勧めんな!」
「暇潰しにはなるでしょ?」
「…………確かに?」
私は暇潰しがしたいだけであって、良ゲーをプレイしたいとか、そういうわけではなかったから……。言われてみればそうなのかも?
うん、まあいっか。ラフをボコボコにして気持ちよくなったし、これはその報復だとでも思えばまあ。
「はい、勝ち」
「……うへぇ……大人気なーい……」
「だって大人じゃないし。私子供だよ」
それはそう。けど初心者狩りは良くないよ?
「ふぅ。楽しかった。やっぱり初心者をボコボコにするのが1番気持ちが良いね」
「わあ、最低なゲーマーだ…」
「ゲームに勝ち負けが存在してる時点で、私の楽しみ方は真っ当なものだよ。本当に最低なゲーマーはチート使う奴だから」
「そこまでいくともはやゲーマーとは呼べないんじゃないの? チーターじゃない?」
「……んまあ、どのみちチーターじゃなければセーフでしょ」
まさかキュヴァがちゃんとガチのプレイヤーとやり合いたいタイプじゃなくて、初狩りで気持ちよくなってる弱いものイジメさんだったとは思わなかった。良い性格してるね、ほんと。
「……けど、結構時間経ったね、良い暇潰しになったかな」
「…………そうだね。私も楽しめた」
『ぼくボコボコにされただけなんだけど……』
所詮この世は弱肉強食なんだよ、ラフ君。
強い者だけが気持ちよくなれるんだ。弱い者は踏み躙られて強い者が気持ちよくなるための踏み台になるしかないんだよ。
だからラフはずっと私が気持ちよくなるためのサンドバッグでいてね〜。
……私も大概最低なゲーマーでは? ま、いっか。チーターじゃなければ全部セーフだし。
「それじゃ、私はそろそろ。…………それと、一つ聞きたい事があるんだけど」
「ん、何?」
「何か隠してる事、ない?」
隠してる事?
………ないことはない、けど。
「んー……」
「別に大丈夫だよ。組織の不満だとか、そういうことでも。私は告げ口するつもりはないし。ゲームできればそれで良いから」
確かに、私が『ワ・ルーイ』に従う意思はないってことも、多分キュヴァは理解してるんだよね。だからまあ、『ワ・ルーイ』の不満だとか、そういうものを抱えておく必要はないんだろうけど。
………隠し事、ねえ……。
光堕ちのことくらいかな。強いていうなら。他に隠してることとか、特には……。
【……キュヴァちゃんは、クロマックの差金】
………あったとしても、言わない方がいいかな…。
ゲーム依存症でサボり癖あるとはいえ、いつ本格的に働く気になるかはわからないわけだし、本当にクロマックの差金なら、キュヴァの方も私に隠し事してるって事になるし、お互い様だよね。だから……。
「ないよ。特には」
私はハッキリと、明確にそう告げる。まるで、何もやましいことなんてありません、とアピールするかのように。
「………そ……っか……。………まあ、そうだよね」
キュヴァは私の言葉に、一瞬少し傷付いたような表情を見せた気がした。けど、本当に一瞬のことだったから、私は気のせいかななんて、そんな風に見過ごして…。
「明日襲撃の予定があるし、私はこれで。それじゃ、さよなら。今日は楽しかった。ありがとう」
そう言って去っていく彼女の背中は、どこか寂しさを纏っているような気がして。
……私は何だか、何か選択を間違ってしまったような、そんな感覚に見舞われてしまった。